2022年6月までに、令和4年度低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金が支給されました。

ひとり親の場合は児童扶養手当を受給する世帯、ふたり親なら住民税非課税世帯を対象として、高校生以下の子ども1人当たりに5万円を支給するというものです。



こちらの給付金を紹介する記事には、「非課税世帯、母子家庭世帯など幅を限定して配るのはやめてください」「物価高の苦しみはみんな一緒」「みんな平等に減税してほしい」などのコメントが寄せられました。



このように対象者を限定した現金給付、あるいは国民全員を一律に対象とした給付金などは、過去に何度か支給されてきました。遡っておさらいしてみましょう。



■「地域振興券」を覚えているか



「地域振興券」という名前を覚えている方も多いでしょう。



地域振興券とは、15歳以下の子育て世帯や65歳以上の一部の世帯を対象とし、1999年に出されたもので、対象者1人あたり2万円分が配られました。



現金給付ではなく、文字通り「地域を振興」させるためのチケットで、原則は、地域振興券を発行した市町村の区域内にて使用と決められていました。

またお釣りがもらえず、商品券などの購入には使えないことから、使い道に奔走した記憶のある方も多いのではないでしょうか。



■地域振興券の効果



経済企画庁が当時行ったアンケートによると、約76%が地域振興券の利用を完了しており、金額でみると、交付額の9割近くが使用済みであったようです。



また、「振興券がなければ購入しなかった」と回答した買い物の総額は、振興券使用額の18%程度だったとのこと。



これらを加味し、振興券によって喚起された消費の純増分は、地域振興券使用額の32%程度であったと結論付けられています。



■リーマンショックでの定額給付金



2008年にリーマンショックが起こったことにより、2009年には定額給付金が支給されました。



18歳以下と65歳以上は2万円、それ以外は一律で1万2000円の支給となった定額給付金。



こちらは現金での支給だったため、比較的流動的に買い物ができた方も多いかもしれません。



■定額給付金の効果



内閣府の「政策課題分析シリ-ズ8定額給付金は家計消費にどのような影響を及ぼしたか-「家計調査」の個票データを用いた分析-」によると、定額給付金は「消費支出」において、累積で受給額の25%に相当する消費増加効果を持ったことが示されました。



子育て世帯や高齢者世帯では特にその効果が見られ、一定の成果があったと言えそうです。



■プレミアム付商品券



2015年には「個人消費のテコ入れと地方経済の好循環」という名のもと、「プレミアム商品券」が販売されました。

また2019年は消費税が10%にあがったことにより、消費が低迷することが危惧され、「プレミアム付商品券」が販売されました。



2019年の場合、対象は「原則2019年度住民税非課税の方」または「学齢3歳未満の小さな乳幼児のいる子育て世帯」と限定され、ひとりあたり最大2万5000円分の商品券を2万円で購入できることに。

つまり、プレミアム率は25%です。



利用できるのは各市区町村の利用可能店舗と決められ、また商品券1枚当たりの額面は地域の実情に応じて各市町村に委ねられました。



昔からある「現金給付」は選挙の票集めなのか。歴史や効果を振り返る

出所:内閣府「プレミアム付商品券事業の 実績に関する報告書」



結果的には、88%の市区町村で500円券が採用され、地域振興券での課題が若干解消されたように思われます。



■プレミアム付商品券の効果



内閣府「プレミアム付商品券事業の実績に関する報告書」によると、購入された商品券の総額は2209億円で、実際に購入された割合は金額ベースで74%でした。



一方、事業の実施にかかった経費の総額は1026億円、うちプレミアム分を助成する事業費は440億円、商品券の発行・販売等に要した事務経費は586億でした。



これらの事務コストが生じたことについては、今後、類似施策の検討に際して十分な留意が必要だと明記されています。



■記憶に新しい「特別定額給付金」



新型コロナウイルスによる経済低迷を受け実施されたのが、「特別定額給付金」です。



金額や対象者の決定には紆余曲折の議論がありましたが、結局は国民全員に一律10万円が支給されることに。



具体的には、世帯主の指定口座に、世帯員分の給付金が10万円ずつまとめて振り込まれるという運用でした。



■特別定額給付金の効果



第一生命経済研究所「特別定額給付金10万円、その使途と効果」によると、特別定額給付金の使い道としてもっとも多かったのは「日常的に必要なものに使う」の53.7%でした。



複数回答ではありますが、2位「余暇・趣味・娯楽に使う」の19.5%を大きく引き離した形です。



また年収が高いほど、「余暇・趣味・娯楽に使う」の割合は高まる傾向になりました。



具体的な数字としての効果は計れていませんが、10万円という現金給付に助けられた世帯も多いのではないでしょうか。



これまでの制度と違い「子育て世帯」「住民税非課税世帯」などの限定がない分、「もう一度支給してほしい」という支持の声もあります。



■現金給付は単なる票集めなのか



2022年7月10日に行われた参議院選挙では、各党がさまざまな経済支援を掲げていました。

大々的に「現金10万円の一律給付」等を掲げていた政党もありましたが、結果的には自由民主党が議席を大きく獲得した結果となっています。



現金給付はわかりやすいメリットがあるため「票集め」との批判もありますが、過去の支給制度等の効果を鑑み、冷静に判断することが求められるでしょう。



特別定額給付金では、公的な分析の発表が今後あると予想されますが、かかった事業費と照らし、課題を洗い出すことも大切です。



■参考資料



  • 内閣府「地域振興券の消費喚起効果等について」(平成11年8月)( https://www5.cao.go.jp/99/f/19990806f-shinkouken.html )
  • 内閣府「政策課題分析シリ-ズ8定額給付金は家計消費にどのような影響を及ぼしたか-「家計調査」の個票データを用いた分析-」(平成24年4月)( https://www5.cao.go.jp/keizai3/2011/04seisakukadai08-0.pdf )
  • 内閣府「プレミアム付商品券事業の 実績に関する報告書」(令和2年12月)( https://www5.cao.go.jp/keizai1/premium/pdf/houkokusho.pdf )
  • 内閣府「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の 経済効果試算(改定版)」(令和2年4月)( https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0427/shiryo_02.pdf )
  • 第一生命経済研究所「特別定額給付金10万円、その使途と効果」(2020年6月)
編集部おすすめ