先週は第47代米国大統領に返り咲いたトランプ氏が繰り出した「ビジネスフレンドリーで株価に優しい政策」を歓迎して、米国株、日本株ともにほぼ全面高の展開でした。


 就任2日目の21日(火)には、早くも総額78兆円規模の巨額AI(人工知能)投資計画「スターゲート」構想を発表。


 生成AIソフト「ChatGPT」を開発したオープンAI社や米国ソフトウエア会社の オラクル(ORCL) の幹部、さらに日本の ソフトバンクグループ(9984) の孫正義会長兼社長も出席した記者会見で、トランプ新大統領は「これは史上最大のAIインフラ事業だ」と自画自賛しました。


 23日(木)には「米国をAIの世界首都にする」ことを目指す大統領令に署名するなど、AIインフラ関連株はトランプ大統領が掲げる規制緩和策の筆頭銘柄になりそうな気配です。


 事業を推進するスターゲート社に参画するオラクル(ORCL)の株価は前週末比14.0%高、ソフトバンクグループ(9984)は16.3%高と急騰しました。


 また日本市場では、AIデータセンターに光伝送システムを供給する フジクラ(5803) が22.4%高となるなど、同社をはじめとした光ファイバー関連株が属する非鉄金属セクターが業種別上昇率でも圧倒的1位に躍り出ました。


 就任前に警戒された高関税政策に関して、より踏み込んだ大統領令が出なかったことも朗報でした。


 就任早々は、株式市場で嫌われる高関税政策について過激な言動を控え、最も好感されそうなAI関連の「おいしいところ取り」に成功するなど、トランプ大統領の柔軟なビジネスセンスが際立った就任1週間目といえるでしょう。


 これを受けて、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は前週末比1.74%高と続伸。


 23日(木)には世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議にオンライン参加したトランプ大統領が法人税の減税策に言及したことで、早くも史上最高値を更新しました。


 日本でも トヨタ自動車(7203) が前週末比3.4%高、半導体検査装置メーカーの アドバンテスト(6857) が9.7%高となるなど、米国が収益源の外需株が相場をけん引。


 日経平均株価(225種)の24日(金)終値は前週末比1,480円(3.9%)高の3万9,931円まで上昇しました。


 24日(金)には日本銀行が金融政策決定会合で大方の予想通り、政策金利を0.5%に引き上げる追加利上げを決定。


 本来、追加利上げは株価にとってネガティブですが、日経平均株価は小幅安、為替市場でも一時1ドル=154円80銭台まで円高が進んだ程度の「軽傷」で済みました。


 今週は、米国の政策金利を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)が29日(水)に終了。今回は利下げせずに様子見予想です。


 米国企業の2024年10-12月期決算では、日本時間30日(木)早朝に マイクロソフト(MSFT) やフェイスブックの親会社 メタ・プラットフォームズ(META) 、31日(金)早朝に アップル(AAPL) が決算発表します。


 米国巨大IT企業が巨額投資を行う新規のAI事業で、きちんと利益を上げる状態まで来ているかどうかが注目ポイントになるでしょう。


 24日(金)夜の米国株が下落したにもかかわらず日経平均先物(期近)が4万円を超えて上昇していることから、今週も米国株に比べて出遅れた日本株の続伸に期待が持てそうです。


週明け27日(月)の日経平均終値は前週末比366円安の3万9,565円 でした。


先週:トランプの「まず原油安&利下げ、高関税はその次」政策は出遅れ日本株に吉報!

 先週20日(月)の大統領就任式当日に数十本の大統領令を出したトランプ新大統領。


 気候変動対策の国際ルール「パリ協定」からの再離脱やWHO(世界保健機関)からの脱退、DEI(多様性、公平性、包摂性)を推進する政府の取り組みの廃止など、米国第一主義や反クリーンエネルギー、保守的思想を前面に打ち出した大統領令が次々と発令されました。


 しかし、株式市場に悪影響を及ぼしたものはほとんどありませんでした。


 当初は、日本も含めた全輸入品に一律10~20%の追加関税を課す緊急事態宣言の発動も危ぶまれていましたが、その発動は見送られました。


 それに代わって目立ったのは、エネルギー非常事態の宣言やアラスカの資源開発、前バイデン政権が凍結した米国産LNG(液化天然ガス)の輸出許可など、米国物価高の原因の一つになっている資源価格高騰を抑え込むための政策でした。


