トランプ大統領の自動車25%関税や配当権利落ちの下落で日本株は軟調。米国株は28日(金)、物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーション懸念が台頭し、大幅下落しました。
米国トランプ大統領が「米国解放の日」と位置付ける4月2日(水)。貿易相手国が関税を課す品目に同等の高関税を課す「相互関税」の詳細が発表されます。
それに先立って先週3月26日(水)には、米国に輸入される全ての自動車やエンジンなどの主要部品に25%の追加関税を課す方針が示され、4月3日(木)から発動される予定です。
これに加え、28日(金)が3月期決算企業の配当権利落ち日だった影響もあり、日経平均株価(225種)は28日に前日比679円(1.8%)も急落。
週間でも前週末比556円(1.5%)安の3万7,120円で先週の取引を終えました。
28日夜の米国市場では、2月の個人消費が予想以下の前月比0.4%の伸びにとどまり、変動の大きい食品・エネルギーを除く個人消費支出のコア価格指数(コアPCEデフレーター)が予想を上回る前月比0.4%増、前年同月比2.8%増と物価の伸びが加速しました。
これを受け、米国では物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーション懸念が台頭。
機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は27日(木)まで前週末比プラスを保っていましたが、28日の急落で前週末比マイナス1.53%の下落になりました。
28日夜間に取引された日経平均先物(期近)も3万7,010円まで下落しています。
米国スタグフレーション懸念で為替レートも1ドル=149円80銭台と、再び150円を割り込む円高が進行。
4月2日(水)に日本もトランプ相互関税の対象になったり、3日の自動車25%関税が予定通り発動されたりすると、外需株を中心に日本株の下落が続く可能性も高いでしょう。
一方、4月2日をきっかけにトランプ関税に振り回された株式市場が悪材料出尽くしでアク抜けし、反転上昇する可能性もないわけではありません。
今週は4月1日(火)のISM(全米供給管理協会)3月製造業景況指数に始まり、4日(金)の3月雇用統計まで、米国で重要な景気・雇用指標が発表されます。
これらの指標が米国の景気後退を示すものだった場合、米国株を中心に株価の下落が加速する「トランプ不況ショック」が株式市場を襲うかもしれません。
週明け31日(月)の日経平均株価の終値は、前週末比1,502円安の3万5,617円と大幅に3日続落しました。
先週:トランプ自動車関税で日米ともに自動車株下落。米国巨大IT株からの資金流出続く!
先週は、トランプ大統領の自動車25%関税の発表が株式市場を揺るがしました。
標的にされた自動車株は トヨタ自動車(7203) が前週末比5.1%安、 マツダ(7261) が8.9%安、 ホンダ(7267) が7.9%安と大幅下落。
輸送用機器セクターは週間の業種別下落率ランキングでもワースト2位になりました。
関税発動で恩恵を受けるはずの米国自動車メーカーもカナダ、メキシコでの生産比率が高いこともあり、 ゼネラル・モーターズ(GM) が6.27%安、 フォード・モーター(F) が2.8%安と下落。
米国の製造業復活を目指すトランプ大統領ですが、急激で拙速な自動車関税は短期的に見て誰も得するものがいない結果に終わりました。
長期的に見ても、トランプ大統領がわざわざ作り出している「人為的な貿易戦争リスク」で、米国をはじめとした世界経済全体が景気後退に陥る恐れが台頭しています。
欧州では米国の巨大IT企業を標的にした報復措置も検討されており、3月に入ってフェイスブックの親会社 メタ・プラットフォームズ(META) が前月末比14%安、AI(人工知能)関連の花形株 エヌビディア(NVDA) が12%安、グーグルの親会社 アルファベット クラスC(GOOG) が9.38%安と米国の巨大IT企業からの資金流出が続いています。
先週は マイクロソフト(MSFT) が米国・欧州のAIデータセンター計画から撤退するという報道が流れ、中国でもデータセンター建設バブルの失速が伝えられました。
これらの報道を受け、エヌビディアに半導体検査装置を販売する アドバンテスト(6857) が13.5%安、AIデータセンターに光ファイバーを供給する フジクラ(5803) が4.5%安となるなど、半導体やデータセンター関連株が下落しました。
また、自動車25%関税や3月決算期末に向けた配当取りによる上昇の反動で、高配当株の多い鉄鋼株、自動車株、銀行株の下落がひどく、割安で大型の高配当株の影響が強いTOPIX(東証株価指数)は配当権利落ち日の28日(金)に前日比2.1%安と2025年に入って2番目の下落率を記録しました。
トランプ大統領の日本への防衛費増額要求を好感して急騰してきた 三菱重工業(7011) も前週末比8.1%下落するなど、防衛関連株にも利益確定の売りが広がりました。
その一方で、物言う株主として知られる米国エリオット・インベスト・マネジメントが株式を大量取得したと報じられた 住友不動産(8830) が9.1%高するなど、不動産株が上昇。
トランプ関税の影響を受けにくいゲーム・コンテンツ関連株も買われ、スマホ向けポケモンカードゲーム「ポケポケ」が好調な ディー・エヌ・エー(2432) が6.7%高しました。
また、有名タレントの不祥事で経営体制に批判が集まっていた フジ・メディア・ホールディングス(4676) が27日(木)に経営陣の全面的な刷新を発表して前週末比8.1%高となったことも目を引きました。
今週:トランプ関税や政府機関リストラで雇用・景気指標が悪化?日本は新年度の資金流入に期待!
