トヨタ・ホンダは「買い」と判断。米国の自動車関税で短期的に大きなダメージを受けるが、2~3年かけて克服すると予想。
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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【日本株】トヨタ・ホンダの未来に強気。トランプ関税直撃どうなる? 」
トランプ関税が自動車産業と鉄鋼産業を直撃
日米関税交渉がどう決着するか予測不能です。ただ、今までに聞こえてきた話から推測する限り、
【1】相互関税上乗せは「無し」にできると期待される。全世界に課した基本税率10%だけで済む可能性がある。
【2】自動車関税、鉄鋼アルミニウム関税は免除されない可能性もある。発動済みの25%の追加関税が続くとダメージは大きい。
最終決着は予測不能ですが、上記【1】【2】が続くとして自動車業界・鉄鋼業界への影響を考えてみます。
トヨタ(トヨタ自動車:7203) は自動車関税の影響を、4~5月の2カ月分だけ見積もり、営業利益にマイナス1,800億円の影響と予測しています。その前提で、今期(2026年3月期)営業利益は、前期比20.8%減の3兆8,000億円と予測しています。
トヨタ自動車の連結営業利益:2021年3月期~2026年3月期(会社予想)

自動車関税が2カ月で済まず1年間マイナスが続くと、単純計算では、さらに9,000億円のマイナスが出て、合わせて1兆800億円のマイナスとなります。
一方、 ホンダ(本田技研工業:7267) は、1年間トランプ関税のマイナス効果が続く前提で、年間マイナス6,500億円の効果と試算しています。それを前提に、今期の連結営業利益は、前期比58.8%減の5,000億円と予測しています。
これだけ巨額のダメージが予測される割には、決算説明では両社とも「冷静」と感じました。両社の米国現地生産比率が高いこと、ハイブリッド車が米国で高人気であることが、両社の冷静さにつながっていると思います。
トランプ関税は、世界中の自動車メーカーに重大なダメージを与えます。米国の フォード(フォード・モーター:F) や ゼネラル・モーターズ(GM) もダメージを受けます。GMは、赤字に転落するリスクがあります。トランプ関税の最大の犠牲者は米国のGMになる可能性もあります。
そうした中、トヨタ、ホンダは赤字にはならないのではないかと予想されます。相対比較ではダメージが小さく、有利な立場にあります。トヨタは、3年くらいかければトランプ関税の影響を克服していけると、私は予想しています。
トヨタ・ホンダ株価指標:2025年5月26日 コード 銘柄名 株価
(円) 配当
利回り PER
(倍) PBR
(倍) 1株当たり
配当金
(円) 7203 トヨタ 2,621.5 3.6% 11.0 1.0 95.0 7267 ホンダ 1,406.5 5.0% 23.7 0.5 70.0 出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成
トヨタは、トランプ関税のダメージを数年で克服すると予想
トヨタは、2~3年かけて関税のダメージを克服すると予想しています。以下五つのポイントです。
1:コストカット
毎年、継続的にコストカットを続けており、1年では無理でも、2~3年で影響を吸収していくと予想しています。車台や部品の共有化はもちろん、モデル数もかなり踏み込んで削減せざるを得なくなるかもしれませんが、それでもなんとかコストカットで対応していくと期待しています。
ただし、短期的には、トランプ関税のマイナス効果は大きくなりそうです。米自動車関税の負担を吸収するのは、以下四つの主体です。
◆米国消費者(値上げ)
◆米国の自動車ディーラー(販売マージン縮小)
◆日本の自動車メーカー(関税引き上げに対応した輸出価格の引き下げ)
◆自動車メーカーのサプライヤー(部品価格などの引き下げ)
トヨタは「値上げはしない」と表明しており、トヨタが中核となって負担を吸収する方針と考えられます。長年にわたってコストカットを続けマージンを高めてきた自信から、短期的に負担を吸収することで、今期グローバルに販売・生産とも拡大する計画としています。
ただし、米国サイドにも一定の負担はかかると思われます。米国販売では、数千ドルのインセンティブを支払うのが慣例です。販売価格は変わらないでも、インセンティブが低下することで実質値上げとなる可能性があります。
