堅調だった米国株市場と比べ、伸び悩んだ先週の日本株ですが、米中関係の改善期待などを背景に、今週は上昇スタートが見込まれそうです。ただし、経済指標から政治、金融政策など、重要なイベントが相次ぐため、このまま株価の上昇基調を続けられる期待と同時に、再び失速してしまう展開の両方を想定する必要があります。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 相場の改善ムードのウラに潜む波乱要因~来週にかけて重要イベントが相次ぐ~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し>


上昇スタートが見込まれる今週の株式市場

 6月相場入りとなった先週末6日(金)の日経平均株価は3万7,741円で取引を終えました。週間ベースでは、前週末終値(3万7,965円)から224円安と下落に転じています。


<図1>日経平均(日足)の動き(2025年6月6日時点)
今週の日経平均、3万8000円の壁は高い?関税交渉、米金利動向に注目
出所:MARKETSPEEDII

 上の図1を見ても分かるように、先週の日経平均は200日と25日の2本の移動平均線に挟まれ、比較的狭い値幅内での推移となりました。


 伸び悩んでいる印象の強い展開でしたが、6日(金)の日本株市場取引終了後の米国株市場では、ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数の主要株価3指数が揃って1%以上の上昇を見せたほか、7日(土)の朝に取引を終えた日経225先物取引のナイトセッションでも、終値が3万8,020円と3万8,000円台を回復することころまで値を上げています。


 そのため、市場環境が大きく変化しない限り、今週の日経平均は上昇スタートが見込まれるわけですが、その後の展開として「このまま上昇基調が続くのか?」、それとも「今回も3万8,000円台の壁に阻まれてしまうのか?」が気になるところです。


米中の閣僚級協議が株高の弾みとなるか?

 まず、上昇基調の継続について考えていきますが、今週の株式市場がさらに上昇していく期待材料のひとつとして、米中関係の改善が挙げられます。


 先ほども述べたように、米中関係の改善は先週末6日(金)の米国株上昇にも大きく寄与しました。もう少し詳しく見ていくと、前日の5日(木)に、米国のトランプ大統領と中国の習近平主席がオンライン上で会談を行い、関税政策をめぐって、閣僚級の協議を早期に行うことや、両国の首脳が互いに訪問し合うことで一致したことが好感されました。


 早速、この会談を受けて、閣僚級の協議が今週9日(月)にロンドンで開催される運びとなり、米国側からは、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、グリア米通商代表部(USTR)代表などが参加する予定となっています。


「それなり」のメンバーが揃って参加するだけに、何かしらの具体的な進展が出てくる可能性が高いと思われるほか、閣僚級協議を前に、中国側が現在実施しているレアアースの輸出規制が緩和されるとの報道なども出てきているため、こうした流れは相場にとってプラスに働くと思われます。


 また、先週2日(月)にラトニック米商務長官が発言した、「近いうちに米国と合意がまとまる見込み」とされているインドなど、中国以外の交渉相手国とのあいだに進展が見られた場合も相場を押し上げる材料となりそうです。


 ちなみに、関税交渉で英国と合意されたのは5月8日でしたので、あれから1カ月が経とうとしていますが、まだ合意に辿り着いた国や地域はありません。いわゆる相互関税の「上乗せ分」の一時停止期間(90日間)の期限が迫ってきていることもあり、そろそろ英国に続くところが出てこないと、相場のムードが悪化してしまうことも考えられます。


米金利に要注意、インフレ指標と金融政策への思惑

 その一方、関税交渉以外で要注意なのが米国の金利動向です。状況によっては相場が下落してしまう展開もありそうなので、チェックしていきます。


<図2>米10年債利回り(日足)(2025年6月6日時点)
今週の日経平均、3万8000円の壁は高い?関税交渉、米金利動向に注目
出所:楽天証券WEBサイト(REFINITIV)

 ここ1~2週間の米10年債利回りですが、比較的落ち着いた展開が続き、特に、米5月ISM非製造業景況指数が公表された4日(水)には、その結果が弱かったことで景況感が後退し、「米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに動きやすくなるのでは」という見方につながって、利回りが50日移動平均線付近の4.3%台まで低下する場面もあったのですが、先週末6日(金)になると、4.5%台へと反転上昇してしまいました。


 ここ2年ぐらいは米10年債利回りが4.5%を超えてくると、株式市場の上値が重たくなる傾向があり、警戒しておく必要があります。


 米国の金利上昇要因としては、(1)関税の影響による物価上昇、(2)景況感の強さと米金融政策、(3)財政悪化による信用力の低下が挙げられますが、先週は(2)の景況感を中心に動く展開となっていました。


 4日(水)公表の米ISM非製造業景況指数の結果が弱かったことは先ほども述べた通りですが、週末6日(金)に公表された米5月雇用統計では、雇用者数の伸びが市場予想を上回るなど、比較的しっかりした結果となりました。


