現在の世界経済のリスクとしては、米国のインフレ、中国経済の失速、国際分業の巻き戻しに要注意です。(経済評論家 塚崎公義)。



■世界経済のリスクを考える



電気代や食料品などが値上がりして、消費者の生活を圧迫していますが、その要因は国際経済にあります。加えて、国際経済には今後を考える際に注意すべきリスクがそれ以外にもあるのです。



筆者が注目しているリスクとしては、アメリカのインフレが世界の景気を悪化させること、中国の景気が大きく落ち込んで世界の景気に悪影響を与えること、世界経済が国際分業から国内生産に向かうことでコストが上がること、があります。



戦争や災害によって経済活動に悪い影響が出るリスクは常にありますが、リスクが特定できないため、本稿では上記3点を論じることとします。



■米国のインフレは世界の金融市場に悪影響



原油や穀物が値上がりしていることから、世界的にインフレとなっていますが、筆者が特に気にしているのは米国のインフレです。



日本よりも遥かに物価上昇率が高いという事もありますが、米国の金融引き締めは世界の経済や金融市場に与える影響も大きいからです。



アメリカの中央銀行であるFRBは、金利を引き上げて景気を抑えることでインフレを抑えようとしています。景気を悪化させずにインフレを抑えることが出来ればそれが理想ですが、サジ加減が難しいので、金利を上げすぎると景気が悪化してしまうし、金利の上げ方が足りないとインフレが加速してしまう、といった難しい状況にあるようです。



そして、仮に適切な利上げによってインフレが抑制されて景気の悪化も避けられたとしても、やはり世界経済に悪影響が出ることは避けられないのです。



まず、アメリカのインフレが抑制されるためには、需要がある程度減らなければなりません。それが不景気と呼ぶような大幅な落ち込みなのか小幅な落ち込みにとどまるのか、という「程度問題」だということが一つです。



また、アメリカの通貨であるドルは、世界中で使われていますから、アメリカの金利引き上げによって多くの開発途上国が金利上昇に苦しむかも知れません。

加えて心配なのは、アメリカの金融引き締めによってアメリカの資金が途上国から引き上げられてしまうことでしょう。



途上国の経済が、資金不足に陥ったり返済のためにドルを買うことでドル高になってインフレになったりすれば、世界的に景気が悪化する可能性もあります。



株式市場では、アメリカの金利引き上げという話を聞いただけで売り注文を出す人が大勢いるので、株価が大幅に下がっています。株価が下がれば、ビジネス界のムードも悪化しますから、経済にもマイナスの影響が心配されますね。



■中国経済の失速も世界経済のリスク



中国では、不動産バブルが崩壊すると何年も前から言われ続けて来ましたが、ついにその時が来たのかも知れません。



そうなっても中国共産党が強引に金融危機を防ぐと思われますから、日本のバブル崩壊の時と比べれば影響は軽微かも知れません。ただ不動産投資は中国の超重要産業なので、不動産建設が止まってしまうだけで景気への影響は非常に深刻なものとなりかねません。



また、中国では新型コロナの封じ込めが徹底して行われているため、突然大都市が封鎖されてしまったりしています。



新型コロナが変異を繰り返して感染力を強めているので、今後も大都市の封鎖が相次いで経済活動を麻痺させる可能性は決して小さくないでしょう。



最近の新型コロナは重症化しにくいようなので、そこまで徹底しなくても良いような気もしますが、最初の流行を封じ込めた成功体験があるので、徹底した封じ込めを続けているのだと思われます。



中国は、世界中から大量の物を買っていますので、中国の不況は世界中の輸出業者にとって深刻な問題です。



さらに問題なのは、中国から部品が来ないと日本等の工場が動かせない、という可能性があることです。

その場合には、工場が止まって失業者が増えるだけでなく、製品が作れないので物不足になって物価が上がるかも知れません。



もっとも、中国経済の不況は、悪いことばかりではありません。



中国は資源を大量に消費していますから、不況になって原油等を買わなくなれば、世界的な原油価格が値下がりし、アメリカのインフレが収まるかも知れないからです。



■国際分業の逆回転が起こるかも



現在の世界経済は、世界中の企業が世界中に工場を作って、世界的に活発な貿易が行われています。それぞれの国が一番得意なものを大量に作って交換するのが良い、と経済学は教えていて、その通りになっているわけですね。これを国際分業と呼びます。



ところが、最近になって国際分業を減らそうという動きが出て来ているのです。直接の原因は、中国の工場が新型コロナで稼働できなくなって困った企業が、今後も似たような事が起きるかもしれないということで、工場を日本などに戻す動きがあることです。



しかし、より重要なのは、ロシアや中国とアメリカなどの仲が悪くなり、お互いの国に工場などを持つ事がリスクだと考える企業が増えてくることでしょう。



中国で作った方が安いから中国に工場を建てたのに、その工場を閉じて日本等に工場を作ることになると、生産コストが高くなります。そうしたコストの上昇が世界的な規模で起きるかも知れないわけです。



ちなみに本稿は、あくまでもリスクの指摘であって、筆者の予想ではありません。

したがって、過度な懸念は不要ですが、どんなリスクがあるのかを知っておく事は重要だと思います。



本稿は、以上です。なお、本稿は厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。



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