PERやPBRという株価指標を知っていても、銘柄選びでの活用に自信がない方も多いのでは? 今回は、株主優待やインバウンドで注目のJR東日本、東海、西日本、九州のJR4社の分析を通じてPERとPBRを学びます。4択クイズで、割安銘柄を見抜く「眼力」を試しましょう!
(写真:Sandro Bisaro)
今日のクイズ
<クイズ>
今回は、株主優待の内容やインバウンド(外国人観光客)の追い風でも注目されるJR各社の株式指標から株価収益率(PER)と株価純資産倍率(PBR)を学びましょう。まずは、次の表をご覧ください。
こちらは株式市場に上場しているJR4社のPER、PBR、予想配当利回りです(2025年5月26日時点)。
A社~D社は、 JR東日本(東日本旅客鉄道:9020) 、 JR東海(東海旅客鉄道:9022) 、 JR西日本(西日本旅客鉄道:9021) 、 JR九州(九州旅客鉄道:9142) のいずれかです。
この4社の中で、PER、PBR、予想配当利回りの低さが目立つ「B社」はどれでしょう?
<A社~D社のPER、PBR、予想配当利回り:2025年5月26日時点>

今日のクイズは、「ひっかけ」かもしれません。正解は「意外」にも…。
このクイズを解くには、PERとPBRについて知っている必要があります。「それって何?」という方のために、ここで用語の説明をします。
株式投資ではPERを必ずチェック!
株価の割安・割高の度合いを測る指標はいろいろありますが、その中でもPERは特に重要な指標です。
PERは、「株価が1株当たり利益(今期予想)の何倍まで買われているか」を示します。一般的にPERが高いほど株価は割高、PERが低いほど株価は割安と見なされます。
PERは、以下の式で計算できます。

<PER計算例>
株価が1,500円で、今期最終利益(会社予想)が100億円、発行済株式数が1億株ならば、
<1株当たり利益>=100億円÷1億株=100円
<PER>=1,500円÷100円=15倍
「PBR1倍割れ」の意味は?
次にPBRについて説明します。PBRを理解するためには、まず企業の「バランスシート(貸借対照表)」の仕組みを知る必要があります。
以下の図で、バランスシートを図解します。
バランスシートとは、資産・負債・資本の目録です。

バランスシートを見れば、事業に使う資産を得るための資金をどう調達したかが分かります。上の例では、資産100億円を、負債(借金など)60億円+資本(株主の出資金など)40億円で調達したことが分かります。
この会社は、自己資本比率(資本÷総資産)が40%です。
PBRとは、株価が「自己資本」と比較して、どの程度割安であるか測る指標です。
まず、PBRを示す以下の図をご覧ください。今回は、1億円出資し、1億円借金し、合わせて2億円の資産を持って、ビジネスを始める企業を例にとって説明しています。企業のバランスシートのイメージ図です。

設立直後ですが、いきなり株式市場に上場できるとします。さて、株式時価総額はいくらになるでしょうか。
こうしたケースでは通常の場合、1億円です。まだ何もしていない企業ですから、株式時価総額は、純資産価値と同額の1億円というわけです。
この状態がPBR1倍です。

純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐ期待が高ければ、株式時価総額は3億円になることもあります。この状態が、PBR3倍です。一方、将来赤字が続くと考えられる株は、株式時価総額は1億円を割り込み、7,000万円となることもあり得ます。その状態が、PBR0.7倍です。
正解は…
PERとPBRの基礎を学んだところで、最初のクイズの答えを見てみましょう。
B社は、JR東海です。A~D4社はそれぞれ、以下の通りです。

PER・PBRに株式市場の評価が表れます。一般的に、成長性が高いと思われているほど、PER・PBRで高く評価され、成長性が低いと思われていると、PER・PBRで低く評価されます。
JR東海は、JR4社の中で、新幹線事業の比率が一番高く、一番成長性が高いと思われています。これまではJR4社の中で、PER・PBRが一番高いことが普通でした。
JR東海が取り組んでいるリニア中央新幹線の工事が、静岡県での地下水質への影響に絡む問題で止まっていることが懸念されています。
JR4社は、コロナ前にいずれも最高益を更新していました。中でも、JR東日本、東海、西日本の3社は、新幹線事業によって利益成長を実現してきました。
昔、新幹線はビジネス客が中心でした。しかし、今や国民の足として、幅広く使われるようになっています。近年は、インバウンドや国内観光客の利用が増えています。価格の高いグリーン席の利用率も高まり、利益成長をけん引しています。
<JR4社の連結経常利益:2018年3月期-2026年3月期(会社予想)>

新幹線は、利益率が高いことに加え、成長性も見込める有望事業です。そのため、新幹線事業の構成比が高いJR東海は、JR各社の中でも利益成長率が一番高く、コロナ後も、2025年3月期にいち早く最高益を更新しています。
それでも、2024年にJR東海の株価は売り込まれました。リニア中央新幹線の工事が静岡県でストップしていることが嫌気されたことが主な要因です。
<JR4社の株価と日経平均株価の動き比較:2019年末~2025年5月26日>

リニア中央新幹線の開業時期について、JR東海は当初、品川~名古屋間が2027年、大阪~名古屋間が2045年と計画していました。その後、大阪までの開業は財政投融資活用によって「早ければ2037年」に計画を前倒ししました。
ところが、2024年3月、名古屋までの開業が「2027年には間に合わない」と発表しました。現在は2034年以降としています。大阪までの開業も遅れる見通しです。大阪までつながれば、東海道新幹線の補完だけでなく航空の代替需要が盛り上がる期待もありました。
さらに実績を積めば、将来リニア新幹線事業の海外展開も考えられました。その実現が遅れることは、事業全体にとって大きなダメージです。
ただし、解散価値と呼ばれるPBR1倍を大きく割り込んだ現在のJR東海の株価は、「売られ過ぎ」と私は考えています。リニア新幹線工事に絡むリスクは高いものの、現在の株価水準であれば、JR東海株は「買い」と判断しています。また、業績好調のJR東日本、JR西日本、JR九州のJR3社も「買い」と判断しています。
株式投資のテクニカル分析・ファンダメンタルズ分析を学びたい方に
最後に、株式投資手法を書籍でしっかり学びたい方に、私の著書を紹介します。
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ ファンダメンタルズ編」

(窪田 真之)