お金の使い道によって幸せが長続きすることもあれば、短期間で終わってしまうこともあるのはご存じでしょうか。幸せになるためのお金の使い方で大切な考え方の一つ、「地位財」と「非地位財」についてご説明します。
お金の使い道は自分で決められる
お金は多ければ多いほど幸せになれると思われがちですが、それほど単純な話でもありません。お金のありがたみをしっかり実感しながら、上手に使っていくことが大切です。
収入や資産を増やしたいと思っても増やすのは容易ではありません。しかし、手元にあるお金の使い道は自分で決めることが可能です。
いずれにしろお金を使うなら、できるだけ幸福度が高く、幸福度が持続するものにお金を使っていく方が、より幸せな人生、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」な人生と言えるのではないでしょうか。
※ファイナンシャル・ウェルビーイングとは
経済的に良好な状態。具体的には「当面の支払いを着実に行うことができ、将来のお金について安心しており、人生を楽しむためにお金の面で幅広い選択ができる状態」(米国消費者金融保護局)とされる。
今回はそういった人生を送るために知っておきたい、「地位財」と「非地位財」という考え方についてご説明します。
比較して価値が生まれる「地位財」とそれ自体に価値のある「非地位財」
経済学者である米国コーネル大学教授のロバート・フランクは、地位財(Positional Goods)と、非地位財(Non-positional Goods)という考え方を提唱しました。
地位財は他人との比較優位によって初めて価値が生まれ、満足が得られる財のことで、具体的にはお金、自動車やマイホームといったモノ、社会的地位などです。
もう一つの非地位財は他人が何を持っているかどうかとは関係なく、それ自体に価値があり満足が得られる財のことで、具体的には健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情などがあります。
地位財と非地位財の具体例
地位財の例として、住宅について考えてみましょう。
次の図のAの世界では、自分が140m2の家に住んでいる一方で、まわりの人は皆200m2の家に住んでいます。今どき140m2あればかなり広い方だと思いますが、まわりの人と比べると劣っているため悲しんでいます。

一方、Bの世界ではまわりの人が60m2の家で、自分は90m2と1.5倍の広さの家に住んでいるため優越感を感じて満足しています。
このように90m2や140m2という絶対的な広さよりも、まわりと比べて自分はどうか、まわりよりも優れているか、劣っているかという比較優位によって初めて価値を感じることができる財が地位財なのです。
続いて非地位財の例として、健康について考えてみましょう。健康は他人と比べてどうかではなく、自分の健康状態がいいかどうかというそれ自体に価値があり、満足が得られる財となります。
健康診断や人間ドックなどを受けて、各種数値が適正な範囲内に収まっていて、問題ないという判定が出れば、それで安心される方が多いのではないかと思います。自分の血圧と比べて、知人Aさんの方がよりよい血圧だから悔しい、などと思う人はほとんどいないのではないでしょうか。つまり、非地位財はそれ自体に価値があるのです。
幸せが長続きしない地位財と、幸せが長続きする非地位財
別の地位財の例として、自動車を考えてみましょう。高級な自動車を購入した場合、会社の同僚などまわりの人が持っている車と比べて、より新しく、より高機能で、よりカッコいいといったことから幸福感・満足感を感じることができると思います。
しかし、購入して1年、2年と時間が経つと、より新しい自動車を買う人が目につくようになり、それらと比較して自分が買った車が劣っていると感じるようになるのではないでしょうか。つまり、地位財を購入して得られる幸福感・満足感は長続きしない傾向があるのです。
一方、恋人や家族と行ったドライブ旅行の楽しかった思い出はそれがレンタカーか、中古で買った車か、新車で買った高級車かなどにはよらず、いつまでも頭の中に楽しかった思い出として残り続けるのではないでしょうか。
自分のお金を地位財(主にモノ)に使っていくか、非地位財(主にコト)に使っていくかは自分で決定していくことができます。
ブランドバッグや高級車、タワマンなど、他人がうらやむようなモノにお金を使っていく場合と、かけがえのない経験や体験、健康などにお金を使っていく場合で、長期的な幸福度や満足度は大きく変わってくると考えられます。
地位財(主にモノ)の場合は、お金を使った直後は一時的に幸福度が上がるものの、上には上がいますから「もっともっと」となってしまい、持続的な幸福にはつながりづらく、時間とともに幸福度は下がってしまう傾向があります。
一方、非地位財(主にコト)の場合は一つ一つの経験、体験などを積み上げていくことで、思い出となって残る記憶の数は増えていきますので、より充実した幸せな人生と感じられるようになっていくのです。
過去の記事「 自由に楽しい人生を選ぶために、ファイナンシャル・ウェルビーイングでライフプランの見直しを 」では、ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現するための一つの要素として、お金の使い道として、幅広い選択肢を持てることについてご説明しました。
選択肢を持てたら、地位財よりも非地位財にお金を使うことを意識していただくと、より幸福度が長続きし、より幸せな人生を送っていけるのではないでしょうか。
今後のお金の使い道を考える際の参考にしていただければと思います。
【関連リンク】
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