先週は米中通商交渉に期待が集まり、米国株は今年の下げを取り戻すほど上昇。一方、日本株は中国のレアアース輸出規制でスズキ(7269)が急落するなど自動車関連株が下落。
トランプ劇場再来!今週は米中の通商交渉進展や米国物価高の沈静化で日本株も反発!?
先週の株式市場は、前半に発表された米国の景気・雇用指標の悪化が顕著でしたが、米中通商交渉の進展や6日(金)発表の米国の5月雇用統計が予想を上回る結果になったことで米国株は続伸しました。
機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比1.50%高で、6,000ポイントの大台を回復。
ダウ工業株30種平均やナスダック総合指数は2024年末の終値を上回り、2025年に入ってからのマイナスを取り返しました。
6日発表の5月雇用統計の非農業部門雇用者数が前月比13.9万人増で予想を上回り、米国の雇用市場の落ち込みがそれほど深刻でなかったことが、米国市場の安心感回復につながりました。
5日(木)夜にはトランプ大統領が中国の習近平国家主席と電話会談を行い、今週9日(月)にロンドンで米中の通商交渉団が協議を再開する見通しになったことも好感されました。
トランプ大統領は習主席との会談後に、世界中の自動車生産に支障を来している中国のレアアース輸出規制が「なくなる」とも発言。
中国政府が米国の大手自動車メーカー向けに暫定的なレアアース輸出の許可を出したという報道もありました。
その見返りに、トランプ大統領が対中国向け半導体輸出規制の緩和や米国の中国人留学生へのビザ発給制限などで何らかの譲歩をするだろうという期待感が、ハイテク株を中心にした先週の米国株上昇の背景にあるようです。
これを受け、対中半導体輸出規制が急成長の足を引っ張る人工知能(AI)関連の花形株 エヌビディア(NVDA) は前週末比4.88%高と続伸しています。
一方、日経平均株価(225種)は前週末比223円(0.6%)安の3万7,741円とほぼ横ばいで終了。
中国のレアアース輸出規制で スズキ(7269) が小型車「スイフト」の国内生産を停止したことが判明して9.3%安となるなど、自動車株の下落が響きました。
激化する米中貿易戦争が米国を含む世界的な自動車生産の停滞につながりかねないことから、輸送用機器セクターが週間の業種別下落率のワースト2位、米中貿易戦争による海上輸送の落ち込みが不安視される海運セクターがワースト1位でした。
今週は米中貿易戦争の沈静化に向けた動きもあり、先週急落した自動車株など外需株を中心にした日本株の反発に期待したいところです。
米国では11日(水)に5月消費者物価指数(CPI)、12日(木)に5月卸売物価指数(PPI)も発表。
米国の物価指標は4月のトランプ相互関税導入後も予想を大きく超えるような上昇には至っておらず、物価高の横ばい傾向が続くようなら株価にとって支援材料です。
ただし、13日(金)には6月のミシガン大学消費者態度指数の速報値も発表。
米国の景況感指数は最近、顕著な悪化が続いているだけに、その中で最も早く発表される同指標は注目を集めそうです。
日本株は15日(日)からカナダで開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)を前に、先週6日(金)、5回目の渡米を行った赤澤亮正経済再生担当相が米国側との通商交渉で明確な一致点を見いだせなかったことも株価に影響を与えそうです。
日経平均は9日(月)、3万8,028円でスタート。一時400円高を超える場面もありながら、終値は前営業日346円高の3万8,088円となりました。
先週:中国のレアアース輸出規制vsウクライナのドローン攻撃成功の強弱材料で株価が動く!