<図3>米雇用統計の主な内容(※印は修正前の数値)
今週の日経平均、3万8000円の壁は高い?関税交渉、米金利動向に注目
出所:各種報道等より作成

 これにより、再び「FRBの利下げ慎重姿勢が続いてしまう」という思惑が働き、利回りが上昇したという見方もあります。


 しかし、今回の米雇用統計は過去2カ月分の非農業部門雇用者数が大きく下方修正されたことなどを踏まえれば、そこまで米国経済の強さを示す内容ではなく、米10年債利回りを4.5%台まで上昇させるほどのインパクトがあったかというと、微妙な感じです。


 実は、今回の米雇用統計が発表されたのと同じ6日(金)に、トランプ米大統領が「次の米FRB議長を早期に指名する」という発言が出てきていて、こちらの方が利回りを上昇させた可能性があります。


 パウエル議長の任期満了は2026年5月ですので、このタイミングでの次期議長の指名はかなり異例の早さであるほか、米大統領によるこうしたFRBへのプレッシャーは、中央銀行の独立性を脅かし、米国の金融市場への不信感を強めて、相場の波乱要因になりかねません。


 実際に、4月の半ばには、トランプ米大統領が「(パウエル議長を)一刻も早く解任すべきだ」と発言しましたが、それを受けた米国市場では、株安・債券安・通貨安の「トリプル安」が起きてしまい、すぐさま発言を撤回させた経緯があります。


 もっとも、「TACO:Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビって退く)」という言葉があるように、足元の株式市場は、トランプ米大統領の過激な発言が出てきたとしても、「どうせ実行できないだろう」と、ある程度の耐性がつき始めています。


 そのため、株式市場が4月のようなトリプル安にならないと考えることもできますが、来週の17日(火)~18日(水)に米連邦公開市場委員会(FOMC)という金融政策イベントを控えていることもあり、様々な思惑が絡みやすく、油断はできません。


 さらに、今週11日(水)に5月分の米消費者物価指数(CPI)、13日(金)には生産者物価指数(PPI)といったインフレ関連の経済指標が発表されます。


 今回のCPIについての市場予想は、前年比で多少の物価上昇が見込まれていますが、予想以上にインフレが加速してしまった場合には、景気の減速と物価の高止まりによる「スタグフレーション」の意識が強まってしまう可能性もあり、今週は米金利の動向を注視する必要があります。


今後も控える注目イベント、当面の日経平均の目安は?

 このほか、今週末13日(金)は、国内株価指数先物取引の特別清算指数(メジャーSQ)日でもあります。需給イベントの面で株価が振れやすい相場地合いとなるほか、日米貿易交渉に関しても、6月15日(日)から17日(火)に開催されるG7サミット(主要7カ国首脳会議)において、日米首脳会談が個別に行われる見込みとなっています。


 日米の関税交渉が進展するかどうかが注目される中、週内に観測記事が出てくれば、相場を動かす材料になりそうです。


 このように、今週の株式市場は、良くも悪くも上下に株価が振れやすい展開が想定されますが、当面の日経平均の値動きの範囲の目安としては、25日移動平均線との乖離率が参考になりそうです。


<図4>日経平均移動平均線乖離率(25日)の推移(2025年6月6日時点)
今週の日経平均、3万8000円の壁は高い?関税交渉、米金利動向に注目
出所:MARKETSPEEDIIデータを元に作成

 先週末6日(金)の乖離率はプラス0.62%と、日経平均が移動平均線よりもちょっと高いところに位置していますが、上の図4を見ても分かるように、日経平均と25日移動平均線との乖離率は、プラスマイナス5%の範囲内で推移する場面が多いことが確認できます。


 この日の25日移動平均線の値は3万7,510円ですので、単純にプラスマイナス5%乖離を計算すると、3万9,385円~3万5,634円が大まかな想定レンジになります。


 なお、図4では乖離率の動きをボリンジャーバンド化したものを描いていますが、足元の乖離率は、中心線(MA)を下回り、マイナス2σ(シグマ)付近に位置しています。中心線の値はプラス4.11%、バンドのマイナス2σの値はマイナス1.25%となっていますので、それぞれの値を計算すると、3万9,051円と3万7,041円になります。


 もちろん、25日移動平均線の値は日々変化していくため、その都度計算し直す必要はありますが、より現実的な値動きとしては、上値はプラス5%乖離の3万9,385円、下値はバンドのマイナス2σの3万7,041円が当面の値動きの目安になりそうです。


 したがって、今週の株式市場は、ムードやチャートの形状など、悪くない環境で迎えながらも、これから重要イベントが相次ぐことになり、株価が上にも下にも動きやすいため、来週にかけては神経質な相場展開が続くことになりそうです。


(土信田 雅之)

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