6月のドル/円は、トランプ関税よりも米国の財政・景気悪化懸念に左右され、1ドル=140円台を試す展開となりそうです。米経済のスタグフレーション懸念が強まる中、日銀の利上げ時期が後ずれする可能性もあり、今後のドル/円相場はFRBの政策に大きく影響を受けそうです。
6月はトランプ関税よりも米財政悪化懸念、景気要因がテーマ?
米中非難合戦から6月に入って再びドル/円は円高に動きました。5月の関税に絡む他の発言も含めてまとめますと以下のような動きです。
- 5月12日、米中貿易協議進展(米中とも115%の関税引き下げ)→30日、「中国が違反」と非難
- 5月23日、6月1日から欧州連合(EU)へ50%の関税を賦課→25日、期限を7月9日に延期
- 5月28日、米国際貿易裁判所による米関税差し止め→29日、連邦裁判所が一時停止の判断
- 5月30日、6月4日から鉄鋼・アルミへの関税を25%から50%に引き上げ
ドル/円は、「中国は合意に違反した」とトランプ大統領が中国を非難し、中国は即反論したことから米中関係の緊張感が高まり、1ドル=142円台前半まで円高にいきました。しかし、5月の円の高値である1ドル=142.10円近辺には届いていません。
6月も、不透明な米関税政策、円安是正懸念、米財政悪化懸念、米経済スタグフレーション懸念から、ドル/円の上値は引き続き重そうですが、トランプ関税はころころ変わるため市場も過敏に反応しなくなってきたのかもしれません。ウォール街ではトランプ大統領の行動パターンはTACO取引(*)といわれており、この行動パターンに慣れてきたのかもしれません。
(*)「TACO取引」とは、「Trump Always Chickens Out」(トランプはいつもおじけづく)の略語で、ウォール街のアナリストたちが関税を巡るトランプ大統領の行動パターンを指して新たにつくった言葉です。大規模な関税を発表して株価を下落させた後に、方針を撤回して株価が再び上昇するというトランプ氏の行動パターンを指しています。28日の記者会見で、記者がこの言葉に触れて質問したところ、トランプ大統領はこの言葉を知らなかったようで、激怒したとのことです。
6月の市場のテーマは、トランプ関税よりも米財政悪化懸念や米経済スタグフレーション懸念の方が強くなるかもしれません。7月9日の相互関税一時停止期限が近づくにつれて、貿易交渉は激しくなるかもしれませんが、交渉が難航して米政権が強気に出ると、「米国売り」再燃から米国債への売り圧力が強まる恐れもあります。
一方で、7月4日の米独立記念日までに減税法案を成立させたいトランプ政権にとって、上院での修正協議の内容次第では債券市場が揺れる可能性もあるため、関税交渉は強気で臨めなくなるかもしれません。トランプ政権は、トリプル安を意識しながらの関税交渉、減税法案成立と難しい局面に追い込まれる可能性があります。
米経済スタフグレーションがさらに進む可能性
6月は、米経済スタフグレーションが一段と進む可能性があります。トランプ関税による前倒し行動が一巡しても、関税による不安が続き、企業も消費者も行動を控える動きが続きそうです。
米国の4月のコア消費者物価指数(CPI)(前年比)は2.8%に下がっていますが、関税の影響によって5月から上昇し、7月には3%台半ばになるとの予想もあります。米景気も悪化してくる可能性があります。
米国1-3月期国内総生産(GDP)実質年率は2022年以来のマイナス成長となりました。トランプ関税を控えた駆け込み需要で輸入急増が影響したためといわれており、4-6月期にはプラスに戻るといわれています。
しかし、1-3月期のGDP改定値はマイナス0.2%と速報値マイナス0.3%から上方修正されましたが、GDPの7割を占める個人消費の改定値は速報値+1.8%から+1.2%に下方修正され、約2年ぶりの低い伸びとなりました。トランプ政権の関税政策で経済の不確実性が高まり、消費の勢いが鈍っているとのことですが、4月以降に消費の勢いが戻ってくるのかどうか注目です。
4月米小売売上高は+0.1%でしたが、3月の+1.7%から伸びは低下しました。消費者の駆け込み需要が一巡し、4月の低下は駆け込み需要の反動減が背景とのことですが、5月に消費の伸びが戻るのかどうか注目です。
米雇用も気になります。5月の非農業部門雇用者数は前月比13万人の増加予想となっており、前月の17.7万人からの低下予想となっています。
この結果を受けて6日の米雇用統計への期待が高まり、ドル/円は1ドル=144円台へ円安にいきました。予想通りであれば、雇用の鈍化傾向が鮮明になってきます。上振れとなれば1ドル=145円を目指す動きになるかもしれません。
米連邦準備制度理事会(FRB)の政策運営も難しい局面になってきます。パウエル議長は、5月の記者会見で「まだ影響は顕在化していない。現在の経済は堅調だ」として、「利下げを急ぐ必要はない」と改めて慎重姿勢を示しました。
6月17~18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策変更なしとの見方が大勢ですが、6日の雇用統計、11日の5月CPI、17日の5月小売売上高の結果を見てどのような判断になるのか注目です。
経済・物価見通しも注目です。3月の2025年見通しではGDPは下方修正(2.1%→1.7%)、物価見通しは上方修正(2.5%→2.7%)となり、スタグフレーションを警戒する見通しとなりました。6月ではスタグフレーションがさらに進む見通しになるのかどうか注目です。
インフレ上昇スピードよりも雇用の悪化度合いの方が大きくなれば、景気下振れリスクを警戒し、市場の利下げ期待が高まってくる可能性があります。
FRBの姿勢を探るためにも5日の欧州中央銀行(ECB)理事会にも注目です。ユーロ圏物価は鈍化傾向の中、3日に発表された5月CPIはECB目標2.0%を8カ月ぶりに割り込み1.9%に低下したため、0.25%の利下げが確実視されています。
利下げとなれば昨年9月以降で7会合連続となり、1999年ユーロ誕生から前例がない利下げとなります。従って市場の焦点は次回以降も利下げ余地を示すのかどうか注目しています。
ECB内部ではトランプ関税によるインフレ再燃リスクからいったん停止すべきとの意見もある一方、景気下振れリスクを回避するためにも予防的利下げがまだ必要であるとの意見も根強いようです。米国より物価の鈍化傾向が鮮明なため、FRBの参考にはあまりならないかもしれませんが、中央銀行としてECBはどのような判断をするのか注目です。
日本銀行も利上げ姿勢は変わらないようですが、利上げのタイミングは難しくなってくる可能性があります。植田和男総裁は、3日の参院財政金融委員会の半期報告で、「経済・物価情勢の改善が見込めない中で、無理に政策金利を引き上げる考えはない」と述べています。また、「将来の利下げ余地を作る目的で利上げすることはない」と強調しました。
日本の1-3月期GDPはマイナス0.7%とマイナス成長となりました。9日発表予定の改定値予想は若干の下方修正となっています。また、4-6月期予測は+0.2%(平均)とのことですので、CPIは上昇しているものの景気が足踏みすることが予想され、利上げ時期は年後半になりそうです。
5月の円安への戻りは1ドル=148円台、146円台と下がってきました。6月は1ドル=140~145円のレンジの中で145円の上値が重たくなり、再び1ドル=140円を目指す動きとなるのか注目したいと思います。
(ハッサク)