2025年3月期決算では、世界景気悪化懸念から厳しいガイダンスの発表が多くなるとみられます。配当性向を基準とする銘柄では、業績悪化見通しともに減配計画なども増えそうです。

配当権利落ち後の高配当利回り銘柄の押し目買いを狙う際には、連続増配を続けているような減配可能性が低い銘柄を選定することが重要となります。


高配当企業ランキング~押し目買いしたい、10年以上連続して増...の画像はこちら >>

米国景気減速やトランプ関税への懸念が継続、半導体関連中心に日経平均は下値模索へ

 3月(2月28日終値~3月31日終値)の日経平均株価(225種)は4.1%の下落となりました。2024年10月以降続いていた3万8,000~4万円レンジを2月末に割り込んだ地合いが月前半は継続し、3月11日には一時3万5,987円まで下落しました。


 その後は盛り返し、26日には一時3万8,220円まで上昇しましたが、月末にかけては再度下げ幅が拡大し、11日の安値を割り込んで取引を終えています。終値ベースでの3万6,000円割れは2024年9月11日以来となっています。この期間(2月28日~3月31日)のダウ工業株30種平均は4.2%の下落となっています。なお、2024年度の日経平均は前年度末比で11.8%の下落となりました。


 月前半は、米トランプ政権の関税政策に対する警戒感に加えて、トランプ米大統領の円安けん制発言などもあって売りが先行しました。さらに、トランプ大統領が米経済は「過渡期」にあると発言し、米国景気の先行き懸念が一段と強まる状況になりました。このタイミングでドル/円相場も一時1ドル=146円台にまで下落し、3月11日の日経平均で一時1,000円超安につながりました。


 その後、円高の一服に加えて、トランプ政権が発動を予定している「相互関税」について、懸念されていたような広範なものではなく、一部の国や地域が除外されるなど焦点を絞ったものになるとの見方が伝わり、過度な警戒感が後退する展開となりました。


 中国政府による消費支出支援策計画との報道、半導体関連株の買い戻しの動きなどもあって、月中旬には3万8,000円台を回復しました。しかし、トランプ政権が自動車関税の実施を正式に表明し、月末にかけてはあらためて売りが優勢となりました。

とりわけ、3月31日には1,500円超の急落となっています。


 2月の米個人消費が市場予想を下回った一方、コアPCE(食料・エネルギー除く個人消費支出)デフレーターは市場予想を上回ったことで、スタグフレーション(景気悪化と物価高の併存)懸念が大きく台頭することになりました。


 この期間の下落率上位は半導体関連銘柄が占め、 KOKUSAI ELECTRIC(6525) 、 ディスコ(6146) 、 アドバンテスト(6857) などが20%超の下落となり、 ルネサスエレクトロニクス(6723) 、 日本マイクロニクス(6871) 、 ソシオネクスト(6526) などもそれらに次ぐ下落率となっています。


 マイクロソフトがデータセンター計画から撤退と伝わったことで、 古河電気工業(5801) などのデータセンター関連も売られました。自動車関税実施が発表されたことで、 日産自動車(7201) 、 日野自動車(7205) などの自動車株も軟調でした。


 半面、ハイテク株安の中で防衛関連株への資金シフトが鮮明化し、 三菱重工業(7011) 、 川崎重工業(7012) 、 IHI(7013) 、 三菱電機(6503) などが大幅高になっています。ドイツが「債務ブレーキ」の国防費への適用を緩和し、財政拡張を可能にする基本法改正案を承認したことが、防衛関連株物色のきっかけになりました。


米関税政策の行方が焦点、月末にかけては新年度のガイダンス悪化に注意

 米トランプ政権は4月2日に「相互関税」の詳細を発表しました。4月3日には自動車関税が発動されます。医薬品や半導体に関する関税も近く発表される見込みとなっています。


「相互関税」の内容次第では、需要シフトが期待される日本企業なども台頭してくる可能性はありますが、すそ野が広い自動車関税が実施されることで、日本株全体にとってのマイナスインパクトは大きくなりそうです。収益への影響が明確化するまで、自動車株には買い手控えムードが強まりそうです。


 ただ、自動車関税は米国メーカーからも反対意見が多く挙がっており、早い段階で緩和されてくる余地もあると考えます。

広範囲な関税実施は米国景気の先行き、インフレにとってもネガティブなものとなるでしょう。


 米国の景気指標では現在、マインドを示す指標の悪化が目立っていますが、関税政策が長引くようであれば、各種ハードデータに波及が鮮明化していく可能性は高いでしょう。米国景気の悪化は、ドル安・円高という日本株安要因にもつながります。


