政府債務の持続可能性は世界の金融安定を脅かすトップリスク

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、12月4日にニューヨークで開催されたニューヨークタイムズ紙のイベントで、「経済は非常に良好」と述べた。経済が良好なら、なぜ負債が減らないのだろうか? 米国の連邦債務は36.2兆ドルに近づいており、およそ100日ごとに約1兆ドル増加している。


米国の連邦債務
トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
出所:E.J. Antoni, Ph.D.

 米国だけではない。

負債と資産の両方を膨らますという両建て経済(ポンジスキーム)が今の世界経済を支えている。過去20年間で世界の負債は3倍に増加した。負債は世界の経済規模の3倍以上だ。


世界の債務残高が332兆9,000億ドルに増加
トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
出所:Global Markets Investor

 とりわけ米国の政府債務はかつてない水準に積み上がっている。この2年間において規模は膨らみ、GDP(国内総生産)に対する債務の比率は急上昇している。


 ウルフ・オブ・ウォール・ストリートは11月29日の投稿「連邦政府の利払い対税収比率が急上昇、第3四半期の債務対GDP比率はさらに悪化」において、米国が抱える債務の状況を示している。BEA(米国商務省経済分析局)が11月27日に公開したGDPデータをベースにしたものである。


 現在36兆1,000億ドルにまで膨れ上がった国家債務について、最も懸念すべき事項はその利払い費用を賄うための税収との関係である。利払い額は急騰している。「税収に対する利払い比率」は第3四半期に37.8%に急上昇した。この比率は、一般予算の支払いに充てられる国家収入が利払いによってどの程度食いつぶされているかを示している。


米国の政府税収に対する利払い比率
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出所:ウルフ・オブ・ウォールストリート

 第3四半期時点の連邦政府の税収は7,400億ドル(青)と前年同期比4.1%増、額にして290億ドル増えたのに対し、利払い額は2,790億ドル(赤)と前年同期比で15%増、額にして370億ドルの増加だった。


米国の税収(青)と利払い(赤)の推移
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出所:ウルフ・オブ・ウォールストリート

 国家債務は今や36兆1,000億ドルにまで膨れ上がったが、これは2008年から2021年にかけてFRBが実施した金融緩和政策が助長した長期的な問題である。


 パウエルでさえ「持続不可能」だと言っている。長期的に税収を増やす方策としては、所得の増加、雇用の増加、賃金の上昇(課税対象となる賃金を得る労働者の増加)、企業の利益の増加、金融市場の活況などが考えられる。


 この問題に対処するために何ができるのか、あるいは何が起きるのか。議会が対処する。インフレが対応する。あるいはその両方かもしれない。そして米国は今後、より高いインフレに巻き込まれる可能性がある。その結果としてより高い長期金利に巻き込まれる可能性もある。米国はすでにその道を歩み始めており、今では頑固なインフレに巻き込まれている。


 パウエルFRB議長は「米国経済は非常に好調だ」と述べているが、現在、不動産バブルに沸いたフロリダではバブル崩壊の兆候が出ている。Mike InvestingのXへの投稿によると、「フロリダ州で売りに出されている住宅の数は急増しており、過去1年間でほぼ2倍になった。


 これらの住宅の多くは、耐えられないローンのせいで破産宣告をしようとしている所有者によるエアビーアンドビーの賃貸である。これは1929年の大暴落よりも大きなものとなるだろう」と、レバレッジ経済の危うさに警鐘を鳴らしている。


フロリダ州で売りに出されている住宅の数は急増している!?
トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
出所:Mike Investing

 年内の米国株市場は堅調に推移するだろう。休暇シーズンで「閑散に売りなし」となっているからだ。上げているマグニフィセントセブンでさえ、ここ数年で最低の出来高となっている。


マグニフィセントセブンの出来高の推移
トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
出所:Guilherme Tavares

 今年も年末高となるかもしれない。ゴールドマンサックスによると、自社株買いは12月後半まで本格化するらしい。


米国企業の自社株買いは12月後半まで本格化する
トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
出所:Markets & Mayhem

