中東情勢が一段と緊迫化しています。イスラエルとイランが交戦中にある中、米国がイランの核施設を攻撃しました。

そしてイランは即座に、同国の国会で「ホルムズ海峡封鎖」を承認しました。本レポートでは、直近の原油相場の値動きと中東情勢、ホルムズ海峡の概要などに触れ、最後に今後の原油相場を展望します。


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※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中東情勢混迷 原油乱高下 イスラエル、イランは今後どうする!? 」


急反発する原油相場

 以下は、中東情勢が急激に悪化する直前の6月10日と直近の、主要銘柄の騰落率です。原油が突出して上昇していることが分かります。


図:主要銘柄の騰落率(2025年6月10日と6月23日 日本時間午前を比較)


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:Investing.comのデータを基に筆者作成

 中東情勢の悪化→原油の主要生産地域における供給減少懸念浮上、および1970年代後半の急騰劇を想起→世界全体の原油需給がひっ迫することへの強い懸念浮上、という連想により価格上昇が起きていると、考えられます。


 以下のグラフのとおり、2025年の前半はトランプ関税ショックや石油輸出国機構(OPEC)プラス※の自主減産の縮小(限定的な増産)の影響で反落する場面がありましたが、6月の半ば以降、中東情勢の緊迫化を受けて急反発しています。


※OPECプラスとは、以下のとおりOPECに加盟する12カ国と、非加盟の11カ国の合計23カ国で構成される産油国のグループ。原油市場への影響力の大きさの目安になり得る「原油生産シェア」は、23カ国合計でおよそ58%(2025年4月時点)。


図:NY原油先物(期近)日足終値 単位:ドル/バレル


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:Investing.comのデータを基に筆者作成

80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル

 レンジ相場とは、下落圧力と上昇圧力に挟まれて生じる一定の上限と下限の間で価格が推移している状態のことです。先ほどのグラフのとおり、2022年の年末から続いているレンジ相場は、80ドルを挟んだプラスマイナス15ドルで形成されています。


 足元は、中東情勢の緊迫化を背景に反発し、レンジのちょうど真ん中である80ドルに差し掛かりつつあります。


 中東情勢の緊迫化については、前回の記事


「 中東情勢悪化で金(ゴールド)、原油が急騰 」

で述べたとおり、世界に強大な影響力を持つ米国の大統領であるトランプ氏が、イスラエルに攻撃を自粛させられなかったこと、イランに核開発をやめさせることができなかったことが、主因だったと考えています。


図:原油相場を取り巻く環境(2025年6月下旬)


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:筆者作成

 そして、この件に加えて、トランプ氏がイランの核施設の空爆を指示したこと、その影響でイランが国会で「ホルムズ海峡」を封鎖することを承認したことが、緊迫化に拍車をかけています。


「ホルムズ海峡封鎖」は、世界にいくつか存在する「テールリスク」の一つとされてきました。テールリスクとは、発生する可能性は低いものの、発生した場合に甚大な影響が生じるリスクのことです。


 国会で承認されたことで、封鎖の可能性が上昇しているといえます。世界で輸出される原油のおよそ35%が通過すると推測される同海峡が封鎖された場合の影響は甚大です。


図:中東の主要国、ホルムズ海峡などの位置


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:筆者作成

 ただし、レンジ相場で推移してきたことから分かるとおり、原油相場には下落圧力がかかり続けています。このため、海峡封鎖が起き、短期的に原油相場が急騰しても(仮に100ドルを超えても)、それは短期で収束し、もとのレンジ(80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル、65~95ドル)に戻る可能性があります。


 下落圧力をかける材料には、関税戦争がもたらす世界景気鈍化懸念、OPECプラスの自主減産の縮小や、将来的な米国の原油生産量の増加(「掘りまくれ!」の現実化)、米国国内のバイオ燃料需要増加観測(ガソリンへの混合率上昇策)などが挙げられます。


 これら以外に筆者が特に注目している下落圧力をかける材料は、イランの国会で承認されて一歩、現実に近づいた「ホルムズ海峡封鎖がもたらす世界経済を悪化させる懸念」です。


 足元、ホルムズ海峡封鎖は、米国の核施設への攻撃をきっかけに、イラン国会がそれを承認したことで、テールリスクではなく、現実味を帯びたリスクになっていると、考えられます。


 短期的には、同海峡封鎖は供給減少を拡大させる上昇要因になり得ますが、長期視点で見れば、世界経済を大きく悪化させて、原油の需要を減らす下落要因になり得ます。


ホルムズ海峡封鎖時はアジア諸国に甚大な影響

 ホルムズ海峡について、情報を整理します。世界の海路には、いくつかチョークポイントがあります。地理上では、「ふさぐ」ことを意味するチョーク(Choke)は、狭くなっている海峡や運河が該当します。


