米国の関税政策に対する警戒感が再燃しつつあります。日経平均株価3万8,000円の上値抵抗意識が目先はより強まることになりそうです。

当面は輸出関連などのハイテク株よりも、下値抵抗の強いバリュー株に買い安心感が強まるでしょう。今回は連続増益が続く、4%以上の高配当利回り銘柄を紹介します。


【配当利回り4%以上】3期以上2ケタ営業増益予想の6銘柄:西...の画像はこちら >>

米国関税政策に対する過度な警戒感和らぎ、日経平均株価は一時3万8,000円台回復

 5月(5月2日終値~5月30日終値)の日経平均株価(225種)は3.1%の上昇となりました。期間中前半は買いが先行し、13日には同期間での高値3万8,494円まで上昇しました。これは2月21日以来の高値水準となります。


 その後は22日の安値3万6,855円までいったん調整しましたが、75日移動平均線水準が下支えとなり、月末にかけて再度盛り返す動きとなっています。なお、この期間(5月2~30日)のダウ工業株30種平均は2.3%の上昇となっていますが、ナスダック総合指数に至っては6.3%の上昇でした。


 東京市場は、ゴールデンウイーク明けは落ち着いたスタートになりましたが、その後、米国と英国が通商協定で合意したことに加え、トランプ大統領が協議次第で対中関税の引き下げの可能性に言及したため、関税協議の進展が期待される形から上昇に転じました。中国との協議では、90日間の一時的関税率大幅引き下げで合意が形成され、一段高となる展開にもなりました。


 ただ、その後は、日経平均株価の3万8,000円台回復に伴う短期的な達成感、為替市場での円高反転の動きから、いったん調整に転じています。格付会社ムーディーズが米国債の格下げを発表したことで、円高もさらに進む形となりました。月後半にかけては、再度上昇に転じる動きとなっています。


 トランプ大統領が欧州連合(EU)からの輸入品に対し6月1日から関税50%を課すことを提案しましたが、すぐに、発動時期は7月9日まで延期すると伝わり、米国関税政策に対する過度な警戒感が和らぐこととなりました。

経済指標を受けた米国景気の過度な先行き懸念の後退、米半導体大手エヌビディアの好決算発表なども市場の支援材料となりました。


 5月前半は2025年3月期の決算発表が本格化したことで、決算内容や株主還元強化策などを受けて個別物色の動きが強まりました。また、決算発表のタイミングでは、グループ再編などの動きも多く顕在化しました。上昇率が目立ったのは、好決算発表では 楽天銀行(5838) 、株主還元強化では クレハ(4023) でした。


  古河電気工業(5801) や 住友電気工業(5802) などは決算発表後の説明会の内容が評価材料となりました。 IHI(7013) 、 川崎重工業(7012) 、 三菱重工業(7011) など主力の防衛関連銘柄もこの期間は強い動きが目立ちました。


 また、 日新(9066) は経営陣による買収(MBO)の実施を発表したほか、 NTTデータグループ(9613) は NTT(日本電信電話:9432) が、 住信SBIネット銀行(7163) は NTTドコモ(9437) が、それぞれ子会社化に向けた株式公開買付(TOB)を実施すると発表したことで、各銘柄とも急伸しています。


 ほか、ビットコイン価格の上昇を手掛かりに、 メタプラネット(3350) など暗号資産関連として位置づけられる銘柄の一角が急騰しました。半面、 ディー・エヌ・エー(2432) 、 ツムラ(4540) 、 オムロン(6645) 、 シャープ(6753) などは決算がネガティブに受け止められました。


米関税政策への警戒感が再燃の方向に。日本株は自動車関税の行方が最大の焦点へ

 トランプ大統領は、6月4日から鉄鋼とアルミニウムへの関税を25%から50%に引き上げると表明しています。また、中国との貿易協議を巡っても、詳細は明らかにしていませんが「中国は米国との合意を破った」と発言し、中国の対応に不満を強めているようです。


 ここまで、米国の関税政策に対して過度な警戒感は和らぐ方向となってきていましたが、各国による対抗措置の可能性なども含めて、あらためて株式市場の重しとなってくることが想定されます。


