5月21日、1BTC=11.2万ドル(約1,573万円)の市場最高値を記録。なぜここまで上昇したのか、6月はこのまま上昇を続けるのか…。
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著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 ビットコイン11.2万ドルの史上最高値更新!20万ドル超えは7月へ持ち越しか? 」
5月のフラッシュレポート:BTC最高値更新の背景を探る
5月のビットコイン価格(円)とイベント
5月のBTC相場は9.5万ドル近辺で始まったが、アリゾナ州知事が州議会を通過した「戦略BTC準備」(SBR:将来の金融戦略の一環として、国家などがビットコインを資産の一部として保有すること)法案に拒否権を発動したことで上値が重くなった。
しかし、一方でニューハンプシャー州ではSBR法案が成立。さらに5月10~11日にかけての米中通商交渉で、追加関税の115ポイント引き下げで合意するという展開でビットコインも反発。5月8日の米英経済繁栄協定(EPD)で、英国が米国製品の通関手続きの迅速化や自動車産業への関税改訂を発表したことを好感し、10万ドル台に値を伸ばした。
さらに、ロシアとウクライナがトルコで直接和平交渉を開始し、米中が暫定的に関税を115%引き下げると、BTCは10.5万ドル台に上昇した。
1月末の戻り高値10.6万ドルが史上最高値を前に最後のレジスタンスとして機能すると、アリゾナ州知事が保留していたSBR法案に再び拒否権を発動。これにより、しばらく横ばい圏での取引が続いた。
5月16日(金)の引け後にムーディーズが米国債を格下げすると、週明け19日の先物市場でドル安・株安・債券安のトリプル安が発生。ドルからの逃避でBTCが上昇した。
22日(木)には米20年債入札が不調となり、ちょうど減税法案審議が山場を迎えていたこともあり、再度トリプル安が発生。BTCは史上最高値を更新した。
その後、6月1日から欧州連合(EU)に50%関税を課す方針が発表されBTCは失速したが、7月9日まで延期されると再び11万ドル台に値を戻した。
このように、BTC相場は4月の相互関税延期で反発し、5月は個別交渉の進展で値を戻していった。露ウ直接交渉や米ロ首脳会談など和平交渉への期待も反発を後押しした。一方で、関税延期が7月9日までの暫定措置であり、米連邦準備制度理事会(FRB)がその行方を見極めるまでは利下げ再開に踏み切らない姿勢が、相場の上値を抑える局面も見られた。
5月の相場を深堀り:米ドル信用度が下降するとBTC期待高まる
S&P500(CFD)とBTC/USD
こうした状況を米株と比較すると興味深い。図はS&P500種指数(S&P500)とBTC相場の比較だ。ローソク足がS&P500の砂金決済取引(CFD:実際の資産を所有せずに価格の差額だけを取引する金融商品)、ラインチャートがBTC/USDとなる。4月2日の相互関税発表以降、BTCは米株とほぼ連動して推移していた。
しかし、時折、BTCが大きくアウトパフォームする局面があった。
戦略BTC準備(SBR):州ごとに異なるBTC期待度、米国の方向性まとまらず
まず、州政府のSBR進捗(しんちょく)だ。アリゾナ州議会が先んじて可決したSB1094(年金での購入)とSB1374(財政資金での購入)がアリゾナ州知事の拒否権で否決され、市場には落胆が広がった。しかし、ニューハンプシャー州で全米初のSBR法案が成立。テキサス州でも上下両院を通過し、成立は時間の問題と見られている。
3月に連邦レベルでSBRが発足し、20以上の州が追随を目指したが、当初は議論が進まず、モンタナ州やペンシルベニア州などが断念。有力視されていたフロリダ州では法案を採決せずに議会が閉会し、実現性を懸念する声も広がった。そんな中、ニューハンプシャー州の動きは投資家心理を明るくした。
格付け機関ムーディーズ、米国債を格下げ
次に、米国債格下げ。S&Pとフィッチ(ムーディーズと同じく、信用格付け機関の一つ)は、すでに米国債を最上級から格下げしていたが、この財政状況で、ムーディーズが最上級を維持していたこと自体が不思議なくらいだった。
タイミングも悪く、石破茂首相の「ギリシャより下」発言を受け、日本の20年債入札が過去最低の結果となり、さらにはトランプ減税法案の審議が佳境を迎え、財政悪化が懸念される中で20年債入札が低調に終わると、ドルの信認がやや大げさに懸念された。
需給の改善:企業のBTC購入広がる
BTC ETF資金フローとBTC価格
5月の相場を史上最高値に押し上げた主因は需給の改善だ。上場投資信託(ETF)フローは2月8日から4月17日まで約53億ドルが流出したが、4月18日から5月28日までに約100億ドルが流入した。
