2025年3月期の決算発表が本格化していますが、業績予想には米関税政策の影響を反映しにくく、今後の下振れリスクなどは拭いきれないでしょう。一方、業績予想と比較して配当計画の下方修正は会社側も避けたい意向が強いとみられ、決算発表を通過した高配当利回り銘柄などには、押し目買い妙味が強まりつつあると考えられます。


アステラス製薬、LIXIL…26年3月期:予想配当利回り5%...の画像はこちら >>

関税政策を中心としたトランプ大統領の発言や政策に振り回される展開へ

 4月(3月31日終値~5月2日終値)の日経平均株価(225種)は3.4%の上昇となりました。3月末にかけての下落基調が月初めには一段と強まり、4月7日には一時3万0,792円まで下落しました。これは2023年10月以来の安値水準となります。


 ただ、その後は一転してリバウンドの動きを強める展開となり、4月7日安値から5月2日までの上昇率は19.6%となっています。ちなみに、4月10日の上昇幅2,894円は歴代で2位、4月8日の上昇幅1,876円は歴代で5位の水準となります。なお、この期間(3月31日~5月2日)のダウ工業株30種平均(NYダウ)は1.6%の下落となっています。


 引き続き、トランプ政権の関税政策に振り回される展開となりました。4月2日には相互関税の詳細が発表され、日本の関税率は24%と想定以上に厳しいものとなりました。他国も同様に高い関税率が課せられ、世界経済の悪化につながるとの見方につながりました。さらに、中国が報復関税を表明したことで、米中貿易戦争への懸念も強まりました。


 ただ、その後は、「中国以外の貿易相手国に対する相互関税の上乗せ部分を90日間停止する」と発表があったほか、「相互関税ではスマホやPCなど電子機器は適用除外」「自動車関税の一部見直し検討」なども報じられ、関税政策が緩和方向に向かうとの期待が高まっていきました。4月後半にかけては、米中貿易摩擦の緩和期待なども高まる状況となってきています。


 なお、トランプ大統領がFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長の解任を検討、と一部伝わって、中央銀行の独立性に対する懸念が強まる局面もありましたが、その後には、解任意向に関して否定的な発言をしています。


 この期間の上昇率上位銘柄には、情報・通信やゲーム、ドラッグストア、小売の一角など、為替や関税の影響を受けにくいとみられる銘柄が並んでいます。


  パルグループホールディングス(2726) 、 神戸物産(3038) 、 エイチ・アイ・エス(9603) などは円高メリット銘柄として上昇しました。 SHIFT(3697) 、 ベイカレント(6532) 、 JMDC(4483) など中小型グロースの代表銘柄が強い動きを見せていました。


  任天堂(7974) は「Nintendo Switch 2」への期待で買われ、 コーエーテクモホールディングス(3635) 、 スクウェア・エニックスホールディングス(9684) 、 コナミグループ(9766) などのゲーム株も上昇しています。


 また、 豊田自動織機(6201) は株式非公開化検討報道を受けて急伸し、 住友ファーマ(4506) は想定以上の上方修正がサプライズとなりました。


 半面、米関税政策の影響を警戒して、日本銀行の追加利上げ期待が大きく後退し、 楽天銀行(5838) 、 みずほフィナンシャルグループ(8411) 、 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) など銀行株が売られました。


 また、米中貿易戦争の激化が懸念された局面においては、 安川電機(6506) 、 資生堂(4911) 、 村田製作所(6981) など中国動向の影響を受けやすい銘柄が下落しています。


米関税政策は先送りの傾向が強まる方向、引き続き関税影響が乏しいセクターを選好へ

 4月初旬の段階と比べると、トランプ政権の関税政策はかなり緩和の方向に向かっている印象があります。当面は短期的なネガティブサプライズも起こりにくいと考えられるでしょう。


 一方、日経平均は3月末急落前の水準にまで回復しつつあります。ここからの一段の株価上昇には、トランプ関税の緩和に向けた大きな前進が必要とされてきそうです。とりわけ、日本にとっては、自動車・自動車部品関税の緩和が明確になることが必要でしょう(この点ではメキシコ関税の行方も同様に注目ポイント)。


 また、米中貿易戦争の緩和も不可欠となります。

ここが緩和されてくるようならば、さらなる対中半導体輸出規制などへの懸念の後退も期待できそうです。


 ただ、明確な米国への好影響が現れない限り、関税政策は緩和されるよりも結論が先延ばしとなる可能性の方が高いとみられます。また、米国株の反発力が強くなるほど、トランプ大統領が強硬策を打ち出しやすくもなってきそうです。


