先週はEU50%関税方針にすぐ猶予が与えられたことや日本の長期金利の急上昇が一服したこともあり、日本株は米国株以上に上昇しました。今週は米国の景気・雇用指標の発表が相次ぎます。
トランプ政権の中国ハイテク企業制裁の行方は!?国内長期金利上昇で日銀の植田総裁発言に注目!
先週はトランプ大統領が発表した欧州連合(EU)への50%追加関税の発動がすぐに7月9日まで延期されたことや人工知能(AI)関連の花形株 エヌビディア(NVDA) が予想を上回る決算を発表したことで日米の株価が上昇。
日経平均株価(225種)は前週末比804円(2.2%)高の3万7,965円まで、米国株以上に上昇しました。
日本国内の満期まで20~40年の超長期国債の価格が反発(金利は低下)したことで、超長期国債を大量に保有する保険セクターが週間の業種別上昇率首位になりました。
また、エヌビディア決算を好感してAIデータセンター関連株の多い非鉄金属セクター、1ドル=142円50銭台から144円ちょうどまで緩やかながら円安が進んだことで自動車株の多い輸送用機器セクターも上昇率上位に入りました。
33業種中31業種が上昇する、ほぼ全面高の展開でした。
一方、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は前週末比1.88%高と先々週の下げから反発に転じました。
ただ30日(金)にはトランプ大統領がSNSで「中国は米国との合意に違反した」と発信し、中国のファーウェイ(華為技術)などハイテク企業の子会社にも禁輸など制裁措置を拡大する方針であることが明らかになりました。
また、米国に輸入される鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税を6月4日(水)以降、現状の25%から50%に引き上げると表明するなど、今週もトランプ大統領の気まぐれな関税政策の発動と猶予・撤回に振り回される展開になりそうです。
6月相場が始まる今週の米国では、6月2日(月)に5月全米供給管理協会(ISM)製造業景況指数、4日(水)に5月ISM非製造業景況指数、6日(金)には5月雇用統計が発表されます。
5月12日(月)には米中の貿易交渉でトランプ政権が中国への追加関税を145%から30%に引き下げることを発表。
その影響で米国の5月の景況指数や雇用が上向きに転じるようなら、株価の続伸に期待できそうです。
ただ先週、28日(水)に発表された5月7日終了の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録では、ほぼ全ての参加者が米国で物価高が予想以上に継続する見解を示し、雇用も大幅に弱まる見通しが示されています。
そんな中、6月2日(月)夜には米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がFRBの式典で講演する他、3日(火)には日本銀行の植田和男総裁も民間の会議で講演予定です。
日本国内では、5月東京都区部の「変動の激しい生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)」が前年同月比3.6%の伸び率となるなど、3カ月連続で物価高が加速しています。
物価高と超長期国債の価格下落という板挟み状況の中、植田日銀総裁が2025年のどの時期に追加利上げを行う意向なのかを表明すると、日本株や円相場に大きな影響を与えそうです。
6月相場入りとなる2日(月)の日経平均は、3万7,651円でスタート。
先週:保険株から自動車株まで底堅い日本株。思惑買いや材料株の急騰も目立つ!
先週はトランプ大統領がEUへの50%関税をたった3日ですぐに引っ込めて猶予を与えたことや、28日(水)に米国の国際貿易裁判所がトランプ関税の差し止めを命じたことで、トランプ関税に対する楽観論が台頭して株価は上昇しました。
27日(火)に米国民間調査会社コンファレンスボードが発表した5月の消費者信頼感指数が、12日(月)発表の米中の追加関税大幅引き下げを好感して、市場予想を大幅に上回る結果となったことも追い風でした。
日本時間29日(木)朝には米国高速半導体メーカーのエヌビディア(NVDA)が2025年2-4月期の決算を発表。
好調なAIデータセンター向け半導体の販売で売上高、純利益ともに予想を上回りました。
ただ、中国向け半導体輸出規制の影響で純利益は2年ぶりに最高益を更新できず、今期2025年5-7月期の売上高も市場予想に届きませんでした。
30日(金)にトランプ政権による中国ハイテク企業への追加制裁観測が報道されたこともあり、同社の株価は前週末比2.92%高と小幅高に終わっています。
また、28日(水)のトランプ関税差し止め命令は翌29日(木)、米国連邦高裁がその効力を一時的に停止する判断を下したことで再び高額関税が続くことになり、米国株の上昇は限定的でした。