レイ・ダリオ:「ディープ・ステートを倒し新たな秩序をつくるための政府」

 トランプ次期政権の閣僚人事が伝わってきている。財務長官には投資ファンドを運営するスコット・ベッセントが指名された。ベッセントは、(1)2028年までに財政赤字をGDP比で3%まで削減、(2)規制緩和で実質GDP成長率を3%に押し上げ、(3)原油生産を日量で300万バレル増産、という「3-3-3」政策を提言している人物だ。


 トランプは発表に際し、ベッセントは「米国が世界をリードする経済大国、イノベーションと起業家精神の中心、投資の目的地としての地位を強化しながら、常に、そして疑う余地なく、ドルを世界の準備通貨として維持するという、新たな黄金時代の到来を支援する」と評した。


 時代が大きく変わろうとする中、今後、どのようなことがトランプ政権を待ち構えているのか。


 ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオは11月25日、 ソーシャルメディアに「What’s Coming: The Changing Domestic and World Orders Under the Trump Administration(トランプ政権下における国内および世界秩序の変化:今後起こること)と題するコラムを掲載した。


 レイ・ダリオがどのように変化を捉えているのか、以下に要約を記載する。


【主要な人事が発表されたことで、トランプ政権の実像が見えてきた。私が描こうとしている今後の絵姿は、良い悪いという偏見を一切排除し、できる限り正確に描こうと思う。なぜなら、最善の意思決定を行うためには、正確性が最も重要だからだ。私が思い描くのは、1)政府と国内秩序をより効率的に機能させることを目的とした大規模な政府と国内秩序の改革であり、そのビジョンを現実のものとするためには内部の政治闘争も起こるであろう。2)「アメリカ第一」の外交政策と、アメリカにとって最大の脅威と認識されている中国との戦争への備え、という2つの側面である。最近に類似した時代は、1930年代であり、当時、同様のことが複数の国で現れた。


 ドナルド・トランプがこの実現のために選んだ人物は、新たに提案された「政府効率化省」を運営するイーロン・マスクとヴィヴェク・ラマスワミー、医療制度を抜本的に改革するRF・K・ジュニア(保健福祉長官)、マルコ・ルビオ(国務長官)、トゥルシー・ギャバード(国家情報長官)、そして外国の敵対勢力との戦いを指揮するピート・ヘグセス(国防長官)などである。その他にも、政府関係者になる者もいれば、タッカー・カールソン、スティーブ・バノン、そしてトランプ家の数人のメンバーのように、外部アドバイザーになる者もいる。


 彼らはトランプ大統領と、いわゆる「ディープ・ステート(闇の政府)」を打倒し、経済力を最大限に高め、外国の敵と戦うことを目的とした新たな国内秩序を確立するという使命に、あらゆる手段を講じて忠誠を誓う者たちである。これらの人々が配置された後、政府の中で「ディープ・ステート」の一味だと非難された人々はおそらく同じ人事手法で排斥されるであろう。なぜならば彼らは、トランプのミッションに一致しておらず、忠誠心を持っていないからだ。

これは、軍、司法省、FBI、証券取引委員会、連邦準備制度、食品医薬品局、疾病対策センター、国土安全保障省、内務省、および「スケジュールF」の政府職員など、これまで政治的・イデオロギー的な支配が少ないと考えられていた政府機関にも拡大されるだろう。


 大統領(共和党が支配する上院、下院、司法省と連携して)がコントロールできる任命職のほとんどは、トランプ大統領と彼の新しい国内秩序に沿った人々なので(トランプによって)政治的に統率されるであろう。その過程で、政府内外のほとんどの人が味方か敵のどちらかと見なされ、ドナルド・トランプと同盟国が自由に使えるあらゆる権力が、改革の邪魔をする敵を倒すために使われることになる。国内と世界の秩序を変えるのに大きな影響を与えることはほぼ間違いないと思う。それはどのようなものになるのだろうか?


