中東情勢が緊迫化する中、日経平均は先週末に3万8,000円台を回復、2週連続の上昇と堅調な展開になりました。保ち合いの上抜けへの期待感も漂いますが、強気の裏には、懸念材料も控えています。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【テクニカル分析】今週の株式市場 「木」か「森」か?揺れる相場の視点~勝負の2週間を迎える米国市場に注意~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し>
中東リスクを抱えながらも堅調だった先週の日本株
先週末20日(金)の日経平均株価は3万8,403円で取引を終えました。
前週末終値(3万7,834円)比では569円高、週間ベースでも2週連続の上昇となり、中東情勢が緊迫化し、市場が不穏な空気に包まれていた中でも、意外に堅調だった印象です。
こうした先週の日経平均の動きを日足チャートで確認していきます。
<図1>日経平均(日足)とMACDの動き(2025年6月20日時点)

上の図1で先週の値動きを振り返ると、3万8,000円台を回復してスタートした後も上値を伸ばし、18日(水)の取引では、高値引けの3万8,885円まで上昇する場面も見られました。さすがに週末にかけてはやや失速しましたが、株価の戻り基調は保持している格好で週末を迎えています。
また、 前回のレポート では、4月7日の底打ちから勢いよく反発していった株価が5月13日を境に一服し、ここ数週間は3万8,000円台を挟んだ「中段保ち合い」を形成していることについて指摘しましたが、先週はこの保ち合いの上抜けをトライする場面があったことを踏まえると、上方向への意識も継続している印象です。
さらに、移動平均線についても、よほどの急変がない限り、25日移動平均線が200日移動平均線を上抜ける「ゴールデン・クロス」を実現できそうな状況でもあります。
反対に、ネガティブな面として、日経平均の上値が切り上がる一方で、下段のMACDの上値が切り下がる、「逆行現象」っぽい状況が確認できます。しかし、切り上げと切り下げのいずれも角度が立っているわけではないため、現時点では、天井から下落へのトレンド転換のサインとしては「弱い」と判断できそうです。
日本株はこのまま上値を追い続けられるか?
このように、日足チャートから見た日経平均は総じて「強い」ということになりますが、現在の相場環境を見渡すと、中東情勢をはじめ、トランプ関税をめぐる交渉の進捗や、米減税法案「ひとつの大きくて美しい法案」の行方などの不透明な要素が多く、「本当に強気姿勢で良いのか?」とイマイチ自信が持てない面があります。
そのため、実際のところは、チャートの強気と相場環境の不安のギャップで揺れ動くことになると思われ、株価の上下を想定しつつ、レンジ相場の目安を設定しておく必要があります。
<図2>日経平均(日足)の線回帰トレンド その(1)(2025年6月20日時点)

上の図2は日経平均日足チャートに、2024年7月11日の高値を起点とした線形回帰トレンドを描いたものです。
線形回帰トレンドとは、いわゆるトレンドラインの一種ですが、ローソク足の高値や安値どうしの「外側」を結ぶトレンドラインとは異なり、線形回帰トレンドは株価の値動きの中心を通る線を描くため、「内在型」のトレンドラインと呼ばれています。
来週から7月相場を迎えますが、そのタイミングで図を見ると、約1年前の日経平均は最高値を目指していたことを思い出させます。
あれから1年近くが経過した現在の線形回帰トレンドは、5本の線がまだ右肩下がりとなっており、下落トレンドが継続しているほか、株価が戻り高値を付けたところを見ると、いずれもプラス1σ(シグマ)を超えたあたりで上昇がストップしています。
直近では6月18日に戻り高値をつけていますが、今回もその傾向に当てはまってしまう可能性があります。そのため、中長期的にはプラス2σを目指して積極的に上値を追っていくのは、新たな買い材料が出てこない限り難しいと思われます。
では、「短期的にはどうなのか?」については、さらに起点を変えた線形回帰トレンドを描いて考えていきます。
<図3>日経平均(日足)の線回帰トレンド その2(2025年6月20日時点)

上の図3は、先ほどの2024年7月11日を起点としたもの(起点(1))以外に、2024年夏の株価急落後の戻り高値を付けた2024年12月27日と起点にしたもの(起点(2))と、2025年4月の株価急落前の3月26日を起点にしたもの(起点(3))の線形回帰トレンドを描いています。
起点(2)の回帰トレンドは、起点(1)と比較して、より下向きの角度を強めていますが、起点(3)の回帰トレンドは右肩上がりの上昇トレンドとなっていて、株価もFIT(中心線)に沿って上昇している様子が確認できます。
もちろん、それぞれの線形回帰トレンドは今後の値動きで傾きが変化していきますが、それぞれの回帰トレンドの線が交差するところを意識しながら動いていくことになりそうです。
上値については、起点(2)の回帰トレンドのプラス2σの3万9,000円台前半あたり、下値については、起点(1)のFITと起点(3)のマイナス2σが交差する3万7,000円あたりが目安になると思われます。
相場は「木」と「森」のどちらを見るか?
こちらのレポート でも指摘したように、最近の米国株市場では、半導体関連やAI関連、暗号資産関連など、「買える銘柄」の存在が相場を支えていましたが、とりわけ、半導体関連銘柄については、日本株でも当てはまる部分があり、先週は アドバンテスト(6857) や レーザーテック(6920) の株高が日経平均の上昇に貢献しました。
このほか、週末にかけて売りに押される場面があったものの、防衛関連の 三菱重工業(7011) 、 川崎重工業(7012) 、 IHI(7013) や、ゲーム関連の 任天堂(7974) などが買われる動きも見られました。
つまり、日米ともに個別銘柄という「木」への視点が優勢となる中で相場が動いていたと考えられるわけですが、今週の米国市場では、半導体製造企業の マイクロンテクノロジー(MU) が25日(水)に決算を発表します。
<図4>米マイクロンテクノロジー(日足)の動き(2025年6月20日時点)

