日本では毎年4月1日に年度が代わります。昨年に続き、今年もこのタイミングで、世界情勢の全体像を確認します。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 分断と矛盾の世界に放り出された若者たちへ(2025年版) 」
日本を含めて「世界分裂」が深刻化
日本では2025年度がスタートしました。この4月から社会に出たり、学校に入ったりして、生活環境が変わった方も多いと思います。この節目に改めて、わたしたちが暮らす世界情勢を確認します。
図:自由民主主義指数(2024年)

V-Dem研究所(スウェーデン)は、「自由民主主義指数(Liberal democracy index)」を算出・公表しています。この指数は、行政の抑制と均衡、市民の自由の尊重、法の支配、立法府と司法の独立性など、自由や民主主義に関する多数の要素が考慮されています。
上の図は、今年3月に公表された2024年時点の状況です。青が濃ければ濃いほど、その国は自由で民主的な度合いが高く、薄ければ薄いほど、その国は自由で民主的な度合いが低いことを意味します。
率直に言って今、世界は民主主義が行き詰まり、分裂状態にあります。民主主義をよしとする欧米が中心の西側と(日本を含む)、そうでない非西側の間に明確な溝が生じています。人口シェアで言えば、前者が約17%、後者が約77%と、圧倒的に民主的な度合いが低い国が優位です。
図:世界の自由民主主義指数(人口加重平均)

上のグラフは、自由民主主義指数の世界平均の推移です。世界規模の戦争勃発時は低下し、戦争終結後は上昇してきたことがわかります。特に冷戦終結後の1990年代、世界的な民主化の流れが目立った時期には、大きく上昇しました。
しかし2010年ごろ、同指数の上昇は終わり、逆に低下が始まりました。そして冒頭の濃い青と薄い青が混在した図が示したとおり、分裂が深刻化した状態に至りました。「2010年ごろ」、わたしたちが暮らす世界は大きな岐路を迎えていたのです。
分裂拡大と資源出し渋り・高インフレ
2010年ごろに、わたしたちが暮らす世界が大きな岐路を迎えたと書きました。それを示した自由民主主義指数を、別の確度から見てみます。以下の図は、自由度・民主度が比較的低い、同指数が0.4以下の国の数と、自由度・民主度が比較的高い、同指数が0.6以上の国の数の推移です。
図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1944年~2024年)

2010年ごろから、二つの値の間の差が、ワニの口のように広がっていることがわかります。
世界分裂拡大時、自由や民主度を重視する傾向があまり見られない非西側の国々のうち、金属やエネルギー、農産物などを持っている資源国において、資源を武器として利用する動きが目立ち始めました。OPECプラス※の原油の減産や、ロシアなどによる穀物の輸出制限がそれにあたります。
※OPECプラスは、OPEC(石油輸出国機構)に加盟する12カ国と、非加盟の産油国11カ国の合計23カ国で成り立つ、産油国のグループ。そのうち減産に参加する国は合計19か国で、その生産シェアはおよそ46%に上る。(2025年2月現在)
以下は、世界分裂拡大時における、資源を持つ非西側諸国の思惑(イメージ)です。彼らは世界分裂拡大時に(1)自国の食・エネ供給の安定、(2)西側に対する影響力の安定、(3)価格の安定(=高止まり)の、三つの安定を望んでいるふしがあります。出し渋り(資源の武器利用)は、これら三つを同時に達成し得る、大きな意味を持つ施策です。
図:世界分裂拡大時における資源を持つ非西側諸国の思惑(イメージ)

今まさに日本を含め、世界各国でまん延している長期視点の高インフレは、景気回復や需要増加などではなく、2010年ごろから目立ちはじめた世界分裂、そしてそれによる非西側資源国による出し渋りが原因で起きている可能性があります。
縦と横、二つの分断はどこにでも存在
足元の高インフレは、世界分裂を加速させていると考えられます。今まさに日本では、政府の要人が、国民の間でインフレへの不満が強まっていることがきっかけで、財務省解体デモが起きていると説明しています。
先日は、コメの小売価格が高騰している中で、十分な恩恵を享受できていないと、コメの生産に従事する方々がデモを行ったと報じられました。これらのデモ(集団による示威行動)は、文脈こそ違えども、インフレが原因になっていると言えます。
インフレは、社会的立ち位置の分断(権力や資力などにおける格差)という縦の分断の拡大に追い打ちをかけていると考えることができます。そして先述の、民主主義の停滞が主因で発生している考え方の分断(横の分断)拡大が、同時進行しています。
図:縦の分断と横の分断による世界分裂加速

縦の分断に関わるインフレも、横の分断に関わる民主主義の停滞も、世界全体で起きています。このため、世界分裂は加速する一方です。日本だけでなく世界全体で、分裂が加速していると言えます。
以下の図は、世界の民主主義停滞、世界分裂、資源国の出し渋り、さまざまなコモディティ(国際商品)の価格の上昇、高インフレ発生の経緯を示しています。2010年ごろ以降に目立ち始めた、世界を舞台とした潮流です。
図:2010年ごろ以降の世界分裂と高インフレ(長期視点)の背景

