10月2日は内定式を行った会社が多かったようです。街でスーツ姿の若者を普段よりよく見かけたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。



就職活動は多くの人がどこかで一度は経験する儀式のようなものですが、どこに就職するか、またその目的は人によって様々です。一方、新卒で入社しても、そのうち約30%は3年で離職するというデータもあります。どのように会社を選び、どうして辞めたのか、今回は入社3年目で日本を代表する金融機関を退職したというある男性(A氏)のケースを見ていきましょう。



■「はやく年収1,000万円を実現できる会社」を選んで就職



A氏は都内の私立大学在学中に金融を専攻しており、就職先としても金融機関を希望していました。「最も魅力的に感じた点は『給与の高さ』だった」と、A氏は当時を振り返ります。



というのもA氏は就職活動中、金融機関のリクルーターから「○○歳で年収1,000万円には到達するよ」と聞かされていたのです。しかもそう公言したのは1人や2人ではありませんでした。さらに「課長クラスでも確定申告に行っていた人がいる」という話も耳にしたといいます(給与の年間収入金額が2,000万円を超える場合は確定申告が必要)。



「若くして年収1,000万円を手にできる仕事に就くことは、多くの人にとって憧れであり、夢ではないでしょうか。少なくとも私はそうでした」と、A氏は語ります。



一方、A氏の父親は理系出身でメーカー勤務だったこともあって、息子にも「○○重工」や「○○製鉄」といった企業をすすめてきたのだそうです。A氏も父親のすすめに従ってそうした企業の面接を受けてはみたものの「給与面が金融機関と比べると魅力的ではないと感じてしまった」といいます。



最終的にA氏は日本を代表する金融機関に就職。さらに、就職活動時に希望していた職種に配属されることになりました。まさに順風満帆の船出だったのです。



■入社3年目で会社を退職! その理由とは



ところが、A氏は世間でよく言われるように入社3年目であっさり退職し、転職しました。A氏はその理由を次のように語ります。



「資本市場に関わる仕事をしていたこともあって、出勤時間が非常に朝早いだけではなく、夜も上司が帰宅するまで帰宅することができませんでした。労働時間が想像以上に長かったのです。福利厚生は良かったのですが、時給にするとどうなのかと」



労働時間と給与水準が見合わなかったという主張ですが、入社前に希望していた職種での「仕事のやりがい」について、A氏はどう感じていたのでしょうか。



「同期でも希望通りに配属されたケースは少なかったので希望していた職種に配属してもらったときはとてもうれしかったですね。ただ、どこでもそうかもしれませんが、新人は事務処理が多くてプレーヤーとしては認められていなかったように思います。結果としてエクセルのスキルは相当つきましたが(笑)、ビジネスパーソンとしては全く成長しませんでしたし、その焦りが常にありました」



また、A氏は離職したタイミングが入社3年目だったことにも理由があるといいます。



「配属されて3年目にもなると、当然仕事にも慣れてきますし、会社の中での部署の位置づけもわかってきます。

また、3~4年目での異動は金融機関ではよくありますから、もし異動があったとして、そこが同じようにスキルを積めない環境だったらあっという間に30歳になってしまうな、という考えが頭をよぎりました。金融機関は確かに給与水準は魅力的ですが、年齢を重ねた時に労働市場で引き合いが強い職種はそれほど多くないのではないでしょうか」



■A氏は年収で会社を選んだことを後悔した



実はA氏、転職先で長きにわたってトッププレーヤーとして活躍した後、現在は起業して経営者になっています。



「2社目は前職の反省を踏まえて、社外との接点の多い職種、コミュニケーションすることで自分で進めていける仕事を選択しました」とA氏。転職先は結果がはっきりわかる評価体系で、A氏にとって非常にやりがいを感じるものであり、実際に実績を評価され給与も上がったのだそうです。



ここまでの話から、A氏が本当に求めていたのは単なる「給与の高さ」ではなく、自分が成長できるフィールド、やりたいことを実現できる環境があるかどうか、そして、その成果に応じた給与がもらえるかどうかだったのではないかと推察できます。実際に「今でも新卒当時の選択には様々な反省がある」とA氏はいいます。



「給与だけで就職先を選んだのは正直間違いでしたね。金融機関はご承知のように規制業種であり、企業間の競争が緩いのです。やはり企業間の競争が厳しい産業、会社内で競争を仕掛ける企業の方がより多くの優秀な人材を育て、輩出するのではないでしょうか。リクルートのような企業がなぜ経営者を何人も輩出するのか、社会人になってしばらくしてから分かりました。もっと言うと、最初の数年でどういった仕事の仕方をするのかは、その後にも影響すると思います。私自身、今も金融機関のノリを引きずっているところがありますから」



就職前にもっとも優先順位の高かった「給与」について、今、A氏はどのように考えているのでしょうか。



「起業したら、金融機関ほどにはとてもではないですがもらえませんよ。ただ、自分で仕事を作っていく楽しさは常にありますし、今はお金よりもそちらの優先度の方が高いですね。どうやって事業を作っていくのかは試行錯誤ですが、若いうちにこのプロセスを身に着ける方が、今後の自分の糧にもなると思っています。3年で辞めるにしても、最初の就職先でビジネスの仕方や周りの巻き込み方を身につけられる環境があれば良かったんですけどね」



「ただし」とA氏は加えます。



「仕事で受注できなかったり、売上が思うように立たない時は、サラリーマンをして安定的に給与をもらえる環境は良かったなぁと思うことがあるのは事実です。まあ、自分で起業を選んだので、そんなことを言っても始まりませんけどね」



「好きなことを突き詰めること」と「安定」とでうまくバランスをとるのは、そう簡単ではないようです。



■まとめにかえて



いかがでしたか。給与だけで最初の就職先を選んだA氏の考えは十分ではなかったかもしれません。ただ、たとえ後悔する選択をしてしまったとしても軌道修正は可能だ、ということも、A氏の例は示しているのではないでしょうか。



給与は仕事を選ぶ上では重要な要素ですが、長い時間を費やすことも事実です。大切なことは選択する際のバランスだといえるかもしれません。



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