週明け、ドル/円は1ドル=142円台となり、再び円高の動きになっています。貿易協議の行方や日銀の利上げ、FRBの利下げなど不透明な要因が多い中、ドル/円を取り巻く環境、そして現在地を確認していきます。


ドル/円相場の荒い値動き。根強い円高圧力と3つの警戒点の画像はこちら >>

再び円高へ。ドル/円を取り巻く三つの警戒点

 ドル/円は、週明け東京市場で1ドル=142円台となり、再び円高の動きとなりました。現在のドル/円の位置を確認するために今年に入ってからの動きを振り返ってみたいと思います。1月の1ドル=158円台から4月の1ドル=140円割れ、そして5月に1ドル=148円台に反発後、再び1ドル=142円台への円高となりました。


 この流れを月別でみると、以下の要因で動きました。


1月

 米12月消費者物価指数(CPI)や米12月小売売上高が弱かったため、米利下げ観測が高まったことや、日本銀行の利上げ観測が高まりドル安・円高に。


2月

 日銀の植田和男総裁、田村直樹・高田創審議委員による予想以上のタカ派発言によって早期利上げ観測が強まったことに加え、米国経済の寒波や山火事の影響、トランプ関税によるインフレを警戒した消費者センチメントの悪化からドル/円は1ドル=148円台の円高に。


3月

 トランプ関税によるインフレ懸念や米景気後退懸念から株安が進み1ドル=146円台の円高に。月後半は関税への柔軟姿勢を示しドル/円が1ドル=150円近辺まで買い戻される動きに。


4月

 相互関税発動やパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長への解任圧力によってトリプル安の動きとなり、ドル/円は1ドル=140円割れの円高に。その後、トリプル安を警戒したトランプ大統領はパウエル議長解任を否定し、柔軟姿勢を示したことからトリプル安はいったん鎮まり、1ドル=143円台に。


5月

 日米中央銀行はトランプ関税を不確実性要因として政策変更に慎重姿勢となり(ドル高・円安要因)、加えて米英、米中の貿易協議が進展したことから1ドル=148円台の円安に。


 しかし、円安是正議論への警戒は続き、対日や対欧州連合(EU)など7月9日までは相互関税協議が続くことへの警戒や、新たな要因として米国債格下げ報道によって米財政赤字拡大への懸念が高まり、ドル売り地合いが続いている状況。


 以上のことから現在のドル/円を取り巻く環境は、以下のように考えられます。


  • 1月、2月の主要因だった日米金融政策の要因は後退
  • 関税を巡る貿易協議の進展はみられたが、引き続き相場の不透明要因として残っている状況
  • 米財政赤字拡大懸念は今後もドル売り要因として警戒
  • (1)については、FRBの利下げ観測や日銀の利上げ観測は現時点では要因として後退していますが、経済環境によっていつ前倒しになってもおかしくない状況です。


     日銀の植田総裁は5月の会合で、トランプ関税を不確実性要因として利上げに慎重な姿勢を示しました。


     しかし27日、植田総裁は日銀本店で開かれた国際会議で、日銀が目標とする2%の物価安定目標に関し、「目標に達していないものの、過去30年間のどの時点よりも近づいている」と述べ、今後の金融政策については、「経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げる」と改めて述べました。


     5月の会合よりかはタカ派的な内容だったため1ドル=142.10円近辺まで円高に反応しました。


     その後、財務相の国債発行計画の変更が報じられると、超長期国債の利回り低下を受けて円売りが活発化し、1ドル=144円台へ円安となりました。


     1ドル=148円台から円高が続いていたことから、この発行計画変更の報道をきっかけにポジションが巻き戻されただけなのかどうか見極める必要がありますが、長期債の入札が無難に終われば、やはり、円を動かす要因としては日銀の政策を巡る要因が最も注目材料と思われます。


     27日の植田総裁の発言で市場は日銀の利上げ姿勢を改めて確認しました。ただ、植田総裁は「経済・物価情勢の改善に応じて」と前置きしていますので、景気が上向くまで利上げには時間がかかるかもしれません。


     FRBについては、現時点では利下げを急がない姿勢は変わらないようですが、足元の消費センチメントが悪化している中で、雇用や消費が実際に悪化してくれば、そしてその結果として物価の上昇も抑制的な動きになってくれば、FRBに対する利下げ期待が高まってくることが予想されます。


     米経済のスタグフレーション懸念は高まっており、トランプ関税による前倒し輸入や前倒し消費が一巡した後の経済実態の動きに注目です。


    (2)については、米英、米中の貿易協議が進展しましたが、対日や対EUなどの貿易協議は続いており、EUとの交渉は難航するとの見方が多く、90日間一時停止の期限である7月9日までは交渉過程で相場のかく乱要因になりそうです。場合によっては、解決せず期限が延長する可能性もあるかもしれません。


     日米貿易協議では、財務相会談で為替水準は議題にならなかったとのことでしたが、それでも市場では為替問題への警戒心(円高材料)がくすぶっている点には注意が必要です。


     対中協議も、引き下げた115%の関税のうちの24%は90日間停止措置となっており、この部分の交渉もかく乱材料になることも予想されます。関税交渉は、まだ不透明要因として続きそうです。


    (3)については、今後、米減税法案や債務上限引き上げ法案が可決されても、規模や財源を含めた内容によっては米国財政悪化懸念が強まることが予想されます。さらにトランプ減税による景気への悪影響が現実になってきた場合、米国の財政悪化懸念が強まることが予想され、金利上昇(債券安)、株安、ドル安のトリプル安には常に警戒しておく必要がありそうです。


     このようにトランプ関税の不透明要因は依然として残り、トランプ関税による経済への影響は払拭(ふっしょく)されず、むしろこれから実体経済に影響が及んでくることからFRBの利下げ慎重姿勢も変わる可能性は十分にありそうです。日銀の利上げ姿勢は変わらないことや、円安是正議論がくすぶっていることから円高圧力は根強く残っている状況がまだ続きそうです。


     先週は、当面のドル/円は1ドル=145円を挟んだ展開が続き、円安への戻りが鈍い場合は、1ドル=145~150円のレンジに戻るのではなく、1ドル=140~145円のレンジに入っていくシナリオも選択肢とお話ししましたが、今週はこのレンジに入ったかどうかを見極める週になりそうです。


    (ハッサク)

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