ストラテジー社も4月以降、約50億ドルの追加購入と21億ドルの資金調達を発表。
5月27日にはトランプ・メディア社(DJT:2021年、現トランプ大統領が設立したメディア&テクノロジー企業)が暗号資産購入のために25億ドルを調達、28日には15億ドルを調達したゲームストップ社(GME:世界最大の コンピュータゲーム小売店)が5億ドルの購入を発表した。
通商交渉、和平交渉、金融政策では期待が高まったものの、決め手に欠ける展開だったが、需給の改善が5月の相場を押し上げた。これは、3月に連邦政府のSBRが誕生し、州政府や民間企業の追随が続くとの期待があったが、相場が下落を続けたことで不安が高まっていた中、ようやく市場の期待に沿った動きが始まった形だ。
言い換えれば、トランプ政権誕生で暗号資産政策が180度転換したが、期待先行で就任直前に史上最高値を付け、ピークアウトしていた。その期待先行の売りが一巡し、トランプ政権誕生はやはり買いだとフローが戻ってきたイメージだ。
相互関税差止:トランプ関税はビットコインにも影響
5月29日、国際貿易裁判所(貿易問題を扱う連邦裁判所)が1977年に制定された、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくトランプ関税を停止する、という大きな材料が飛び込んできた。
裁判所は、「IEEPAは大統領に無制限の関税権限を与えるものではない」とし、4月2日の相互関税およびフェンタニル(合成麻薬)に関するカナダ・メキシコ・中国向け関税を差し止めた。ホワイトハウスは直ちに控訴を表明し、最高裁まで行けば判決が覆る可能性が高いとみられているが、それには1~2年かかるとの見方が主流だ。
三権分立のチェック・アンド・バランスが機能したと評価する声もある一方、ホワイトハウスは「選挙で選ばれていない判事が選挙公約の関税を否定するのは司法クーデターだ」と非難している。
これにより、IEEPAによる関税の道は当面断たれ、米政権は戦略の見直しを迫られる。関税を課すには通商法第301条や新たな法制化が必要だ。市場は相互関税と通商交渉に慣れてきたが、この新たな状況を織り込んでおらず、先行きの不透明感が増した。
ただし、長い目で見れば、この差し止めはBTCにとって悪い話ではない。まず、FRBが利下げを拒む理由の一つが失われた。
また、今回の貿易戦争の根本は貿易不均衡の是正であり、減税の財源にも関税を充当する予定だった。このままでは貿易・財政の双子の赤字が拡大する。ドルの信認低下はBTCの買い要因となりそうだ。
5月30日の朝方、この差し止めが控訴審で停止となった。たった一晩での停止には驚くばかりだが、この停止が長引くかどうかも不透明だ。通商交渉に加え、この裁判沙汰も加わって短期的には相場の重しとなりそうだ。
6月の見通し:続く不透明感、20万ドル超えは7月に持ち越しと予想
BTC/USD月次騰落
前回の5月予想で「上値余地を探る展開」とし、「5月は史上最高値を若干超える11~12万ドル程度で、20万ドル台を目指す本格上昇は相互関税の落ち着きどころが判明する7月以降」と述べた。まさにその通りの展開となり、6月も同様の展開が続きそうだ。
相互関税の7月9日という期限がなくなったのか、なくなっていないのかもよく分からない状況となり、政権側の次の一手がさらに読みにくくなり、不透明感が増した。市場がこの新たな状況に慣れるには数週間はかかると考える。
もし相互関税がなくなればインフレリスクは払拭(ふっしょく)され、4.5%の政策金利を継続する正当性が希薄となる。逆に高金利を維持すれば、利払い負担で米財政はさらに悪化し、ドルからの逃避圧力が強まる。
ただし、ニューハンプシャー州などが購入を始めるのは7月以降であり、関税を巡る不透明感は一時的に高まっている。需給の改善が相場を下支えするものの、本格的な上昇は7月以降との見方は変わらない。月次アノマリー的にも5月から7月は強い時期だが、6月より7月の方がより強い。6月はもみ合いか若干の上昇といったところか。
2025年予想


日曜日に野辺山の電波望遠鏡を見に行ってきました。劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)」の舞台となったあの施設です。天文台の隣のプラネタリウムでもオリジナル特別映像を上映。駅からはコナンのラッピングバスが運行され、野辺山はちょっとしたコナンフィーバーでした。所長さんもコナンの服装で案内しています。
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(松田 康生)