中東情勢緊迫化でも今のところ値崩れは回避している米国株市場。株価の割高感はありますが、AI需要を背景とした半導体関連株や暗号資産関連株など「買える銘柄」の存在が相場を支えています。
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著者の土信田雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 視界不良の米国株を支える「買える銘柄」の存在~それでもスタグフレーション警戒は続く~ 」
視界不良の中でも堅調さを保つ米国株市場
先週末にイスラエルがイランを攻撃し、中東情勢が緊迫する中で迎えた今週の株式市場。米国株の動きを見ると、今のところ相場が崩れたような状況にはなっていません。
<図1>米国の主な株価指数のパフォーマンス比較(2025年6月18日時点)

上の図1は、昨年末を100とした、米国の主な株価指数のパフォーマンスを比較したグラフです。
主要株価3指数(ダウ工業株30種平均・S&P500種指数・ナスダック総合指数)をはじめ、上値が切り下がって軟調気味に推移している指数が多いことが確認できます。それでも積極的に下値を探りに行っている様子は見られず、視界不良の中でも割と堅調さを維持していると言えます。
また、最近までの米国株については、株価収益率(PER)などの面で、かなり割高であることは以前のレポートで何度か述べたことがあります。
<図2>米S&P500(月足)と長期PERの推移(2025年6月18日時点)

上の図2は月足のS&P500と、「CAPEレシオ」と呼ばれる長期のPERを示したものです。18日(水)時点のCAPEレシオの値は33.97倍です。
図で表示されている期間は約30年ですが、CAPEレシオが30倍を超える場面はそれほど多くなく、また、30年間の平均(23.79倍)と比べても現在の米国株はPERの面から見て割高感がある状態です。
一般的に、株式市場に割高感がある状況で、地政学的リスクの高まりや景況感の悪化など、市場環境の雲行きが怪しくなってくると、下げ幅を伴って調整局面入りしやすいのですが、足元の米国株はそこまで売りに押されずに踏みとどまっています。
相場を支える「買える銘柄」の存在
こうした米株価指数の底堅さの要因の一つとして、「買える銘柄」が結構多いことが考えられます。
例えば、少し話を戻して先ほどの図1を見てみると、半導体関連銘柄で構成される「SOX」指数の動きが強いことが読み取れます。
米大手テック企業がAIデータセンター向けの電力確保の動きを見せていることが相次いで報じられていたほか、先週もクラウド基盤事業の成長で好決算を発表したオラクルが大きく株価を伸ばすなど、「AI需要はまだまだ強いのではないか?」という見方が優勢となり、半導体やAI関連株への物色が続いています。
<図3>米「マグニフィセント・セブン」銘柄のパフォーマンス比較(2025年6月18日時点)

上の図3は、昨年末を100とした「マグニフィセント・セブン」銘柄のパフォーマンス比較ですが、 メタ・プラットフォームズ(META) や マイクロソフト(MSFT) 、 エヌビディア(NVDA) の3銘柄がナスダックのパフォーマンスを上回っています。
<図4>注目の米AI関連銘柄のパフォーマンス比較(2025年6月18日時点)

このほか、先ほど紹介した オラクル(ORCL) や、 パランティア・テクノロジーズ(PLTR) 、 クラウドストライク(CRWD) 、 IBM(IBM) などが突出したパフォーマンスを示しており、ナスダックを大きく上回っています。
また、最近は暗号資産関連が物色される場面も増えています。
この暗号資産については、とりわけ「ステーブルコイン」が注目されており、米国の上院で関連法案が今週に可決したほか、ステーブルコインの発行体企業のサークル・インターネット・グループが今月の5日に米国株市場で新規上場し、公開価格(31ドル)に対して、18日(水)の終値(199ドル)まで、短期間で急上昇するなどの動きを見せています。
ステーブルコインとは、仮想通貨の一種で、通貨や決済手段としての実用性を高めるために、価格の安定性を重視したので、国債や法定通貨を裏付け資産に設定するという特徴があります。ステーブルコインが決済手段として普及すれば、従来の銀行システムを介した決済と比較して、手数料が低く、迅速な取引が可能になると期待されています。
さらに、最近は米国の「トリプル安(株安・債券安・通貨安)」が市場を不安にさせる場面がありましたが、今後、米ドルや米国債を裏付け資産とするステーブルコインの発行が増えれば、それに伴って、米ドルや米国債を買う主体が増えることも意味するため、一定の米国資産の安定性に寄与するのではという見方もあるようです。
FOMCから垣間見える先行きの不透明感
しかしながら、肝心の米関税政策の不確実性や、米景気への影響、地政学的リスクの高まりなど、マクロ環境面が実体経済に影響を及ぼす不安がくすぶっています。
今週は17日(火)~18日(水)にかけて米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されましたが、その結果は市場の予想通り、政策金利が据え置かれ、その後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見でも、今後の利下げについて引き続き慎重な姿勢が示されました。
<図5>6月18日の米NYダウの1分足

米FOMCの結果が公表されたのは現地時間18日(水)の午後14時ですが、この日の米NYダウの値動きを1分足でたどると、前日終値付近で取引がスタートし、午前中にこの日の高値をつけた後、14時まで上げ幅を縮小する展開となっていました。
そして、米FOMCの結果が出る14時前から再び上昇し始め、結果公表直後やパウエル議長の記者会見開始直後に株価が跳ねる場面がありましたが、記者会見の途中あたりから下落に転じ、前日比マイナスで取引を終えています。
こうした値動きから、今回の米FOMCに対する市場の反応を見ると、ポジティブな見方とネガティブな見方が混在しているような印象を受けますが、これは、政策金利と同時に公表された「ドット・チャート」からもうかがえます。
ドット・チャートとは、政策金利や国内総生産(GDP)成長率、インフレ率の見通しについて、米FOMCのメンバーが予想し、それぞれの予想を点(ドット)で描いて散布図化したもので、3カ月ごとに公表されます。
<図6>「ドット・チャート」による2025年末の米政策金利見通し(2025年6月分と3月分の比較)

2025年末時点の政策金利予想について、今回の分布の状況を見ると、年内に「利下げなし」を予想したメンバーは7人と、前回から3人増えたほか、年1回の利下げ予想は2人減って2人に、年2回利下げ予想は1人減って8人になり、年3回は2人のままとなっています。
中央値(3.9%)自体は前回(3月)と同じで、利下げ見通し自体は変化なかったものの、利下げに慎重な勢力が大きく増えており、インフレを警戒する見方が根強いことを示唆しています。
従って、しばらくのあいだは、個別物色が相場を支えそうですが、相場全体として中長期的な強気に傾くのにはまだ早く、目先は直近高値付近で上昇がストップしたり、軟調に転じるシナリオの可能性が高そうです。
(土信田 雅之)