 原油や石油製品の輸送において、ホルムズ海峡は世界最大級のチョークポイントです。米国エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、同輸送において、世界全体の海上輸送の約27.0%、世界全体の石油総供給の約20.5%がこの海峡を通過しています(2023年)。


図:各チョークポイントを通過する原油・石油製品の量(1日当たり)(2023年)


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:EIA、IMFのデータを基に筆者作成

 同海峡というと、原油や石油製品を運ぶタンカーが航行している様子を強く想起しますが、それら以外にも、農産物や鉱物を運ぶばら積み船である「ドライバルク船」、多種多様な製品・半製品を運ぶ「コンテナ船」なども航行しています。


 また、EIAのデータによれば、以下のとおり、海峡を通過する原油・石油製品の輸入元は、アラビア湾(ペルシャ湾)周辺の産油国で、輸出先は中国(32%)、インド(13%)、韓国(11%)、日本(11%)などのアジア諸国向けが80%を超えます(2023年)。


図:ホルムズ海峡を通過する原油・石油製品の輸入元と輸出先(2023年) 単位:百万バレル/日量


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:EIAのデータを基に筆者作成

 これらのデータより、ホルムズ海峡が仮に封鎖された場合、アジア向けの原油や石油製品の供給が大きく減少する可能性があります。また、中東諸国とのさまざまな農産物や多種多様な製品・半製品の輸出入が急減する可能性があります。これらは、ひいては世界経済を大きく鈍化させる要因になり得ます。


ホルムズ海峡封鎖はあるのか?

 現時点で筆者は、同海峡の封鎖は限定的に起き得ると考えています。ホルムズ海峡は、全長約160キロメートルで、最も狭い部分の幅は約33キロとされています。世界の原油の約35%、石油製品を含めれば約20%が通過する要衝にもかかわらず、大変に狭い海峡です。


 この海峡を封鎖するには、(1)自国(イラン)の船舶で他の船舶の航行を妨害する、(2)船が触れると爆発する機雷(機械水雷)を多数設置する(水深が浅い同海峡では機雷を設置しやすい)、(3)イランの沿岸部からドローンやミサイルで攻撃したり、巡視船やヘリコプターで攻撃したりする、などが挙げられます。


 現実的には、「モノやヒトにできるだけ損害を与えない」、(1)のやり方で封鎖を行う可能性があると、筆者は考えています。


 海峡封鎖はイランにもダメージがある、という指摘があります。ですが、封鎖をする主体はイランであり、イランがその手法を選択できること、イランがアラビア湾の外であるインド洋に最も近いこと、などの条件を考慮すれば、イランのみが限定的ではあるものの輸出を継続することは不可能ではないと考えます。


図:イランの原油輸出先(2023年)


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:EIAのデータを基に筆者作成

 イランは上の図の通り、シリアやベネズエラなど、欧米に制裁を科されている国々への輸出も行っていますが、同国の原油のほとんどを、中国に輸出しています。


 イランが海峡を何らかの手法で封鎖した場合、中国が大きなダメージを受けますが、中国がイランとつながりがある「ロシア」から原油を調達できる環境にあることを考えれば、イランは海峡封鎖を決断しやすいといえます。


急騰はなくても「原油高・物価高」が続く可能性あり

 以下のとおり、原油高は米国の消費者物価指数(CPI)のエネルギーも部門と高い連動性を維持しています。中東情勢の緊迫化により、先述のレンジの上限である95ドル付近で推移し続ければ、CPIの高止まりも避けられないでしょう。


図:米国CPIのエネルギー(実数値)とNY原油先物(月足 終値)


中東情勢混迷、原油乱高下、イスラエル、イランは今後どうする!?
出所:米労働省および世界銀行のデータより筆者作成

 中東情勢の緊迫化は、米国だけでなく、日本で暮らすわれわれの生活にも、多大な影響を与える事象です。中東という非西側の論理で動く国々の情勢は、大変に読みにくい傾向があります。くれぐれも、「イランは自制心を取り戻してくれるだろう」といった、西側の論理・常識で事態を考えることがないように、気を付けなければなりません。


[参考]エネルギー関連の投資商品(一例)

国内株式(NISA成長投資枠活用可)

INPEX(1605)
出光興産(5019)


国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)

NNドバイ原油先物ブル(2038)
NF原油インデックス連動型上場(1699)
WTI原油価格連動型上場投信(1671)
NNドバイ原油先物ベア(2039)


外国株式(NISA成長投資枠活用可)

エクソン・モービル(XOM)
シェブロン(CVX)
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)


海外ETF(NISA成長投資枠活用可)

iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF(IXC)
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド(XLE)


投資信託(NISA成長投資枠活用可)

シェール関連株オープン


海外先物

WTI原油(ミニあり)


CFD

WTI原油・ブレント原油・天然ガス


(吉田 哲)

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