4月の市場混乱は、米国株を買い増す絶好のチャンスだった。関税政策への過度な不安やリセッション懸念が後退する中、AI革命の「第二幕」がナスダック主力銘柄を復調傾向に。
不確実性に覆われた4月は「積み増し買い」の好機だった
米国市場では5月下旬、S&P500種指数(S&P500)とナスダック100指数(ナスダック)の両指数が、年初来プラス圏へ浮上。図1は2020年初を起点とする両指数の推移を示します。
図表1:ナスダック主力株の反発がリードして米国株は復調を鮮明に

市場は2020年のコロナショック、2022年のインフレ主導の利上げ局面、そして2025年4月のトランプ・ショック(相互関税発表)などの波乱に揺れながらも、ナスダック主力株が時価総額の重みを生かし、市場全体を成長トレンドへとけん引しています。
トランプ政権の高関税方針の見直し報道や発動延期を受けて、通商摩擦への過度な懸念が後退。あわせて米国経済のリセッション懸念も和らぎ、5月13日にはJPモルガン・チェース・アンド・カンパニーが「年内の景気後退見通し」を撤回し、市場に安心感をもたらしました。
一方でムーディーズによる米国債の格下げが警戒感を呼び、一時的に長期金利が上昇。不透明感が払しょくされたわけではありませんが「米・経済政策不確実性指数」は、4月2日の相互関税発表後にピークとなる975へ急騰した後、5月28日には247へと大幅に低下してきました( Economic Policy Uncertainty Index for United States )。
不確実性が極まった4月初旬が、冷静な投資家にとって、絶好の仕込み場(積み増し買いの好機)であったことが浮き彫りとなりました。
図表2に示す80年にわたるS&P500の対数チャート(月次)が示唆する通り、短期の揺れに一喜一憂せず、長期的視野に立って米国株への分散・積立投資を粘り強く続けることが、合理的かつ実績ある資産形成戦略であることがあらためて確認されます。当面は、関税交渉の行方とその実体経済に与える影響を見極める動きとなりそうです。
図表2:S&P500の長期タイムトレンドを振り返る(過去80年)

AI革命のメガトレンドが「第二幕」を迎えた可能性
ナスダックは1月27日の「DeepSeekショック」以降、人工知能(AI)関連株の需給悪化を要因に中間反落を強いられました。しかし4月発表の1-3月期決算とガイダンスで、いわゆる「ハイパースケーラー」と呼ばれる、大手テック企業によるAI関連投資の拡充が明確に示され、主要テック株は底入れから回復基調へ転じました。
5月28日の エヌビディア(NVDA) 決算発表では、売上高が前年同期比+69.2%(約440.6億ドル)と市場予想平均を上回り、生成AI関連需要の力強さが浮き彫りとなりました。
さらに、トランプ大統領が5月に訪問したサウジアラビア、UAE、カタールで、総額約2兆ドル(約288兆円)規模のディールが成立。中でもアブダビに建設予定のAIデータセンターは電力容量5ギガワットと、米国外最大級になる見込みです。これらにより、AIインフラ整備が一段と加速し、クラウドや半導体企業の収益成長に強力な追い風が吹くと見込まれます。
生成AIが、ビジネスを効率化する「補助ツール」から「社会インフラ」へと進化する局面に突入した、との見方も広がっており、流通・金融・医療・製造など幅広い業種の生産性向上に貢献するに伴い、メガトレンドとしてのAI相場が「第二幕」へ移行した可能性があります。
図表3にある、米Allied Market Research社の予測によれば、世界のAI市場規模はソフト・サービス・ハードの合計で2033年には約3.6兆ドル(約523兆円)と2022年比で約32.5倍に拡大(年率平均では約37%成長)する見通しです。
生成AIの進化が汎用(はんよう)AI(AGI)を経て、10年以内に人工超知能(ASI)の実現へと向かう可能性が論じられる中、主力銘柄の入れ替わりを伴いつつも、ナスダックのダイナミズムが、引き続き米国株式の成長エンジンとなる展開が期待されます。なお、S&P500ベースの予想1株当たり利益(EPS)(市場予想平均)は2024年に続き、2025年も2026年も二桁増益が見込まれています。
図表3:世界のAI市場規模は2033年には32.5倍に拡大する見込み

米国のGDP規模は50年後も「世界一」を維持する見込み
短期では「トランプ劇場」に市場が振れやすい局面でも、長期目線で米国株投資の本質的価値を再確認したいところです。図表4にある日本経済研究センターの長期経済予測(2025年3月公表/標準シナリオ)は、市場関係者の関心を集めました。
図表4:米国のGDP規模は50年後も「世界一」を維持する見通し

5年ぶりに更新された同予測(2075年の実質GDP(国内総生産)順位/2017年価格基準)では、米国が50年後も「世界一」を堅持する一方、日本は世界4位から11位に後退すると試算されています。
米国が将来も経済覇権を維持する要因としては、人口動態の安定、イノベーション(技術革新)の継続、付加価値創造による生産性の伸長、そして潤沢なリスクマネーの供給体制が挙げられます。
とくに、シリコンバレーを中心に最先端のテック企業や人材が集積し、株主資本主義のダイナミズムが競争力を一段と高めています。
同時に、新陳代謝が加速し、市場評価(時価総額)により勝者と敗者が明確になるのも米国市場の特徴です。第2次トランプ政権発足後に発表された5兆ドル(約720兆円)超の累計対米直接投資(ホワイトハウス公表)は、今なお市場に織り込まれていない可能性もあります。関税政策が「目的」ではなく「交渉カード」であるという実態も再認識されつつあります。
さらに、所得税や法人税の減税、規制緩和など、2026年11月の中間選挙を見据えた政策は、株価と支持率の押し上げを狙った動きといえます。トランプ氏の朝令暮改な言動に市場が翻弄(ほんろう)されても、基軸通貨ドルと米国株の地位は不変とみられます。
国際決済や資産運用の中核を担う米ドルの存在が金融市場の流動性と成長の継続を支えています。トランプ政権で存在感を増すベッセント財務長官は「強いドル政策の堅持」を4月に明言。巨額債務を抱える米国にとってドル安は輸入インフレや対外債務の悪化要因であり、為替相場も慎重に織り込む必要があるでしょう。
NYSEやナスダックといった巨大市場の存在は、資本調達と企業成長の基盤となり、「世界最強の資本主義」を支える柱です。米国株への長期分散投資は資産形成の王道といえるでしょう。
(香川 睦)