米トランプ政権の関税政策に揺れる株式市場。相互関税の上乗せ分を発動延期することが発表され、日経平均は一時的な猶予期間を得たものの、依然として予断を許さない状況です。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米相互関税の「モラトリアム(猶予期間)」で考えるコト ~注意したい、値動きと状況変化のアンバランス~ 」
米関税政策を巡って荒い値動きの株式市場
今週も、米トランプ政権の関税政策を巡る動きが株式市場を大きく揺さぶる展開が続いています。とりわけ、その中心となっているのが、前回レポートのテーマでもあった「相互関税」です。
想定よりも厳しい内容となった相互関税の発表(日本時間4月3日の午前5時)を受けて、すでに下落していた日経平均株価ですが、先週末には、中国が「売られた喧嘩は買う」格好で、米国に対して報復措置を打ち出したことで4日(金)の米国株市場が急落、その流れで週初の7日(月)の日経平均は過去3番目となる下げ幅(2,644円)となりました。
翌8日(火)の取引では、直近の株価急落による下げ過ぎ感もあって、過去4番目の上昇幅(1,876円)となり、続く8日(水)の取引でも、米相互関税の「上乗せ分」が発動されたことで、1,298円を超える下落に転じています。
そして、米トランプ政権が、発動したばかりの上乗せ分の関税に対して、90日間の一時停止が発表されて9日(水)の米国株市場が大きく反発、それを受けた10日(木)の日経平均も過去2番目となる上昇幅(2,894円)を見せています。
このように、今週の日経平均は連日で4ケタの株価変動が続き、株価の上げ下げが極端な荒い値動きが目立っています。
ひとまず米相互関税の「90日間のモラトリアム(猶予期間)」が与えられたことによって、金融市場を覆っていた過度な不安が後退し、ようやく株式市場もホッと一息つくことができそうな状況となっています。
このまま株価の戻りが続くかはまだ微妙?
では、「株価がこのまま本格的に戻り基調を描いていけるのか?」というと、現時点では微妙かもしれません。
<図1>日経平均(日足)の動き(2025年4月10日時点)

上の図1にもあるように、日経平均の日足チャートからは、10日(木)に出現した大きな陽線(終値が始値よりも高い線)によって、弱気相場入りとされる、昨年7月の高値からの20%安のライン(3万3,940円)を回復し、強い買い戻し意欲が感じられるようにも見えます。
ただ、今週の日経平均の動きを分足単位でチェックすると、違った景色が見えてきます。
<図2>日経平均(5分足)の動き(2025年4月7~10日)

上の図2は、今週に入ってからの日経平均の5分足チャートですが、いずれの日も、「取引開始から30分以内にその日の高値(安値)圏まで動いた後は、取引終了まで横ばい」という展開となっていることが確認できます。
つまり、「前晩の米国株市場の動きに反応したものの、取引時間中にトレンドが出なかった」ことを意味しています。そのため、株価の値動きに継続性がなく、まだ相場のムードに流されやすい状況のままであることが推察されます。
長期的な投資スタンスでは、株価水準的に今が買い場と判断しても報われる可能性が高そうですが、現時点で値動きに継続性が出ていないことを踏まえると、数日から数週間で取引を行う「スイングトレード」にとっては、急に状況が変わる可能性がまだ高いため、売買判断が難しい局面かもしれません。
このレポートが掲載される11日(金)は、株価指数mini先物取引およびオプション取引のSQ日ですが、まずは、需給イベント通過後の値動きに方向感が出てくるかが注目されます。
米中関係が重要な焦点に
また、チャートから読み取れる情報だけでなく、相場環境や材料面でも、注意しておきたいポイントがいくつか残されています。
最初のポイントになるのは、「中国の反応」です。
今回、中国に対する相互関税については、90日間の猶予が与えられず、むしろ、104%から125%へと税率が引き上げられてしまっています。
これにより、「対抗措置による対立よりも、交渉による折衝を選んだ方が報われる」という米国からのメッセージが明確になったと言えます。中国側の姿勢が軟化し、交渉へとかじを切れれば良いのですが、外交的には「面子をつぶされた」格好になるため、中国側の「引くに引けない」状況が続き、対立姿勢が強まってしまった場合に警戒しておく必要があります。
注意しておくべきポイントはまだ残っている
次のポイントは、「猶予期間の90日でどこまで交渉が進むか?」です。報道ベースでは、日本や韓国、ベトナムとの交渉準備が進んでいるとされていますが、今後の交渉や合意の進展度合いで相場に与える安心感が異なってくるため、時間との勝負の面があります。
続いてのポイントは、「追加関税はまだ残っている」という点です。相互関税については、全ての国・地域に賦課される10%分が維持されているほか、分野別の関税についても、先日発動された自動車だけでなく、医薬品などに対しても近く発表される可能性があります。
今後の景気や物価、企業業績などに少なからず関税の影響が出てくることが想定されるため、経済指標や、本格化しつつある企業決算などの動向を確認しながら見極めていくことになります。
最大の問題は米トランプ政権の「不確実性」
そして、最後のポイントが「短期間で状況が変わってしまう米トランプ政権の不確実性」です。
今回の米相互関税の90日間延期は株式市場にとってプラスに働いた格好ですが、依然として先行きが読めない状況が続いています。
<図3>米10年債利回り(日足)の動き(2025年4月10日時点)

上の図3は米10年債利回りの日足チャートですが、米相互関税が発表直後の4月4日まで低下傾向をたどり、節目の4%を下回る場面もあったのですが、足元で急上昇している様子が分かります。
当初は関税の影響による景気減速を警戒するリスク回避で安全資産とされる米国債が買われ、10年債利回りが低下していたのですが、米相互関税発表後の株価が想定以上に下落してしまったことで、損失を抱えた投資家が保有している国債を換金売りしたため、利回りが急上昇したと言われています。
債券価格の急落(利回りの急上昇)は、大量の米国債を保有している金融機関に巨額の含み損をもたらすことになり、場合によっては金融システムの混乱につながりかねないため、市場の一部では、足元の金利の急上昇が、米トランプ政権が今回の相互関税の上乗せ分の発動延長を決断した理由の一つとする見方もあるだけに、米国の債券市場の動きにも気を配る必要がありそうです。
また、一般的に、相場は将来の期待や思惑などを織り込みながら推移していきますが、「どこまで先を見据えることができるか?」については、その時々の状況によって異なります。現在は不確実性が強いため、半年後や1年後を織り込むことは難しく、どうしても時間軸が短くなってしまい、目先の材料に過敏に反応する相場展開が多くなりがちと言えます。
これは相場に限らず、企業が企業活動にも当てはまります。先行きが不透明で「動くに動けない」状況が続いてしまうと、企業活動や投資が滞ってしまい、時間の経過に伴って経済が縮小してしまうことも考えられます。
そのため、市場を揺さぶり続けている米トランプ政権の姿勢もそろそろ見直しが必要なタイミングに差し掛かっているのかもしれません。
従って、ひとまず市場に安心感を与えた、米相互関税上乗せ分の発動延期(モラトリアム)ですが、考えなければいけないことや、注意しなければならないことは意外と多く、目先の株式市場は、「不安の温度感」の変化に合わせ、落ち着きの良い株価水準を探っていくことになりそうです。
(土信田 雅之)