 24日(金)にビデオ演説したダボス会議でもトランプ大統領はOPEC(石油輸出国機構)に原油価格の引き下げを要求。


 原油価格が下がれば、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)に対してただちに政策金利の引き上げを要求する意向を示しました。


 この発言を受けて、実際、原油価格が急落するなど、トランプ新政権はまず資源価格を下げて物価高を沈静化させ、FRBに利下げを行わせることで、多くの米国民が不満を感じている米国内の物価高と高金利を解消することを最優先課題にしているようです。


 これは「高関税政策は物価沈静化や利下げのあと」という意思表示のようにも見えます。


 トランプ大統領の掲げる高関税政策が大打撃となる日本の自動車産業など外需株にとって朗報以外の何物でもありません。


 さらにトランプ大統領は大統領令で、デジタル資産利用の保護・促進、イデオロギー的な偏見のない人工知能行動計画の策定など、仮想通貨やAI技術の大々的な規制緩和を推進することも表明。


 トランプ氏といえば、米国製造業の復活を掲げ、どちらかというとエネルギーや金融など重厚長大産業寄りの政策を主眼としてきました。


 しかし、その印象を一変させ、AIや仮想通貨といった最新のデジタル技術革新によって「米国を再び偉大な国にする」姿勢も鮮明にしました。


 これもまた米国のAI関連株や日本の半導体株にとって朗報以外の何物でもありません。


 トランプ大統領に対するご祝儀相場が続いたこともあり、本来は日本株にとってネガティブだった24日(金)の日銀の追加利上げも大きな波乱なく通過。


 会合後に記者会見した日銀の植田和男総裁も、今後の追加利上げに関しては「予断は持っていない。適切に政策を判断していきたい」と無難な発言に終始。


 為替レートは日銀の追加利上げを受けて一時的に1ドル=154円80銭台まで円高に振れたものの、24日(金)のニューヨーク市場終値は155円90銭台まで円安方向に戻しました。


 日本国内では、著名タレントの女性トラブル問題に対する社員の関与問題で揺れる フジ・メディア・ホールディングス(4676) がCM差し止めによる業績悪化の懸念もある中、コンプライアンス改善期待で前週末比13.0%高と急騰。


 今週も何かと話題を集め、乱高下しそうです。


今週:FOMC利下げ見送りでトランプとFRBが対立?米国企業決算&物価指標に注目!

 今週、米国で最も大きなイベントは29日(水)終了の米国FOMCです。


 前回12月FOMCでは0.25%の追加利下げが行われましたが、今回は利下げ見送りが確実視されています。


 先週、トランプ新大統領はダボス会議で「金利の即時引き下げを要求する。金利については自分のほうがFRBよりもよく知っている」と発言。


 トランプ大統領の政治介入に対して、FOMC終了後にパウエル議長がどのような対応を見せるかに注目が集まります。


 あまりにトランプ大統領に配慮し過ぎた発言をした場合、FRBという中央銀行の独立性や威信が失墜し、株式市場が混乱する恐れもあるでしょう。


 30日(木)には米国の2024年10-12月期の実質GDP(国内総生産)の速報値も発表されます。


 前2024年7-9月期の実質GDPは、速報値の前期比年率換算2.8%増が確報値では3.1%増に上方修正されるなど、旺盛な個人消費を背景に景気拡大を示す結果でした。


 今回も前期比年率換算で2.6%増と、堅調な米国経済の拡大が続く見通しになっています。


 31日(金)には12月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表。


 FRBが最重要視する、変動の激しい食品・エネルギーを除くコアPCEデフレーターは前年同月比2.8%増で前月11月と変わらない予想です。


 もし物価上昇率が予想以上だった場合、FRBに強引な利下げ要求をするトランプ大統領にとっても誤算といえるため、急騰した米国株がいったん調整する可能性もありそうです。


 今週は日本時間で30日(木)早朝のマイクロソフト(MSFT)、31日(金)早朝のアップル(AAPL)のほか、28日(火)夜には従業員のストライキで経営悪化が伝えられる航空機メーカーの ボーイング(BA) 、31日(金)早朝には先々週の17日(金)に買収観測報道が流れて株価が急騰した インテル(INTC) など、多数の米国企業の決算発表も予定されています。


 トランプ大統領に対する期待感で株価上昇がまだまだ続くのか、いったん好材料出尽くしで調整相場に入るのか、今週もトランプ大統領の一挙手一投足から目が離せません。


(トウシル編集チーム)

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