先週の株式市場は、米国の景気・雇用指標の悪化や中国のレアアース輸出規制が世界中の自動車・防衛部品の生産に悪影響を及ぼしているという懸念材料と、トランプ大統領がいずれ関税交渉で中国に譲歩するだろうという期待感が交錯する展開でした。
「トランプ劇場」はそれにとどまらず、トランプ大統領は、熱心なトランプ支持者で政府効率化省(DOGE)を率いていた実業家のイーロン・マスク氏ともSNS上で激しく口論。
トランプ大統領が「大きくて美しい法案」と自画自賛している米国の減税法案をマスク氏が激しく批判したことが両者の仲間割れにつながりました。
マスク氏が共同創業者の電気自動車メーカー・ テスラ(TSLA) は前週末比15.0%安と急落しています。
また、6日(金)の5月雇用統計以前に発表された米国経済指標はいずれも悪化傾向でした。
2日(月)に全米供給管理協会(ISM)が発表した5月の製造業景況指数はトランプ関税で一部商品の供給不足が迫っていることから6カ月ぶりの低水準。
4日(水)発表のISM非製造業指数も好不況の境目となる50を約1年ぶりに下回りました。
同日発表の給与計算代行会社オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)社の5月民間雇用統計は前月比3.7万人増と予想を大幅に下回り、2年以上ぶりの低水準まで落ち込みました。
これを受け、トランプ大統領は米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長に対して、今すぐ1%、金利を引き下げるべきとSNSで発信。
6日(金)発表の5月雇用統計が底堅く推移したことで、来週6月18日(水)に終了する次回米連邦公開市場委員会(FOMC)でも追加利下げは見送られる予想です。
しかし、米国の経済指標の悪化が、逆にFRBが早期利下げに踏み切る期待感につながり、米国株上昇の一因になっている面もありそうです。
ただトランプ大統領は、パウエル議長の任期が2026年5月と、まだ遠い先にもかかわらず、次期FRB議長の人事を「極めて近いうちに公表する」と発言。
FRB人事に口をはさむトランプ大統領の発言は新たな米国売りにつながる恐れもあります。
一方、日本株は中国のレアアース輸出規制による自動車生産の停滞を受け、主力の トヨタ自動車(7203) が前週比末4.2%安、 ブリヂストン(5108) が4.5%安となるなど自動車関連株が急落しました。
米国へ輸入される鉄鋼・アルミニウム関税が4日(水)以降、従来の倍となる50%に引き上げられたことも逆風でした。
反対に株価が上昇したのは、1日(日)にロシア全土の戦略爆撃機などを安価なドローン攻撃で破壊したウクライナの軍事的な成功や欧州の軍備拡大を受けた防衛関連株でした。
ドローン関連の一角と目される 双葉電子工業(6986) が30.3%高、 東京計器(7721) が15.9%高。
15日(日)から始まるG7サミットでも日本の防衛力増強が通商交渉の材料にされるという思惑もあり、主力の IHI(7013) が11.2%高となるなど、今後も世界的な軍事力増強の流れを受けて防衛株の上昇が続きそうです。
5日(木)には、国土交通省が日本郵便に対して運送事業の許可取り消しを通達。飲酒の有無など点呼確認を適切に行っていなかったことが理由です。
これを受けて、同社の親会社である 日本郵政(6178) は4.8%安。
一方、日本郵便の運送許可取り消しで同業他社への需要シフトが起こるという思惑から、総合物流会社の センコーグループホールディングス(9069) が9.1%高となるなど、倉庫・運輸関連セクターが週間の業種別上昇率1位になりました。
今週:中国との通商交渉でのトランプ大統領の「譲歩」が株高の鍵に!
今週は9日(月)からロンドンで始まる予定の米中通商交渉の行方に株式市場が一喜一憂しそうです。
またトランプ大統領も出席するG7サミットが15日(日)~17日(火)に開催予定。
最近ではトランプ大統領が過激な関税政策を打ち出してもすぐに撤回するので気にする必要はないという意味の「TACO(トランプはいつもおじけづいてやめる)」という造語が株式市場でも意識されるようになっています。
トランプ政権の過激な相互関税の90日間停止措置が約1カ月後の7月9日(水)に期限を迎えることから、いまだに英国以外とは合意に達していない関税問題でトランプ大統領が日本や欧州に対してどれぐらい譲歩するかに期待が集まります。
不安材料としては、6日(金)の堅調な米国の5月雇用統計の結果を受けて、米国の長期金利の指標となる10年国債の利回りが4.505%まで再上昇していることです。
日本の10年国債の利回りは、先週3日(火)に日本銀行の植田和男総裁が参議院財政委員会で「無理に政策金利を引き上げる考えはない」と発言したこともあり、週初の1.50%台から1.45%台まで低下しています。
これを受け為替市場では週初の143円80銭台から144.80銭台まで、小幅ながら円安が進行。
金利の上昇は悪材料ですが、日米金利差拡大による円安進行は、日米、米中通商交渉の進展とともに日本株の支援材料になりそうです。
トランプ大統領就任当初は強硬な関税政策で米国内の物価高が加速するという見通しが大勢を占めました。
今のところ、トランプ関税の混乱による需要減退で物価高は鮮明になっていません。
しかし、11日(水)の米国5月CPI、12日(木)の5月PPIが予想外の上昇になると、当初懸念されていたトランプ関税による物価高と景気後退の同時進行、すなわちスタグフレーション懸念が現実化する恐れもあるため注意が必要でしょう。
今回もトランプ大統領の「譲歩」で米中貿易戦争が一段落しそうなこともあり、先週、株価が7.6%高した半導体検査装置の アドバンテスト(6857) や14.5%高した国内AIデータセンター関連株の さくらインターネット(3778) など、AI関連株をけん引役にしたハイテク株の上昇継続に期待したいところです。
(トウシル編集チーム)