先週の振り返り:日経平均は一時4万円超え
先週(営業日:1月20~24日)の日経平均株価は、1週間で1,480円上昇して、3万9,931円となりました。一時4万円を超える場面もありました。二つの重大イベントを無事通過したことが好感されました。
日経平均は昨年後半、3万8,000円から4万円の狭いレンジで、やや膠着(こうちゃく)感が出ていました。先週は、改めて4万円超えを試す形となりました。
日経平均週足:2024年1月4日~2025年1月24日

先週、無事に通過した二つの重大イベントは、以下の通りでした。
輸入関税の即時発動は無し
先週、ポジティブサプライズとなったのは、トランプ大統領が就任直後に発動すると宣言していた輸入関税の即時引き上げがなかったことです。「メキシコ・カナダに25%の関税を導入し、中国に追加で10%の関税をかける」と予告していたが、就任直後には発動しませんでした。
【1】「関税の即時発動なし」を好感してドイツ株は最高値
もし予告通りに輸入関税を課すと、世界中の自動車産業など製造業にダメージを及ぼします。日本・メキシコ・中国・ドイツなどへのダメージが大きくなる可能性があります。
米国も無傷ではいられません。中国・メキシコ・カナダからの輸入品や輸入原材料・電力などを購入している米国の消費者や産業も価格上昇に苦しむことになります。米国で生活必需品の価格が一段と上昇し、インフレ再燃・金利上昇・消費減退を招く可能性があります。そうなると、米国株を含め、世界的に株が下がることも考えられました。
輸入関税の即時発動がなかったことが、株式市場にとって安心材料となりました。
【2】関税発動のリスクが低下したわけではない
これで輸入関税の発動がなくなったわけではありません。
トランプ大統領は、「メキシコとカナダに25%の関税を課すことを検討している、2月1日だろう」と発言しています。即時発動がなかっただけで、メキシコやカナダからの薬物や犯罪の流入が止まるまで、関税をかけるという考え自体は変わっていません。他の国々にも、準備が整えば、関税をかける可能性は示唆しています。
その意味では、即時発動がなかっただけで、トランプ関税のリスクは変わっていません。それでも先週、世界の株が上昇したのは、トランプ大統領が、世界経済・世界の株式市場を考えながら政策を発動する、とみられたからです。
【3】ハイテク産業・AI投資推進が好感される
トランプ大統領は、就任と同時に、AI産業への投資促進に強い意思を示しました。鉄鋼やエネルギー産業など、オールド産業重視にみられていた大統領が、明確にAI投資推進を掲げ、規制緩和と投資促進を進める姿勢をみせたことが株式市場で好感されました。
【4】ウクライナ停戦に強い意欲を示す
ウクライナ停戦に強い意欲を示し、ロシア・中国・欧州に働きかけると述べていることが、欧州株にとってポジティブ材料となりました。
ってから、欧米諸国は、ロシアへの経済制裁を強めてきました。
【5】米国第一主義への不安は強まる
トランプ大統領の就任直後の政策が、全て株式市場にとってプラスだったわけではありません。米国第一主義は、最初に大統領になった2017年よりもさらに強まった印象があります。領土拡張主義と取れる発言が目立ち、近隣諸国に不安が広がっています。
就任演説では「米国は再び成長する国家としての姿を取り戻す。富を増やし、領土を広げ、米国旗を新たな地平線へと運んでいく」と語りました。「パナマ運河を取り戻す」「カナダが米国の51番目の州になるのを見たい」「メキシコ湾を米国湾に改称」「グリーンランドを購入する」など、領土拡張につながる考えを示しており、不安材料となっています。
パリ協定からの離脱方針、WHO(世界保健機関)からの離脱も決めており、国際社会との
摩擦が深まる可能性があります。
ただし、そうしたマイナス材料を考慮しても、先週発表されたトランプ政権の政策は、とりあえず、株式市場にとってポジティブととらえられました。
日銀利上げも無事通過
24日、日本銀行は、政策金利を0.25%から0.5%へ引き上げました。以下二つの要因により、波乱なく利上げを乗り切ったことが、株式市場にとってポジティブでした。
【1】事前に利上げ示唆があった
利上げは植田和男日銀総裁が事前に示唆していた通りで、サプライズ(驚き)はありませんでした。
黒田東彦前日銀総裁の時から、日銀は「市場との対話」を重視する姿勢を見せ始めていました。黒田前総裁は、金融政策について積極的に市場にメッセージを出していましたが、一番重要な政策変更を事前に示唆することがなかったので、日銀の金融政策は「サプライズ」を伴うのが普通でした。
植田総裁は、さらに一歩踏み込んで、政策変更を示唆するようになりました。ようやく、FRB(米連邦準備制度理事会)と同様、「事前に市場に織り込ませる」ことに成功しつつあると考えられます。
【2】「賃上げ→物価上昇」の良い循環が実現する期待につながった
米国経済にとって、インフレ再燃は重大な懸念材料ですが、長年にわたってデフレに苦しんだ日本経済にとっては事情が異なります。賃上げ→物価上昇→利上げの良い循環が実現せず、再びデフレ経済に戻ることが重大な懸念材料となっています。
デフレへの逆戻りが懸念されるうちは、日銀は利上げできないと考えられていました。日銀は、今年の春闘賃上げが大企業から中小企業まで高くなると判断して利上げに踏み切りました。昨年春闘で賃上げ率が高かったのは大企業中心で、中小企業の賃上げが遅れていました。そのため昨年は、11月時点で実質賃金(従業員5人以上の事業所ベース)がマイナスでした。
今年は、春闘の賃上げ率が中小企業まで高くなるかどうかが、注目されます。食料品や電力料金・ガソリン価格など、生活必需品の価格上昇が続く中、実質賃金がプラスになるかどうかが正念場です。
日経平均4万超えを予想
トランプ政権が今後、どんな政策を出してくるか予測不能です。ただし、「米国景気がソフトランディングして世界経済の緩やかな拡大が続く」というシナリオを壊すような政策運営をする可能性は、少し低下したと考えています。
私は、2025年の日経平均は「年初、トランプ政権への不安で売られるが、後半には上昇して、年末4万4,000円まで上昇する」と予想しています。米景気がソフトランディングする中で、日本の景気・企業業績も緩やかな拡大が続くと考えていることが、予想の根拠です。
昨年後半から、3万8,000円から4万円のレンジで推移してきた日経平均ですが、そろそろ4万円超えが定着する可能性が出てきたと考えています。
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(窪田 真之)