 当面は、引き続き関税政策に影響の乏しいセクターや銘柄が有力な選好対象となりそうです。関税の影響を受けるセクターに関しては、たとえ状況が一段と悪化しなくても、発動が先送りされている間は、生産体制や設備投資などの意思決定が遅れて、その分、業績の拡大テンポが遅くなってしまうためです。


 また、輸出企業やインバウンド関連企業にとっては、為替の円高ももちろん逆風となります。米国にとっては円高進行が望まれる状況であることからも、ドル/円相場が再度1ドル=140円割れを目指す動きになっていく可能性は残るでしょう。


 ちなみに、円高が進む場合は、日本銀行の金融正常化が大きく遅れることにもつながります。セクターとしては、消去法的に情報・通信、建設、不動産、電力・ガスなどに買い安心感が強いと考えられます。


 現在、2025年3月期の決算発表が本格化しています。懸念された業績予想の未公表銘柄は多くなっていませんが、企業ごとに関税の影響の織り込み具合が違っており、決算を受けての銘柄選別がしづらい状況でもあります。


 ただ、業績と比べて配当予想は下方修正しにくいことを考えれば、決算を発表した高配当利回り銘柄などは、押し目買いチャンスと捉えるべき銘柄も多くなってきそうです。


 決算発表以外のイベントでは、相互関税発表後の米国の4月の経済指標などに注目度が高まりそうですが、それ以上に関税政策の行方を見極めたいとする動きが強いように感じられます。


 そのほかに日本株で言えば、6月の株主総会を控えてアクティビストファンド(企業の経営や施策改善に関して意欲的に助言する投資ファンド)の株主提案などが増えてきそうです。また、それにも絡んで、業界やグループ再編の動きなども進んでいく余地がありそうです。


業績と比較して配当の下方修正リスクは乏しく、配当計画発表の高利回り銘柄には安心感

 注目される2026年3月期の業績見通しですが、米国の関税政策の影響などは完全には反映されていないケースも多く、今後の下振れ要因につながるリスクは残されています。


 ただ、業績数値とは異なり、配当金に関しては、会社側の減配アナウンスを避けたい意識が強いことからも、相対的に下方修正する公算は小さいと考えられます。すでに、2026年3月期の業績見通し、配当計画を発表し、高配当利回りの水準となっている銘柄などには、利回り妙味が意識されます。


 すでに2025年3月期の決算を発表し、2026年3月期の予想配当金をベースとした配当利回りが高い銘柄をスクリーニングしています。関税の影響を強く反映していない銘柄もありますが、年初からの株価パフォーマンスが低い銘柄などは、こうしたマイナス影響が強く反映されているとの見方もできます。


 少なくとも配当計画は発表しているので、当面の減配リスクは乏しく、高い利回り水準を評価しておきたいと考えられます。


(表)決算発表を通過した高配当利回りの出遅れ銘柄 コード 銘柄名 配当利回り
(%) 5月2日
終値(円) 時価総額
(億円) 営業増益率
(%) 株価騰落率
(%) 7278 エクセディ 5.83 4,290.0 2,084 ▲13.0 ▲2.50 5938 LIXIL 5.50 1,636.0 4,700 1.1 ▲5.19 4503 アステラス製薬 5.35 1,458.0 26,384 4.5 ▲4.99 6473 ジェイテクト 5.31 1,129.0 3,597 30.0 ▲4.28 4205 日本ゼオン 5.15 1,398.5 3,010 ▲4.5 ▲6.70 注1:営業増益率は2026年3月期予想
注2:株価騰落率は年初来
注3:アステラス製薬の営業増益率はコア営業利益

銘柄選定の要件

  • 5月2日時点で2025年3月期決算発表済み
  • 配当利回りが5.0%以上(5月2日時点)
  • 時価総額が1,000億円以上
  • 3月期本決算
  • 5月2日時点で年初来の株価騰落率がマイナス
  • 厳選・高配当銘柄(5銘柄)

    1 エクセディ(7278・東証プライム)

     マニュアルクラッチやトルクコンバータ(自動変速装置用製品)などを主力とする自動車部品メーカーです。クラッチ、トルクコンバータともに世界シェアは20%超の水準と推定されています。


