アマゾン・ドット・コムの2025年12月期1Qは、8.6%増収、20.2%営業増益。北米、インターナショナル、AWSのいずれも増収増益率が鈍化。

米国の政治、経済の不透明感の影響がでたと思われる。AWSについてはAI向け、非AI向けとも順調だが、設備投資が十分でなかった模様。楽天証券の目標株価を引き下げる。一定の投資妙味は感じるが、株価上昇には時間がかかる可能性がある。


決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化) 」


毎週月曜日午後掲載


本レポートに掲載した銘柄: アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ)


1.アマゾン・ドット・コムの2025年12月期1Qは、8.6%増収、20.2%営業増益。

 アマゾン・ドット・コム(以下アマゾン)の2025年12月期1Q(2025年1-3月期、以下今1Q)は、売上高1,556.67億ドル(前年比8.6%増)、営業利益184.05億ドル(同20.2%増)となりました。


 セグメント別に見ると、北米(北米におけるネット通販、アマゾンプライム等の事業)は売上高928.87億ドル(同7.6%増)、営業利益58.41億ドル(同17.2%増)となりました。クリスマス商戦の後という事情もありますが、関税問題等マクロ経済に不透明感があります。引き続き安い価格のものが売れる一方で、関税によって値上げされた商品も販売されました。

そのため消費者の動きが鈍かった模様で、増収率は前期の各四半期に比べ低下しました。事業の効率化が進んだことにより営業利益率は前1Q5.8%から今1Q6.3%へ上昇しましたが、増収率が低下したため、増益率も低下しました。


 インターナショナル(北米以外のネット通販、アマゾンプライム等の事業)は、売上高335.13億ドル(同4.9%増)、営業利益10.17億ドル(同12.6%増)となりました。ドル高の影響もあり、増収率は前期の各四半期に比べ低下しましたが、事業の効率化が進んだため、二桁増益となりました。


 アマゾン・ウェブ・サービス(AWS。世界最大のクラウドサービス)は、売上高292.67億ドル(同16.9%増)、営業利益115.47億ドル(同22.6%増)となりました。増収率は前期の各四半期よりも低くなりましたが、会社側はこれは設備投資が不十分であったため、特に内製AI半導体とエヌビディア製等の汎用AI半導体の調達が十分でなかったためという意味の説明をしています。AI半導体を調達するとすぐに顧客にレンタルされる模様です。AI関連サービスだけでなく、AI以外の企業向けサービスも順調でした。AWSの営業利益率は前1Q37.6%、前4Q36.9%から今1Q39.5%へ上昇しました。


 一方で全社設備投資は、前1Q149.25億ドル、前4Q278.34億ドル、今1Q250.19億ドルと増加しています。このため、減価償却費は前1Q116.84億ドル、今1Q142.62億ドルと増加しました。

アマゾンの設備投資にはAWSだけでなく、ネット通販のためのITを含む物流設備が含まれていますが、今1Q設備投資の主なものはAWSです。この減価償却費の増加も主にAWSにかかっていると思われます。AWSの設備投資の大きさは、減価償却費と設備を動かし技術開発を行うための人員増加を通じてAWSの増益率を抑える要因になっていると思われます。


 サービス別売上高を見ると、広告サービスが139.21億ドル(同17.7%増)、AWSが前述の通り同16.9%増となった以外、一桁増に止まりました。アマゾンを取り巻く景況が悪化していることを示していると思われます。


表1 アマゾン・ドット・コムの業績
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
株価 200.99ドル(2025年5月23日)時価総額 2,131,097百万ドル(2025年5月23日)発行済株数 10,793百万株(完全希薄化後、Diluted)発行済株数 10,603百万株(完全希薄化前、Basic)単位:百万ドル、ドル、%、倍出所:会社資料より楽天証券作成。注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。注3:会社予想は予想レンジの平均値。

表2 アマゾン・ドット・コム:セグメント別業績(四半期)
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:百万ドル、%出所:会社資料より楽天証券作成

表3 アマゾン・ドット・コム:サービス別売上高
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:100万ドル、%出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ1 アマゾン・ドット・コム:セグメント別売上高営業利益率
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成

2.今期、来期の楽天証券業績予想を下方修正する。

 今1Qの業績内容を見て、楽天証券ではアマゾンの2025年12月期を売上高6,970億ドル(前年比9.3%増)、営業利益800億ドル(同16.6%増)、2026年12月期を売上高7,690億ドル(同10.3%増)、営業利益970億ドル(同21.3%増)と予想します。前回予想から下方修正します。セグメント別には、北米、インターナショナル、AWSを各々下方修正します。


 今後の注目点は設備投資です。会社側は今1Qの決算電話会議では年間設備についてコメントしておりませんが、今期は1,000億ドル程度の設備投資になると思われます(前期は830億ドル)。今2Q以降も内製AI半導体、エヌビディアの新型「Blackwell」の導入が続く見通しです。

来期2026年12月期も設備投資が増加する可能性がありますが、四半期ベースでは今後増加したとしても緩やかな増加率になると思われます。これはアマゾンが導入しているAI半導体が、高額なエヌビディア製だけでなく、コストパフォーマンスが30~40%良い内製AI半導体も多く導入しているためです。このことを考えると、減価償却費の増加ペースも今後は緩やかになる可能性があり、これがAWSの増益率回復に寄与する可能性があります。


 また、営業キャッシュフローとの関係を見ると、今1Qは季節的に営業キャッシュフローが減少する時期に大型投資があったため、営業キャッシュフローを上回る設備投資になりました。前期は各四半期とも高水準ではありますが、営業キャッシュフローの範囲内に設備投資が収まっています。設備投資が一定の規律を保った状態にあるのかも含めて、今後を注視したいと思います。


表4 アマゾン・ドット・コム:セグメント別業績(通期)
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:百万ドル、%出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ2 米国の大手IT設備投資動向:四半期
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:100万ドル、出所:各社資料より楽天証券作成

グラフ3 米国の大手ITの営業キャッシュフロー動向:四半期
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:100万ドル、出所:各社資料より楽天証券作成

グラフ4 アマゾン・ドット・コムの設備投資/営業キャッシュフロー
決算レポート:アマゾン・ドット・コム(AWSの増収増益率が鈍化)
単位:100万ドル、出所:各社資料より楽天証券作成

3.アマゾン・ドット・コムの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の280ドルから240ドルに引き下げる。

 アマゾン・ドット・コムの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の280ドルから240ドルに引き下げます。


 2026年12月期の楽天証券予想1株当たり利益(EPS)7.76ドルにレバレッジが効きやすい事業構造であることを評価して、想定株価収益率(PER)30~35倍を当てはめました。


 ただし、2025年12月期楽天証券予想営業増益率16.6%と予想PER31.4倍を比べると足元の株価には割高感があります。米国の長期金利の高止まり、景気の先行き懸念もあります。アマゾンのような巨大企業は売上高、原価の両面で米国経済の不確実性の影響に晒されることに注意したいと思います。


 一定の投資妙味を感じますが、株価上昇に時間がかかる可能性があります。


本レポートに掲載した銘柄: アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ)


(今中 能夫)

編集部おすすめ