トランプ大統領は23日午後、イスラエルとイランが停戦で合意したとSNSに投稿。これを受けて、原油が急落している。

今後、原油価格はどうなるか、日本株への影響はどうなるか、さまざまな角度から解説する。


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トランプ大統領の投稿を受けて原油先物が急落

 イスラエルとイランの戦争に米軍が介入しました。イスラエルと米国の軍事力は圧倒的で、戦況ははっきりイスラエル優位です。これで戦争の早期終結が見込まれるのか、あるいは泥沼の長期戦となるか、トランプ大統領のSNS投稿だけでは確定的なことはわかりません。


 泥沼の長期戦となり、中東からの原油供給が途絶える懸念から、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物は急騰しました。私は、このまま原油価格の上昇が続くとは考えていません。当面1バレル=55~75ドルで原油価格は安定すると予想しています。


<WTI原油先物(期近)推移:2022年1月3日~2025年6月20日>
イスラエルとイランが停戦合意?中東危機の行方、日本株への影響は?(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 これから起こることを予測することは不可能ですが、過去の事例を参考に考えることはできます。1980年代以降、中東有事で原油価格が急騰し、世界的に株が下がることがありましたが、一時的にとどまりました。事態が鎮静化して原油が反落する時に、世界的に株が反発することが多かったと言えます。


 ただし、中東有事を起点として原油価格が大幅に上昇し、深刻な世界不況になったこともあります。それが、1973年の第4次中東戦争後に起こった、第1次オイルショックです。


 この時、石油輸出国機構(OPEC)諸国が結束して、イスラエルを支援する国々(米国など)への原油供給を停止したために、原油価格は急騰しました。

原油はそれまで1バレル=2~3ドルという安値で買いたたかれていたこともあり、一気に、1バレル=40ドル台まで上がり、世界不況を起こしました。


 このように中東有事が原油価格の大幅上昇につながり、世界不況を起こしたのは、1970年代が最後でした。1980年代以降は、中東有事が継続的な原油上昇にはつながっていません。


 それでは、今回はどうなるでしょうか? 原油が継続的に上昇した1973年当時と今では、政治・経済情勢がまったく異なります。オイルショックのような変化は起こらないと、考えています。


イランは中東で孤立

 イランは、1979年にシーア派革命が起こり、シーア派が主導する国家になってから、中東で孤立する存在となっています。


 イスラム教には、スンニ派・シーア派という二大宗派があります。スンニ派盟主のサウジアラビアは、シーア派武装勢力と対立が続き、それを支援するイランと敵対してきました。中東諸国のほとんどがスンニ派が支配する国で、国内のシーア派対策に苦慮しています。


 こうした現状にあって、現状、シーア派が主導するイランは、中東において孤立しています。第1次オイルショックの時のように、中東諸国が結束して原油価格を上昇させることはないと思われます。


ホルムズ海峡封鎖はある?

 それでは、イランが、米軍の爆撃に対する報復として、ホルムズ海峡を封鎖したらどうなるでしょうか? さらなる原油急騰につながるリスクがあります。


 ただし、私は現実には、ホルムズ海峡封鎖はないと考えています。ホルムズ海峡を通る、中国・日本・欧州のタンカーを攻撃したり、足止めしたりすれば、イランは国際社会でさらに孤立することになります。

そうなると、サウジアラビアやカタールとも対立することになります。サウジやカタールの原油輸出も滞るからです。


 イランがカタールの米軍基地を攻撃しましたが、トランプ大統領のSNS投稿によると、米国に事前通告があり、米軍への被害は限定的であったようです。イランも米軍の本格参入を招くリスクを避けようとしていると思われます。


 以上の考察から、原油先物のさらなる上昇は抑えられると考えています。一方で、元のように原油価格が大きく下がることはないと考えています。それは、危機前の原油価格の水準が低すぎたと考えているからです。一定の原油リバウンドは、危機がなくても起こっていたと思っています。WTI原油先物は、当面、1バレル=55~75ドルで推移すると予想しています。


日本株への影響は?

 原油価格が大きく下がると、長期的には日本経済にメリットがありますが、短期的には、在庫評価損などの影響で、日本企業全体の業績は悪化します。中東危機が起こる前、原油価格は大きく下がり、日本の企業の業績にマイナス影響を与える懸念がありました。


 中東危機で、1バレル=70ドルあたりまで原油先物が上昇しましたが、この程度の上昇は、短期的には、日本の企業業績にとってプラス効果が大きくなります。

このまま原油が1バレル=60~80ドルで安定すれば、日本の企業業績にとって理想的です。


 ただし、原油価格が1バレル=100ドルを超える上昇となると、マイナス面が大きくなってきます。つまり「原油価格のこれまでの上昇は問題ないが、これ以上の上昇には警戒が必要」ということです。


 日本株の投資判断は、いつも述べていることと変わりません。日本株は割安で、長期的な上昇余地は大きいと考えています。ただし、短期的には、中東情勢やトランプ関税を嫌気して下落する可能性もあります。時間分散しながら、割安な日本株を買い増ししていくことが、長期の資産形成に寄与すると考えています。


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(窪田 真之)

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