高騰する米国債の利払いは今や国防費を上回り、単独で最大の予算項目になろうとしている。この軌道は持続不可能であり、財政の大混乱が迫っていることを示している。
日米の金融当局が国債市場に介入
心配された日・米のロングエンド(長期)の金利は金融当局の市場介入によっていったん落ち着いている。日本は10年国債が1.5%を超えると、米国は30年国債が5%を超えると金利を押し下げる市場介入が行われている。減損会計の問題が出ていた日本の40年国債の金利は強引に押し下げられた。
イーロン・マスクは共和党の予算案(ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル)を「豚肉だらけの忌まわしいもの」と呼んだ。米国政府はこれからも多額の借金をしなければならないので、それを全て賄うために米連邦準備制度理事会(FRB)は紙幣の印刷(量的緩和)を始めざるを得なくなる可能性が高い。
米国債入札の需要が弱まり国債市場が警告を発しているにもかかわらず、財政赤字は悪化している。FRBが市場に介入しなければ、金利は大幅に上昇する可能性がある。事情は日本も同様だ。日本銀行が国債を購入しなければ、金利は大幅に上昇する可能性がある。
日本10年国債金利(日足)

日本40年国債金利(日足)

米国10年国債金利(日足)

米国30年国債金利(日足)

だが、ブルームバーグ米国総合債券指数で計測される米国債券市場は、58カ月連続で下落している。米国の金利上昇の流れは何も変わっていない。
ブルームバーグ米国総合債券指数は58カ月連続で下落

米国10年国債金利(月足)1913~2025年

【ブルームバーグ米国総合債券指数で計測される米国債券市場は、58ヶ月連続で下落している。これは同指数史上最長の下落であり、2020年8月のピークからの累計下落率は17.2%に達している。
ちなみに、2番目に長かった下落期間(1980年7月から1981年10月)はわずか16ヶ月だった。
しかし、これは単なる歴史的な異常事態ではない。これは、世界金融秩序におけるより深刻な構造変化の兆候なのだ。「リスクフリー」時代は終焉を迎えている。数十年にわたり、債券はポートフォリオの安定要因として、経済ストレス期に安定したインカムと価格上昇をもたらすと考えられてきた。しかし、この前提は崩れ去った。
現在の債券市場の下落は、典型的な金利サイクルの結果ではない。インフレ、財政優位、そして地政学的な分断が重なり合う世界における、ソブリンリスクの再評価を反映している。
インフレは予想以上に持続的で、供給主導型であることが証明された。米国のCOVID-19に対する財政対応により、数兆ドル規模の新規債券が発行され、従来の財務省の需要モデルが破壊された。外国の中央銀行や政府系ファンドは国債の蓄積を減速または逆転させ、金、商品、またはBRICSやCIPSなどの代替システムに移行している。これは循環的な調整ではない。
(1980年から)40年間続いた債券強気相場の構造的な崩壊だ。
長期債券保有者は、名目ベースでも実質購買力ベースでも、元本が全額回収されるという確信をもはや持てなくなっている。FRBは追い詰められている。利下げを急げばインフレが再加速する恐れがある。金利を高水準に維持すれば、財務省の債務返済負担がさらに増大する。市場は、FRBのハト派政策が債券価格上昇につながるという従来のフィードバックループがもはや機能しない可能性を認識し始めている。これにより、あらゆる政策措置にボラティリティと不確実性が生じている。】
出所:EndGame Macro
上記のような財政赤字懸念とトランプの貿易戦争の影響でドルと国債利回りの関係は崩れた。4月2日以降、10年債利回りは27ベーシスポイント上昇し4.43%となった。一方、ドルインデックス(DXY)は5.2%下落し3年ぶりの安値近辺となっている。
ドルインデックスCFD(日足)

ドル/円(日足)

ユーロ/ドル(日足)

ポンド/ドル(日足)

ドル/円はこれまでおおむね米国の長期金利と連動してきたが、ドル/円と米国債の利回りの正の相関関係は崩壊している。
ドル/円と米国10年国債金利の推移

一方で、円安にならないと日経平均株価は上がりにくいという傾向は持続している。
ドル/円と日経平均の推移

ベッセント財務長官は、「われわれはバイデン政権の失策により史上最大の赤字を引き継いだ」と述べている。米国は現在、毎月1,000億ドル以上、年間1兆2,000億ドル以上の国債利子を払っている。政府歳入の約25%が国債利子の支払いに充てられている。
イーロン・マスクは、「この大規模な、常識外れで、利益誘導だらけの議会歳出法案は忌まわしい愚策だ」とXに投稿。「この法案に賛成した者は恥を知るべきだ」と述べた。彼はトランプの 「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル」法案をつぶすように呼びかけている。
問題は連邦債務危機がおおむね限界点に達したことである。米国債の利払いは今や国防費を上回り、単独で最大の予算項目になろうとしている。この軌道は持続不可能であり、財政の大混乱が迫っていることを示している。ピーター・オンジェは、「連邦政府の赤字の急増は2008年に匹敵する金融危機を引き起こすだろうか? 3兆ドルの赤字なら、それは時間の問題だ」と述べている。
トランプ政権は米ドルが著しく過大評価され、それが経済を疲弊させている原因だと考えている。トランプはどこかの時点で、ドル安政策(誘導)を打ち出すかもしれない。
この二つの問題は、「金融リセットが行われる可能性」を示唆している。それが現在の市場の上値を重くしている。
「この列車(負債バブル)を止めるものは何もない。私が今見ているのは、列車を止めようとして失敗しているところだ」
(リン・オールデン)
6月4日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
6月4日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、愛宕伸康さん(楽天証券経済研究所所長兼チーフエコノミスト)をゲストにお招きして、「日米の金融当局が国債市場に介入」「日銀の買い入れ(国債・ETF)に限界はあるのか?」「資産運用の究極の目的はインフレヘッジ」「この列車を止めるものは何もない?」というテーマで、愛宕さんのホンネを聞いてみました。ぜひ、ご覧ください。




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6月4日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

(石原 順)