今週の米国株市場は、弱含みから一転して急反発を見せましたが、テクニカル分析の視点では、上値の重さや勢いの鈍化も示唆されています。背景には、トランプ米大統領のFRB(米連邦準備制度理事会)批判と撤回、米中関係緩和への期待感などが複雑に絡み合い、株価材料としての「トランプ」に対する見方に変化が生じた可能性があります。

足元の株価反発の要因を整理し、今後の持続的な株高への見込みと、警戒すべきポイントなどを考察します。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 株価材料「トランプ」に生じたシフトチェンジの芽~目先の展開は変化しそうだが、中長期的には変わらず?~ 」


米国株市場は急反発を見せたが、強さは微妙?

 今週の株式市場は、弱含みの値動きから一転して、週の半ばに戻り基調が強まる場面がありました。とりわけ、米国株市場は米ダウ工業株30種平均が22日(火)の取引で前日比1,016ドル高(2.66%高)、23日(水)も419ドル高(1.07%高)と、2日間合計で1,500ドル近くの上昇幅を見せています。


 同様に、多くの機関投資家が運用指標とする米S&P500種指数は、この2日間で2.51%と1.66%高、ナスダック総合指数も2.71%高と2.50%高と上昇。株価の推移だけで見れば、足元の米国株は株価の反発に力強さが出てきたように感じられますが、実際に日足チャートでチェックしてみると、「上昇の勢いが出てきた」と判断するのは微妙なところです。


<図1>米NYダウ(日足)の動き(2025年4月23日時点)
市場がトランプ政権の抑止力に?米国株急反発の理由と、株高への見込みを探る(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 上の図1は、米NYダウの日足チャートです。23日(水)時点で、「株価が25日移動平均線まで距離を残している」こと、そして、この日のローソク足が「上ヒゲの長い陰線になっている」ことの2点が確認できます。


 この2点をまとめると、「上値を試しに行ったが、節目の25日移動平均線に届かず、逆に、上昇幅を縮小させて、始値よりも安くなって取引を終えた」ことを意味するため、株価自体は上昇しているものの、その勢いがそがれている様子が読み取れます。


 また、S&P500とナスダックについても、それぞれ25日移動平均線が上値の抵抗となっていて、NYダウと共通しています。


 このように、テクニカル分析的に見た足元の米国株の反発力は物足りなさを感じますが、値動きの背景について探っていくと、市場のムードに微妙な変化が芽生えているかもしれません。


株価材料「トランプ」に対する市場の見方に変化?

 今週に見せた米国株反発の要因としては、やはりと言うか、当然と言うべきか、米トランプ政権の動向が大きく影響したと思われます。


 今週の21日(月)に、トランプ米大統領がパウエルFRB議長を名指しで批判し、利下げを要求しただけでなく、解任についても言及したことで、中央銀行の独立性に対する信頼が揺らいでしまい、市場に大きな不安が広がりました。これを受け、この日の米国市場は株安・債券安・通貨安の「トリプル安」という形で反応しました。


 こうした市場の反応を受けたトランプ米大統領が、マズいと思ったのか、その後に「パウエル議長を解任する意図はない」と前言を撤回。さらに、ベッセント米財務長官が、米中の対立について「持続可能でない」と発言し、米中の緊張緩和についても模索していると報じられたことで不安が後退し、株価の反発へとつながった格好です。


 トランプ米大統領は先日も、相互関税の上乗せ分を発動した直後に、90日間の一時停止措置を講じましたが、今回のパウエルFRB議長の解任発言をめぐる騒動も含めて、いずれも米国市場が見せたトリプル安の動きがトランプ米大統領の姿勢や方針を変えさせたともいえます。


 以前掲載したレポート( トランプ関税ショック続く。今週の日経平均、底打ちの可能性は?米国株市場の動向から考える )でも言及しましたが、「トランプ政権の政策修正を催促する売り」がこれに該当します。


 つまり、表面上は「トランプ米大統領が市場を振り回している」ように見えても、実は、「市場の反応が逆にトランプ米大統領を動かした」という面が強まってきていると考えることができます。株価材料「トランプ」に対する相場の捉え方に微妙な「シフトチェンジ」が起きている様子がうかがえます。


 もしそうであるならば、今後の米トランプ政権の動きが波乱や混乱をもたらすような場合、市場が拒否反応を示すことで、方針を修正させるといった具合に、政権の極端な動きへの抑止力として働く可能性があります。


シフトチェンジは継続的な株高につながるか?

