中東情勢の緊迫化で原油価格が急騰。資源を輸入に頼る日本にとって、エネルギー安全保障は生命線である。

その生命線を支える企業群が、今、驚くほど割安になっていると筆者は判断している。配当利回り4%前後の高配当利回り株で、長期投資していく好機と考える5銘柄を解説する。


利回り4.6%も。INPEX、ENEOSなど中東情勢緊迫化で...の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田 真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 利回り4.2%!エネルギー安全保障に貢献する高配当5銘柄まとめ買い 」


なぜ今、エネルギー関連株?

 中東情勢緊迫化を受けて、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物が急騰しています。イスラエルとイランが事実上の交戦状態に入り、中東産原油の供給が減少する懸念が、原油価格急騰につながりました。このニュースは、割安なエネルギー関連株が見直されるきっかけとなる可能性があります。ただし、それは今、エネルギー関連株を推奨する理由ではありません。


<WTI原油先物(期近)の動き:2022年1月3日~2025年6月13日>
利回り4.6%も。INPEX、ENEOSなど中東情勢緊迫化で注目のエネルギー関連高配当5銘柄(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所作成

 原油価格はさまざまな理由で乱高下します。中東情勢の緊迫化を受けて、原油先物は急騰しましたが、このまま価格上昇が続くとは限りません。


 確かにイランがホルムズ海峡を封鎖して、中東原油を運ぶタンカーを通れなくすれば、原油価格はさらに上昇するでしょう。ペルシャ湾から運び出される原油は、ホルムズ海峡を通らないと、日本、中国、米国、欧州へ運ぶことはできないからです。


 ただし、過去、中東で起こった戦争で、ホルムズ海峡が実際に封鎖されたことはありません。1979年、イラン革命が起こり、イランとイラクの開戦が避けられなくなる懸念が生じると、中東からの原油供給が途絶える懸念から原油価格が急騰しました。これが第2次オイルショックです。


 ところが、実際にイランとイラクが開戦し10年にわたり戦争をしていた間、原油価格は下がり続けました。イランもイラクも原油輸出に依存する国なので、たとえ戦争状態にあっても、第3国の原油タンカーの航行を妨害することはありませんでした。


 原油価格がこのまま上昇を続けるかどうかわかりません。というわけで、原油先物の上昇が、エネルギー関連株を推奨する理由ではありません。


 エネルギー関連株を推奨する理由は、原油価格が過去3年にわたり下げ続けたことによって、株価が極めて割安になっていると判断しているからです。原油先物はウクライナ危機後の高値からすでに大きく下落しています。そのため、日本企業のエネルギー事業の利益は減益となり、株価も停滞ぎみになっています。


 日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要な企業群が、極めて割安になっています。長期的に価値が見直されることを期待して、中長期投資のスタンスで買っていくべきと考えています。


 人類のエネルギー依存は今後、どんどん高くなると思います。特に、今年は、生成人工知能(AI)の利用が世界中で急拡大することによって、電力需要が拡大するとみています。


 電力を大量に消費するAIデータセンターの増加によって、電力不足が話題になると予想しています。今後、増加する電力需要を賄いきれず、ガス火力発電や原子力発電を増やす必要が生じると思います。それが、エネルギー価格全般の上昇につながると予想しています。


 エネルギー銘柄の株価が安い今のうちに、割安なエネルギー関連株を買っておくべきと考えています。


エネルギー関連、買い推奨5銘柄

 日本のエネルギー安全保障への貢献が大きいと考える5社で、株価が現在、割安と判断できる銘柄を選別しました。


 日本は、資源を輸入に頼る国で、世界に広がる資源ナショナリズムでたびたび痛い目を見てきました。その経験から、日本企業は、海外で資源開発を幅広く手掛け、資源権益を拡大してきました。日本のエネルギー安全保障を守るのに寄与する資源・海運・電力企業を選別しました。


