先週は、米国トランプ政権の厳しい相互関税発表による世界的な景気後退懸念で、日経平均株価も米国S&P500種指数も前週末比9%安と暴落しました。今週も半導体や医薬品に対する関税が発表される見通しで、報復関税を発表した中国などに対するトランプ大統領の反応次第ではさらに暴落しそうです。
「トランプ関税暴落」はいつ下げ止まるのか
今週は「トランプ関税暴落」がいつ下げ止まるかが焦点になりそうです。
ただ、4月4日(金)夜、米国株の暴落が加速する中、トランプ大統領は「私の(高関税)政策は決して変わらない」とSNSに投稿。
3日(木)から発動された自動車25%関税に続き、今週は半導体と医薬品に対する関税引き上げも発表されそうです。
10日(木)には米国の3月CPI(消費者物価指数)、11日(金)には3月PPI(卸売物価指数)も発表。
トランプ関税の影響で予想以上の物価の伸びになると、米国で物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーション懸念がさらに現実味を帯びそうです。
トランプ大統領は先週4月2日(水)、日本24%、中国34%、EU(欧州連合)20%、全世界一律10%と予想をはるかに上回る厳しい相互関税を発表しました。
これが株価暴落の引き金になりましたが、これだけの関税をかければ米国経済が一番の被害者になり景気後退に陥るのは必至にみえます。
そう考えると、実際に米国で景気後退が起こるまで、長期間にわたって二番底、三番底をつけながら株価が下げ続ける恐れもありそうです。
先週の日経平均株価(225種)は米国の相互関税発動や一時1ドル=144円50銭台まで進んだ円高ドル安で前週末比3,339円(9.0%)安の3万3,780円まで急落しました。
2024年12月27日につけた高値4万0,281円からの下落率は16.1%に達します。
当面の下値メドは、日本銀行の追加利上げで急落した昨年2024年8月5日の安値3万1,156円になりそうです。
一方、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500は前週末比9.08%安。
中国の香港ハンセン指数は前週末比2.46%安と突出してダメージが少なく、ストックス欧州600指数は8.44%安でしたが2024年末からの下落率はいまだ1.6%安と軽微です。
そう考えると、日本株は米国株同様に弱さが際立っています。
4日(金)夜、中国が米国からの全輸入品に34%の報復関税を課すと発表したことで米国株がさらに大きく下落。
報復関税が直撃する製造業の組み入れ比率が高いダウ工業株30種平均は歴代3番目の値幅となる2,231ドルも下落しました。
夜間の日経平均先物(期近)が3万2,220円まで続落していることから、今週前半の日本株はさらに大きく下げそうです。
週明け7日(月)には、日経平均が昨年8月を下回る一時3万1,000円割れ、安値圏をもみ合いながら終値は3万1,136円となりました。
先週:日本株は銀行・半導体株など全面安。円高メリット株は上昇。米国株はアップルが下げ主導!
先週の日本株は4月2日(水)の厳しいトランプ相互関税発表をきっかけに、これまで上昇してきた株ほどたたき売られる暴落相場にありがちな流れが加速しました。
米国景気後退懸念による金利低下で収益が悪化する恐れのある金融株が世界的に暴落。
日本でも 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) が前週末比20.9%安となるなど、銀行株が週間の業種別下落率でもワースト1位になりました。
積極的な株主還元を発表して株価が上昇してきた地方銀行株の多くが週間下落率20%前後も投げ売りされ、保険株、証券株など金融株の大幅な下落が際立ちました。
AI(人工知能)データセンターに光ファイバーを供給する フジクラ(5803) が24.6%安、半導体関連株の主力株 アドバンテスト(6857) が19.3%安となるなどハイテク株も総崩れ。
トランプ大統領による日本の防衛費増額要求を期待して上昇してきた 川崎重工業(7012) が21.0%安となるなど、防衛関連株も急落しました。
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米国投資会社バークシャー・ハサウェイが7年連続となる日本円建て債の発行を検討しているという、日本株にとっていいニュースもありました。
しかし、3日(木)に自社株買い1兆円を発表した 三菱商事(8058) ですら前週末比7.0%安も値下がりしました。
