5月末に再び上昇基調だった日経平均ですが、週末には不安定な値動きものぞかせています。6月相場入りとなる今週の株式市場は、トランプ米大統領の対中強硬姿勢や、鉄鋼・アルミ製品への関税引き上げ表明などで軟調なスタートが予想されます。

週末には米雇用統計の発表も控えており、株価水準を維持できるかが今週の焦点になりそうです。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 不穏な空気で迎えるも、下値は限定的?~チャートの形と市場ムードのギャップに注意<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


先週の日経平均は上昇も、不安定な値動き

 5月の最終取引日でもあった先週末30日(金)の日経平均株価ですが、3万7,965円で取引を終えました。前週末の終値(3万7,160円)からは805円(2.16%)高となり、週間ベースで上昇に転じたほか、月間ベースでも1,920円(5.32%)高と2,000円近く上昇し、5月の日経平均は株価水準を一段階切り上げる形となりました。


<図1>日経平均(日足)の動き
日経平均、不穏な空気で6月相場入り。株価水準を維持できる?
出所:MARKETSPEEDII

 あらためて先週の状況を振り返ると、軟調な値動きが目立っていた前週から一転し、再び戻り基調をたどる株価推移となりました。


 上の図1は、日経平均の日足チャートですが、株価が75日移動平均線をサポートにして反発し、200日移動平均線を上抜けしたほか、節目の3万8,000円台を回復する場面も見せました。結局、週末の終値では3万8,000円台を維持することはできなかったものの、全体として悪くない展開だったと言えます。


<図2>日経平均(5分足)の動き(2025年5月26日~30日)
日経平均、不穏な空気で6月相場入り。株価水準を維持できる?
出所:MARKETSPEEDII

 しかし、日中の取引時間における値動きを掘り下げてみると、とりわけ週末にかけての3日間は、28日が「一段高で取引を開始したものの、終値にかけて上げ幅が前日終値水準まで縮小する」展開、翌29日は「一段高で始まった後も、じわじわと上値を伸ばす」展開、そして、30日は「一段安でスタートした後に下げ幅を縮小したものの、前日終値には届かない」という展開になっており、株価の方向性に一貫性が見られず、値動きの不安定さものぞかせています。


 こうした値動きは、「3万8,000円台を挟んで売りと買いがせめぎ合っている」状況と見ることもできますが、2024年9月から2025年2月にかけての日経平均は、3万8,000円~4万円のレンジ相場が長く続き、取引量の多い価格帯になるため、「抵抗」として意識されやすくなります。そのため、株価がさらに上値を目指すには、より強力な買い材料が欲しいところです。


不穏な空気で迎える今週は「株価水準の維持」が焦点

 そんな中で6月相場入りとなる今週ですが、やや不穏な空気に包まれる中での取引スタートとなりそうです。


 その背景には、前週と同様に米トランプ政権の動きが影響しています。


 具体的には、トランプ米大統領が自身のSNSにおいて、「中国は米国との合意に完全に違反している」と投稿し、米中対立への懸念が再燃していることや、30日の演説では、海外から輸入する鉄鋼・アルミニウム製品にかける追加関税を今週4日(水)より25%から50%に引き上げると表明したことなどが挙げられます。


 前週も、トランプ米大統領が欧州連合(EU)に対して、6月1日より50%の関税をかけると発言したことが警戒されましたが、結局7月9日まで延期されたことで株高につながった経緯があり、今回も同じようなパターンとなる可能性はあります。


 しかし、「二番煎じ」の材料に対する市場の反応が限定的となってしまうことも考えられ、果たして上値を追えるかは微妙な状況です。仮に、関税が発動されてしまった場合には、少なくとも積極的な買い意欲は削がれてしまうことが予想されます。


 さらに、今週は週末の6日(金)に月初恒例の米雇用統計(5月分)の公表が控えていることや、国内の株価指数先物取引市場で来週末に特別清算指数(メジャーSQ)が控えていることなども踏まえると、やや売りに押されやすい相場地合いが想定されます。


 そのため、今週の株式市場は、「安くなったところでしっかりと買いが入り、株価指数の水準を維持できるか?」が焦点になりそうです。また、足元では新安値よりも新高値を更新する銘柄の方が多く、「個別銘柄の物色が相場を支えることができるか?」についても注目されます。


トレンド的にはTOPIXが優位?

 このように、株式市場を取り巻く環境自体はあまり良好とは言えないものの、意外にも「粘り腰」を見せるかもしれません。そこで、中長期的な日経平均と東証株価指数(TOPIX)の方向性についても確認していきます。


 今回注目するのは、「線形回帰トレンド」で、昨年7月につけた高値以降の値動きを見ていきます。要は、「あれだけの乱高下を経て、現在の株価は結局、上昇と下落のどちらのトレンドにあるのか?」を探る試みです。


<図3>日経平均(日足)の線形回帰トレンド(2025年5月30日時点)
日経平均、不穏な空気で6月相場入り。株価水準を維持できる?
出所:MARKETSPEEDII

 まず、日経平均から見ていくと、7月の高値以降、現在も線形回帰トレンドの傾きはまだ下方向を示しており、下落トレンドが継続中であると言えます。


 ただし、足元の株価は、線形回帰トレンドの「中心線」と「プラス1σ(シグマ)」との間に位置しているほか、200日移動平均線との攻防戦に入っていること、25日移動平均線が「中心線」を上抜けていることなど、ポジティブな様子も読み取れます。


