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著者の土信田 雅之が解説しています。

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「 【テクニカル分析】株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


 2月の最終日でもあった先週末28日(金)の日経平均株価ですが、3万7,155円で取引を終えました。前週末終値(3万8,776円)からは1,621円安と下げ幅が大きくなったほか、週間ベースでも2週連続の下落となりました。


 とりわけ、週末28日(金)の急落のインパクトは大きく、この日の取引時間中には3万6,840円まで下落する場面も見られました。


 テクニカル分析的には、株価が3万8,000円水準を下回ったことで、昨年10月から続いていた「レンジ相場(3万8,000円から4万円)」が崩れた印象になっていることが重要な意味を持ちそうです(下の図1)。


図1 日経平均(日足)の動き(2025年2月28日時点)
[今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
出所:MARKETSPEEDII

 そこで、今回のレポートでは先週末の急落を含めた値動きを確認し、その背景や今後の展開などについて考えて行きたいと思います。


先週の株価急落でも、まだ慌てる必要はない?

 冒頭でも述べたように、先週末28日(金)の日経平均は前日比で1,100円を超える大きなものとなったほか、レンジ相場も下抜けてしまったため心理的にも浮足立ってしまいがちですが、実際のところはまだ想定内の値動きと考えることができます。


図2 日経平均(日足)の動き その2 (2025年2月28日時点)
[今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
出所:MARKETSPEEDII

 上の図2のチャートは、 前回のレポート でも紹介したものです。


 日経平均の日足チャート上に、昨年7月11日と10月15日の高値どうしを結んだ「上値ライン」と、昨年8月5日安値と10月15日の高値の上昇幅を起点とした「ギャン・アングル」を描き、日経平均の動きをトレンドの視点で捉えたものになります。


 結論から言ってしまうと、図2に描かれた上値ラインが先週末28日(金)の株価が下げ止まった位置になりました。さらに、この上値ラインは昨年12月に株価がこの上値ラインを上抜けて以降、株価のサポートとして機能していたことも分かります。


 確かに、先週末28日(金)の下落幅は大きかったものの、下げ止まって欲しい目安のところで踏みとどまることができたため、現時点で相場が崩れたと判断するのはまだ早く、今週以降の株価がさらに下値を探る展開にならない限り慌てる必要はないと言えそうです。


 なお、3月1日(土)の朝に取引を終えた日経225先物取引のナイトセッションが大阪取引所で3万7,550円と反発して終えていますので、週初の日経平均は相場のムードの落ち着きと株価の戻りの強さをうかがうことになりそうです。


今後の値動きのチェックポイントは?

 このように、目先の日経平均はひとまず持ち直しそうな状況と言えますが、先週末にかけての株価下落が中長期的には下落トレンドの狼煙となる可能性も想定しておく必要もありそうなため、この点についても考えていきたいと思います。


図3 日経平均(週足)とエリオット波動
[今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
出所:MARKETSPEEDII

 上の図3は日経平均の週足チャートに「エリオット波動」の見方を描いたものです。


 エリオット波動とは、相場の動きを一定のリズムで繰り返す「波」として捉え、現在の株価が「どのトレンドの波に乗っているのか?」を把握することで、今後の値動きを考える上での判断材料にするのを目的として使われます。


 図3を見ると、先週の日経平均の急落によって長く続いていた「B波」が終了し、「C波」の段階に入った可能性が高くなりました。


 そのため、これから注目されるチェックポイントは「C波がどのくらいの大きさになるのか?」と、「C波が終わった後の株価の上昇力」になります。


 ただし、ここで注意したいのは今週あたまに見せるかもしれない株価の反発が、果たしてC波の終了を意味するのかどうかは「まだ分からない」ということです。


 仮に、今週の日経平均が反発していった場合これまでの株価下落で下抜けて行った移動平均線を回復・上抜けできるかが焦点になり、図1の日足チャートでは75日や200日移動平均線、図3の週足チャートでは52週移動平均線などが強く意識されることになると思われます。


 これらの移動平均線を無事に上抜けることができれば、ひとまずC波が終了したと判断できるわけですが、その場合今回のC波が短いものにとどまったということで、それだけ買い意欲の強さの表れとして次のエリオット波動も上昇サイクルになる可能性が高まります(下の図4)。


図4 エリオット波動の上昇サイクル継続
[今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
出所:筆者作成

 反対に、今後の株価がこれらの移動平均線を上抜けできずに再び下げに転じ、抵抗(レジスタンス)として機能してしまった場合、いわゆる「リターンムーブ」の格好となり次の株価下落が大きなものになりやすくなります。


 そして、足元のC波がより大きい下落の波として継続することになり、エリオット波動も上昇サイクルから下降サイクルへと変化するシナリオが浮上してきます。


図5 エリオット波動の上昇サイクルから下降サイクルへの転換
[今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
出所:筆者作成

注目は日経平均の52週移動平均線の役割

 なお、先週末28日(金)時点での日経平均の移動平均線の値をそれぞれ確認すると、200日移動平均線が3万8,668円、52週移動平均線が3万8,727円、75日移動平均線が3万9,013円となっていますので、今後の日経平均の下落ムードを払拭するにはなるべく早い段階でこれらの移動平均線を超えるところまで株価水準を回復させる必要があります。


