日銀総裁らの予想以上のタカ派発言で期利上げ観測が強まる
2月は、1月のレンジである1ドル=154~159円を円高方向にブレイクしました。
日本銀行の植田和男総裁、田村直樹・高田創審議委員による予想以上のタカ派発言によって早期利上げ観測が強まったことに加え、米国経済の寒波や山火事の影響、トランプ関税によるインフレを警戒した消費者センチメントの悪化からFRB(米連邦準備制度理事会)の早期利下げ観測が広がり、一時4.6%台を付けた米10年債利回りは4.1%台まで低下し、ドルも売られ、1ドル=150円を割って148円台まで円高が進みました。
このような相場環境の中で相場のかく乱要因となったのはやはりトランプ大統領の言動でした。
この関税発動表明を受けて、3日のダウ工業株30種平均は関税政策で米国経済が失速するとの懸念から一時900ドル超の下落となり、ドル/円も円高になりました。また、4日の東京市場でも日経平均株価が一時900円超の下落となりました。さらに、トランプ大統領は日本と中国を名指しで通貨安誘導と批判し、解決策として関税を課す可能性を示唆しました。
ドル/円は、3日の東京市場では1ドル=151円台でしたが、NY株安と通貨安けん制発言を受けて149円台前半へと円高が進みました。そして4日も、トランプ大統領の施政方針演説への警戒感から株安、金利低下し、ドル/円も148円台前半まで円高が進みました。
投機的なポジションの参考となるIMM(シカゴの通貨先物市場)の円ネットポジションは、直近の2月25日時点で円ロング(9万5,980枚、約1.2兆円)と過去最大規模でポジションが大きく積み上がりました。
これだけポジションが積み上がってくると、何かの拍子で一気にポジションが解消する可能性もあるため注意する必要があると考えていたところ、やはり4日のNY市場の午後に起こりました。
トランプ大統領の「米国とウクライナは鉱物資源のディールで署名の準備」「トランプ米大統領はディールについて議会演説で発表の意向」という一部報道をきっかけにドルの買い戻しが強まりました。
また、ラトニック米商務長官による「トランプ大統領がカナダ、メキシコに妥協する考えもある」という発言によってドルは急速に買い戻され、1ドル=150円近辺まで円安が進みました。
金融市場全般がウクライナ停戦協議やトランプ関税の不確実性に振り回されており、ドル/円も神経質な動きが続いています。トランプ大統領に振り回されることを嫌い、金利差コストのかかる円ロングポジションの保有期間を短くする傾向となっているようです。
短期的には円ロングポジションの縮小になるかもしれませんが、トランプ政権から円安是正を迫られていることが明らかになったことはドル/円の上値を抑えることになりそうです。
また、ドル/円の根本的な構図は「日米の金融政策の時期」によって左右されますので、トランプ大統領の言動によって相場は振り舞わされても、乱高下の後、ドル/円はこの構図にのっとって動くことが予想されます。
3月は、18~19日開催の日米両金融当局会合の姿勢に注目
3月は日銀金融政策決定会合とFOMC(米連邦公開市場委員会)が同じ日程の18~19日開催予定ですが、それまでは日米それぞれの経済・物価状況を確認しながら日米金融当局の姿勢を見極めていく動きになるでしょう。
日銀の早期利上げ観測の高まりは依然として円高要因となっています。また、18~19日の日銀会合までに春闘の賃上げの情報(*)も伝わることから、「日銀の追加利上げ期待」は3月も高まり、円高圧力が続くことが予想されます(*3月6日 2025年春闘賃上げ要求集計結果公表、12日 集中回答日、14日 第1回回答集計結果公表予定)。
現在の日銀の追加利上げ時期は、半年に1回のペースとして「7月利上げ」の見方が多いようですが、3月の会合ではこの見方を前倒しにするような内容が示唆されるのかどうか注目したいと思います。
一方、FRBは「利下げを急ぐ必要性はない」との慎重姿勢が、2月後半の低調な経済指標や消費者センチメントの悪化を受けて変わるのかどうか、あるいは3月のFOMCでも同じ姿勢を貫くのかどうかに注目です。
消費者センチメントは、足元の景況悪化を示しながらも1年先のインフレ期待は上昇していることから、FRB内部でトランプ関税によるインフレ懸念が強すぎれば、景気悪化を意識しながらも利下げ慎重姿勢が続くことが予想されるため注意する必要があります。
2月28日には景気悪化を示す経済指標が発表されました。米1月個人消費支出のマイナス0.2%です。予想を大きく下回り、前月0.8%から大きく低下しました。トランプ関税を警戒した前倒し需要の反動、カリフォルニア州の山火事や全米各地の寒波の影響が大きいようです。
もう一つは、1月の米国財貿易赤字が前月比+25.6%の1,533億ドルと過去最大を記録しました。トランプ大統領の関税発動を前に企業が前倒ししたとみられ、貿易赤字が1-3月期の経済成長の足かせとなる可能性があります。
これらの指標を受けて、アトランタ連邦準備銀行のGDPNowは2月28日時点でマイナス1.5%と2月19日時点の+2.3%から大きく下方修正し、3月3日時点ではマイナス2.8%とさらに下方修正しました。前倒し需要の反動や山火事、寒波などは一時的要因ですが、消費抑制は2月、3月も続くのかどうか注目です。
まずは、3月5日の地区連銀経済報告(ベージュブック)で各地区の経済状況を確認したいと思います。そして、2月に発表された消費者センチメントの悪化が今月発表の指標にも影響しているのかどうか注目です。
7日の米雇用統計は、連邦政府職員の人員削減がどの程度影響しているのか、また、その削減によって関連産業(サービス、外食、小売)に影響が及んでいるのかどうかにも注目する必要があります。寒波や山火事の影響も続いているかもしれません。
そして、12日の2月CPIで大きく上昇していなければ利下げ期待が高まることが予想されます。
FRBの利下げは年内1回、しかも年後半との見方が多かったですが、2月後半の低調な経済指標や消費者センチメントの悪化を受けて、6月に1回、9月か10月に1回、場合によっては12月と、年内2~3回の利下げの見方になってきています。FOMCまでの経済指標でこの見方が強まるのかどうか、あるいは後退するのかどうか注目したいと思います。
5日の東京市場午前11時ごろに予定されているトランプ米大統領の施政方針演説に注目が集まっています。
日本の通貨誘導批判が議会で発信されれば、日銀は「トランプ大統領の発言は日本の金融政策に影響を受けない」との姿勢を示すと思われますが、金融政策の正常化を進めている日銀にとっては追加利上げに動きやすい追い風になるかもしれません。
(ハッサク)