一方、一時1ドル=144円50銭台まで進んだ円高を好感して、 ニトリホールディングス(9843) が7.0%高、「業務スーパー」の 神戸物産(3038) が7.1%高となるなど、円高になると海外から安く商品を輸入できる円高メリット株は上昇しました。
米国では、トランプ相互関税の影響が非常に強い中国や台湾などでiPhoneを生産している アップル(AAPL) が14.0%安。トランプ関税による米国企業最大の犠牲者になりそうです。
同じく台湾で多くの自社製品を委託製造しているAI関連の花形株 エヌビディア(NVDA) も14.0%下落。同社の2024年末からの下落率は30%に達し、AIへの期待感はトランプ関税の嵐の中で風前のともしびとなっています。
先週は米国の重要な景気・雇用指標も発表になりました。
1日(火)発表のISM(全米供給管理協会)の3月製造業景況指数は好不況の境目である50を割り込み、トランプ関税の影響を受ける仕入れ価格は2カ月連続で大幅上昇しています。
3日(木)発表のISM非製造業景況指数も予想以上に低下し、雇用指数は5年ぶりの低水準に。トランプ不況による労働市場の減速懸念が高まりました。
4日(金)発表の3月雇用統計の失業率は4.2%に増加しましたが、非農業部門雇用者数は22.8万人増と予想を大幅に上回りました。
4日の米国株は中国の報復関税発動で大幅続落しましたが、雇用者数がそれほど落ち込まなかったことは朗報です。
トランプ関税発動でも米国の景気減速がそれほど深刻でない場合、いずれ株価は下げ止まるかもしれません。
ただし、米国株急落による富裕層の消費落ち込みや高関税政策による雇用市場の冷え込みは4月以降、本格化する恐れがありそうです。
今週:トランプ暴落はニクソン・ショックと類似?トランプ大統領の方針転換以外、株価下落を止める手だてなし!?
今週もトランプ大統領の関税発言が市場を乱高下させそうです。
先週3日(木)、トランプ大統領は「あらゆる国が(交渉のために)接触してきている」と発言し、驚くべき提示があれば状況次第で税率引き下げもありうると発言しています。
今週、株価のあまりの下落ぶりに焦ったトランプ大統領が相互関税の税率引き下げをほのめかすようなら、株価下げ止まりの兆しも出てきそうです。
ただ、中国やカナダなど先週、米国に対する報復関税を表明した国々に対するトランプ大統領の言動がエスカレートする可能性もあり、まったく不透明です。
半導体にも自動車同様に全世界一律25%の関税がかけられるようだと、エヌビディア(NVDA)や日本の半導体株などがさらに急落する恐れもあります。
米国では、3月19日に利下げ見送りを決めたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録が9日(水)に発表されます。
米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は先週4日(金)の民間講演で、トランプ政権の関税引き上げは想定以上ではあるものの、経済はいまだ良好な状態にあるので利下げを急がない方針を示しています。
トランプ大統領は4日(金)、利下げを急がないFRBに対して「今が利下げの絶好のタイミングだ」とSNSに投稿。
自らの関税政策による景気後退、株価暴落の尻ぬぐいをFRBに行わせたいようです。
今回の暴落は米国大統領の政策転換が巻き起こしているもの。
暴落のタイプとしては、1971年8月に当時の米ニクソン大統領が米ドルと金(ゴールド)の交換比率を固定していた金本位制から変動相場制への移行を発表したことで発生したニクソン・ショックと似ています。
ニクソン・ショックは急速なドル安円高の進行など為替市場に多大な影響を与えましたが、短期的な株価に対する影響は軽微でした。
しかし、その後、1970年代の米国ではオイルショックによるインフレと景気後退が同時進行するスタグフレーションが深刻化。
S&P500は1973年1月につけた高値を1980年7月まで抜けることができず、7年以上続いた長い低迷期に入りました。
トランプ関税ショックで米国の物価高が再燃するようなら、その再来になる可能性もあるでしょう。
トランプ大統領が方針転換するかどうかに株価の命運がかかっているという意味では革命や政変による混乱とも似た、非常に特異な暴落といえます。
ただ、新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)のつみたて投資枠を使ったつみたて投資は、株価が下落すれば、その分、安い価格でたくさん買えるので余裕資金で淡々とつみたてを続けましょう。
10年、20年という長期的な観点から見れば、新NISA開始から2年目という資産形成初期に始まったトランプ暴落はある意味、チャンスといっても過言ではありません。
(トウシル編集チーム)