変わりゆく国内秩序

 ドナルド・トランプと彼が選んだ人々が、非効率な企業を敵対的買収する企業乗っ取り屋のように、政府と国を改革することは明らかだ。人員を入れ替え、コストを削減し、新しい技術を注入することで、政府に大規模な改革をもたらす。ゴードン・ゲッコーの「強欲は善である」というスピーチで彼が伝えた視点について考えてみて欲しい。


 前述の通り、最近の類似した歴史的ケースは、1930年代の強硬な右派国家であった。はっきりさせておきたいのは、私がトランプやその政権の面々をファシストだと言っているわけでも、彼らがファシスト指導者のように振る舞うだろうと言っているわけではない。


 私が言いたいのは、国家主義的、保護主義的、トップダウン型の政府主導の経済・社会政策を掲げ、トップダウンで政府主導の経済・社会政策を掲げ、国内の反対勢力にはほとんど寛容ではなく、国際的な大国間の対立に巻き込まれている人々を理解するためには、1930年代に同様の政策を掲げていた国家がどのようになったかを知るべきだ。


 おそらく、この国の経済改革は、環境への配慮、気候変動への対応、貧困の改善、多様性、公平性、包摂の促進など、生産性や効率性を向上させることを目的とした産業政策を通じて実現されるだろう。特定の主要分野(私が最も重要だと考える分野、教育と債務管理を含む)はおそらくなおざりにされるだろう(民主党もなおざりにしていた)。


 これらの政策はウォール街や一部のテクノロジー企業、そして規制に悩まされ増税を懸念するほとんどの企業にとって素晴らしいものとなるだろう。

これまで取引を行う上で様々な制約を受けてきたこれらの企業は、今後は政府の制約からより自由になるだろう。資本規制が緩和されFRBが金融緩和に圧力をかけるため、金融取引の当事者、銀行、資産運用会社にとっては、より自由と資金と信用が得られるため、これらの変化は素晴らしいものとなるだろう。


 私はすでに、民主党政権下ではできなかったことをトランプ政権下でははるかに多く行うという大きな変化を目にしている。また、AIはそれほど規制されず、関税は税収を増やすと同時に国内生産者を保護するために使用される。FRBが金利引き下げの道を進む場合(私はそうすべきではないと思うが)、それはまた、マネーマーケットファンドやその他の預金に貯蓄されている多くの現金を他の市場へと移行させ、市場と経済に刺激を与えるだろう。


変わりゆく国際社会の秩序

 国際社会の秩序は、a)米国とその同盟国によって作られた第二次世界大戦後の体制の残骸、すなわち国連、WTO(世界貿易機関)、国際司法裁判所、IMF(国際通貨基金)、世界銀行などグローバルで合意を得ていたシステムから、b)より分断された世界秩序に変化していくであろう。そして、米国は、同盟国、敵国、非同盟諸国を明確に色分けした「米国第一」政策を追求する。


 その結果、今後10年間は、経済的・地政学的な戦争が拡大し、軍事戦争が起こる可能性はかつてないほど高まるだろう。言い換えれば、指導的な原則やルールを持つ多国籍組織を通じて、原則やルールに基づき各国が互いのあり方を一緒に考えようとした米国主導の時代から、より利己的で、米国と中国が両極となる秩序へ移行していく。この戦いは、資本主義対共産主義(それぞれの現代版)という古典的なものである。


 つまり、米国の道徳観や倫理観によって形作られた道徳や倫理の概念は、米国がもはやこれらの原則を提案し、強制する世界のリーダーではなくなるため、あまり意味を持たなくなるだろう。同盟国や敵国は、取引内容のような戦術的な考慮事項に基づいて選ばれることになるだろう。どの陣営に属するかが最も重要な問題となる。


 中国は最も強力で、かつ最もイデオロギー的に対立する国であるため、主要な敵国として扱われるだろう。ロシア、北朝鮮、イランも敵国だ。他の国々については、程度の差こそあれ同盟国と敵国に分類されており、これがそれら各国への対応の指針となるだろう。ただし、主要各国および主要分野ごとの対応については、現在、詳細な計画が練られているところである。


 すべての国々に対して、トランプ米政権の指導力や秩序に反対するのではなく、それに沿うように国内の体制を変えるよう、大きな圧力がかけられ、またその可能性も与えられるだろう。そして、我々の味方につかなければ、否定的な結果に直面することになるだろう。この2つの大国間の対立は、中立的な非同盟国にとって最も重要なビジネスチャンスを生み出す。


 この世界秩序の力学における変化は発展途上国(または現在では「グローバルサウス」と呼ばれる)にも、そして世界全体にも大きな影響を及ぼすだろう。なぜなら、世界の人口のおよそ85%が集中しているこの地域は、独自の道を歩む可能性が高いからだ。


