トランプ関税の暴風雨が吹き荒れ、先週の株式市場は乱高下しました。


 3月4日(火)に発動されたカナダ・メキシコに対する25%関税を警戒して、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は週明け3日(月)、4日(火)の2日間で前週末比2.96%も下落。


「やり過ぎた」とトランプ大統領が思ったかどうかはともかく、4日には米国のラトニック商務長官が25%関税を軽減する見通しを表明。


 実際、翌5日(水)にはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠した自動車メーカーに対する25%関税が4月2日(水)まで約1カ月延期されました。


 USMCAは自動車製品などの原産地規則強化や他国の通貨安を防ぐ為替条項など、保護主義的な色合いもある3カ国の自由貿易協定です。


 6日(木)にはこのUSMCAのもとで米国に輸入される全製品の25%関税の1カ月延期も発表されました。


 しかし、二転三転するトランプ関税に対する不透明感もあり、先週のS&P500種指数は前週末比3.10%の急落と3週連続で下落。


 昨年2024年11月5日の米国大統領選後の上昇が帳消しになりました。


 また、ハイテク株が集まるナスダック総合指数は前週末比3.45%安。2月18日の直近高値から、株価が調整局面入りした判断基準となる約10%の下落に見舞われています。


 中でも大打撃を受けているのは、これまで株価が上がり過ぎていたAI(人工知能)関連株です。


 主力の米国高速半導体メーカー、 エヌビディア(NVDA) は前週末比9.79%安となり、2025年に入ってからの下落率は前年末比16.0%に達しています。


 トランプ関税や政府機関のリストラで米国が景気後退に陥るのではないかという懸念から、7日(金)の為替市場では一時1ドル=146円90銭台(終値は148円ちょうど)まで円高が進みました。


 急速な円高にもかかわらず日経平均株価(225種)はトランプ関税緩和に対する期待感もあり、前週末比268円(0.7%)安の3万6,887円と小幅安で踏みとどまりました。


 ただ、7日(金)夜にはカナダからの乳製品と木材に250%の相互関税をすぐにでも課す意向を示すなど、トランプ大統領の脅迫に近い関税発言はとどまることを知りません。


 さらに今週12日(水)には米国の2月CPI(消費者物価指数)、13日(木)には2月PPI(卸売物価指数)も発表されます。


 少しでも予想を上回る物価高再燃が確認されると、いよいよ「トランプ不況」の到来が現実味を帯びるため、株価がさらに急落する恐れもあります。


 週明け10日(月)の日経平均株価の終値は、前週末比141円高の3万7,028円でした。


先週:皮肉にも中国株が急騰!ゲーム株急落も防衛株急騰で日本株も底堅い動き

 トランプ関税一色だった先週ですが、日本国内では長期金利の指標となる10年国債の利回りが7日(金)に15年9カ月ぶりの高水準となる1.538%まで上昇。


 5日(水)に日本銀行の内田真一副総裁が静岡県の会合で追加利上げは「経済の反応を確認しながら進めていける」と発言したことが影響しました。


 しかし、AI関連株を中心に急落が続く米国株に比べると、トランプ大統領の高関税政策の軌道修正もあって、日本の外需株は小幅安にとどまりました。


 主力の トヨタ自動車(7203) は3日(月)に異例の株主優待制度を導入したこともあり前週末比4.2%高と健闘。


 優待内容は、3月末に100株以上保有でコンビニなどでも使えるスマホ決済アプリ「TOYOTA Wallet」500円分(継続保有で増額)とレースチケットなどの抽選券の贈呈です。


 日本一の大企業トヨタ自動車までが株主優待導入で個人の安定株主獲得に乗り出したことは、外資系企業の買収攻勢を日本の大企業が警戒している表れといえるでしょう。


 6日(木)には、カナダの同業他社からの買収攻勢に対抗した創業者のMBO(経営陣による買収)計画がとん挫した セブン&アイ・ホールディングス(3382) が、総額2兆円の自社株買いを発表して前日比6.1%上昇。


 週間でも前週末比2.4%安と下げ相場の中では比較的底堅く推移しました。


 さらに目を見張るほどの急騰を続けているのが、トランプ大統領の要求で防衛費増加の恩恵が見込まれる防衛関連株です。


 6日(木)にトランプ大統領が日米同盟に対して不満を表明したこともあり、主力の 三菱重工業(7011) が前週末比25.3%高と上場来高値を大きく更新。


 電磁力で弾丸を打ち出す高性能銃を製造し、2025年3月期全受注額の3割を防衛事業が占める 日本製鋼所(5631) は17.6%高。


 また、トランプ大統領が3日(月)にウクライナに対する軍事支援を一時停止することを明らかにしたことを受けて、欧州では6日(木)、EU(欧州連合)特別首脳会議が開かれ、総額127兆円規模の欧州再軍備計画が発表されました。


