「トランプショック」のような相場急変では、株式も債券も大きく下落します。王道の組み合わせだけでは、大切な運用資産を守れないことも。
高分配で割安なJ-REIT市場
国内の不動産投資信託(J-REIT)は、投資家から集めた資金でマンションやオフィスビルなどの不動産を購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品です。賃料収入などから得た収益の9割を分配金で還元するため、高分配であることが魅力です。
2025年4月末現在、東証REIT指数構成銘柄の予想分配利回りは5.10%。図表1のJ-REITの予想分配利回りの推移を見ると、分配利回りの過去平均が3.93%なので、歴史的に見ても高い水準にあります。
また図表2のとおり、J-REITの予想分配利回りと10年国債金利の差(イールド・スプレッド)は3.79%(分配利回り5.10%-国債利回り1.31%)となっており、この水準は他国の不動産投資信託(REIT)市場と比較して最も高い水準で、相対的に投資魅力度の高い市場といえるでしょう。

J-REIT市場の予想分配利回りが高いことは、それだけ価格が割安であることを示しています。図表3の株式市場との比較で見ると、足元の東証REIT指数は東証株価指数(TOPIX)に対して大きく出遅れていることが分かります。
また、図表4のJ-REITのNAV倍率(=投資口価格/1口当たり純資産額)の推移を見ると、直近で1倍割れの水準となっており、過去平均(1.09倍)と比較しても割安な水準といえるでしょう。


高リスク資産でありながら、分散効果が高い
J-REIT市場は投資魅力度が高いことに加え、もう一つの魅力があります。それは分散効果が高い資産である、ということです。
図表5は、各資産クラスの相関係数になります。相関係数は2資産の値動きの関係を示す数値で、+1からマイナス1の間で表します。
国内REITの相関係数を見ると、債券に対して数値が低いことはもちろんのこと、国内株式や先進国株式に対しても0.5程度の数値となり、相応の分散効果があるといえます。国内REITは株式同様に高リスク資産に分類されますが、国内株式と先進国株式の相関係数が0.8程度と似たような動きであるように、高リスク資産を組み合わせても分散効果はあまり期待できないのが一般的です。
しかし、国内REITと先進国株式の相関係数は0.5程度の数値であることから、高リスク資産と組み合わせても比較的相性がよい資産クラスといえるでしょう。
【図表5】代表的な資産クラスの相関係数

また、4月の急落局面では、J-REITの分散効果が如実に表れた局面となりました。図表6は直近3カ月の代表的なインデックスファンドの値動きになりますが、国内外の株式ファンドや先進国REITファンドが大きく下落する中で、国内REITは底堅く推移しているのが分かります。
これは国内REITの分散効果が高いことと、ここ数年、国内REITが株式ファンドに大きく出遅れていて(すでに十分割安なところまで下落していて)、下値が限定的であったためと思われます。
【図表6】代表的なインデックスファンドの直近3カ月の値動き

J-REITファンドの銘柄選び
楽天証券では、現在61銘柄のJ-REITファンドを取り扱っています。その中でファンドアナリスト注目のファンドをいくつかご紹介しましょう。
J-REITファンドを選ぶポイントとして、実はどのファンドも大きな差がつきにくいという傾向があります。その理由は、東証REIT指数構成銘柄が60銘柄弱と非常に少ないこと、また、分散投資や流動性などの観点で積極的なポジションを取りづらいことが一因にあると思われます。
成績に大きな差がつかないなら運用コスト重視で、「 eMAXIS Slim 国内リートインデックス 」や「 <購入・換金手数料なし>ニッセイJリートインデックスファンド 」を選ぶのが無難といえますが、一方で、J-REITファンドには運用クオリティの高いアクティブファンドが存在します。
例えば、「 野村Jリートファンド 」と「 フィデリティ・Jリート・アクティブ・ファンド(資産成長型) 」は、インデックスファンドをコンスタントに上回る成績を長期にわたり残しています。
個人的にJ-REITファンドを選ぶなら、これらの運用クオリティの高いアクティブファンドを選びます。
金利上昇リスクあり、投資戦略は?
ここまでJ-REITファンドの魅力に触れてきましたが、死角はないのでしょうか。そもそもJ-REITが株式市場に大きく出遅れてきた背景には金利上昇のリスクがあります。J-REITは投資物件を購入するにあたって、投資家から資金を調達するのはもちろんのこと、金融機関から資金を借り入れして、物件購入に充てています。
従って、金利上昇は借り入れコストの上昇につながり、REITの業績悪化につながります。昨年来、日本では日本銀行による追加利上げが懸念されています。この懸念が解消されるまではしばらく上値が重い展開が続くことが予想されます。
一方で、REIT市場には中長期的に大きな上昇余地があることが期待されます。REIT市場が上昇に転じる大きな要因となり得るのが海外投資家の動向です。REIT市場は株式市場よりも時価総額の規模が極めて小さいため、海外投資家からの資金が流入すると急上昇する傾向があります。
足元では、トランプ大統領の不透明な政策を嫌気して、米国以外の地域に資金をシフトさせる動きが見られます。
日本株市場は相対的に割安なため注目を集めていますが、その物色がさらに広がりREIT市場にまで資金が流入してくれば、REIT市場の急上昇が期待できるかもしれません。
上記のような市場環境を踏まえた上で、J-REITへの投資戦略を考えますと、積立投資で資金を積み上げていくのが良いのではないでしょうか。しばらくは日銀の追加利上げ懸念が重しとなったり、トランプ政策の影響で市場が大きく変動することもあるかもしれません。
そのような局面では積立投資でコツコツと安値を拾っていくのが良いでしょう(もちろん市場が割安なので一括投資もアリですが、その場合は一時的な下落や変動を受け入れる覚悟を持っておきましょう)。株式や債券とは異なる値動きの分散投資先として、いつか来る海外投資家からの資金流入を期待して、J-REITファンドに興味を持ってみてはいかがでしょうか。
(吉井 崇裕)