 4月下旬からは2025年3月期の決算発表がスタートします。トランプ関税実施に伴う世界景気の悪化懸念が強まる中、新年度のガイダンスは保守的なものとならざるを得ないでしょう。期待感よりも警戒感が先行することとなり、今回の決算発表は株式市場の下落要因になりやすいと考えます。


 決算発表本格化に向けては、ディフェンシブセクター(関税懸念が残る医薬品は除く)に資金シフトの動きが予想されます。ちなみに、配当性向を配当金のベースとしているような銘柄は、収益の悪化見通しがイコール減配計画につながるため、この点は、高配当利回り銘柄にとっての注意項目の一つとなってきます。


 なお、4月4日には景気敏感株とされる 安川電機(6506) の決算発表が予定されているので、このガイダンス状況は、3月期決算銘柄の先行指標として注目されてきそうです。


 ここ10年程度で見た場合、4月は海外投資家からの資金流入が最も膨らむタイミングとなっています。ただ、今年に限っては、世界景気との連動性が高い日本株に資金が向かう状況ではなく、過度な期待感は高めにくいと考えます。ひとまずは、トランプ関税が緩和されるタイミングなどを見極める局面でしょう。


 東京都区部CPI(消費者物価指数)の上振れなどで、4月30日から5月1日に実施の日本銀行金融政策決定会合における追加利上げ実施観測なども強まりつつあります。ただし、円高に移行した現在の円相場の状況からは、次回は見送りとなる公算が大きいでしょう。


 当面は情報サービスセクターなどの内需株、防衛関連株などが物色対象となる公算ですが、決算発表や株主総会に向けて業界やグループ再編の動きなどは進んでいくとみられます。高配当利回り銘柄に関しては、配当権利落ち後の押し目買いを狙うにしても、減配可能性の低い銘柄に絞ることが肝要です。


連続増配銘柄には新年度決算発表に向けて押し目買い期待

 配当権利落ち(3月末)から新年度の決算発表(4月下旬から5月中旬)までに狙いたい銘柄として、連続増配が続く高配当銘柄が挙げられるでしょう。


 10年以上連続増配が続くような銘柄は、増配にこだわりが強いとみられることで、新年度のガイダンスでも増配が打ち出され、配当水準、ならびに配当利回り水準が切り上がるとの期待が高まりやすいと考えられるためです。配当権利落ち、年度末にかけての株価急落を経て、こうした高配当利回り銘柄には押し目買い妙味が強まっていると考えます。


 連続増配銘柄として、「日経連続増配株指数」構成銘柄に注目します。これは、国内上場銘柄のうち連続増配を続ける銘柄から構成される時価総額ウエート方式の株価指数です。原則として10年以上連続して増配する企業70銘柄(現在は68銘柄)を対象に算出しているようです。


 指数構成銘柄のうち、配当利回りが3.5%以上ある銘柄をスクリーニングしていますが、日経平均が年初来で10%以上下落している中、ディフェンシブ性の強さも意識されるでしょう。


(表)連続増配を続ける高配当利回り銘柄 コード 銘柄名 配当利回り
(%) 3月31日
終値(円) 時価総額
(億円) 連続増配
年数(年) 株価騰落率
(%) 4205 日本ゼオン 4.68 1,495.0 3,218 15 -0.3 8593 三菱HCキャピタル 3.97 1,007.5 14,779 26 -3.3 8424 芙蓉総合リース 3.89 3,859.0 3,506 20 -1.1 4206 アイカ工業 3.70 3,297.0 2,228 16 -0.2 9757 船井総研ホールディングス 3.69 2,302.0 1,151 14 -3.7 注1:連続増配年数は2025年3月期、12月期含む
注2:株価騰落率は年初来
注3:船井総研HDのみ12月決算、その他は3月期決算

銘柄選定の要件

  • 日経連続増配株指数構成銘柄
  • 配当利回りが3.5%以上(3月31日時点)
  • 時価総額が1,000億円以上
  • 厳選・高配当銘柄(5銘柄)

    1 日本ゼオン(4205・東証プライム)

     国内で初めて量産化に成功した合成ゴムを中心とするエラストマー素材事業、高機能プラスチック、光学フィルム、リチウムイオン電池用バインダーなどの高機能材料事業を手掛ける化学メーカーです。