 ここまでのトランプ大統領の対応から考えると、当初の強硬姿勢から結局は緩和方向に向かう可能性が高いとみられますが、当面は買い手控えムードが優勢となりやすいでしょう。日経平均株価3万8,000円水準は上値抵抗ラインとの意識がより強まることになってしまいそうです。


 日経平均株価の月別騰落率を見ると、11月~4月が高く、5月~10月が相対的に低い傾向が見て取れます。ただ、5月~10月においては、6月は比較的堅調な推移をたどることが多いようです。


 その背景として、ボーナス時期に当たること、この時期には3月期決算企業の配当金の支払いが行われること、月後半に株主総会の集中日が到来することで企業側の株価意識が強まることなどがあります。2025年もこうした傾向は当てはまると考えられ、米国関税懸念が株価の上値を抑制しても、下値は比較的底堅くなる公算が大きいでしょう。


 ただし、日本株にとっての目先の最大のリスク要因は自動車関税の行方です。6月15~17日にかけてはG7サミットが開催されますが、それにあわせて、トランプ大統領と石破茂首相の首脳会談が行われるとみられます。ここで関税緩和への期待が大きく後退するようであれば、日本株の下落余地が大きくなっていく可能性には注意です。


 当面の注目イベントとしては、6月16~17日の日本銀行金融政策決定会合、17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)などが挙げられます。ただ、米国の関税政策の影響が不透明な中では、金融政策はともに現状維持となり、大きな手掛かり材料にはなりにくいでしょう。

それに先立ち、欧州中央銀行(ECB)理事会が6月5日に開催されます。


 こちらは0.25%の追加利下げ実施がコンセンサスですが、同時に発表される経済見通しなどが注目されてくるでしょう。決算発表では、AI半導体関連となる ブロードコム(AVGO) の決算が注目されますが、好感材料とされるにはハードルが高いとみられます。


 当面は、プライム市場と比較して足元の株価推移が好調なスタンダード市場やグロース市場銘柄など、個人投資家主体の中小型株物色に優位性がありそうです。また、米国の関税政策や為替相場に影響を受けにくい内需株に、引き続き買い安心感が高いでしょう。


 株主総会の集中日を控えて、親子上場解消の動きやキャッシュリッチで割安感の強い銘柄のMBOの動きなどにも関心を払っておきたいところです。


連続2ケタ増益が続く好業績の高配当利回り銘柄に注目

 2025年3月期の決算発表が通過したタイミングでもあり、今回は業績にスポットを当てたいと考えます。2024年3月期、2025年3月期ともに2ケタの営業増益を達成、かつ、2026年3月期も2ケタ増益を見込んでいる高配当利回り銘柄を選定しました。ちなみに、選定された銘柄は米国関税政策や為替相場の行方に影響を受けにくい内需系銘柄が結果的に多くなっています。


 6月は配当金の支払いが行われることもあって、その分が再投資されるには、高配当利回り銘柄が多くなりやすいとも考えられます。比較的、6月はバリュー株がグロース株より良好な株価推移を見せることが多いともされています。なお、好業績が続いている銘柄には、短期的な減配リスクが極めて乏しいことも買い安心感につながるといえるでしょう。


(表)連続2ケタ営業増益を続ける高配当利回り銘柄 コード 銘柄名 配当利回り
(%) 5月30日
終値(円) 時価総額
(億円) 営業増益率
(%) 株価騰落率
(%) 7226 極東開発工業 5.46 2,566.0 1,030 44.2 0.55 1820 西松建設 4.55 4,840.0 2,022 18.5 -7.63 1961 三機工業 4.34 3,800.0 2,077 11.9 20.06 7981 タカラスタンダード 4.33 2,311.0 1,554 10.0 36.66 4043 トクヤマ 4.25 2,821.0 2,033 38.5 6.96 3107 ダイワボウホールディングス 4.10 2,438.0 2,349 10.3 -21.02 注1:営業増収率は2026年3月期予想
注2:株価騰落率は年初来

銘柄選定の要件

  • 3月期本決算
  • 配当利回りが4.0%以上(5月30日時点)
  • 時価総額が1,000億円以上
  • 2026年3月期予想含めて3期以上連続営業2ケタ増益
  • 厳選・高配当銘柄(6銘柄)

