資産運用立国議員連盟が提言する注目の「プラチナNISA」。運用しながら取り崩しを行うための提案ですが、実は同様のことは今でも可能です。
プラチナNISAの提言が話題
岸田文雄前総理といえば資産所得倍増プランにはじまるNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)改革で名を残しましたが、今もまだその推進に取り組んでいます。
4月23日、岸田前総理が会長を務める資産運用立国議員連盟が、石破茂総理に提言を行ったことが話題となっています。特に「プラチナNISA」というワードが注目されています。
高齢者向けに新たなNISAを創設、未成年者向けのNISAも認めて全世代対応を図るべし、というわけですが、この高齢者向けのNISAというのはなんでしょうか。
そもそも高齢者が現行のNISAを活用することの制限はありません。それでも、あえて高齢者向けNISAを提案する狙いとして、提言は下記のように述べています。
「高齢者が物価上昇の下でも、投資のメリットを受けつつ、生涯にわたって計画的に運用資産を活用して生活に充てることができるよう、高齢者に限定して対象商品の拡大・スイッチング解禁を図る『プラチナNISA』の導入など、政府は退職世代向けの資産運用サービスの充実に取り組むべきである。」
ポイントは以下の2点でしょう。
1.のスイッチング(投資信託の売却、それと同時に別の投資信託を購入することなど)解禁については、NISA口座内で投資商品の乗り換えを可能とするという趣旨と思われますが、高齢者に限らず検討の余地はありそうです。無制限の乗り換えについて歯止めをかけるかの議論が必要かもしれません。
2.の選択肢拡大が、運用しながら取り崩しを行うための提案ということのようですが、ここについてはいろんな報道がなされています。
実は運用しながら取り崩しは、今でも可能
プラチナNISAの触れ込みは、高齢者が運用しながら取り崩せる選択肢の拡充ということで、ここに毎月分配型投資信託をはめてくるのではないか、との臆測が出ています。
現状のNISAは成長投資枠、つみたて投資枠ともに毎月分配型投資信託は選べません。中長期的な資産形成に資するものではないということが理由ですが、ここを本当に規制緩和するのかが注目されています。
ところで「毎月分配型でないと、毎月取り崩せないのか」という疑問があります。毎月分配型投資信託が毎月少しずつ取り崩せるのは当然としても、投資信託の運用コストは高めですし、収益分配金の金額は必ずしも固定されていません。運用方針を変えて分配割合が下がったり、元本を割り込む分配が行われたことは問題視されています。
実は、証券会社に指示をすることで、定期的な取り崩しは今でも可能です。これがかなり便利なサービスとなっていますので、楽天証券の取り扱いルールに基づいて、少し解説をしてみます。(他社に証券口座をお持ちの場合は、それぞれのサービスメニューを確認してみてください)
定額取り崩し:シンプルに一定金額を崩していく方法
一つ目に「定額」取り崩しがあります。これは「毎月○万円分は取り崩して生活費に使いたい」と決め、指定金額相当分を定期的に売却してもらうというものです。
一番シンプルな「運用しながら取り崩し」の仕組みといえます。公的年金に上乗せしたい生活コストを一定額定めたならそれを指定するイメージです。
もちろん任意に追加売却することもできるわけですから、旅行のような高額出費がある場合はそのときに追加で売却をしてもいいわけです。
日付を指定できるのも地味に便利な機能だと思います。公的年金は2カ月分をまとめて振り込む仕組みですが、支給日である15日からタイミングを外して1日を受け取りにするようなやりくり方法も考えられます。
そして、この機能があれば、毎月分配型投資信託を無理にNISAに組み入れなくても問題ないということになります。
定率取り崩し:いいときは多め、悪いときは少なめに崩すアプローチ
二つ目が、ぱっと見「?」となる「定率」の取り崩しです。これは一定金額を取り崩すのではなく、「一定割合」に着目して取り崩してみるアプローチです。
定額取り崩しはシンプルで分かりやすいのですがウイークポイントが一つあります。それは、株価が下落している時期なども定額でどんどん崩してしまうため、その後に株価回復期がやってきたときには資産が早く目減りしてしまい、回復力が落ちてしまうことです。
資金ニーズがあって取り崩しをしているのだから当然ではあるのですが、セカンドライフスタートの前半(特にリタイア直後の数年間)に株価の急落があると資産寿命が短くなるリスクがあります。
例えばリーマンショックのような大暴落がセカンドライフのスタート時にあって、5年後には回復するとしても、その5年間に定額で取り崩しをするため、元本そのものが大きく減ってしまいます。
セカンドライフの後半で、リーマンショックがやってくるのと比べ、前半での暴落はキツいのです。むしろセカンドライフの前半に株価上昇があれば大きく元本を減らさずに済むこともあり、セカンドライフ後半のリーマンショックを乗り越えられる可能性もあります。
このとき、「定率」を指定して取り崩すことにすると「値下がりしている時期は少なめの取り崩し」「値上がりしている時期は多めの取り崩し」という形で取り崩し額を自動的に変動させることができます。
不思議な話ですが、このほうが資産が長持ちする可能性が高いのです。興味がある方は、デキュムレーション(取り崩し)の研究をしている野尻哲史さん(フィンウェル研究所代表)の著書をチェックしてみてください。
1月発売既刊 100歳まで生きても資産を枯渇させない方法 (幻冬舎新書)
6月発売予定新刊 100歳まで残す 資産「使い切り」実践法 60代からの”まさか”に備え資産寿命を伸ばす知恵
期間指定取り崩し:受け取り回数を確定させる方法もある
三つ目は、取り崩しする期間を指定、そこから割り算して1回当たりの取り崩し口数を自動計算するものです。
「20年、年12回の取り崩しなのでスタート時の投信保有口数を240で割った口数を1回当たりの取り崩しにしてください」のように指定します。この場合、「○年、○回受け取る」ということが優先されているのが定額、定率とはちょっと違います。
解約口数が固定されているということは基準価額が変動すれば毎回の受取金額も変わってくるということです。
これらの3種類の取り崩し方法が選択でき、特定口座でもNISA口座でも選択可能、受取日も選択できます。
詳しくは、
ホーム > 投資信託 > 取引ガイド > 定期売却サービス
からサービスを確認できます。
運用の最後のテーマは「どう崩すか」
私たちがなぜ資産運用に取り組むかといえば、資産価値を減じず、また資産の成長速度を賃金上昇率を上回る形で行うためですが、本質的な理由は「将来の資金ニーズに用いるため」です。
現役時代は「積立+運用+取り崩しなし」が中心となり、まさに長期積立分散投資が重要といわれています。しかし、老後は「積立なし+運用+取り崩し」という異なるステージに移行することになります。
この異なるステージをどうやりくりするかをしっかり考えることが必要です。プラチナNISAが「運用するか、運用せずに取り崩すか」ではなく「運用しながら取り崩し」に着目したことは良いことですが、証券会社の多くはこのサービスに対応し始めていることも知っておきたいところです。
(山崎 俊輔)