     高機能材料事業の中核をなすCOP(シクロオレフィンポリマー)の拡大に注力中、バイオ医薬品向けや微細化半導体容器向けなどに成長拡大の確度は高いとみているようです。山口県でCOP新プラントの建設を決定、投資金額は約700億円で、2028年度上期の竣工(しゅんこう)を目指しています。


     2025年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は241億円で前年同期比51.2%増となっています。COPや光学フィルムの出荷量増加、合成ゴムの価格改定効果、さらに、光学フィルムの歩留まり良化などが大幅増益の背景となっています。2024年10月より水島工場の1生産系列が不具合によって一時稼働停止となりましたが、こうしたマイナス影響も吸収しています。


     2025年3月期通期では、従来予想の235億円から265億円、前期比29.3%増に上方修正しています。大型テレビの需要持続やモバイル端末の需要回復など、高機能材料事業が主に上振れるようです。為替相場や原料価格の前提なども見直しています。


     2025年3月期は15期連続での増配見通しとなっています。株主還元策を見直してDOE(株主資本配当率)4%以上にすると変更しており、2025年3月期は前期比25円の増配と、増配ペースは足元で加速する状況にもなっています。


     また、2025年3月期から2027年3月期にかけて、自己株式400億円を取得計画ともしています。うち、2025年3月期には200億円の取得を行っています。現在は投資を積極化させる局面にありますが、株主還元も同時に積極化させている点はポジティブに捉えられます。なお、中期計画では、2027年3月期営業利益380億円を目標としています。


    2 三菱HCキャピタル(8593・東証プライム)

     三菱UFJグループでリース業界の最大手企業で、2021年4月に三菱UFJリースと日立キャピタルが統合して発足しました。営業資産残高は2024年12月末時点で10兆8,770億円の水準、海外6割、国内4割の比率のようです。


     リース、割賦・貸付などのカスタマーソリューション事業が主力で、航空事業、不動産事業、ロジスティック事業、環境エネルギー事業など幅広く展開しています。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱商事、日立製作所と、銀行・商社系、メーカー系という異なるバックグラウンドを生かした、強固な顧客基盤・事業基盤を有する点が強みとなっています。


     2025年3月期第3四半期(4-12月期)純利益は870億円で前年同期比8.0%増となっています。海外地域・環境エネルギーセグメントで貸倒関連費用が増加したものの、航空セグメントが好調に推移しているほか、不動産セグメントにおける大口のアセット売却益発生、子会社の決算期変更の影響などが増益要因となっています。


     通期計画は1,350億円、前期比9.0%増の見通しです。第3四半期までの進捗(しんちょく)率は64.5%にとどまりますが、航空・ロジスティクスが期初計画を上振れていること、環境エネルギーでアセット売却に係る大口利益の計上を見込んでいることなどから、通期予想は据え置いています。


     2000年3月期から連続増配を行っており、2025年3月期は26期連続増配の見通しとなっています。会社調べによると、連続増配ランキングでは第3位と位置付けられるようです。2026年3月期までの中期計画期間中は配当性向40%以上を目指すとしています。また、中計期間最終年度の純利益は1,600億円を目標としています。


     2024年9月に公表された「新リース会計基準」では、オペレーティングリース取引の資産計上を求めていますが、同社のセグメント資産残高に占める国内同リースの割合は5%程度であり、マイナスの影響は軽微とみられます。


    3 芙蓉総合リース(8424・東証プライム)

     リース業界大手の一角でみずほ系です。2024年12月末の営業資産残高は2兆9,593億円で、うちリース資産残高は1兆8,898億円となっています。物件別リース契約実行高では、輸送用機器、情報・事務用機器、建物などのセグメントが上位となっています。


     エネルギー・環境、モビリティ物流、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などの領域を成長ドライバーと位置付けています。2025年3月には、九州地域の医療・介護事業者を支援する「地域特化型ヘルスケアファンド」を設立しています。なお、2025年3月末には1:3の株式分割を実施しました。


     2025年3月期第3四半期(4-12月期)経常利益は474億円で前年同期比13.3%減となっています。前年同期に計上した不動産大口売却益の剥落、金利上昇に伴う資金原価の増加、持分法投資利益の減少などが影響しました。ただ、基礎的な収益である差引利益は、モビリティ物流や航空機を中心に伸長しています。


     2025年3月期通期経常利益は660億円で前期比3.4%減の見通しです。進捗率はやや低水準ですが、第4四半期において物件売却益計上に加え、ファイナンス収益の拡大も見込んでおり、通期業績予想は変更していません。減益見通しにもかかわらず、年間配当金は前期比10円増の450円(株式分割考慮後150円)を計画しています。


