日本製鉄によるUSスチール買収が認められる可能性が高まった意義は大きい。トランプ政権による鉄鋼アルミ関税は50%へ。
日経平均は「3万8,000円の壁」で打ち返される
先週(営業日5月26~30日)の日経平均株価は、1週間で804円上昇して3万7,965円となりました。29日には一時3万8,454円まで上昇しましたが、反落して3万8,000円を割れました。
日経平均週足:2024年1月4日~2025年5月30日

テクニカル分析の視点から日経平均週足を見ると、下値は堅いものの上値もやや重くなっていることが分かります。
【1】日経平均の下値は堅くなっている
日経平均は昨年8月「令和のブラックマンデー」で3万8,000円を割れると一気に3万1,156円まで下がりましたが、急反発してすぐに3万8,000円台を回復。
日経平均は今年4月「トランプ関税ショック」で3万8,000円を割れると一気に3万0,792円まで下がりましたが、急反発して一時3万8,000円台を回復。
去年の8月も今年の4月も、海外投機筋が日経平均先物を大量に売って下値トライを狙いましたが、投機筋は2回ともその後の急反発で巨額の損失を出しました。これで投機筋は下値トライしにくくなってきました。
【2】日経平均は目先、上値が重くなりそう
日経平均は、3万8,000円超えを2週続けてトライして、2回とも打ち返されました。3万8,000円の壁の厚さを再認識した形です。3万8,000~4万円は、トランプ関税ショックが起こる前に、日経平均が長く滞留していたレンジで戻り売りが出やすい。「トランプ関税前」に戻るのは、時期尚早。
強弱材料が拮抗
以下の通り、強弱材料が拮抗(きっこう)していることから、日経平均は目先、大きくは上下とも動きにくくなるとみています。
強材料
【1】日米貿易交渉が進展交渉内容はわかりませんが、日米交渉期限である6月末までになんらかの合意ができると推定されます。相互関税の上乗せはなく、世界各国一律に課されている10%関税だけで済むと予想されます。ただし、日本が求めている自動車関税や鉄鋼アルミ関税の減免は、無いと思われます。
【2】日本製鉄によるUSスチール買収が認められる見込み
最終的な合意には至っていないが、日本製鉄による買収が認められる見込みです。100%買収になるか分かりませんが、米国政府がUSスチールの黄金株を保有することで、日本製鉄はUSスチールのかなり高い保有比率を取れる見込みです。
実現すれば、日本製鉄の米国生産比率が高まり、トヨタ自動車など日本の自動車メーカーの米国調達比率が高まるので、米国の自動車関税・鉄鋼アルミ関税の影響緩和に効果があります。トランプ関税のダメージは、日本では自動車産業・鉄鋼産業に大きくなると思われますが、トヨタ・日本製鉄などは2~3年かけて関税のダメージを克服していけると思います。
なお、日本製鉄による買収は、買収されるUSスチールにも大きなメリットがあります。日鉄は2兆円もの投資をして設備を刷新、技術を導入してUSスチールを再生することを約束しています。USスチールは汎用(はんよう)スチールでの過当競争を脱し、差別化された高級鋼で勝負できるようになると考えられます。
【3】米国際貿易裁判所がトランプ関税差し止めを命じる
米国際貿易裁判所は28日「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく相互関税などトランプ大統領が打ち出した関税を違法と判断し、差し止めを命じました。ただし、二審に当たる米連邦巡回区控訴裁判所は29日、判決の一時停止を命じました。そのため関税措置は継続されます。
最高裁がトランプ関税の差し止めを認める可能性は低いものの、こうした訴訟が起こることがトランプ関税の暴走に対して、一定の抑止力を発揮することが期待されます。
弱材料
【1】トランプ関税がさらに強化されるリスクは残る相互関税の上乗せは世界中のほとんどの国に対して適用されない期待があるものの、先行き予断を許しません。
トランプ政権は鉄鋼アルミ関税を6月4日からさらに25%上乗せして50%にすると発表。日本製鉄は、USスチールを買収できればその影響を一部回避できるようになりますが、買収を完了して設備刷新して米国生産を増やすのに、相当時間がかかります。当面は、鉄鋼50%関税のマイナス影響が、日本の鉄鋼産業・自動車産業に降りかかります。
トランプ大統領は、半導体・医薬品関税の導入を予告したり、対ロシアで高率関税導入を脅したり、関税強化を対外交渉の武器として世界を振り回す構図は変わっていません。
【2】世界的に超長期金利が上昇
世界的な超長期金利上昇に歯止めがかかりません。日米欧の政府・中央銀行が財政・金融の大盤振る舞いを続けていること、米国が保護主義を強めていることから、インフレ懸念が強まっています。短期金利は金融政策で抑え込んでいても、超長期金利の上昇は抑えることができなくなっています。
米国および日本の長期(10年)金利・超長期(30年)金利推移:2019年末~2025年5月末

日本株が割安で、長期的な上昇余地が大きいという見方は変わらないものの、上記の考察より、日経平均は目先、大きくは上下とも動きにくい展開が予想されます。
世界的にインフレが横行する時代へ
トランプ大統領の関税強化策に対して、米国内には熱狂的な根強い支持者がいます。関税ショックは、トランプ大統領一人が起こしていることではなく、米国が重大な構造転換期に差し掛かっている結果とも言えます。
これまで自由貿易を前提に、世界中で製造業の競争が激化し、安くて良いモノが世界中でいくらでも簡単に手に入る時代となりました。そのうち、いつの間にか、世界中で自由貿易のありがたさが忘れられ、自由貿易のマイナス面ばかりが言われるようになりました。
英国が欧州連合(EU)から離脱し、トランプ政権が関税強化をあげて保護主義に走るのは、重大な構造変化を表していると言えます。
今後、世界中で保護主義が横行して世界経済の分断が進むと、モノ不足からインフレが起こりやすくなります。それに加えて、日本も米国も欧州も、財政金融の大盤振る舞いに歯止めがかからないことを考えると、その行きつく先は「インフレ」だと思います。「インフレ」が常態化する時代になることを意識して、投資戦略を考える必要があると思います。
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(窪田 真之)