 その中でも特に下落トレンド入りの判断材料として注目されそうなのが52週移動平均線です。52週移動平均線は週足チャートの長期線であるほか、現在の状況が過去と似ているというのもその理由になります。


図6 日経平均(週足)の動き(2025年2月28日時点)
[今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
出所:MARKETSPEEDII

 では、具体的に似ている場面はどこかを上の図6で確認すると2022年12月から2023年あたまにかけての時期が該当します。


 2020年のコロナ・ショック後に大きく上昇していた日経平均が次第に勢いを失っていく中、2022年の夏場になると52週移動平均線がサポートとなる場面が増え始め、2023年に入って株価が下抜けると今度はこの52週移動平均線が抵抗となって株価が低迷する期間がしばらく続きました。


 つまり、「52週移動平均線の役割がサポートから抵抗へと変えたことで、相場のトレンドも下向きに変化した」という考え方です。


 上の図6を見ても当時の状況が足元と似ていることが分かります。週末28日(金)時点の日経平均の終値(3万7,155円)は、この日の52週移動平均線(3万8,727円)からマイナス4%ほどの乖離となっていますが、まずは株価反発でこの乖離を埋めること、そして、52週移動平均線が抵抗として機能するのかどうかを見極めて行くことになります。


相場環境と材料面から見た今回の株価急落

 これまでは、先週の株価急落をテクニカル分析の視点で見てきましたが、相場環境と材料面からも考えて行きたいと思います。


 先週の日経平均は、米国株の動きに歩調を合わせるような格好で下落していきましたが、その米国株の下落要因を簡単にまとめると以下になります。


  • 米国景気の悪化への警戒
  • 不確実性を抱えるトランプ関税の動向
  • エヌビディア決算後の株式市場の初期反応
  •  1については こちらのレポート でも説明していますが、米国では先々週あたりから公表される経済指標の結果が景気の減速を匂わせるものが増え始めています。


     もっとも、経済指標の軟化は一時的なものであり次回以降に持ち直すことも考えられますので、今後はこの流れが傾向として続くのかどうかをウォッチしていくことになります。


     今週の米国では、2月分のISM(米サプライマネジメント協会)景況指数(製造業と非製造業)と雇用統計が予定されており、その結果次第では株価が動くことが想定されるため注目が集まりそうです。


     また、景況感の悪化は米金融政策の利下げ期待を高めることになり、実際に米10年債利回りは足元で低下しています(下の図7)。


    図7 米10年債利回り(日足)の推移(2025年2月28日時点)
    [今週の株式市場]株価急落も想定内?「慌てず・騒がず」で臨みたい局面~中期トレンドの変化の見極めがカギ~
    出所:楽天証券WEBサイト(REFINITIV)

     一般的に債券利回りなどの金利が低下することによって、相対的に株式市場の割高感が修正され株価が上がりやすくなるのですが、足元では金利が低下しても株高につながっていません。


     その理由として考えられるのが2のトランプ関税の動向です。


     先週、延期されていたメキシコとカナダへの関税を発動する方針を表明したほか、すでに10%の追加関税が実施されている中国に対してもさらに10%の追加関税を実施する旨の発言がトランプ米大統領の口から飛び出すなど動きが慌ただしくなり、市場では関税実施によるインフレ再燃などの影響を不安視する見方が台頭してきました。


     さらに、こうした関税政策だけでなく、トランプ政権は財政への負担が大きい減税政策にも取り組む予定でもあり、景気の悪化とインフレ進行が同時に起こってしまった場合にはFRB(米連邦準備制度理事会)が適切に利下げを行うことができず、最悪の場合「スタグフレーション」の状況に陥ることも考えらえます。


     もちろん、土壇場で関税発動が回避されたり、緩和されたりする可能性もありますが、先が読めないトランプ政権の動きは相場を揺るがす「不確実性」を抱えています。


     つまり、先週の株価下落は不確実性で揺れ動きやすい相場環境の中、経済指標の悪化と関税政策に動きが出てきたことの「合わせ技」で不安が高まったことによるものと言えます。高まった不安の中にはスタグフレーションへの警戒も含まれてはいますが、現時点で明確にスタグフレーションが進行している明確なサインが出現しているわけではありません。


     また、決算発表を受けた エヌビディア(NVDA) 株は27日(木)の取引で急落し、その影響が日米の半導体関連株にも波及しましたが決算内容自体は悪くありません。


     過剰な期待が修正されることによってこれまでのような株価の急上昇をチャート上に描いて行く展開に戻すのは難しくなりましたが、今後は売り上げや利益の成長ペースに合わせた株価の推移へと軌道が変わるだけで、現時点で積極的な相場の売り材料にはならないと思われます。


     そのため、今後の株式市場は不安を緩和させる材料が出てくればあっさり上昇していく展開になっていくと考えられますが、今週は中国で全人代(全国人民代表大会)が5日(水)から開幕するほか、先週末に行われたトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談では口論に発展してしまい、その後の共同記者会見が中止となるなど、政治的な動きも相場に影響を与える可能性が高まってきています。


     したがって、先週の株価急落を過度に心配する必要はないものの、依然として相場の先行きは不透明であることに変わりはなく、目先の材料に株式市場が一喜一憂する状況はまだしばらく続きそうです。


    (土信田 雅之)

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