 このシフトチェンジによって、少なくとも、米トランプ政権がもたらすかもしれない「最悪のシナリオ」は回避できそうな見通しが濃厚になったと思われます。


 そのため、米主要株価3指数(NYダウ・S&P500・ナスダック)が安値をつけた今月の4月7日が当面の底打ち、もしくは大底と判断して良さそうです。


 その一方で、積極的に上値をトライするほどの株価上昇へとつなげていくのは難しいかもしれません。


 市場が米トランプ政権の動向を監視する機能が強化され過ぎてしまうと、結局は状況がコロコロ変わる「朝令暮改」的な展開が続いてしまい、短期的に荒い値動きが繰り返されてしまうことになります。中長期的なシナリオを描きにくくしてしまうほか、調子に乗った市場が政権に対して過剰な要求を催促するような動きを見せることなども想定しておく必要があります。


 トランプ米大統領が今後もFRBや金融政策に対して口出しする可能性は、依然として残っています。米中関係の緊張緩和観測も、交渉に向けた動きが具体的に進んでいるわけではありません。企業決算の見極めもこれから本格化していくため、現時点で株価を押し上げる具体的な材料がそろっていません。


 したがって、しばらくのあいだ、米国株は水準感を意識しながらの展開がメインシナリオになりそうです。


<図2>米NYダウ(日足)の動き(2025年4月23日時点)
市場がトランプ政権の抑止力に?米国株急反発の理由と、株高への見込みを探る(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 


<図3>S&P500(日足)の動き(2025年4月23日時点)
市場がトランプ政権の抑止力に?米国株急反発の理由と、株高への見込みを探る(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図4>米ナスダック(日足)の動き(2025年4月23日時点)
市場がトランプ政権の抑止力に?米国株急反発の理由と、株高への見込みを探る(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 上の図2から図4は、米主要株価3指数の直近高値から安値までの下げ幅に対する戻りの状況を「フィボナッチ・リトレースメント」でそれぞれの目安を描いたものです。


 23日(水)時点の株価は、3指数ともフィボナッチ・リトレースメントの「50%戻し(半値戻し)」をクリアし、「61.8%戻し」を試しにいったところに位置していますが、図1のところでも説明したように、この61.8%戻しは25日移動平均線が横たわっている株価水準でもあり、クリアすべき「節目」として、強く意識されていると思われます。


 そのため、ここを上抜けられれば、3月下旬の下落前のところまで株価が戻すシナリオが浮上してきてもおかしくなさそうです。反対に下落してしまった場合には、「38.2%戻し」や「23.6%戻し」のところで下げ止まれるかが焦点になります。


 また、株価が上下どちらに向かうかについては、企業決算の動向を見極めながら探っていくことになりそうですが、特に、来週の米国では、メタ・プラットフォームズやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アップルといった、いわゆる「M7(マグニフィセント・セブン)」銘柄の一角が決算を発表します。


 いずれも株価指数への寄与度(影響度)が高く、個別の業績内容はもちろん、相場全体の方向感にも影響を与えそうです。ちなみに、指数寄与度と言えば、NYダウへの寄与度が高いビザやマクドナルドなども、来週に決算が予定されています。


 景況感と言えば、今週IMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを公表し、各国・各地域における2025年のGDP(国内総生産)成長率見通しが示されましたが、そのほとんどで前回(2025年1月公表分)の見通しよりも下方修正されています。


<図5>IMF「世界経済見通し」 2025年の経済成長率予測(2025年4月22日公表)
市場がトランプ政権の抑止力に?米国株急反発の理由と、株高への見込みを探る(土信田雅之)
出所:IMF(国際通貨基金)

 従って、足元の相場環境は、「トランプ」という株価材料に対する視点のシフトチェンジによって、大崩れする可能性は大きく後退したものの、継続的に株価水準を切り上げて行けるかについては、「企業業績や実体経済の動向を見極めながら」という本質的な部分はしばらく維持されることになりそうです。


(土信田 雅之)

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