     25カ国に工場や営業拠点を有し、世界100カ国以上でビジネスを展開しています。エンジンの回転変動を減衰し、エンジントルクを伝達する装置であるHEV(ハイブリッド車)用ダンパーを拡販中です。


     また、BEV用駆動ユニット、ドローン用推力システム、BEV用ワイドレンジドライブシステムをはじめとした新製品の売上高比率を、2030年度に30%まで高めることを目標にしています。


     2025年3月期営業利益は218億円となり、前期154億円の赤字から急回復となっています。2024年3月期はAT(自動変速装置関連)事業において、322億円の減損損失を計上しており、この減少が収益改善の主因となっています。そのほか、為替の円安効果、減価償却費の減少なども増益要因につながっています。


     一方、2026年3月期は190億円で同13.0%減を見込んでいます。電動化の進展に伴うAT事業における受注の減少、為替相場の円高反転などが重しになると見込んでいます。米国の関税政策による影響は業績予想に反映しておらず、下振れ要因となる可能性は残ります。なお、2026年3月期米国向け売上構成比は16.7%水準を想定しています。


     2025年3月期年間配当金は前期比130円増の250円、2026年3月期も同横ばいの250円を計画しています。配当政策としては、年間200円以上とし、DOE(株主資本配当率)は4%を目指すとしています。


     また、9月末時点で1年以上継続保有している100株以上の株主に対して、3,000円相当のWEBカタログギフトを贈呈する株主優待も実施しています。5月2日終値をベースにした配当+優待のトータル利回りは6.5%の水準となります。


    2 LIXIL(5938・東証プライム)

     2011年にトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して誕生した国内最大手の住宅設備機器メーカーです。


     トイレ、洗面化粧台、浴室、キッチンなどのウォーターテクノロジー事業(LWT)、窓や玄関ドア、エクステリア製品、インテリア建材などのハウジングテクノロジー事業(LHT)を展開します。

    世界150カ国以上で事業展開、ショールーム数は116拠点(2023年3月末現在)に上ります。GROHE、American Standardといった世界的ブランドも傘下に収めています。


     2025年3月期事業利益は313億円で前期比35.3%増となっています。欧州や中東における売上改善ならびに構造改革効果によって、海外事業が収益増をけん引しました。国内事業も原材料・資材費上昇を価格改定効果などで下支えしています。2026年3月期は350億円で同11.7%増の見通しです。


     中東・インドが堅調な需要に支えられ伸長の見通しで、国内ではリフォーム向け販売の加速化を見込んでいます。米国政権の関税政策の影響は現時点でニュートラルと想定、米国向け売上高は2026年3月期で11%強と推定されますが、中心となる衛生陶器などは現状課税対象から除外されています。


     2025年3月期年間配当金は前期比横ばいの90円で、2026年3月期も同水準を計画しています。税負担が大きいため、予想配当性向は323.2%の水準です。


     会社側では株主還元策として、中期的なEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)の水準に基づき年間配当額を決定し、自己株式の取得は余剰資金の有無により機動的に検討としています。構造改革効果による収益水準の上昇に伴い、今後は緩やかな配当金の増加も期待できるでしょう。

    なお、海外構造改革に関しては2025年3月期でおおむね終了のようです。


    3 アステラス製薬(4503・東証プライム)

     2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生した国内第2位の医薬品メーカーです。前立腺がん治療剤「イクスタンジ」を筆頭に、泌尿器疾患、移植、がん領域で豊富な実績を有しています。


     開発初期から優先的に経営資源を投入する分野を特定し、それぞれで複数のプロジェクトを展開していく戦略を採っており、現在は「遺伝子治療」「がん免疫」「再生と視力の維持・回復」「標的タンパク質分解誘導」「細胞医療」などが注力分野となっているようです。2024年3月期の売上収益に占める研究開発費比率は18.3%で、業界平均を大きく上回っています。


     2025年3月期コア営業利益は3,924億円で前期比41.7%増となっています。イクスタンジの売上高が全ての地域で拡大したほか、重点戦略製品とする5製品(PADCEV、IZERVAY、VEOZAH、VYLOY、XOSPATA)の売上高もトータルで2倍以上に拡大しています。


     また、外注費の削減やオペレーションの効率化など販管費比率も低下しています。2026年3月期コア営業利益は4,100億円で同4.5%増の見通しです。イクスタンジの売上高は伸び悩む見込みですが、重点戦略製品は4割増と引き続き強い成長を見込んでいます。