 以下の5銘柄です。


<エネルギー安全保障に貢献すると考える、高配当利回り株5選:2025年6月13日時点> コード 銘柄名 株価:円 配当利回り PER:倍 PBR:倍 1605 INPEX 2,122.5 4.2% 8.5 0.52 5020 ENEOS HD 742.8 4.0% 10.8 0.64 8058 三菱商事 2,845.5 3.9% 15.2 1.17 9101 日本郵船 5,120.0 4.6% 9.1 0.75 9502 中部電力 1,705.5 4.1% 7.0 0.45 出所:各社決算資料・QUICKより楽天証券経済研究所作成。配当利回りは1株当たり年間配当金(今期会社予想)を6月13日株価で割って算出。
1株配当金は、INPEX90円、ENEOS30円、三菱商事110円、日本郵船235円、中部電力70円。PERは、株価を1株当たり利益(今期会社予想)で割って算出。今期とは、INPEXは2025年12月期、他は2026年3月期  上記5社の株価指標をご覧ください。ディープ・バリュー株(株価指標で見て割安度が際立つ株)であることが分かります。予想配当利回りは3.9~4.6%と、魅力的な水準です。株価収益率(PER)は7.0~15.2倍と低く、株価純資産倍率(PBR)は、三菱商事(PBR1.17倍)を除き、解散価値と言われる1倍を大きく割り込んでいます。

 利益も配当もしっかり出していて、エネルギー安全保障にとって重要な企業であるにもかかわらず、株価は低い評価となっています。5社とも、中長期で価値が見直されると判断し、「買い」と判断しています。中でも、INPEXが、現時点では一番、投資価値が高いと考えています。1銘柄だけ投資するならば、INPEXをお薦めします。


 5銘柄それぞれ、固有の投資価値とリスクがあります。楽天証券のかぶミニ®を使えば、1株単位で売買できるので、以下の通り、3万円弱で5銘柄に分散投資する方法も、推奨されます。


<エネルギー安全保障にとって重要な5銘柄への分散投資ポートフォリオ(かぶミニ®利用):2025年6月13日時点> コード 銘柄名 配当
利回り 業種 株価 投資
株数 投資
金額 投資
比率 1605 INPEX 4.2% 鉱業 2,122.5 3 6,368 23.2% 5020 ENEOS HD 4.0% 石油 742.8 7 5,200 18.9% 8058 三菱商事 3.9% 商社 2,845.5 2 5,691 20.7% 9101 日本郵船 4.6% 海運 5,120.0 1 5,120 18.6% 9502 中部電力 4.1% 電力 1,705.5 3 5,117 18.6% 平均 4.2% 合計 16 27,495 100% 出所:銘柄選別は筆者、QUICKより楽天証券経済研究所が作成。

 それでは以下、5社を買いと判断する理由について簡単にコメントします。


INPEXを買いと判断する理由

 INPEXは、日本最大の原油・天然ガスの開発・生産企業です。日本のエネルギー安全保障にとって、最も重要な会社と考えられます。敵対的買収されることのないよう、黄金株【注】を発行し、経済産業大臣が保有しています。


【注】黄金株


 経営上の重要事項について、黄金株の保有者に拒否権がある。企業防衛策として高い効果がある。敵対的買収などを防ぐ効果があると考えられる。


 黄金株は、経営陣の自己保身に使われることもあるので、発行が認められることは少ない。日本で黄金株を発行しているのは、INPEXのみである。


 INPEXは、2021年12月1日のレポートで投資判断を「強い買い」に引き上げた銘柄です。その時のレポートは、以下からお読みいただくことができます。


2021年12月1日: 利回り3.7~6.2%、12月決算の高配当株5選。

INPEXを「買い推奨」に引き上げ


 株価は、2021年12月1日の938円から既に126%上昇して2,122.5円となっていますが、その間、利益も配当も自己資本も拡大しているため、PER8.5倍、PBR0.52倍と、株価指標で見て極めて割安です。日本のエネルギー安全保障にとって重要な企業であることが、株価に織り込まれていないと考えられます。


 以下、長期の株価チャートをご覧ください。同社株価は2020年まで、原油・天然ガス価格下落を受けて下落していました。2021年以降大きく上昇しているとはいえ、2007~2008年の株価と比較すると、まだ低い水準にあります。


<INPEX株価、月次推移:2007年1月末~2025年6月(13日)>
利回り4.6%も。INPEX、ENEOSなど中東情勢緊迫化で注目のエネルギー関連高配当5銘柄(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所作成

 INPEXを高く評価する点は、以下5点です。


【1】日本最大の原油・天然ガス生産・開発企業。長年の先行投資が実り、今後生産量・埋蔵量とも拡大が続くと見込まれる


 原油・ガスの生産量・埋蔵量は国内最大で、海外20カ国に資源権益を有します。長い年月をかけて開発を進めてきたオーストラリア(イクシス)で先行投資が実り、生産量や確認埋蔵量が拡大する局面に入っています。インドネシア(アバディ)も2030年ごろ生産開始を目指し、開発が進んでいます。