2:米国で増産対応
1980年代に日米貿易戦争が激化してから、トヨタは継続的に米国での現地生産比率を高めてきました。北米自由貿易協定(NAFTA)を使い、メキシコ・カナダでの生産も使い、北米生産比率を高めてきました。2000年代には、米国で人気の大型SUVの生産も立ち上げました。
日本からの輸出比率も高いのでダメージは大きいものの、世界各国で現地生産を立ち上げてきたノウハウを生かして、米国生産を増やしていくことは可能と思われます。
3:性能・燃費への信頼が高いこと
米国で日本の自動車人気が高いのは、燃費が良く故障が少ないことが理由です。関税だけで日本車が売れなくなり、米国車が売れるようになることはないと考えられます。トヨタが値上げしないで対応すれば、相対的にトヨタ車の人気が高まる可能性もあります。
4:オールラウンド・プレイヤーである強み
米国で自動車価格が一斉に上昇すると、米国消費者は、自動車にかけるコストをなるべく抑えようとする可能性があります。米国では過去10年以上、大型SUVが人気で自動車の平均販売価格は700万円を超えていますが、関税導入後は、価格が相対的に低い小型乗用車(2,000CCのセダンは米国では小型車です)に一部需要がシフトするかもしれません。
トヨタは、大型SUVから、小型乗用車までオールラウンドで展開しているので、そのような需要シフトがあっても、競争優位を保てると考えられます。
近年、米国では、電気自動車の中でも、バッテリー式電動自動車(BEV/電気のみを使って走行する)の人気が低下して、代わって、ハイブリッド車(HEV /ガソリンと電気で動くエンジン両方を備えている)、プラグインハイブリッド車(PHEV /エンジンとモーター両方で相応できるが外部電源が利用できる)の人気が高まっていますが、ハイブリッド車の人気ラインアップを有することもトヨタの強みとなっています。
5:中古車価格の上昇
米国で高関税が導入され、新車価格が上昇すると、中古車人気が高まると考えられます。年数を経ても性能低下が少ない、トヨタの中古車が人気になる可能性もあります。
米国の自動車販売の2割強はリース販売なので、トヨタはリースバックで自社の中古車を獲得することになります。中古車価格が上昇することは、短期的にトヨタのリース販売部分の業績にプラス要因となります。
ホンダはアジア二輪車で高収益を稼ぐ
トヨタと比べると、ホンダは自動車(四輪車)の利益率が低く、利益は不安定です。その代わり、アジアでの二輪車(オートバイ)事業で安定的に高い利益をあげていることが強みです。
2025年3月期トヨタ・ホンダの事業別セグメント利益

注目していただきたいのは、トヨタとホンダの自動車事業の営業利益率の差です。
一方、ホンダは四輪(自動車)事業の営業利益率が1.7%と低いのが問題です。代わりに、二輪(オートバイ)事業で18.3%と高い利益率を稼いでいます。金融サービス(販売金融)でも高い利益をあげています。
ホンダは、東南アジアの二輪事業で圧倒的な強みを持ちます。アジアでオートバイは、仕事でフル活用されています。オートバイの荷台に貨物を積んで出荷していく姿、通勤・通学で家族が1台のオートバイに乗っていく姿もよく見ます。オートバイ・タクシーもたくさん走っています。性能と耐久性で、ホンダのブランドが高い信頼を有しています。
ホンダの四輪事業が苦戦する中、二輪事業の営業利益は2025年3月期で過去最高です。
こうした差別化したビジネスがあることがホンダの強みです。ホンダも、トヨタと同様、ハイブリッド車で強みを持ちます。トヨタとは異なる戦略で、それでも変革する世界の自動車業界で生き残っていく力があると考えています。
トヨタ自動車は、次世代自動車で世界をリードできるか
トヨタ自動車の株価を決めるのは、短期的な業績変動だけではありません。それ以上に重要なことが、次世代自動車の開発競争で勝者となれるか否かです。
今、世界的に電気自動車(EV:BEV)熱が少し低下していますが、それでもより長い目で見れば、世界的に脱炭素への取り組みが進む中、20~30年後には、ガソリン車やディーゼル車の販売が激減する可能性が高いと考えられます。
それまでに、次世代自動車の候補と考えられている電気自動車(EV)、燃料電池車(水素エネルギー車)や、自動運転技術で勝者となれるか重要です。