米国でトランプ不況突入が不安視される中、今週は4月1日(火)に3月のISM製造業景況指数や2月の雇用動態調査(JOLTS)求人件数、2日(水)に給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング)社の3月民間雇用統計、3日(木)に3月ISM非製造業景況指数、4日(金)には3月の米国雇用統計が発表されます。
トランプ関税の影響を受けやすいISM製造業景況指数の前回2月分(3月3日発表)は予想を下回り、仕入れ価格指数が前月から大幅に上昇しました。
今回3月の結果がさらに悪化すると、いよいよトランプ関税不況が現実味を帯びてきそうです。
トランプ政権下で電気自動車メーカー・ テスラ(TSLA) 創業者のイーロン・マスク氏が指揮する政府効率化省が連邦政府職員の大量リストラを進めていることもあり、4日(金)の3月雇用統計の悪化にも警戒が必要です。
前回2月の非農業部門新規雇用者数は15.1万人増で予想を下回り、失業率は4.1%に悪化しました。
今回3月は雇用者数が13.5万人の増加、失業率は前月と同じ4.1%の予想になっています。
4日には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の民間講演も予定されています。
米国株の急落に対してパウエル議長が再び市場を落ち着かせる発言を行う可能性に期待したいところです。
国内では先週3月26日(水)の国会答弁で、日本銀行の植田和男総裁が食品価格の上昇が続くようなら利上げで対応する可能性に言及しました。
今週4月3日(木)からのトランプ自動車関税の発動で米国の景気後退や日本国内の自動車生産の鈍化が見込まれる中、利上げに積極的な日銀の姿勢は株価の足を引っ張りかねません。
国内の物価高と米国発の関税不況のはざまで日銀は金融政策の難しいかじ取りを強いられそうです。
ただ日本株は4月に入って新年度入りするため、新規の買いが入りやすい時期でもあります。
トランプ関税発動の悪影響をあまり受けない銀行、保険、不動産といった内需株やディフェンシブ株、ゲーム株の健闘で相場が下支えされる可能性もあるでしょう。
今週一番の注目はなんといっても4月2日(水)のトランプ相互関税の詳細発表です。
トランプ大統領としては、まず過激な関税引き上げを打ち出して留飲を下げ、その後は株式市場や世論の反応などを見ながらディール(交渉)でより現実的な落としどころを探すつもりなのかもしれません。
4月2日の相互関税発表で強硬な政策をトーンダウンすれば、悪材料出尽くしで株価が反転上昇する可能性も十分に考えられます。
ただ、他国への高関税発動で「米国を再び偉大な国にする(MAGA)」というトランプ大統領の政策が「信仰」に近いものだとしたら、米国発で世界が同時不況に陥る恐れも高いといえるでしょう。
金(ゴールド)の先物価格は先週も前週末比2.57%上昇して、2024年末からの上昇率は18.3%を超えています。
トランプ大統領が生み出す不確実性が2029年1月の退任まで4年間続くことを考えると、究極の安全資産といわれる金の購入は今からでも遅くないリスク回避の選択肢といえるかもしれません。
(トウシル編集チーム)