     2004年の12月に株式を上場し、2005年3月期に初配当を実施、2025年3月期は20期連続増配の見通しとなっています。配当性向の引き上げペースを加速しており、もともと2027年3月期に配当性向30%を目指すとしていましたが、2年間前倒しでその目標を達成見込みとなり、新たに最終年度32%以上を目指すとしています。


     また、毎年3月末100株以上(株式分割考慮後は300株以上)の株主に対して、3,000円相当の「カタログギフト」または「図書カード」を贈呈する株主優待も行っています。保有期間が2年以上となれば、5,000円相当のものとなります。


    4 アイカ工業(4206・東証プライム)

     テーブル天井や家具・ドアの表面材などに使用されるメラミン化粧板では国内で圧倒的なシェアを誇ります。また、市場のパイオニアでもある塗り壁材「ジョリパット」、キッチンパネルとして大ヒットしたメラミン不燃化粧板「セラール」なども手掛けています。


     住宅をはじめとした建築業界のほか、合板・繊維板業界、化粧品業界、自動車業界向けなどに展開しています。グループ会社の新設に加え、M&A(買収や合併)を積極的に行って、成長市場であるアジア圏を中心にネットワークを拡大、海外売上高比率は50%近い水準となっています。


     2025年3月期第3四半期(4-12月期)営業利益は211億円で前年同期比8.7%増となり、過去最高益を更新しています。建装建材セグメントが増益をけん引し、メラミン化粧板や住器建材などの売上が国内向けを中心に好調のようです。


     2025年3月期通期では272億円で前期比7.6%増の見通しを据え置いています。10~12月期決算が市場の想定を上回ったこと、化成品セグメントにおける中国リスクが緩和してきていることなどから、上振れ余地は広がっていると考えられます。年間配当は前期比10円増の122円を計画しています。


     2025年3月期は16期連続での増配見通しとなっていますが、2020年3月期以降は小幅な増配が続いていた中、2025年3月期はすでに2度の配当計画引き上げを行い、増配幅は前期比10円と大きく拡大する状況になっています。


     2019年3月期から2024年3月期までの5年間での増配幅は計9円でありました。また、中期計画期間中のキャッシュアロケーションが初めて示されています。M&Aなどの成長投資枠を従来から積み上げているほか、自己株式取得枠100億円(うち40億円は実施済み)も設定されています。


    5 船井総研HD(9757・東証プライム)

     国内中小企業向けに特化したコンサルティング会社です。経営コンサルティング事業では、月次支援サービスが中心となっていますが、その他にも、プロジェクト、経営研究会会費、経営セミナーなどが収入源です。


     グループ6社のうち4社が経営コンサルティング事業を行い、採用広告運用代行、ロジスティックコンサルを手掛ける企業もあります。2024年12月期にはコンサルタント人材が1,000名を突破しました。中堅・中小企業経営者のための「業種・テーマ別経営者塾」である経営研究会は会員数が7,321名(2023年末)、経営セミナーの2023年参加者数は2万5,000名弱となっています。


     2024年12月期営業利益は83億円で前年同期比14.9%増となっています。主力の医療・介護・福祉分野の月次支援、経営研究会の会費売上、補助金活用コンサルティングや100億企業化コンサルティングなどが大きく業績を伸ばし、増収効果で人的投資やオフィス投資の増加を吸収しました。2025年12月期営業利益は89億円で同6.9%増の見通しです。


     月次支援や経営研究会などの領域で順調な拡大を想定しているほか、重点戦略として掲げている中堅企業コンサルやDXコンサル、M&Aコンサルなどで高い売上成長を見込んでいるもようです。年間配当金は前期比10円増の85円を計画しています。


     2025年12月期は15期連続増配の見通しとなっています。ここ10年間は売上高、営業利益ともに年平均成長率が10%強と成長ペースが加速し、それに伴って足元では増配ペースも早まっています。2025年12月期までの株主還元方針としては、総還元性向60%以上、かつ、配当性向55%以上としていますが、2026年12月期以降も同水準の還元姿勢は継続するとみられます。


     また、12月末100株以上保有の株主に対して、500円分のQUOカードを贈呈する株主還元も行っています。なお、2024年11月には、IPO支援コンサルティングサービスにおける第1号上場企業が誕生しています。


    (佐藤 勝己)

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