トヨタ自動車は、ハイブリッド車・EV・燃料電池車全てに注力する、全方位戦略をとってきました。ガソリン車の次に何が世界標準になっても戦える態勢を維持しています。ただし、次世代自動車として最も有望と考えられている、EVの生産台数で、米国 テスラ(TSLA) と中国 BYD(01211) に遅れをとっていることが課題と考えられます。
ガソリン車に代わる次世代自動車には何がなるのでしょうか。まず、簡単な性能比較から始めます。
次世代自動車の評価、ガソリン車との比較

上の表は、次世代自動車の候補の性能比較表です。
ガソリン車は、排ガスを出す点で××ですが、それ以外は、全て〇です。
【1】燃料充填:満タンにするのにかかる時間は短く、数分で済む
【2】航続距離:満タンで500キロメートルくらい走れる車種多く、便利
【3】インフラ:全国・全世界にガソリンスタンドがあり、手軽に給油できて便利
【4】価格:相対的に低価格
ハイブリッド車は、ガソリン車より燃費が良く、使い勝手も良いが、ガソリンを使うため排ガスが×です。ガソリン車の改良版として世界的に人気が高まっていますが、究極の次世代自動車とは考えられていません。
PHEVは、自宅で充電して電気自動車として使うこともできるので、現時点では暫定的に次世代エコカーとして認められています。ただし、電気が切れた時にガソリンを使って走るので、排ガスが出ます。
BEVが、最も有望と考えられています。近年、EV用のバッテリーの性能が急速に高まったおかげで、使い勝手がとても良くなっています。高級車種では航続距離がガソリン車並みに伸び、価格も少しずつ低下してきています。
充電ステーションが不足していますが、EVを所有する家庭が増えれば、今あるガソリンステーションが、充電ステーションを兼ねるようになると思います。
次世代自動車にとって重要な「自動運転技術」を搭載するのも、EVが適していると考えられます。ここからさらにEV普及が進めば、量産によって価格が低下し、充電ステーションも増えると考えられます。
EVの最大の問題は、充電に時間がかかり過ぎることです。急速充電でも満充電に30分近くかかることもあり、日中忙しい時に充電するのは大変です。携帯電話のように夜間に充電するのが、家庭での標準的な使い方になっています。
近い将来、さらに充電時間は短縮される可能性もありますが、現時点では、充電時間の長さがEVの最大の問題です。
燃料電池車(FCEV:水素を燃料とするEVで、水素と酸素で電気を発生させる燃料電池を搭載)は、ガソリン車のように数分で燃料充填でき、航続距離も長く、有望です。
ただ、価格が高すぎて、水素ステーションがほとんどないことが問題です。低コストで水素を大量生産して、大量に輸送するインフラが整わない限り、水素自動車を社会的に利用することはかなわないと思います。
また、燃料電池車の問題として、水素を使って発電する時に出てくる熱を有効活用する方法が確立しないとエネルギー効率が悪いということもあります。
以上より、水素を使う燃料電池車は、次世代車の中心にはなりえないものの、一定の用途で集中的に使われることになると思います。エネルギー密度が高いので、極めて重いものを運ぶトラックやバスに有効です。将来的に、飛行機を水素で飛ばすのが可能になるかもしれません。
いずれにしろ、水素流通インフラをつくるのに相当長い年月がかかると考えられることから、水素自動車は、トラックやバスなど大型の商用車に限って本格的に使われるようになると思われます。
2023年以降、欧米でEVの使い勝手の悪さ(充電時間長い、厳寒地で電費が低下、高コスト)が嫌気され、EV人気が低下、ハイブリッド車人気が高まっています。ハイブリッド車生産で世界トップを走るトヨタに追い風となっています。
この追い風が続いているうちに、EV・自動運転・燃料電池車の開発でどれだけの成果を出せるかが、長期的なトヨタ株の投資価値を決めることになります。
テクニカル・ファンダメンタルズ分析を詳しく学びたい方へ
最後に、個別株投資にチャレンジしたい方に、私の著書を紹介します。ダイヤモンド社より、株価チャートの読み方をトレーニングする「株トレ」(黄色の本)と、決算書の見方など学ぶ「株トレ ファンダメンタルズ編」(水色の本)が出版されています。どちらも一問一答形式で株式投資の基礎を学ぶ内容です。
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