一方、日本株はトランプ大統領の過激な関税政策を嫌った投資資金が米国を逃げ出し日本に還流していることもあって、非常に力強い展開が続いています。
大型株の組み入れ比率が高い東証株価指数(TOPIX)は3月26日につけた2025年の最高値まであと20ポイント(0.7%)まで急接近しています。
27日(火)には超長期国債の金利急上昇を受けて、財務省が2025年の国債発行計画の年限構成見直しを検討していることも明らかになり、日本の30年国債の利回りが史上最高の3.19%台から2.84%台に低下しました。
長期金利の急上昇が一服(価格は下落)したことで、長期国債の保有残高が多い保険株が軒並み上昇。
主力の 第一生命ホールディングス(8750) は前週末比5.4%高、 東京海上ホールディングス(8766) は6.3%高でした。
また一時1ドル=146円20銭まで円安が進んだことで、 トヨタ自動車(7203) が5.5%高となるなど自動車株も好調でした。
エヌビディアの決算でAIデータセンター向け投資が依然として活発なことが判明し、光ファイバーを製造する フジクラ(5803) が7.5%高になるなど、非鉄金属セクターも続伸しました。
また半導体検査装置メーカーでエヌビディアへの販売が多い アドバンテスト(6857) が8.1%高となるなど、半導体株の一部も反発しました。
個別株では、政府が老朽化した下水道管の更新工事を2030年度までに完了させる方針を示したことで下水道管最大手の 日本ヒューム(5262) が32.8%も急騰。
携帯キャリアで唯一、傘下に銀行を持たないNTTドコモが買収を表明した 住信SBIネット銀行(7163) は30日(金)もストップ高買い気配のまま取引を終了し、前週末比42.4%も急上昇しました。
また、トランプ大統領が 日本製鉄(5401) の USスチール(X) 買収に対して「パートナーシップは歓迎」と一定の理解を示したことで、日本製鉄は1.4%の小幅高にとどまったものの、製鉄炉向けに耐火レンガを製造する 黒崎播磨(5352) が18.5%高。
米高騰にともなう政府の備蓄米放出で精米工場の奪い合いが起きているという報道で、精米機を製造する 井関農機(6310) が13.2%高となるなど、相場が好調なときに発生しやすい「思惑買い」で急騰する銘柄も目立っています。
また、2025年6月から企業における熱中症対策が罰則付きで義務化されることを受け、熱中症対策関連商品も販売する東証スタンダード市場上場の リベルタ(4935) は63.6%も急騰。
特定の材料で株価が短期的に急上昇する材料株も出てきました。
特に先週は東証グロース市場250指数が4.6%も上昇し、トランプ関税の影響を受けない中小型の内需系成長株の好調ぶりが目立ちます。
今週:FRBの予想外れる?米国の5月景気・雇用指標が上向きなら続伸も!?
今週は米国で重要な景気・雇用指標の発表が相次ぎます。
6月2日(月)にはISMの5月製造業景況指数、3日(火)には4月の雇用動態調査(JOLTS)の求人件数、4日(水)には給与計算代行会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)社の5月民間雇用統計やISMの5月非製造業景況指数、6日(金)には5月雇用統計が発表されます。
トランプ関税の悪影響を受けやすいISM製造業景況指数は前回4月分が予想ほど悪化せず、4月の雇用統計の非農業部門雇用者数も前月比17.7万人増と予想を大きく上回りました。
5月は米中の通商交渉で追加関税率が大幅に引き下げられたこともあり、今週発表される5月の経済指標の結果が良好だと、株高が進む可能性も高いでしょう。
トランプ関税は過熱した米国の景気を「少し冷やす」効果があっただけで、米国の景気後退につながることはないという超楽観論が優勢になるかもしれません。
ただ、先週28日(水)のFOMC議事録では参加者の多くがトランプ関税の悪影響で物価高と雇用悪化が続くと予想しています。
FRB高官たちの予想が外れるのか、当たるのか、今週の米国経済指標の結果に注目です。
また、3日(火)には日銀の植田総裁も民間講演で発言します。
日本国内では、米の価格高騰など物価高が社会問題化する一方、日銀の早期利上げ観測もあって長期国債の金利が上昇するなど、債券市場が不安定になっています。
先週5月28日(水)に実施された40年国債の入札は、財務省が今後、超長期国債の発行を減額する意向もあって金利が低下したため、不調に終わりました。
行き過ぎた金利上昇(債券価格の下落)は日本発の金融不安につながる恐れもあるため、植田総裁が超長期国債の買い支えプランなどを示すかどうかにも注目です。
また、トランプ関税差し止め命令で一時1ドル=146円20銭まで円安が進んだものの、差し止め命令が米国連邦高裁によって一時的停止となった30日(金)には一時1ドル=143円40銭台まで円高が進んでいます(終値は144円ちょうど)。
為替相場の不安定な動きが続くようだと、自動車株など外需株にとっては逆風になるでしょう。
(トウシル編集チーム)