日本銀行は6月16~17日に開催する金融政策決定会合で、政策金利の据え置きを決定する一方、現在実施中の国債買い入れ減額の中間評価と来年4月以降の国債買い入れ方針の決定を行います。国債買い入れは長期金利に与える影響が大きいだけに注目されます。

果たして日銀は減額ペースを緩めるでしょうか。どう見ておけば良いか解説します。


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著者の愛宕伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 日銀は国債買い入れの減額ペースを緩めるか ~長期金利との付き合い方~


日銀は6月金融政策決定会合(MPM)で国債買い入れ減額計画の中間評価を実施

 日本銀行は6月16~17日に開催する金融政策決定会合(MPM)で、政策金利の据え置きを決定する一方、昨年7月から2026年3月までの予定で実施中の国債買い入れ減額に関する中間評価を行い、4月以降の国債買い入れ方針を決定する予定です。


 日銀の国債買い入れは長期金利に与える影響が大きいため市場の注目度が高まっていますが、超長期金利を中心に上昇圧力が強まる中で、果たして日銀は減額ペースを緩めるでしょうか。市場の見方は割れています。


 ポイントは、中央銀行と長期金利との付き合い方です。日本銀行は2016年9月からイールドカーブコントロール(YCC)の下で10年金利をゼロ%に誘導するなど、金融政策として長期金利を利用してきました。しかし、本来、長期金利は市場で決定されるものです。


 昨年3月にYCCを撤廃した日銀は、昨年7月、「長期金利は金融市場において形成されることが基本」という考え方の下で、国債買い入れの減額措置を開始しました。その考え方をどこまで厳格に捉えるかによって、6月MPMの見方は変わってきます。


 筆者は減額ペースを緩めるとみていますが、なぜそう考えるのか。理由を説明する前に、植田和男総裁が6月3日に行った講演でいくつか重要なヒントを与えていますので、まずはそれから見ていくことにしましょう(図表1)。


図表1 植田日銀総裁の6月3日講演での発言
日銀は国債買い入れの減額ペースを緩めるか~長期金利との付き合い方(愛宕伸康)
出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 


 ポイントの一つ目は、昨年7月からの国債買い入れ減額を総じて順調と肯定的に評価し、「毎四半期4,000億円程度ずつ減額し、2026年1-3月期に月額3兆円程度とする」という減額計画を修正する必要はないと考えている点です。来年3月まで、今のペースで減額が進められると見て良いでしょう。


 二つ目は、国債買い入れの市場への影響が大きいため、市場に余計な混乱を及ぼさないよう、来年4月以降の減額計画を公表することを示唆した点です。もちろん、急に長期金利が上昇したような場合には柔軟に対応する、というただし書きもこれまでと変わりません。


 三つめは、市場参加者へのヒアリングを基に、来年4月以降も国債買い入れの減額を継続することを示唆した点です。ただし、具体的な減額ペースについては「さまざまな意見がありました」と述べるにとどめ、それを6月MPMで審議することを示唆しています。


日銀は国債買い入れ減額ペースをどう修正するのか~バラつく市場の見方~

 では、日銀は四半期に4,000億円程度という現在の減額ペースを、来年4月以降どのように修正するでしょうか。


 図表2は日銀の国債買い入れ額の推移を見たものですが、2026年4月以降については、3月の月額2.9兆円で横ばいのケースを青点線で、これまでと同様のペースで減額するケースを赤点線で示しています。これを見ると、今のまま減額を続けていけば、国債買い入れ額は2027年に異次元緩和前の月額1兆円台後半に戻ることが分かります。


図表2 日銀の国債買い入れ
日銀は国債買い入れの減額ペースを緩めるか~長期金利との付き合い方(愛宕伸康)
注:先行きは、青点線が2026年4月以降月額2.9兆円で横ばいのケース、赤点線がこれまでと同様のペースで国債買い入れを減額したケース。出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 5月20~21日に行われた「債券市場参加者会合」の議事要旨を見ると、市場参加者の意見は、「自由な金利形成を早期に実現するために、現行の減額ペースから加速すべき」「減額ペースを維持することで問題ない」「減額幅を2,000億円前後まで減らすべき」「減額をいったん停止することも選択肢とすべき」などバラバラです。


 日銀OBですら見方が分かれています。

元審議委員の櫻井眞氏は6月2日にブルームバーグのインタビューに答え、長期金利の上昇リスクがあるとして「減額をいったん停止する可能性が大きい」と述べています。一方、元日銀理事の門間一夫氏は6月2日にロイターに寄稿し、「日銀はゼロ回答だろう」と述べ、減額ペースを緩めない理由を説明しています。


