先週はイラスエル・イラン紛争の沈静化と激化が株価を乱高下させました。土日には米国がイランの核施設を直接攻撃。

今週はイランがホルムズ海峡封鎖の報復措置に出て、原油価格が急騰、世界的に株価が急落する恐れがあります。ただし米国株の代替投資先となる日本株には海外からの逃避資金の流入に期待が持てるかもしれません。


米国がイラン攻撃、世界株急落の恐れ。日本株への資金逃避が進む...の画像はこちら >>

米国参戦で中東緊迫!オイルマネーや紛争当時者になった米国から日本株へ資金逃避進む?

 日本時間22日(日)、米国が意表をついてイランの核施設をミサイル攻撃し、イスラエル・イラン紛争に直接参戦しました。


 報復としてイランが原油の重要な輸送ルートであるホルムズ海峡封鎖の準備を進めていることもあり、今週の株式市場は激しい乱高下に見舞われそうです。


 先週19日(木)には「米国トランプ大統領が紛争に介入するかどうか2週間以内に決める」という発表もありましたが、それは奇襲攻撃までの時間稼ぎだったようです。


 トランプ大統領は先週17日(火)にイランに対して「無条件降伏」を要求しました。


 しかし、イランがすぐに和平交渉に応じる可能性も少なく、当面はホルムズ海峡封鎖や中東の親米国にある米国基地や石油関連施設への報復攻撃が続きそうです。


 原油価格の高騰が確実視されますが、それは米国の物価高再燃や長期金利の上昇につながるため、米国株にとって特にネガティブです。


 中東から大量の原油・天然ガスを輸入する日本経済にとっても大打撃ですが、日本は中東情勢への関与度が低いこともあり、海外からの逃避資金の流入に期待できる点が救いといえるでしょう。


 また米国とイスラエルが圧倒的軍事力でイランを抑え込む可能性も高く、今週後半に報復合戦が沈静化すれば、世界的な株価の反発にも期待できるでしょう。


 先週の日経平均株価(225種)は前週末比568円(1.5%)高の3万8,403円まで上昇。


 機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数が0.15%安とほぼ横ばいで推移する中、日本では紛争とは無縁のゲーム株や内需株、半導体株が物色され、底堅く推移しました。


 20日(金)には米国が日本に対して防衛費を国内総生産(GDP)の3.5%まで引き上げることを要求しているという報道もあり、 三菱重工業(7011) など防衛関連株が今週の相場の主役になりそうです。


 先週18日(水)終了の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではトランプ関税による物価高を警戒して、利下げには慎重な姿勢が示されました。


 参加理事たちが今後の政策金利の水準を予想した分布図「ドットチャート」の2025年の利下げ回数の予想中央値は前回同様2回でしたが、年内利下げなしの予想が前回の4人から7人に増えるなど、市場の早期利下げ期待を裏切る結果になりました。


 利下げに慎重だったFOMCの結果や中東情勢の緊迫化による「有事のドル買い」で、ドル/円レートの20日(金)終値は1ドル=146円10銭台まで上昇。


 円安が進んでいることも今週の日本株にとって追い風になりそうです。


 米国では今週24日(火)、25日(水)に米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が半期に1度の議会証言を行います。


 先週のFOMC後、利下げが行われなかったことに腹を立てたトランプ大統領は再びパウエル議長解任を匂わせる発言を行っています。


 ただ、トランプ大統領も今週はイスラエル・イラン紛争への直接参戦でパウエル議長どころではない状態でしょう。


 米国第一主義を掲げ海外紛争への関与に否定的な共和党支持者も多く、今回のイラン直接攻撃はトランプ大統領にとっても大きな賭けです。


 トランプ大統領が望むようなイランの無条件降伏に近い和平交渉の受け入れがない場合、あまりにも不確実性の高い米国トランプ政権を恐れた海外マネーが米国から流出し、米国株、米国債、米国ドル全てが売られる「トリプル安」が起こる可能性もないとはいえません。


 23日(月)の日経平均は3万8,260円でスタート、終値は前営業日の49円安となる3万8,354円で終了しました。


先週:オイルマネー流入で日本の半導体株急騰!任天堂などゲーム株が買われる

 先週の株式市場はイスラエルの圧倒的軍事力で中東情勢が一時、小康状態になったこともあり、乱高下したものの落ち着いた展開でした。


 特に日本株は紛争地の中東から遠いこともあり、かなり力強く上昇。


「Nintendo Switch2」の販売が好調な 任天堂(7974) が前週末比7.7%高となるなど、同社の属するその他製品セクターが週間の業種別上昇率1位でした。


 2位にパルプ・紙、3位に電気・ガス業、5位に不動産業、6位に建設業が入るなど、地政学的リスクとは関係が薄い内需系のディフェンシブ株が買われる展開になりました。


 一方で、人工知能(AI)の普及に対する根強い期待感から、半導体検査装置メーカーの アドバンテスト(6857) が15.6%高、 レーザーテック(6920) が12.8%高となるなど、大型の半導体株が軒並み上昇。


