「積立投資」は、多くの投資家の皆さまがご利用になられている取引手法です。NISAやiDeCoなどでもおなじみですが、積立投資で資産の額を大きくするには、実はちょっとした「コツ」があります。

金(ゴールド)とプラチナの例に触れつつ、解説します。


「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみ...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる 」


資産の額が最も大きくなったパターンは?

 まずは、クイズです。以下の三つのパターンで積立投資をした場合、最終的な資産の額が最も大きくなるのは、どのパターンでしょうか。


図:積み立てシミュレーション(1)(価格推移) 単位:円/グラム
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

「上昇 継続パターン」は、1万円でスタートし、最初の10年間で1々2,500円に上昇、次の10年間は1万2,500円のままで、最後の10年間で2,500円上昇して最終的に1万5,000円で取引を終えるパターンです。価格が歴史的な水準を大きく更新するパターンです。


「下落後 回復パターン」は、1万円でスタートし、最初の10年間で7,500円に下落、次の10年間は7,500円のままで、最後の10年間で2,500円上昇して最終的に1万円で取引を終えるパターンです。下落するものの、価格が元の水準に回復するパターンです。


「低迷後 反発パターン」は、2,500円でスタートし、最初の10年間と次の10年間は2,500円のままで、最後の10年間で2,500円上昇して最終的に5,000円で取引を終えるパターンです。長期的に低迷を強いられるものの、最終的な価格水準は取引開始時の2倍になるパターンです。


 どのパターンも、取引期間は30年間で、月々の積立金額は1万円、手数料は買い付け時に1.65%(税込)、分配・配当金なし、再投資せず、という条件です。


図:積立投資における最終的な資産の額を大きくするための二つの条件
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:筆者作成

 さて、どのパターンの最終的な資産の額が、最も大きくなるでしょうか。ヒントは、上の図の通り、積立投資における最終的な資産の額は、最終的な「保有数量」に最終的な「市場価格」をかけて計算する、です。


「低迷」が資産の額を大きくする不思議

 クイズの答えは、「低迷後 反発パターン」です。以下は、各パターンの資産の額の推移です。最終的には、「上昇 継続パターン」は約428万円、「下落後 回復パターン」は約428万円、「低迷後 反発パターン」は約630万円となりました(どのパターンも、最終的には投資金の合計である360万円を超えた)。


図:積み立てシミュレーション(2)(累積資産額) 単位:百万円
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:筆者作成

 このシミュレーションの結果における注目点は、二つあります。一つ目は、市場価格が下落しなかった「上昇 継続パターン」と、下落した「下落後 回復パターン」の最終的な資産の額がほぼ同一になったことです。


 そして二つ目は「低迷後 反発パターン」という、長期間、市場価格が低位で推移した上、最終的な価格が「上昇 継続パターン」の3分の1、「下落後 回復パターン」の半分となったパターンの最終的な資産の額が、最も大きくなったことです(他パターン比1.5倍弱)。


 これらの注目点の共通点は「市場価格の下落・低迷」です。「上昇・高止まり」の正反対の事象を受けて、最終的な資産の額が大きくなったのです。なぜ「下落・低迷」という一見すると投資の効率を低下させる事象が、最終的な資産の額を大きくしたのでしょうか。


 言い換えれば、なぜ、「上昇・高止まり」が、資産の額を大きくすることに貢献しにくかったのでしょうか(資産の額は大きくなるが、「下落・低迷」があったパターンに比べて不利だった)。

これらの問いに対する答えは、「保有数量」にあります。


 以下は、三つのパターンの累積保有数量の推移です。最終的には「上昇 継続パターン」は約286グラム、「下落後 回復パターン」は約429グラム、「低迷後 反発パターン」は約1,270グラムでした。


図:積み立てシミュレーション(3)(累積保有数量) 単位:グラム
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:筆者作成

 これら最終的な保有数量が、それぞれの最終的な資産の額に大きな影響を与えました。先に述べたとおり、積立投資における最終的な資産の額は、最終的な「保有数量」に最終的な「市場価格」をかけて計算します。


つまり、このシミュレーションにおいては、価格面の優位性を高める「上昇・高止まり」よりも、保有数量を効率的に増加させる「下落・低迷」の方が、最終的な資産の額を増加させる原動力になったと言えます。


「積立投資のコツ」とは!?

 以下のグラフは、各パターンにおける、一月当たりの購入数量です。各月にどれくらい購入できたかを示しています。


 最も多かった月で、「上昇継続パターン」は約0.9グラム(取引初月のみ)、「下落後 回復パターン」は約1.3グラム(真ん中の10年間)、「低迷後 反発パターン」が約3.9グラム(最初の20年間)でした。


図:積み立てシミュレーション(4)(一月当たりの購入数量) 単位:グラム
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:筆者作成

 毎月の投資額(積立設定額)が変わらなければ、市場価格の絶対値が低ければ低いほど、その月に購入できる量は増えます。単純計算(手数料などを考慮せず)で、毎月の投資額が1万円だったとして、市場価格が1万円の場合に購入できる数量は1グラムです。市場価格がその半値の5,000円の場合に購入できる数量は倍の2グラムです。


 取引の最終日には、こうして積み上げられた保有数量とその時の市場価格を掛け合わせて、最終的な資産の額を計算します。

保有数量が数倍になっていれば、最終的に行う掛け算が大幅に有利になります。


 このシミュレーションが示唆する「積立投資のコツ」とは、取引期間中は市場価格の「下落・低迷」を利用して保有数量をできるだけ増やし、取引終盤の市場価格の反発を利用して積み上げた保有数量をできるだけ大きな資産に変えていく、ということです。


 言い換えれば、積立投資の最中は市場価格の「下落・低迷」を恐れずに受け入れること、そして銘柄選定の際は、今、できるだけ安く、今後、長期視点で価格反発が起き得る銘柄を選ぶこと、と言えます。


図:積み立てシミュレーション(5)(まとめ)
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:筆者作成

金・プラチナの積み立てではどうか?