 これを受けて、武器の製造にも使われる工作機械メーカーで、ドイツ企業と経営統合している DMG森精機(6141) が22.5%高。


 世界的に防衛関連株がトランプ急落相場の資金の逃げ場所になりました。


 ただし、防衛・軍需株急騰の背景には第3次世界大戦のリスクがあることも意識しておいたほうがいいかもしれません。


 その一方で先週急落に見舞われたのは、トランプ高関税政策の影響を受けにくいとされたゲーム関連株です。


 海外売上比率が高く、円高が業績にとって逆風のゲーム機メーカー、 任天堂(7974) は7.4%安。


 スマホ向けポケモンカードゲーム「ポケポケ」が大ヒット中の ディー・エヌ・エー(2432) が15.2%安となるなど、利益確定売りで急落しました。


 AI関連株の半導体検査装置メーカー、 アドバンテスト(6857) は7.5%安、AIデータセンター向け光ファイバー製造の フジクラ(5803) も4.7%安と振るいませんでした。


 米国株の急落とは対照的に中国株の代表的指標である香港ハンセン株価指数は前週末比5.62%も上昇。


 5日(水)に開幕した全国人民代表大会で、2025年のGDP(国内総生産)成長率の目標を5%前後に設定し、大規模な財政支出期待が膨らんだことが株価の上昇要因でした。


 米国第一主義を掲げて関税や防衛負担で同盟国までをも攻撃するトランプ大統領。その拙速すぎる政策発動で米国株が右往左往する一方、中国では低コストで高性能なAIシステムを開発した「DeepSeek(ディープシーク)」効果もあってハイテク株が急騰しました。


 香港ハンセン株価指数の年初からの上昇率が20%を超えているのは、ある意味、皮肉といえるでしょう。


今週:トランプ関連のテスラや仮想通貨が急落。トランプ大統領が軌道修正するまで乱高下続く!?

 今週は米国の重要物価指標の発表に注目です。


 12日(水)の2月CPIは前年同月比2.9%増、13日(木)の2月PPIは前年同月比3.6%増といずれも1月から伸び率が鈍化する予想です。


 トランプ大統領による高関税政策などで消費者心理が落ち込んでいることもあり、順調な物価低下が確認されれば、急落中の米国株も一息つくかもしれません。


 一方、予想以上に物価上昇率が高く出ると、物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーション懸念で米国株はさらに調整する恐れもあります。


 先週は、7日(金)発表の米国2月雇用統計の非農業部門雇用者数が15.1万人増と予想を下回り、失業率も4.1%に上昇。米国株の一時的な急落につながりました。


 しかし、同日、ニューヨークのイベントで講演した米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が、経済は順調で利下げを急ぐ必要はない、と発言すると急速に反転上昇。


 トランプ大統領がかく乱した株式市場を落ち着かせました。


 今後も順調な経済指標の発表が続けば、米国株が再び反転上昇する可能性もあります。


 ただ、先週の株式市場では電気自動車メーカーの テスラ(TSLA) が前週末比10.0%も下落。同社の創業者であるイーロン・マスク氏は、トランプ政権下の政府効率化省で景気後退の引き金になりかねない政府職員の大量解雇を実行中。


 トランプ大統領就任後にはトランプ関連銘柄の筆頭候補として急騰し、2024年には前年末比62.5%上昇しましたが、2025年に入って35%安と急落しています。


 米国や欧州でトランプ政権に反感を持つ層のテスラ車購入が急減していることや、民間人でありながらトランプ政権に関与するマスク氏の利益相反批判もあり、今後も株価の下落が続きそうです。


 また、6日(木)、トランプ大統領はビットコインなど仮想通貨の戦略備蓄の大統領令に署名しましたが、その内容は新たな購入を含まない期待はずれなものだったため、ビットコインも急落しています。


 7日(金)にはロシア・ウクライナ戦争の停戦交渉であまりにもロシア寄りという批判をかわすためか、停戦実現までロシアに対する経済制裁を強化することを表明したトランプ大統領。


 ここまで過激な関税導入で「トランプ・スランプ」と呼ばれる急落を招いているだけに、株価の回復には政策のトーンダウンや軌道変更を待つ以外ないかもしれません。


(トウシル編集チーム)

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