【2】海外権益のほとんどが友好国に


 海外権益はほとんど、オーストラリア、インドネシア、中東などの友好国にあります。


【3】技術的に難しい海底ガス田を開発


 技術的に難しい海底ガス田を開発、陸上にガスを誘導して液化天然ガス(LNG)に転換して日本などに輸出するプロジェクトを行っています。

技術的な難易度が高く、資源ナショナリズムによって接収されるリスクは低いと考えられます。


【4】脱炭素にも積極的に取り組み


 2050年にCO2排出ネットゼロを目指し、(1)水素・アンモニア事業、(2)CCUS(CO2回収・貯蔵・利用)、(3)再生エネルギー事業(地熱・風力など)、(4)メタネーション(合成メタン)、(5)森林保全などの事業を推進しています。


【5】株価割安、株主への利益還元に積極的


 PBR0.52倍と、株価は極めて割安と判断しています。


 また、日本企業として珍しいほど、株主への増配・自社株買いに積極的と言えます。自社株買いを、2022年1,200億円、2023年1,000億円実施、2024年も1,300億円実施しました。配当と自社株買いを合わせた株主への総還元性向は、2022年が44.1%、2023年が60.6%で、2024年は55.0%でした。2025年以降も、引き続き、高水準の利益還元が期待されます。


 一方で、不安材料もあります。特に私が重視しているのは、以下2点です。


【1】資源ナショナリズムのリスク


 最大のリスクは、資源ナショナリズムです。海外に保有する権益はいつでも資源ナショナリズムによって接収されるリスクがあります。現在、友好国中心に権益を保有しているとはいっても、その友好関係がなんらかの理由で崩れるリスクは常にあります。


 国交断絶にならない限り、さすがに無償で権益を没収されることはないと考えられますが、それでも友好関係が崩れると不当に低い対価で権益を奪い取られるリスクが生じます。日本企業が保有する権益に対し、「環境アセスメントで問題あり」など難癖をつけて取り上げることが考えられます。


 友好国であっても法人税率をどんどん高めることで実質的に利益を取り上げられてしまうこともあります。INPEXも海外事業では高率の法人税を取られています。


【2】脱炭素が進むことに伴うリスク


 世界中で、脱炭素に向けた取り組みが進む中、化石燃料ビジネスを展開する企業は、「環境税」などのペナルティを科せられるリスクがあります。これに対し、INPEXは2050年のCO2排出ゼロを目標としてさまざまな取り組みをしていますが、その効果が出るにはかなりの年数を要します。


 ただ、上記に挙げたリスクを勘案しても、先に解説した五つのポイントから、INPEXに投資する価値は高いと判断しています。


ENEOS、三菱商事、日本郵船、中部電力を買いと判断する理由

 ENEOSは、原油、LNG、合成燃料、水素エネルギー事業など展開する総合エネルギー企業として評価しています。国内のガソリン小売事業は、過当競争が終焉(しゅうえん)し安定収益となっています。海外で資源開発を行い資源権益を保有、日本のエネルギー安全保障に重要な役割を果たしています。


 三菱商事は、エネルギー事業だけでなく、エネルギー以外の事業も含めて、グローバルに幅広いビジネスを展開して成長していく企業と評価しています。


 日本郵船は、LNGタンカーで商船三井とともに世界最大級の船舶を運航管理しています。オイルタンカーも含め、エネルギー物流で重要な役割を果たしています。


 同社は現在、定期船ビジネスを行う持分法適用会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)社が最大の稼ぎ頭となっていますが、今期(2026年3月期)は紛争で使えなかった中東ルート再開によって定期船市況が下落したため、営業利益(会社予想)は前期比36%減の1,350億円となる見込みです。それでも、同予想に基づくPERは9.1倍と株価は割安と判断しています。


 電力株では現在、中部電力のみ、買い推奨しています。本来ならば、電力株をもっと幅広く推奨したいのですが、日本の電力株は不稼働原発を抱えるコストが重く、財務が悪化しています。財務内容を勘案した上で、中部電力のみを選別しています。


電力・エネルギー関連、その他の注目企業

  日立製作所(6501) や、 三菱重工業(7011) は、電力関連の成長ビジネスを有しており、日本のエネルギー安全保障にとって大切な企業です。


 ただし、2024年に株価が大きく上昇していて、現時点で株価が割安とは判断できないので、今日のレポートでの推奨銘柄には加えていません。


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2025年5月13日: 【特集記事】割安、収益拡大中!「INPEX」買い推奨の五つの理由(西 勇太郎)


(窪田 真之)

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