 したがって、まだ弱含みの面も抱えていますが、今後の株価が200日移動平均線や3万8,000円台乗せを定着させることができれば、プラス2σに向けた動きも期待できるという状況です。それに伴って、線形回帰トレンドの傾きも徐々に右肩上がりになっていくと考えられます。


 その一方で、線形回帰トレンドが下向きから上向きに転じているのがTOPIXです。足元の株価もプラス1σを超えてきており、TOPIXの方が日経平均よりも状況は優位であると言えます。


<図4>TOPIX(日足)の線形回帰トレンド(2025年5月30日時点)
日経平均、不穏な空気で6月相場入り。株価水準を維持できる?
出所:MARKETSPEEDII

 また、東京証券取引所が公表している投資部門別売買動向を見ても、4月以降、外国人の買い越し基調が続いているほか、自社株買いによる事業法人の買いも継続中です。


 加えて、長期金利が低下すれば半導体関連株などの成長株が買われ、反対に上昇した場合には金融株が買われるといった傾向や、為替についても、円安となれば輸出関連株が、円高となれば内需関連や中小型株が買われるなど、相場環境が慌ただしく変化しながらも、その動きに合わせて「何だかんだで買われる銘柄がある」状況となっています。


グロース250の値動きについて

 こうした、「買える銘柄」の存在感は、新興株市場の値動きからも感じられます。先週末30日(金)に、東証全体(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場、REIT)で年初来高値を更新したのは205銘柄でしたが、そのうち34銘柄が新興株の集まるグロース市場銘柄でした。


<図5>東証グロース250指数(週足)の動き(2025年5月30日)
日経平均、不穏な空気で6月相場入り。株価水準を維持できる?
出所:MARKETSPEEDII

 実際に、ここ数週間の東証グロース250指数は、急落前の株価水準はもちろんのこと、年初来高値を更新する動きを強めていることが分かります。週足チャートでも足元で、株価の高い順に13週・26週・52週の移動平均線が並ぶ「パーフェクト・オーダー」の状況となっており、上向きの意識が強まっている状況です。


 新興株市場の銘柄は、米国の関税の影響を受けにくい内需関連の銘柄が多く、相場全体が大きく崩れていない中で、物色の選択肢の一つとして選好されやすいことも要因として挙げられます。


 加えて、ここ数年の東証グロース250指数は低迷を続けており、出遅れ感が強かったことも買いに向かわせている可能性があります。


<図6>東証グロース250指数(週足)の動き その2(2025年5月30日)
日経平均、不穏な空気で6月相場入り。株価水準を維持できる?
出所:MARKETSPEEDII

 もっとも、より期間の長い週足チャートで確認すると、足元の株価上昇は過去の株価水準と比べて、「まだまだ」低いところにあり、このまま大きく上昇していけるのかについては若干の不安も感じさせます。


 とはいえ、2020年のコロナ・ショック後の株価反発局面では、国内外のどの株価指数よりも大きく上昇していた時期もありますので、東証グロース250指数が「大化けするかもしれない」可能性があることは、一応念頭に置いておくべきかもしれません。


 ちなみに、東証グロース250指数の算出は2023年11月6日から始まりました。かつては東証マザーズ指数と呼ばれており、算出開始に合わせて指数の連続性が保たれるように銘柄入れ替えが行われました。


 また、現在の算出基準で計算されたデータは、東証マザーズ市場が創設された1999年11月まで遡って提供されており、過去からの指数の動きを連続して見ることが可能です。


「勝負」の6月と7月相場に備える

 先週掲載した こちらのレポート でも述べたように、今週から始まる6月そして7月は、2025年相場にとっての勝負の時期になると思われます。


 その理由のひとつとして、「米国を中心に、この2カ月間に重要なスケジュールが盛りだくさん」となっていることが挙げられますが、最後にざっくりとした予定を確認していきます。


<6月から7月の主な予定>
6月4日 米国が輸入する鉄鋼・アルミニウム製品への関税を50%に引き上げ予定
6月6日 米5月雇用統計
6月11日 米5月消費者物価指数(CPI)
6月13日 メジャーSQ(国内株価指数先物取引の清算日)
6月15日 G7サミット(~17日)
6月16日 日本銀行金融政策決定会合(~17日)
6月17日 米連邦公開市場委員会(FOMC)(~18日)
6月27日 米政府債務の法定上限「特別措置」の期限
7月あたま 米相互関税「上乗せ分」の90日間停止の期限
7月中旬 決算発表が本格化
7月下旬 国内参議院選挙(7月20日が有力?)
7月29日 米FOMC(~30日)
7月30日 日銀金融政策決定会合(~31日)
7月末まで 米「ひとつの大きくて美しい法案(減税法案)」の採決・成立の目標


 上記のスケジュールを見ても分かる通り、米トランプ政権にとっての6月と7月は、関税交渉の進展や減税法案の成立、債務上限問題への対応などの面で「具体的な結果」が求められる重要な時期になります。また、米トランプ政権の関税政策の影響が経済指標や物価、企業業績などで表面化し始める頃でもあります。


 したがって、市場のムードが変化しやすい状況の中、イベントの動向に一喜一憂しながら、「ダラダラと先行きの不透明感が続いてしまうのか?」それとも「中期的なシナリオを構築していくことになるのか?」を見極めていくことが考えられます。


 少し厄介なのは、これまで見てきたように、チャートの形状などからは相場の前向きな様子も確認できるものの、市場を取り巻く環境は不安要素が多く、テクニカル分析の視点と市場のムードにギャップが生じていることです。インパクトのある材料や状況の変化が出てくるまでは、強気にも弱気にもなり切れないモヤモヤ感が続くことになりそうです。


(土信田 雅之)

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