上の図3はマイクロンテクノロジーの日足チャートですが、これまで抵抗となっていた200日移動平均線が、5月から6月あたまにかけて攻防戦を繰り広げて上抜け、足元で株価の騰勢を強めていた様子が読み取れます。
その一方で、株価と25日移動平均線の乖離が進んでいることや、株価が120ドル台を超えて高値圏に足を踏み入れつつあり、過熱感も出始めている様子もうかがえます。
決算を受けて一段高となるのか、もしくは材料出尽くしで売られるのかが注目され、日本の半導体銘柄にも影響が出てくることが予想されます。また、今週は物流大手の フェデックス(FDX) も決算を発表します。同社株は「経済が活発ならば、カネやヒト、モノの流れも好調なはず」という理屈で、景況感を探る参考銘柄にされることがあります。
今週の米企業決算を通じて、「木」の視点が節目を迎えることになりそうですが、それ以外にも、相場の視点がこうした個別銘柄の「木」から、相場環境の「森」へと移っていく展開にも注意しておく必要があります。
米国は「重要な2週間」を迎える
そこで、相場環境の「森」についても確認していきます。
まず、中東情勢ですが、現在もイスラエルとイランとのあいだで武力の応酬が続いていることが相場ムードの重荷となるほか、米国が軍事的に関与するのかも焦点になっています。
先週19日(木)に、米トランプ政権のレビット報道官から「トランプ米大統領が2週間以内に(軍事行動の)判断をする」と伝わっていますが、2週間後はちょうど米国の独立記念日の7月4日でもあり、トランプ米大統領が決断を下すまでは積極的に動きづらい相場地合いになることが想定されます。
【※追記】
6月22日(日)に米国がイランの3つの核施設を攻撃したと報じられました。どこまでの打撃を与えたのかはまだ不明ですが、被害を受けたイランが交渉に前向きになり、停戦へと動き出していくのが望ましいシナリオではあるものの、今回の米国の軍事参加によって、状況がさらに悪化・長期化してしまう可能性も低くはないため、週初の金融市場は、ひとまずリスクオフが先行する格好でスタートすることになりそうです。
また、2週間後の7月4日は、米国の上院で現在も審議されている、「ひとつの大きくて美しい法案」について、米トランプ政権が可決を目指している目標でもあります。
この「ひとつの大きくて美しい法案」は、「トランプ減税法案」と言い換えられることが多いですが、減税以外にも気になる項目がいくつか盛り込まれています。
そのひとつが、「第899項(セクション899)」と呼ばれるもので、米国にとって不公平な税制や規制を行っている国や地域への対抗措置に関する内容となっています。
この項目を含んだ法案が可決・成立した場合、対象となる国や地域に対し、米国への投資で獲得した利子や配当収入の課税率を引き上げることが可能になり、米国は相手国に対する関税以外の武器を手にすることになります。
反対に、海外からの米国への投資を怯ませる「米国離れ」を加速させかねないため、この項目が含まれたものが可決されるのか、もしくは、修正や削除されるのかが注目されます。
そして、もうひとつが、法案内に政府の債務上限を引き上げる項目が盛り込まれ、米トランプ政権が減税法案と債務上限の引き上げを一緒に実現しようとしていることです。
米政府の債務は5月時点で36.2兆ドルとなっていて、すでに法定上限(36.1兆ドル)を上回っています。米財務省は債務不履行になるのを避けるために特別措置を実施していますが、その期限が6月27日に迫っています。
もちろん、期限を超えた時点ですぐに債務不履行に陥るわけではありませんが、対策が講じられなかった場合、8月に米国の財政資金が枯渇してしまうと予想されています。そのため、なるべく早い段階で上限の引き上げ、もしくは停止を決める必要がありますが、ベッセント米財務長官は米議会に対して、遅くとも7月中旬までの対応を要請しています。
もともと、米トランプ政権の減税政策への評価が「景気刺激効果」と「財政負担懸念」で見方が分かれていますが、法案の審議の進捗によっては債務不履行の警戒も加わることになり、債券市場が売りで反応し、米10年債利回りなどが上昇する展開となった場合には、株式市場が荒れてしまう展開も想定されます。
そのため、ここからの米国は、地政学的にも財政的にも重要な2週間を迎えることになり、市場の行方を大きく左右することになるかもしれません。
(土信田 雅之)