きっかけは、新しい技術と考え方の「マイナス面」が目立ち始めたことでした。2010年ごろ以降、しばらくの間、人類が本格的に開発を進めてきた技術(SNSやAIなど)や推進してきた考え方(ESGやDEI)は、確かに社会にプラスの影響をもたらしました。
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は、人々のコミュニケーションを円滑にしました。
しかし、行き過ぎたことでマイナス面が目立ち始めたことも、事実です。上の図のとおり、SNSはデマ・誹謗中傷・感情噴出が横行する場となり、AIは人類から最後の資産と言われる思考を奪い、ESGは資源国を窮地に追い込み、DEIはキャンセルカルチャー(好ましくないと考える人や組織を一方的に批判したり、不買運動を行ったりすること)の温床、という側面が強くなりました。
人類が良かれと思って生み出した技術や考え方が「行き過ぎて」しまい、マイナス面が目立ってしまいました。それにより、世界の民主主義が停滞→世界分裂が目立つ→資源国が出し渋り→資源価格が高騰→長期視点の高インフレ発生、そしてそのインフレが世界分裂に拍車をかけている、と考えられます。
普段、何気なく使用しているSNSやAI、思いを巡らせているESGやDEIについて、その「マイナス面」が実は、わたしたちの生活を脅かしているインフレの一因であることに、留意する必要があります。これらがもたらしたプラス面の功績が、計り知れないくらい大きいことを思い返した上で、今は冷静に、マイナス面にも留意しなければなりません。
長期視点で金(ゴールド)は優れた投資先
良かれと思って行ったことが、マイナスの要素を生んでしまうことを「ジレンマ」と言います。新技術・考え方のマイナス面が生み出す混乱は、筆者が提唱する金(ゴールド)相場における七つのテーマのうち、超長期視点の「見えないジレンマ」に分類できます。
図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年3月時点)

とかく金(ゴールド)は、イメージで語られやすい金融商品です。このため、有事(図中の(1))や、株やドルとの逆相関((2)と(3))のみで、値動きを説明しようとするケースが散見されます。
しかし実際のところ、資産形成に要する期間が数年から数十年におよぶことを考えると、金(ゴールド)相場が以下のとおり、長期視点で株とともに上昇してきたことに、注目しなければなりません。
図:S&P500指数と金(ゴールド)価格の推移

長期視点の「株高・金(ゴールド)高」は、あの2010年ごろ以降、目立ち始めています。社会の複雑化に伴い、金(ゴールド)相場も複雑化したと考えるのが、自然でしょう。(金(ゴールド)相場の動向を、イメージのみで語ることは困難になっている)
その意味では今後も、短期視点では有事のほか株やドルとの逆相関という短中期的なテーマの影響を受けながらも、長期視点では「見えないジレンマ」などの影響を受けながら、株とともに上昇する可能性があります。
「見えないものを」見ようとする意識
新技術・考え方がもたらすジレンマは、目に見えにくい、という性質があります。しかし「見えないジレンマ」はまさに今、世界の民主主義を停滞させたり、世界を分裂させたり、資源国に出し渋りをさせたり、高インフレを維持させたりしていると考えられます。
「見えない物事への意識」を高めていくことは、現代社会を生きるために欠かせないスキルだと言えます。そのヒントになり得るのが、「インテグリティ」です。インテグリティ(integrity)は、誠実さや真摯さを意味する言葉で、多くのビジネス書で取り扱われています。
以下は、著名なビジネス書で示されている、インテグリティが欠如している人の特徴、およびインテグリティを身につけるために必要な資質です。見えない物事のマイナス面が甚大な影響をもたらすなど、日に日に複雑化する現代社会で生きる人すべてにおいて、インテグリティ獲得を意識することは、大変に重要です。
図:誠実、真摯を意味する「インテグリティ」と現代社会を生きる人との関係

とはいえ、目的はインテグリティを獲得することではありません。その先の人生(投資活動を含む)を幸せなものにすることにあります。
取り急ぎ、著名人の発言をうのみにしない、見たい情報だけを見ない、過度に悲観的にならない、という三点を意識するだけで、大きな一歩を踏む出すことができるでしょう。
この三点を意識することは、インテグリティが欠如している人の(3)にある「誰が正しいか」に関心を持つ人にならずにすんだり、インテグリティを身につけるために必要な六つの資質にある(1)現実を認識する、(2)逆境を受け止める、の二つを重視したりすることに、つながります。
今回は、分断と矛盾の世界に放り出された若者へ(2025年版)と題して、書きました。年度が代わった節目に改めて、わたしたちが暮らす世界の情勢を確認し、人生(投資活動を含めて)を幸せなものにしていく意識を高められるとよいと、思います。
[参考]貴金属関連の投資商品例
長期:
・純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)純金積立・スポット購入
・投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)
中期:
・関連ETF(NISA対応) SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:
・商品先物 国内商品先物
海外商品先物
・CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)