    1 極東開発工業(7226・東証プライム)

     ダンプトレーラーやコンクリートポンプ車、ミキサーなど、国内トップクラスの特装車事業が主力です。また、リサイクル施設などの施工を行う環境事業、立体駐車装置などのパーキング事業も手掛けています。


     インド、インドネシア、オーストラリアを中心とした海外事業拡大にも注力中で、2024年12月には、オーストラリアの特装車メーカーであるSTG社をグループ化しています。2026年6月には、グループの技術開発の要となるテクニカルセンターが愛知県豊田市に完成予定です。2028年3月期を最終年度とする新中期経営計画では、売上高1,900億円、営業利益率8%を目標としています。


     2024年3月期営業利益は48億円で前期比4.9倍、2025年3月期は66億円で同38.0%増となっています。


     さらに、2026年3月期は96億円で同44.2%増の見通しです。国内トラック事業の一定程度の回復、ドライバー不足に対応できる高付加価値・高効率輸送製品の需要増加を想定するほか、インフラ開発プロジェクトの増加によるインドでのトラック需要の高レベルな伸長を見込むとしています。


     2026年3月期の年間配当金は前期比18円減の140円を計画しています。2025年3月期までは各年度の総還元性向を100%に設定していましたが、2026年3月期以降の新中計では、株主資本配当率(DOE)4%以上の安定的な利益還元を目指すとしています。


    2 西松建設(1820・東証プライム)

     準大手ゼネコンの一角で、ダムやトンネルなどの土木工事に強みがあります。施工ダム数は2020年3月現在で193カ所となるようです。アセットバリューアッド事業(旧:開発不動産事業)、再生可能エネルギー事業・まちづくり事業を足掛かりとした地域環境ソリューション事業なども展開しています。


     海外はタイ、ラオス、ベトナムなどに進出しています。 伊藤忠商事(8001) と資本業務提携関係にありますが、2025年5月には、伊藤忠が出資比率を19.9%から22%に引き上げたことで、持分法適用会社となっています。

    伊藤忠は建材や不動産事業にも注力中で、今後のシナジー拡大なども期待できるところです。


     2024年3月期営業利益は188億円で前期比49.2%増、2025年3月期は210億円で同12.1%増となっています。さらに、2026年3月期は250億円で同18.5%増の見通しです。物価上昇の影響を受けた工事の割合がさらに減少することで、国内建築事業の収益性が改善する見通しのようです。


     海外においては、期ずれしたフィリピンとバングラデシュのODA案件を受注する見込みであるほか、タイ子会社で外資企業の大型案件の受注を見込んでいるようです。2026年3月期年間配当金は前期比横ばいの220円を計画しています。配当方針に関しては、2025年3月期より、DOE5%程度の安定配当を目指すとしています。


    3 三機工業(1961・東証プライム)

     設備工事大手企業の一社です。空調、衛生、電気、情報通信、オフィス移転などの建築設備事業、搬送システム、コンベヤなどの機械システム事業、上・下水処理施設、ごみ焼却施設などの環境システム事業といった幅広い事業領域で展開しています。


     海外には、オーストリア、中国、タイ、米国に関連会社があります。高効率な省エネルギー設備を備えた建築物を指すネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)Ready物件の竣工実績などもあります。建物用途別では工場向けが4割強を占め、主要施主業種別では自動車や電機が相対的に高い比率となっています。リニューアル比率が6割近い水準であることも特徴です。


     2024年3月期営業利益は115億円で前期比2.1倍、2025年3月期は218億円で同88.9%増となっています。さらに、2026年3月期は245億円で同11.9%増の見通しです。受注高の減少を見込んで売上高は横ばいの見通しですが、繰越工事の利益見通しと施工における利益率改善が今後も見込まれるとして、利益水準は増加する計画としているようです。


     受注高に関しては、機械システムの大幅増を見込んでいます。年間配当金は前期比横ばいの165円を計画しています。2028年3月期までの新中計においては、配当方針に関して、これまでの配当性向50%以上から、DOE5.0%以上に変更しています。また、3年間累計で、400万株程度の自己株式取得を目指すとしています。