長期金利への影響をどう考えるか~新たな減額ペースは四半期2,000億円?~

 議論の分かれ目は、国債買い入れ減額の長期金利に及ぼす影響を、「長期金利は金融市場において形成されることが基本」という原則に照らしてどう考えるか、という点です。


 現在、国内の債券市場では、財政の持続性に対する厳しい目線やインフレを背景に、長期金利や超長期金利が上昇しやすい相場環境となっています。5月20日に実施された20年物国債の入札や6月5日に実施された30年物国債の入札が、投資家の需要が集まらず「低調」な結果となり、政府や財務省の危機感は強まっています。


 折も折、政府は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を近々取りまとめますが、一部報道によれば、「国債需給の悪化などによる長期金利のさらなる上昇を招くことのないよう、国内での国債保有を一層促進するための努力を引き続き行う必要がある」との文言が盛り込まれるもようです。


 財務省でも、6月20日に国債市場特別参加者(プライマリー・ディーラー、PD)会合を開催し、参加者の意見を踏まえた上で、需給バランスが脆弱(ぜいじゃく)となっている超長期債の発行額を減らすかどうか検討するといわれています。


 6月MPMはその直前の16~17日。そんなタイミングで、長期金利が上昇するようなリスクの高い決定を日銀が行うことはないだろう、というのが筆者の見方です。


「長期金利は金融市場において形成されることが基本」という原則が重要であることは論をまたないわけですが、長期金利の上昇リスクを全く無視して正常化を突き進めて良いかというと、それはそれで極端過ぎる考えです。正常化のペースは金融市場環境に配慮して柔軟に決定すべきだと考えます。


 以上のことから、6月MPMでは、「毎四半期4,000億円程度ずつ」としている現行の減額ペースを、来年4月から「毎四半期2,000億円程度ずつ」に緩めると予想しています。


「長期金利は金融市場において形成されることが基本」という原則の重み

 ここで、長期金利が多少不安定化したからといって買い入れ額を調整し始めると、今後長期金利が不安定化するたびに市場から買い入れ額の調整を催促されるようになり、市場の金利形成メカニズムにとってマイナスではないかと思われるかもしれません。

それはその通りです。


 ただ、現在の日銀は、無担保コールレート・オーバーナイト物を誘導する金融政策運営と、国債買い入れとを切り離しています。従って、国債買い入れの減額ペースは、長期金利などへの影響と、市場機能回復への影響とのバランスで考えればよく、少なくとも日銀が長期金利を特定の値にコントロールしようという意思を持たないことが重要です。


 図表3は、来年4月以降、国債買い入れ額を月2.9兆円で横ばいにしたケース(青点線)と、これまでと同じペースで減額し国債買い入れ額が月2.0兆円になったところで横ばいとしたケース(赤点線)の、日銀の国債保有残高の長期推移です。


図表3 日銀の長期国債保有残高の先行き試算
日銀は国債買い入れの減額ペースを緩めるか~長期金利との付き合い方(愛宕伸康)
注:先行きは、青点線が2026年4月以降月額2.9兆円で横ばいのケース、赤点線がこれまでと同様のペースで減額し、月額2兆円になったら横ばいにしたケース。日銀が保有する長期国債の平均残存期間を直近の6.6年で固定して計算した。出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 このように、上のペースで日銀が国債買い入れを今後数十年続けると、日銀の国債保有残高はやがて劇的に減少することになります。しかし、当然のことですが、日銀が買わなくなった国債は、誰かが代わりに買わなければなりません。


 長期国債の現存額は2024年末で1,121.7兆円。日銀の国債保有残高が580兆円ですから、その差額を民間保有分とすると、約540兆円になります。


 長期国債の現存額が拡大しないと仮定しても、日銀の国債保有残高が240兆円に減れば民間保有分は6割増の880兆円。日銀の国債保有残高が160兆円に減れば民間保有分は8割増の960兆円となり、国債の需給バランス維持できるとは到底思えない状況が待っていると言えます。


 そうなったとき、果たして長期金利はどうなるでしょうか。筆者の試算によると、条件設定次第ではありますが、10年金利で6~8%にまで上昇するという結果が出てきます。

果たして、日銀は「長期金利は金融市場において形成されることが基本」と言い続けることができるでしょうか。


 YCCを復活させて、長期金利上昇を抑制すべきだという議論が出てこないとも限りません。今は国債買い入れの減額ペースを四半期で4,000億円にするか、2,000億円にするかといった議論で済んでいますが、長い目でみたとき、「長期金利は金融市場において形成されることが基本」という原則の重みが増すことになります。


(愛宕 伸康)

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