     なお、為替レートは1ドル=140円を想定し、前期比12円の円高を前提としています(1円の円高で約17億円の利益マイナス要因)。


     2025年3月期年間配当金は前期比4円増の74円、2026年3月期も同4円増となる78円を計画しています。会社側では、配当水準の段階的な引き上げ、余剰資金が生じた際の機動的な自己株式取得の実施をうたっています。


     2026年3月期中には、標的タンパク質分解誘導、がん免疫、遺伝子治療、再生と視力の維持・回復などの分野の製品において、POC(コンセプト検証)の結果が明らかになり、それぞれ注目イベントとなってきます。なお、2026年3月期業績見通しには、一定程度の関税の影響を織り込んだとしています。


    4 ジェイテクト(6473・東証プライム)

     ベアリングの製造・販売を行っていた光洋精工と、トヨタ自動車の工作機械部門が独立した豊田工機が2006年に合併し発足しました。ベアリング、工作機械に加えて、クルマの曲がる機能を担うステアリングシステム、走る機能を担う駆動部品など、自動車関連事業が現在の主力となっています。


     2025年3月期のトヨタグループ向け売上比率は39.0%を占めます。リチウムイオン電池などの蓄電デバイス、ロボット向け歯車、パワーアシストスーツなど、新規事業への取り組みにも注力しています。


     2025年3月期事業利益は649億円で前期比10.9%減となりました。欧州や中国において大幅減収となるなど、販売数量の伸び悩みが響きました。また、北米での生産性に起因するロスコストや固定費増なども減益要因となっています。欧州構造改革費用によって純利益の減益幅は大きくなっています。2026年3月期は600億円で同7.6%減の見通しです。


     厳しい事業環境の継続に加えて、欧州ニードルローラーベアリング事業の譲渡によって売上高は減少しますが、同事業の赤字が縮小することで減益率は縮小の見通しです。


     2025年3月期年間配当金は前期比14円増の50円、2026年3月期は同10円増の60円としています。2027年3月期までの中期計画では、株主還元策としてDOE2~3%を目安とした安定配当を実施、機動的な自己株式取得を行うとしています。


     また、同期間の中では、上場している政策保有株式のゼロ化も目指しています。2025年3月期北米向け売上構成比は25%程度を占めています。メキシコ・カナダからの輸入品に25%の関税が実施された場合、年間50~60億円程度のコスト影響があるもようで、中国からの輸入品に関してはここまで減少してきていることから、大きな影響はないようです。


    5 日本ゼオン(4205・東証プライム)

     国内で初めて量産化に成功した合成ゴムを中心とするエラストマー素材事業、高機能プラスチック・光学フィルム・リチウムイオン電池用バインダーなどの高機能材料事業を手掛ける化学メーカーです。高機能材料事業の中核をなすCOP(シクロオレフィンポリマー)の拡大に注力中、バイオ薬向けや微細化半導体容器向けなどに成長拡大の確度は高いとみているようです。


     山口県でCOP新プラントの建設を決定、投資金額は約700億円で、2028年度上期の竣工(しゅんこう)を目指しています。また、COPを原料とする大画面液晶テレビ用位相差フィルムの新ライン増設も決定しました。


     2025年3月期営業利益は293億円で前期比43.0%増となっています。高機能樹脂が堅調に推移したほか、エラストマー素材も原料価格高騰分の販売価格改定および為替の円安進行が寄与しました。2026年3月期は280億円で同4.5%減の見通しとしています。為替の円高反転による海外売上高の減少を見込むほか、原料価格下落による販売価格の低下も想定しているようです。


     なお、ドル/円は前期の152.8円から140円までの円高を見込み、対ユーロでの円高と合わせて、45億円のマイナス要因となるようです。


     2025年3月期年間配当金は前期比25円増の70円で、15期連続での増配となっていますが、配当政策を見直しDOE4%以上に変更していることから、増配ペースは加速する状況になっています。2026年3月期は72円を計画しています。


     また、2025年3月期の自己株式200億円取得に続き、2026年3月期は100億円の自社株買いを決定、2027年3月期も100億円を取得計画としています。現在は投資を積極化させる局面にありますが、株主還元も同時に積極化させている点はポジティブに捉えられます。また、6月11日には中期経営計画第3フェーズを発表予定としています。


     なお、関税の直接的な影響としては、相互関税がかかる前提で最大でも10%弱の利益押し下げ要因にとどまるとみています。


    (佐藤 勝己)

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