石油精製大手の出光興産(5019)は、青色有機EL材料といった高機能材事業の拡大などによって2030年に利益を5割増にすることを計画しています。しかし、株価は事業拡大の実態を織り込めておらず、グローバルな同業他社比でも割安感が際立っています。
(写真:alvaro gonzalez/Getty Images)
株主資本が20年で3倍以上に
出光興産を「買い」と判断する理由に入る前に、まずは同社の2006年以降の株価推移を見てみましょう。
出光興産(5019) (株価852.5円:5月27日終値)は、石油精製では国内第2位、石油製品(ガソリンなど)市場では3割程度のシェアを持つ企業です。また、再生可能エネルギーや次世代電池の研究開発にも力を入れており、2050年のカーボンニュートラル実現を掲げています。
国内石油製品市場は、 ENEOSホールディングス(5020) と東燃ゼネラル石油の合併(2017年)、出光興産と昭和シェル石油の合併(2019年)を経て、 コスモエネルギーホールディングス(5021) も含めた大手3社が供給量の大半を担う体制となりました。
3社とも石油製品事業の高収益化に努めていますが、出光興産は機能化学品や電子材料といった高機能材事業の拡大にも力を入れています。そうした取り組みが功を奏して、約20年で同社の営業利益は1.6倍、株主資本は3.2倍に増加しました。時価総額は同期間に2.3倍増でしたが、株主資本の増加度合いの方が大きかったことから、株価純資産倍率(PBR)は1.0倍から0.6倍へと低下しています。
出光興産は有機EL青色発光材料や全固体電池(固体電解質)など高機能材事業の成長により、2030年に連結利益水準を現在の5割増とする計画を打ち出しています。足元での株価(852.5円:5月27日終値)は、こうした同社の現況と将来像を織り込みきれていないと考えられます。そこで、投資判断を「買い」とします。
<出光興産株価および当期純利益:2006年以降>

出光興産の株価は当期純利益の増加とともに上昇してきました。この当期純利益の増加は昭和シェルとの合併によるところが大きいですが、燃料油1L当たりの利益水準を拡大することに成功したことも要因です。
<出光興産燃料油1L当たり営業利益および純利益:2006年以降>

「買い」と判断する五つの理由
出光興産を「買い」と判断する理由は、以下の五つです。
【1】有機EL青色発光材料や全固体電池(固体電解質)など高機能材事業を成長させ、2030年に連結利益水準を現在の5割増とする計画を掲げる
【2】これまでの事業成長の実態が時価総額に反映されておらず、株価が割安
【3】今年度計画にさらなる原油価格下落を織り込んでも、株価は依然として割安
【4】グローバル同業他社比で割安感がある
【5】グローバル同業他社比で総還元利回りが高い
それぞれの理由について詳しく説明します。
【1】有機EL青色発光材料や全固体電池(固体電解質)など高機能材事業を成長させ、2030年に連結利益水準を現在の5割増とする計画を掲げる
出光興産は1980年代に有機ELの研究を始め、発光に高エネルギーを必要とするため最も困難と考えられていた青色有機ELの実用化に、1997年に世界で初めて成功しました。その後も青色発光材料関連の技術開発をけん引し続けており、世界シェアトップと考えられています。
緑色と赤色発光材料の主要メーカーで青色発光材料も一部手掛ける米 ユニバーサル・ディスプレイ(OLED) は、連結売上が発光材料の製造・販売と関連ライセンスフィーによって構成されている有機EL発光材料専業の企業です。同社の純利益は336億円と出光興産の7分の1なのに対し、時価総額は、出光興産とほぼ同水準の約1兆円となっております。
出光興産の青色発光材料事業関連収益は公開されていませんが、仮に同事業での利益がユニバーサル・ディスプレイと同水準だとすると、その事業の時価総額が1兆円、出光興産の石油精製など他の事業の時価総額がほぼゼロということになり、出光興産の株価が非常に割安だということになります。
なお、青色、緑色、赤色の各発光材料の市場規模は2024年時点でそれぞれ、1,800億円、1,800億円、2,300億円です。2033年にはそれぞれ5,300億円、3,800億円、5,700億円に成長することが見込まれています。年平均成長率(CAGR)は青色が13%、緑色が8%、赤色が11%で、青色が最も高い成長率で推移すると予測されています。
<主な有機EL青色発光材料企業5社>

出光興産は次世代電池として期待される全固体電池の電解質開発にも取り組んでいます。2021年に小型実証設備を稼働開始し、2023年には トヨタ自動車(7203) と共同でバッテリーEV用全固体電池の量産化に向けた技術開発を開始しました。両社は、2027~2028年の実用化を目指し、固体電解質の量産技術やサプライチェーン構築に取り組んでいます。
また、水素、バイオ燃料、ブルーアンモニア、CCUS、使用済みプラスチックリサイクルといったカーボンニュートラル事業の育成・収益化を実現していく計画も掲げており、2030年に営業利益と持分法投資損益の合計を2024年度の1,848億円から2,700億円へと5割増の水準まで拡大すると同時に、化石燃料事業(燃料油セグメント&資源セグメント)の収益比率を50%以下とする目標を掲げています。
<出光興産の2030年の姿>

【2】これまでの事業成長の実態が時価総額に反映されておらず、株価が割安
2006年からの18年間で営業利益は1.6倍、営業キャッシュフローは5.5倍、株主資本は3.2倍となりました。時価総額も2.3倍に増加しましたがPBRは1.0から0.6へと低下しており、事業成長の実態が時価総額に反映しきれていない状況です。
<出光興産の業績(2006年度と2024年度の比較)>

【3】今年度計画にさらなる原油価格下落を織り込んでも、株価は依然として割安
今期(2026年3月期)純利益の会社予想は470億円と減益ですが、これはおおむね、原油・石炭価格の下落による資源事業の減益と、これに伴う在庫評価損に起因するものです。これら資源価格由来の費用を織り込んだとしても、PBRは低水準にとどまっています。
仮に、2025年の平均原油価格が1バレル=50ドル、石炭価格が1トン=85ドル、ドル/円の平均為替が1ドル=140円となったストレスケースを想定しても、PBRが低水準の状態は変わりません。
<出光興産の2025年度業績(会社計画とストレスケース試算)>

【4】グローバル同業他社比で割安感がある
出光興産の比較対象に適するグローバルな同業他社(石油精製企業)には、米 フィリップス66(PSX) 、米 マラソン・ペトロリアム(MPC) 、米 バレロ・エナジー(VLO) などがあります。
<世界の主な石油精製企業10社の売上高構成>(売上高降順)

<世界の主な石油精製企業10社の株価指標>(売上高降順)

出光興産含めグローバル同業他社10社で比較すると、5年平均自己資本利益率(ROE)とPBRはおおむね比例関係にあります。出光興産(PBR0.6倍)の計算値は1.0倍近辺となり、割安な状態にあります。
<ROEとPBRの関係>

【5】グローバル同業他社比で総還元利回りが高い
出光興産の配当利回りは平均を若干下回る水準ですが、自社株買いも含めた総還元利回りで見ると、グローバルな同業10社の中で3番目です。また、出光興産の配当利回り(4.2%)は、日本企業の中でも高水準です。
<世界の主な石油精製企業10社の株主還元>

(西 勇太郎)