 米国はもはや、特定の理想に基づく世界秩序を米国が主導することはなくなり、また、他の国々が米国に従うとは限らないためだ。米国と中国は同盟国獲得を競うことになるが、中国の方が経済的に重要であり、ソフトパワーの行使においても優れているため、非同盟国を獲得する上でより有利な立場にあると一般的に考えられている。


 このような世界秩序の変化を踏まえると、非同盟国が利益を得るには、1)財政的に安定していること(すなわち、損益計算書および貸借対照表が健全であること)、2)国内に秩序があり、資本市場が整備され、人々や国が生産性を高めることができること、3)国際戦争に巻き込まれていないこと、といった条件を満たす必要がある】


出所:『トランプ政権下における国内および世界秩序の変化:今後起こること』(レイ・ダリオ)


帝国の興亡
トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
(米国は現在ステージ15か17のいずれかです)
出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)

 トランプ2.0の米国では今後どんなことが起きるのだろうか?


【事前にわかっているのは、クライマックスの溶融成分が何かについてだけです。これには次のものが含まれます。公的債務の不履行、給付信託基金の破綻、貧困と失業の増大、貿易戦争、金融市場の崩壊、ハイパーインフレ(またはデフレ)などによる経済的苦境。社会的な苦悩、階級、人種、土着主義、宗教によって引き起こされた暴力、武装したギャング、地下民兵、壁で囲まれたコミュニティによって雇われた傭兵によって助長される暴力。制度の崩壊、公然たる税金反対運動、一党支配、憲法の大幅な改正、分離主義、権威主義、国境の変更を伴う政治的苦境、テロリストや大量破壊兵器を装備した外国政権との戦争による軍事的苦境…】


出所:『フォース・ターニング』(ウイリアム・シュトラウス&ニール・ハウ)


 トランプ政権の来年からは、これまでの両建て経済の後始末の『フォース・ターニング』相場が始まる。


1787年:合衆国憲法制定

1865年:南北戦争終結

1945年:第二次世界大戦勝利

2025年:?


【ストラウスとハウが1997年に『フォース・ターニング(第四の節目)』を出版したとき 、国家債務は5.4兆ドルで、国は年間220億ドルの赤字を計上していた。現在、米国は4日ごとに220億ドルの債務を追加しており、年間2兆ドルにのぼる。彼らは、次の「フォース・ターニング」の転換期の主なきっかけは、債務、社会の衰退、そして世界的な混乱であると仮定した。


 2008年から始まったこの危機が17年目を迎える中、これまで進行中のこの危機を推進してきた促進者を予測する彼らの先見性には驚くばかりだ。2008年にFRBとウォール街の所有者によって引き起こされた債務の爆発的な増加は、すべての混乱、債務の創出、圧倒的なインフレ、権威主義的措置、社会の衰退、妄想の祝福、政権メディアとその腐敗した政府の共謀者の正当性の喪失、そしてトランプの台頭を引き起こした。


 革命(独立戦争)では、共和国の誕生そのものが、複数の戦いで危うく命を落とした。南北戦争では、連邦は、当時史上最悪の戦争とみなされた4年間の虐殺を辛うじて生き延びた。第二次世界大戦では、一時的に勝利していた民主主義の敵を国は滅ぼした。敵が勝っていたら、アメリカ自体が滅んでいたかもしれない。おそらく、次の危機は、同様の規模の脅威と結果を国にもたらすだろう】


出所:『フォース・ターニング 選挙が火種を巻き起こす』(ジム・クイン)


『フォース・ターニング(第四の節目)』のニール・ハウは、米国の再生と素晴らしい時代の前には「危機とインフレ」がやってくると警鐘を鳴らしている。危機に対してわれわれができることは、相関関係のない資産への分散投資、ポートフォリオの10%をゴールド、5%をビットコインで保有、そして仲間と家族を大切にすることである。


12月4日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 12月4日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、愛宕伸康さん(楽天証券経済研究所チーフエコノミスト)をゲストにお招きして、「衝撃の未来予想図:日本は大丈夫なのか?」「財政と長期金利の行方」「日銀の12月利上げはあるのか?」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。


トランプ2.0でこれから何がおきるのか?
出所: YouTube

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  ラジオNIKKEIの番組ホームページ から出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。


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12月4日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
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