 一説には米国市場を回避したい中東のオイルマネーの流入もうわさになるほどです。


 米国市場ではAI関連の主力株である高速半導体メーカー・ エヌビディア(NVDA) が1.32%高。上昇はしたものの、それほど急騰しているわけではありません。


 降って湧いたような日本の大型半導体株上昇の背景には海外からの巨額マネー流入があることは間違いなさそうです。


 先週はカナダで主要国首脳会議(G7サミット)が開催されました。


 しかし、2カ国間交渉を重視するトランプ大統領が中東情勢に対する対応協議で1日目の16日(月)に早々と帰国してしまったこともあり、成果の乏しいものになりました。


 G7サミットでの合意を目指していた日米通商協議に関しても、帰国後に石破茂首相が「早期の合意を優先して国益を損なってはならない」旨の発言をするなど進展はなかったもようです。


 自動車や鉄鋼の25%関税に関して日米の意向に大きな隔たりがあるのは明らかなため、 トヨタ自動車(7203) が前週末比2.1%安、USスチール(X)の買収を完了した 日本製鉄(5401) が3.4%安となるなど、米国から高額関税をかけられている自動車株や鉄鋼株は振るいませんでした。


 一方、米国は中東情勢が緩和と緊迫を繰り返したことで、株価が上下動を繰り返す小幅な値動きになりました。


 17日(火)発表の5月の小売売上高がトランプ関税前の駆け込み需要の反動で前月比0.9%減と予想を大幅に下回る減少になったことも響きました。


 18日(水)発表の5月の住宅着工件数も前月比9.8%減と5年ぶりの低水準まで大幅に落ち込みました。


 中東情勢に隠れてそれほど反応はなかったものの、トランプ関税が景況感だけでなく、実体経済の動向を示す指標にも悪影響を及ぼし始めた悪い兆候かもしれません。


今週:ホルムズ海峡封鎖、イラン最高指導者暗殺までエスカレートすれば世界同時株安も!?

 今週は何といっても週末に米国が直接参戦に踏み切ったイスラエル・イラン紛争で株価が乱高下する展開になるでしょう。


 もしトランプ大統領が求めるようにイランが「無条件降伏」すれば、中東の勢力図は劇的に変化します。


 何かと外交的成果を欲しがるトランプ大統領が米国の敵対勢力だったイランを米国寄りの国家に塗り替える「歴史的な偉業」を達成できれば、米国株が上昇する展開もあるかもしれません。


 ただ、イランがそうやすやすと和平や停戦に応じるとは思えません。


 今後、米国・イスラエルがイランの最高指導者ハメネイ師暗殺など、より強硬な手段に出た場合は地政学的リスクの極度の高まりから世界的な株価暴落が発生する恐れもあります。


 さらに原油価格の高騰は、ただでさえトランプ関税で物価高再燃が懸念される米国経済にとっても痛手です。


 中東紛争が泥沼化するようだと、米国第一主義の共和党支持層のトランプ離れが進み、米国株市場からも資金が逃げ出すかもしれません。


 まったく先が読めない展開なだけに、今週のトランプ大統領の出方に注目が集まります。


 米国では、23日(月)に6月の製造業やサービス業の購買担当者景気指数(PMI)や5月中古住宅販売件数、24日(火)に民間調査会社コンファレンス・ボードの6月消費者信頼感指数、27日(金)には5月の個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)も発表されます。


 FRBが最重要視する物価指標といわれる、変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアPCEデフレーターは前年同月比2.6%増と前月よりも伸び率が加速する予想になっています。


 ただ、6月11日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.4%の上昇で予想を下回っており、FRBが恐れるようなトランプ関税による物価上昇はまだ顕著になっていません。


 一方、日本国内では20日(金)に発表された5月の生鮮食品を除くコアCPIが前年同月比3.7%の上昇となり、今や米国を上回る物価高が続いています。


 中でもコメの価格は1年で2倍以上急騰しており、7月20日(日)に投開票が行われる見通しの参議院選挙でも物価高対策が争点になりそうです。


 メディアでは物価高に悲鳴を上げる人々の声が紹介されていますが、株式市場では値上げでコスト高を価格転嫁している小売、流通企業など内需株の株価上昇が続いています。


 物価上昇はある意味、株式投資にとっては追い風といえます。


 また物価高が継続すれば、2024年12月末時点で2,230兆円に達する家計の金融資産の一部がインフレに強い株式市場に新たに流れ込む可能性もあり、これもまた長期的に見た日本株の上昇要因といえるでしょう。


 中東情勢が短期間でいったん沈静化するようなら、今週の日本株も上昇基調が続く可能性があるでしょう。


(トウシル編集チーム)

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