トヨタ自動車の2025年3月期決算と2026年3月期の業績予想が5月8日に発表されました。アメリカの関税という逆風の中、トヨタはどう戦っていくのでしょうか?決算のポイントを分かりやすく解説します。


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写真:会社提供


関税ダメージは「2カ月で-1800億円」

  トヨタ自動車 の2025年3月期の売上高(営業収益)は前年度比6.5%増の48兆円。過去最高を記録しました。



 営業利益は前年度比10.4%減の4.8兆円です。前年度の5兆3500億円には届きませんでしたが、価格改定やインセンティブの抑制といった営業面の努力や原価改善の効果もあり高水準を維持しました。


  • 営業利益のプラス要因:
    • 為替影響: +5350億円
    • 原価低減: +1500億円
    • 営業努力: +3600億円
  • 営業利益のマイナス要因:
    • 市場環境の悪化: -3529億円
    • 成長投資: -7000億円

 次は、今期(26年3月期)の業績予想を見てみましょう。


項目


25年3月期


26年3月期予想


増減


営業利益


4.8兆円


3.8兆円


-1兆円


純利益


4兆円


3.1兆円


-9000億円


年間配当


90円


95円


+5 円


為替レート


(米ドル円)


153円


145円


8円の円高


 営業利益の予想は、事前の市場予想平均(コンセンサス)よりも低く、前期比でマイナス1兆円の3.8兆円でした。


 トヨタは大規模な成長投資が利益の下押し要因になっていることに加えて、アメリカによる追加関税という大きなリスクに直面しています。


 日本の場合、これまでは米国に輸出される乗用車には2.5%、トラックには最大25%の関税がかかっていましたが、トランプ政権は25%の追加関税を課す措置を5月3日に発動しました。


 石破総理大臣はアメリカに「見直しを求める」と発言しましたが、先行きは不透明です。


 トヨタは4~5月の2カ月分だけで2026年3月期の営業利益が関税影響で1800億円減るという見通しを示しました。しかし、それ以降の関税影響は業績予想に織り込んでいません。4~5月分の関税影響を単純に通期に換算すれば1兆円以上の減益要因になります。


「控えめな予想」の修正に期待

 関税のネガティブ要因がある一方、トヨタは年間配当を2025年3月期の90円から2026年3月期には95円にするという投資家にとってポジティブな材料を発表しています。


 5月8日にプラスとマイナス、両方の材料が出た中、トヨタ自動車の株価はどうなったのでしょうか。



 決算発表日のトヨタ株の初値は2670円でしたが、翌5月9日は3%高い2750円でスタートしています。


 業績予想が市場の期待を下回ったのにも関わらず、株価が上がったのはなぜでしょうか。


 長年トヨタをウォッチしてきた楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは次のように指摘します。


トヨタは保守的な業績予想を出す傾向があります。


コンセンサスよりも低い予想を出して、それから上方修正していくのがこれまでのトヨタのやり方です。


 今年の2月5日にも、トヨタは2025年3月期の営業利益の予想を1兆円近く引き上げて4兆5200億円にしています。決算での着地はそれを上回る4兆8000億円でした。


 今回も同じような展開が繰り返されるのでしょうか。


想定為替レートに見る「変化」

 保守的な業績予想を出すことの多いトヨタですが、「これまでとは違う面もある」と窪田チーフ・ストラテジストは指摘します。


 その1つはトヨタの業績を大きく左右する「為替レート(ドル円レート)」です。1円の円安ドル高はトヨタの営業利益に500億円程度のプラス効果があると言われています。2025年3月期には為替要因がトヨタの営業利益を5350億円も押し上げています。


 過去の決算では、トヨタ自動車が発表時点の為替レートよりも大幅に円高ドル安な想定為替レートの見通しを示し、それが原因で実際の利益が予想を上回ることが度々ありました。


 例えば、2025年3月期の業績予想を発表した2024年5月時点の為替レートは1ドル=155円前後でしたが、1ドル=145円という為替レート予想を出しています。


 しかし、足元のドル円レートは、年初の157円からは大幅な円高ドル安の1ドル=145円台です。さらに2026年3月期の想定為替レートは足元の水準に近い1ドル=145円です。そう考えると、前回ほどは「円安による上方修正」は起きにくいかもしれません。


販売台数目標が強気な理由

 5月8日に開かれた決算説明会でメディア各社からの質問が多かったのは、トヨタが打ち出した販売台数の見通しについてです。


 足元ではアメリカの追加関税によって日本車メーカーが値上げを余儀なくされ、米国の消費者による買い控えが起きるというシナリオが心配されています。


 そのような状況の中、トヨタは販売台数(連結)を2025年3月期の936万台から2026年3月期には4.7%増の980万台にするという見通しを掲げています。さらに日本国内での生産が不利になるのにもかかわらず国内での生産台数を11.4万台増の335万台に伸ばす計画です。



 関税影響が懸念される中、これまで保守的な予想を示してきたトヨタが、強気に見える販売台数予想を出した理由はどこにあるのでしょうか。楽天証券の窪田氏はこう説明します。


トヨタとしては相当頑張ってストレッチした計画だと思います。


トランプ関税の前提が分からない中では、「業績予想をあえて出さない」という選択肢もあるでしょう。


それでも、トヨタが業績予想を出してきたのは、部品会社、鉄鋼会社から化学メーカーまでさまざまな製造業の企業がトヨタの業績をベースに計画を立てる中、業績予想を出す責任を感じているからだと思います。


加えて、関税ショックによって起きているパニックを「食い止めたい」という意図もあり、しっかりした予想を出したのではと考えています。


 トヨタ自動車の佐藤恒治社長も、決算説明会で「国内生産が持っている意味を忘れてはいけません。サプライチェーン(供給網)を守りながら輸出することによって外貨を稼いでいく」と語るなど、生産台数を維持することで国内サプライチェーンを守る考えを強調しました。


 また、長い目で見ればトヨタは関税の試練を乗り越えることができると窪田氏は見ています。


追加関税がそのままだとしても、グローバルなサプライチェーンの調整、モデル数の削減といった抜本的なコストカット、米国での増産といったことを進めていけば2-3年かけてトヨタはその影響を吸収できると私は考えています。


 トヨタは、関税の影響を受けつつも、成長を続けることができるのでしょうか? 今後の展開を注視していきましょう。


(トウシル編集部:呉太淳)


(トウシル編集チーム)

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