    4 タカラスタンダード(7981・東証プライム)

     業界トップシェアのシステムキッチンをはじめ、浴室や洗面化粧台などを扱う総合住宅設備機器メーカーです。金属の表面にガラス質の釉薬(ゆうやく)を焼き付けた複合材料「ホーロー」を独自素材として使用していることが特徴です。マンション向けシステムキッチンに強いとされているほか、業界最多とされる全国約160カ所のショールーム網も強みとなっています。


     住宅着工戸数が減少傾向にある中、リフォームへの取り組みを強化しています。また、従来から取り組んでいる台湾、中国、ベトナムにインドネシア、インドを加えた5エリアを中心に、海外売上拡大を目指しています。


     2024年3月期営業利益は124億円で前期比13.6%増、2025年3月期は156億円で同25.8%増となっています。さらに、2026年3月期は172億円で同10.0%増の見通しです。足元で回復基調のリフォーム向けの売上増加に加えて、新築向けの利益率向上を想定しているほか、生産の合理化や在庫圧縮などのコストダウンを進めて、利益率の向上を図っていく方針です。


     2026年3月期年間配当金は前期比22円増の100円を計画しています。これまでの株主還元方針は配当性向40%でしたが、これを50%まで高める計画です。さらに、2026年3月期から2027年3月期にかけて、約220億円の自己株式取得を目指す方針としています。


    5 トクヤマ(4043・東証プライム)

     半導体製造に不可欠な多結晶シリコンで世界シェア20%を占めています。また、放熱材料となる窒化アルミ粉末でも世界シェアトップ、ソーダ灰は国内で唯一の製造会社となっているほか、苛性ソーダは国内シェア3位、セメントは同4位の位置づけとなるようです。


     事業ポートフォリオの転換に注力中で、電子先端材料事業やライフサイエンス事業など、成長事業の売上高比率を2026年3月期に50%以上まで引き上げる方針です。高純度多結晶シリコンの破砕および洗浄工程の工場をベトナムに新設、2027年前半に商業運転開始を予定しています。


     2024年3月期営業利益は256億円で前期比78.8%増、2025年3月期は299億円で同16.9%増となっています。さらに、2026年3月期は415億円で同38.5%増の見通しです。半導体市場は先端用途を中心に一定の回復を想定しているほか、歯科器材は新棟が竣工することでさらなる拡販を目指し、ヘルスケア関連製品も拡大する予想です。


     原燃料価格の下落も増益要因として寄与するとみています。米国関税政策による影響は不透明とし、為替は1ドル=140円を前提としています。2026年3月期年間配当金は前期比20円増の120円を計画しています。2025年3月期以降、株主還元はDOE3%を目標と設定しています。


    6 ダイワボウHD(3107・東証プライム)

     ITインフラ流通事業を手掛けるダイワボウ情報システムを中核とする持株会社です。独立系のマルチベンダーとして、PCをはじめ世界中のメーカー約1,500社の商品・サービスを販売、取扱商品数は約290万アイテムとなっています。全国101拠点での地域密着型営業によるパートナー企業との協業体制が強みになっています。


     中大型立旋盤で国内シェアトップなど、工作機械や自動機械を扱う産業機械事業なども展開しています。合繊・レーヨン、産業資材、衣料製品を扱っていた繊維事業は2024年3月に譲渡を行っています。中長期ビジョンでは、2031年3月期営業利益500億円を目指しています。


     2024年3月期営業利益は309億円で前期比10.8%増、2025年3月期は348億円で同12.7%増となっています。さらに、2026年3月期は385億円で同10.3%増の見通しです。2025年10月のWindows10サポート終了に向けてPCの更新需要が継続するほか、GIGAスクール構想第2期の端末更新も本格化が見込まれるようです。


     ITインフラ流通事業の売上高2ケタ成長を見込み、人件費の増加やシステム改修費の増加などコスト増をカバーする見通しです。産業機械事業における関税の影響を一定程度織り込んでいます。2026年3月期年間配当金は前期比10円増の100円を計画しています。現在の株主還元方針としては、配当性向30%以上、自己株式取得を含めた総還元性向60%以上を目安としています。


    (佐藤 勝己)

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