先行き予測不能のトランプ関税だが、ある程度、見えてきたこともある。何が変わるか、変わらないか? 自分の資産形成において、どう対応するべきか? 昨日の同連載の続編をレポートする。


関税ショックで何が変わる?何が変わらない?今できる投資戦略を...の画像はこちら >>

 昨日のレポートは以下よりお読みいただけます。


2025年6月9日:関税ショック後を見据えた投資戦略、令和ブラックマンデーとの共通点(窪田真之)


何が変わる?

 トランプ関税への恐怖感が、足元低下していますが、決して、関税政策が腰砕けになったわけではありません。過激な関税を出したり引っ込めたりしていて、着地は見えにくくなっていますが、最終的に米国が関税を大幅に強化して、保護主義を強める方向は変わらないと思います。


 相互関税のエスカレートは抑えられる公算が高まっています。それでも世界各国に課した10%の基本税率はそのまま残りそうです。自動車関税や鉄鋼・アルミニウム関税も残りそうです。一時振りかざした過激な関税を回避するだけで、すでに導入している大がかりな関税はそのまま残りそうです。半導体関連や医薬品などへ新たに関税を課す検討も続きそうです。


 トランプ関税ショック後に想定される構造変化として、以下三つがあります。


【1】世界中に保護主義が広がる
【2】米中の経済分断が一段と深まる
【3】世界的にインフレが高まる


世界中に保護主義が広がる

 トランプ大統領が関税政策を巡って朝令暮改を繰り返していることから、TACO(トランプはいつも腰砕け)やFAFO(好き勝手な決断をすると痛い目に遭う)という、トランプ氏をやゆする造語が広まっています。


 米国際貿易裁判所がトランプ関税の一部差し止めを求めるなど、大統領に逆風も吹き始めています。熱烈な支持者であったテスラCEOのイーロン・マスク氏が、一転してトランプ大統領を罵倒するようになったことも、大統領への求心力低下を象徴しています。


 ただし、これらは全て、トランプ関税の行き過ぎに対する反発であり、米国民の多くが「関税強化によって米国に富を取り戻す」というトランプ大統領の考えをまだ支持していることには変わりありません。


 米国や英国などが保護主義に走るのは歴史的な流れであり、トランプ大統領一人でやっていることではないと思います。


【1】1990年代には世界的に自由貿易が拡散

 1989年にベルリンの壁が崩壊、1991年にソビエト連邦が崩壊してから、世界的に自由経済・自由貿易を拡張する流れが広まりました。欧州共同体(EC)統合・環太平洋連携協定(TPP)締結・北米自由貿易協定(NAFTA)開始などが象徴的な出来事でした。


【2】2015年以降、世界的に保護主義が拡散

 自由貿易の下、日本・中国・韓国・ドイツなどの製造業が次々と世界市場を席巻するようになると、徐々に自由貿易に背を向ける国が増え始めました。2017年米国のTPP離脱、2020年英国が欧州連合(EU)離脱が象徴的な出来事です。その流れの中で、トランプ政権は、関税の大幅強化を進めています。


米中分断深まる

 トランプ政権による対中国145%関税は撤回されましたが、それでも対中国30%の追加関税は残っています。ハイテク製品などの輸出規制も続く見通しです。


 米中分断が深まるのは歴史的流れであり、共和党トランプ政権だけでなく民主党バイデン政権も対中規制を強化してきています。


 米中分断だけでなく、欧米とロシア経済の分断も続く見通しです。


世界的にインフレ高まる

 自由貿易が否定され、保護主義が広がることで、世界的に物価上昇圧力が高まります。米中・米ロの分断が進むことも、物価上昇につながります。


 さらに、日本でも米国でも欧州でもコロナショック後、財政・金融の大盤振る舞いに歯止めがかからなくなっていることが、インフレ圧力を高めることになります。


何が変わらないか?

 関税ショックで、世界経済は構造的インフレに見舞われる可能性が高まったと思います。
ただし、それでも変わらないこともあります。私は、以下2点は変わらないと思います。


【1】米国の民主主義は健全

 TACOやFAFOのように大統領をやゆする言葉がはやっていると聞くと、米国の民主主義はまだ健全と感じます。北朝鮮など独裁国家では国家トップを批判もやゆもできないからです。


 関税政策や移民政策などでトランプ大統領の独断専行が目立ち、米国の民主主義が危機に瀕しているとの声もあります。戦争など非常事態で大統領に権限を集中させる伝統は、古く米国の南北戦争の時に始まります。


 非常事態では米国内の意見を統一して動く必要があるので大統領に権限を集中します。その延長線上でトランプ大統領がなんでも非常事態宣言をして独断専行しています。


 それでよいかどうか、米国内での検証は続いています。米国際貿易裁判所は、権限逸脱と判断しました。それでも「米国に富を取り戻している」と米国民の多くが感じている間は、トランプ大統領の独断が許されています。ただし、反対意見はいつでも自由に表明できます。国民世論が国を動かしているという意味で、米国の民主主義は健全であると思います。


【2】世界経済の成長、株価の上昇は続くと予想

 トランプ関税ショックで、世界経済が一時的に不況に陥る可能性は否定できません。

それでも、世界経済が年率平均3%程度で成長し、その恩恵で世界的に株が上昇していく流れは変わらないと思います。


参考:IMF世界経済見通し
関税ショックで何が変わる?何が変わらない?今できる投資戦略を確認(窪田真之)
出所:IMF「世界経済見通し2025年4月」より楽天証券経済研究所が作成

 世界経済はこれまで、米ソ冷戦、リーマンショック、コロナショックなどを乗り越えて、成長してきました。トランプ関税ショックは、世界経済の構造変化につながると思いますが、それでも世界経済の成長を止めることにはならないと考えています。


日本株の投資戦略

 日本株は割安で、長期的な上昇余地は大きいと考えています。トランプ関税の先行きは予測不能ですが、日本株は、関税ショック後を見据えて、時間分散しながら投資していくべきと考えています。


 トランプ関税ショックはまだ終わっていませんが、トランプ大統領の独断専行をチェックする動きが米国内に出ていることから、世界経済を崩壊させるほどのダメージは避けられる期待も出てきました。トランプ関税ショックによる急落・急騰は続く可能性がありますが、時間分散しながら、割安な日本株を買い増ししていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。


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(窪田 真之)

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