バークシャーハサウェイの運用資産全体に占める手元現金残高の割合は5割に達している。これはウォーレン・バフェットの運用の歴史の中でも極めて異常な事態と思われる。
個人投資家がバフェットの運用で学ぶべきこと
2008年9月、世界金融危機(リーマンショック)のさなか、ウォーレン・バフェットは自身が率いる投資会社 バークシャー・ハサウェイ(BRK.B) を通じて、 ゴールドマン・サックス(GS) に50億ドルの投資を行った。2013年には保有するワラント(株式引受権)を普通株に転換し、ゴールドマンの大株主に名を連ねることもあった。
当時、バフェットによるこの投資を危ぶむ声もあったが、結果、この投資はバークシャーに巨額の投資収益をもたらした。当時、バークシャーがバランスシートに保有していた現金は312億ドルだった(2008年第2四半期末時点)。
急増するウォーレン・バフェットの現金の山(1992~2023年)

バフェットは2022年第4四半期以降、保有する株式の売却を進め現金残高を積み上げてきた。2024年12月末時点で保有する手元現金(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は3,342億ドルと過去最高を更新し、1年前(2023年12月末時点)に比べてほぼ倍増した。
つまり、バークシャーは現在、世界金融危機が本格化した当時のバランスシートに記載されている流動性準備金の合計を10倍以上も上回る現金を保有していることになる。実際、2008年のようにクラッシュが起きれば、バフェットは大規模に割安な資産を手に入れるのに十分な蓄えを手にしている。
バークシャー・ハサウェイの手元現金残高とNYダウの推移(2004~2024年)

今回のような急落相場において改めて輝きを増すのが「オマハの賢人」と呼ばれるバフェットの存在だろう。個人の投資家がバフェットの運用で学ぶべきなのは、「運用が決して破綻しないビジネスモデル」と「大暴落した時に株を買える現金の温存」である。
バフェットは暴落する前に株を売り、暴落すると株を買うという逆張り投資家だ。これは、なかなかできることではない。
人間の心理に素直に従って投資行動をすると、暴落する前に株を買い、暴落すると株を売らざるを得ないというバフェットと逆の行動になってしまう。大量の現金を保有しているため、市場が総悲観になっている時に買い向かうことができる唯一の投資家がバフェットである。
S&P500CFD VS バークシャーハサウェイB株(日足)

S&P500CFD(日足)

バークシャーハサウェイB株(日足)

バークシャーハサウェイB株(週足)

バークシャーハサウェイB株(月足)

昨年5月に開催されたバークシャーの年次株主総会においてバフェットは、「現金を使いたいのはやまやまだが、リスクがほとんどなく、私たちに大きな利益をもたらしてくれると思わなければ、使うことはないだろう」と述べていた。バークシャーは9四半期連続で株を売り越しており、2024年10-12月期の株式売買動向は67億ドルの売越しだった。
バフェット指標の高すぎる水準を見れば、バフェットが株の利食いに動いたのは当然だろう。今回もバフェット指標は200を大きく超えることはできなかった。
*バフェット指標:バフェット指標(バフェット指数)とは、株価の割安・割高を判断するための指標で、米投資家のウォーレン・バフェット氏が用いているとされています。計算式は株式時価総額 ÷ 名目GDP(国内総生産) × 100
バフェット指標(株式時価総額 ÷ 名目GDP × 100)


バークシャーの株式売買の推移

バークシャーの現金残高の内訳

バフェットは以前、米国債の購入について唯一の問題は、「3カ月物の財務省短期証券で買うか6カ月物で買うかだ」と語っており、将来起こりうる市場の混乱に備え可能な限り短期で運用する方針を示していた。バークシャーは巨額の資金と確実なパフォーマンスで、市場の混乱や発作に即座に対応する手段を完備している。
現在の相場はマージンコールという「理屈ではない相場」である。バフェットは、「トータル・リターン・スワップやこれと似たデリバティブは【金融の大量破壊兵器】であり、今は隠れているものの、潜在的に壊滅的な損失を及ぼす危険をはらんでいる」と2013年から警鐘を鳴らしていた。
過去に自身が株主への手紙で記した言葉、「他人が貪欲なときは恐れ、他人が恐れているときは貪欲になれ」を実践しているということになる。
いつの時代もそうであるように、行き過ぎた株価の戻りは起こるものだ。そのような混乱が起きたとき、バフェットには現金を利用する準備が整っている。
史上最高の投機家と呼ばれたジェシー・リバモアは、「株取引には、楽に金がもうかるといった印象があり、人を魅了するが、愚かで安易な考えから相場に手を出せば、簡単にすべてを失ってしまう。無知の対極にある知識は、大きな力となる。無知を警戒せよ。学習、研究をしっかりおこなうこと。遊び半分ではなく、本腰を入れて取り組まなければならない。相場の動きを漫然と【期待して待つ】のは博打(ばくち)であり、忍耐強く待ち、シグナルを見いだした瞬間【反応する】のが投資・投機である。現金をもたない相場師は、在庫をもたない小売商と同じで、相場師としての命脈は保てない」と語った。
ポール・チューダー・ジョーンズが述べているように、相場を事業として続けていくには「防御」が必要となる。相場は「もうけたい、当てたい、勝ちたい」という欲望のゲームとして始まるが、お金がなくなったらゲームオーバーとなる。
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