ジリジリと上昇してきた米国株市場。好調なムードと裏腹に、今週注目されていた米中協議は目立った進展なく、消費者物価指数も警戒感は拭えない状況となっています。

すでに株価が高値圏に位置していることもあり、目先は調整局面を迎える展開も想定しておく必要がありそうです。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米国市場「ムード」と「先高観」のギャップ~相場の強気に注意したいタイミング~ 」


ジリジリ上昇している米国株市場だが…

 今週の米国株市場は、これまでのところ上昇基調を保っています。米主要株価指数(ダウ工業株30種平均・S&P500種指数・ナスダック総合指数)の状況を日足チャートでそれぞれ確認すると、5月の終わりごろから、値動きに派手さはないものの、比較的短いローソク足が並びつつ、ジリジリと上昇していることが分かります。


<図1>米NYダウ(日足)とMACD(2025年6月11日時点)
米国市場「ムード」と「先高観」のギャップ~相場の強気に注意したいタイミング~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図2>米S&P500(日足)とMACD(2025年6月11日時点)
米国市場「ムード」と「先高観」のギャップ~相場の強気に注意したいタイミング~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図3>米ナスダック総合(日足)とMACD(2025年6月11日時点)
米国市場「ムード」と「先高観」のギャップ~相場の強気に注意したいタイミング~(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 足元の相場で見られる、こうした小刻みな上昇は意外と継続する傾向があります。


 上の図1から図3のチャートで過去にさかのぼってみても、トレンドの強さを示す下段のMACDが横ばいとなっているにもかかわらず、小刻みに上昇している場面がいくつか見られます。


  前回のレポート でも述べましたが、最近の米国株市場は、米中関係の改善期待をはじめ、米国で公表される経済指標の内容が、いわゆるトランプ関税の影響が目立って反映されていないことや、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ期待を後退させない、「ほどほど」の結果となっていること、半導体銘柄を中心としたグロース株の買いが続いていることなどが挙げられます。


 また、半導体株の動きについては、今週10日(火)に台湾のTSMCが5月の月次売上高を公表し、前年比では大幅に増加したものの、前月比では8%ほど減少しました。


 これを受けた同日の日本株市場では前月比の減少が嫌気され、アドバンテストなどの半導体株が上昇から下落へ転じました。その後の米国株市場では、前年比の増加を好感してエヌビディア株などが上昇する反応となりました。


 どちらかというと、米国株市場は前向きな材料に反応しやすいムードになっている様子もうかがえます。

以前に紹介した「TACO(タコ)=Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビって引く)」 も相場の強気を後押ししています。


 とはいえ、S&P500やナスダック総合の直近高値近くまで株価が上昇していることや、足元の株価と移動平均線との乖離(かいり)が進行していることを踏まえると、そろそろ売りに押されてもおかしくはなさそうです。


 となると、次の焦点になるのは、「移動平均線までの株価調整を経て再び反発し、上昇基調に戻せるか?」ですが、順調にいかないかもしれません。


上昇材料にならなかった米中協議

 そんな中、今週は米中の閣僚級協議の行方が注目されましたが、協議を終えた株式市場の初期反応は、あまり上昇材料にはならなかったと言えます。


 というのも、今後の米中関係や交渉がどうなるのかが依然としてよく分からないからです。


 確かに今回の協議後に、「中国が米自動車メーカーへのレアアースの輸出を6カ月間認める」とか、「米国が中国人留学生を受け入れや、ジェットエンジンなどの中国向け販売規制の緩和する」などの動きが報じられています。


 しかしながら、結局は、5月の10~11日に行われた前回の閣僚級協議で合意された、「関税以外の制限措置の取り止め」がお互いに守られていないこと(米国の中国に対する半導体規制や、中国の米国に対するレアアース輸出規制など)について、「あらためて合意を守りましょう」的なことが確認されただけです。


 米中当局からは前向きなコメントが発信されてはいますが、今回の協議を経て両国の関係が改善するような目立った進展はほぼ無いといっても良いかもしれません。


 政治・外交的には、「米国側はあれだけのメンツ(ベッセント米財務長官、ラトニック米商務長官、グリアUSTR代表)を参加させておきながら、中国側からの譲歩を勝ち得ることができなかった」事実だけが残り、今後も控える他国との関税交渉や政権運営にマイナスに働く可能性もあるため、注意が必要です。


無難に通過した米CPIも、警戒はこれから

 また、今週11日(水)には、米5月消費者物価指数(CPI)が発表されました。


<図4>米消費者物価指数の動き
米国市場「ムード」と「先高観」のギャップ~相場の強気に注意したいタイミング~(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを基に作成

 5月のCPIは、前年比の上昇率は2.4%と、前回(4月)の2.3%からは加速したものの、前月比からは0.1%と前回の0.2%からは減速しました。また、コア指数についても前年比で横ばい、前月比では減速しています。


 上の図4を見ても、インフレの進行が落ち着いている様子がうかがえるほか、今回の結果はいずれも市場予想を下回っていることから、米FRBによる利下げ観測が維持され、この日の米国株市場を支える材料となりました。


 とはいえ、トランプ関税の影響が出てくるまでには時間が掛かり、インフレの加速はこれから出てくる可能性はまだ高く、直近では地政学的リスクの高まりから原油価格が上昇し始めていることも気掛かりです。


 そのため、来週17日(火)~18日(水)に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利の据え置きが見込まれています。


 ただし、今回の米CPIの発表を受けて、トランプ米大統領が自身のSNSに「FRBはフルポイント(1.0%)の利下げをするべきだ」と投稿しています。


 先日も、トランプ米大統領が次期FRB議長の指名を早期に行う旨の発言をしていたこともあり、来週のFOMCでFRBが利下げに慎重な姿勢を継続した場合、トランプ米大統領がFRBもしくはパウエルFRB議長に対してさらなる圧力をかけ、米債券市場がネガティブに反応してしまう展開には注意が必要かもしれません。


「ムード」の買い戻しと、「先高観」の買い上がりに揺れる

 このように、足元の米国株市場は市場のムードやチャートの形状が良好な中、順調に戻り基調を描いてきたわけですが、株価指数の最高値水準が視野に入るところまで上昇したため、ここからの株価上昇はムード先行だけでは持続性に乏しくなってしまいます。


 そのため、先高観による買い上がりが求められるわけですが、現時点でその材料がそろっているとは言えません。目先は相場のムードと先高観のギャップを埋める調整局面が訪れやすく、上昇基調の維持を確認するために時間を掛けていくことになりそうです。


(土信田 雅之)

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