 ここからは、より具体的に金(ゴールド)とプラチナでの積み立てを想定します。以下は、当社の金・プラチナ取引における「積立価格」と、シミュレーションのための価格(2025年6月以降)を示しています。


図:積み立てシミュレーション(金・プラチナ価格推移) 単位:円/グラム
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:楽天証券の金・プラチナ取引のデータをもとに筆者作成

 金(ゴールド)とプラチナの価格は、ドイツの自動車大手であるフォルクスワーゲン社が違法な装置を使って排ガス浄化装置のテストを潜り抜けていたことが発覚した2015年以降、異なる推移を示してきました(それ以前は、価格差(プラチナ価格-金価格)の議論ができるくらい、似通った動きを演じるケースがあった)。


 プラチナには、一定の条件下で自分の性質を変えずに相手の性質を変える作用である「触媒作用」があります。この作用を利用し、エンジンから排出される排ガスに含まれる有毒な物質を水や二酸化炭素などに変えるために、同装置内にプラチナが使われています。


 フォルクスワーゲンの問題が発覚したことで、同社の主力車種であるディーゼル車の排ガス浄化装置に使われるプラチナの需要が激減する懸念が生じました。そしてこの機を境に、金(ゴールド)との連動性は低下し、金は金、プラチナはプラチナで、価格が推移し始めました。


 こうした経緯を経て、足元、金(ゴールド)の積立価格は約1万5,500円、プラチナの積立価格は5,000円前後で推移しています(いずれも消費税は含まれていない)。


 今後10年間、金(ゴールド)とプラチナを、冒頭のシミュレーションと同じ条件で積み立てをすることとします。価格の推移は、最初の5年間が横ばいで、最後の5年間に5,000円、上昇することとします。


 最終的な資産の額は、金(ゴールド)が約144万円、プラチナは196万円でした(投資金の合計は120万円)。そして保有数量は、以下の通り、最終的には金(ゴールド)は約70グラム、プラチナは約194グラムとなりました。


図:積み立てシミュレーション(金・プラチナ累積保有数量) 単位:グラム
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:筆者作成

金(ゴールド)もプラチナも魅力的

 価格高騰が目立つ金(ゴールド)は魅力的な投資対象です。そして、積立投資の際に保有数量をできるだけ増やし得る、「下落・低迷」が存在するプラチナも、金(ゴールド)に負けない魅力的な投資対象であると言えます。


 金(ゴールド)については、以前の「 金(ゴールド)相場、長期視点では5,000ドルも? 」で述べたとおり、短期視点で上下を繰り返しながらも、長期視点でさらなる価格上昇が起きると考えています。


 金(ゴールド)相場に関する材料を、短中期、中長期、超長期の三つの時間軸に分類した時、中長期に分類できる「中央銀行」の金(ゴールド)の買い越し量は、2022年のウクライナ戦争勃発後、高止まりしています。


 金(ゴールド)需要全体のおよそ20%を占める同需要(2023年時点)は、世界分断、ドル覇権の崩壊、民主主義の崩壊などの長期視点の懸念を受け、今後も高止まりする可能性があります。この動きは、長期視点で金(ゴールド)相場を支える材料になり得ます。


図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の資料をもとに筆者作成

 プラチナについては、2015年以降、長期的な価格低迷を強いたフォルクスワーゲン問題の影響が、近年、軽減する観測が浮上しています。


 以下のとおり同需要は、2015年の同問題発覚以降、欧州や日本で減少したものの、2020年のコロナショック後、北米、中国、インドなどで大幅に増加しています。世界全体として、同需要はすでに2015年の水準を上回っています。(Johnson Mattheyのデータより)


 プラチナにおいては、2015年以降、市場に充満していた懸念は去りつつあり、今後は長期視点の価格上昇が望みやすくなっていると言えます。


図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス
「積立投資」で資産額を大きくするコツとは。金・プラチナからみる
出所:Johnson Mattheyのデータをもとに筆者作成

 今、価格が「下落・低迷」し、今後、長期視点で価格上昇が起き得るプラチナは、積立投資による最終的な資産の額を大きくし得る条件を備えていると言えます。

金(ゴールド)の取引をしつつ、プラチナの積み立てを同時進行してみるのも、一計かもしれません。


 今回は、多くの投資家の皆さまがご利用になられている「積立投資」のコツを、述べました。皆さまの資産形成の参考になれば、幸いです。


[参考]積み立てができる貴金属関連の投資商品例

・純金積立
純金積立・スポット購入
・投資信託
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)


・国内ETF(かぶツミを利用することで積み立てが可能)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)


・海外ETF(米株積立を利用することで積み立てが可能)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


(吉田 哲)

編集部おすすめ