中東情勢の混乱から一転、停戦合意したと発表がありました。FRB高官やパウエル議長の発言から利下げ期待が高まり、7月利下げに焦点が移行。
中東リスクから一転、ドル/円は停戦後の利下げ期待へシフト
21日の米国のイラン核施設攻撃によって中東情勢は一層混乱し、相場は上下に大きく動くと警戒していました。イランが報復攻撃やホルムズ海峡封鎖を行えば、原油がさらに上昇し、世界経済に大きな影響が及ぶことを警戒していました。
ホルムズ海峡封鎖は封鎖行為を行わなくても海峡に向かって砲弾を撃ち込むだけで、船舶の通行は止まることが予想されます。イランが海峡封鎖を示唆(しさ)するだけでも止まりそうです。
中東の混乱は、トランプ関税で減速する世界経済に追い打ちをかける事態となることが予想されます。しかし、中東情勢が落ち着いた時には、その後の経済先行き不安から米利下げ期待が高まる可能性があるというシナリオを描いていたところ、中東情勢はイスラエル・イラン停戦合意という急展開の動きとなりました。
イスラエル・イランの戦争でドルは有事のドル買いで上昇し、原油が上昇しました。ドル/円も円安に動き、22日の米国の参戦で一気に1ドル=148円台の円安に動きました。
23日、市場がイランの報復攻撃やホルムズ海峡の封鎖を警戒していた中、イランがカタールの米軍基地を攻撃しました。しかし、カタールへの攻撃も事前に通告されていたなど攻撃が限定的だったことから報復は抑制的と市場は捉え、原油は急落し、株高、ドル安となりました。
攻撃が抑制的だった背景は、米軍の攻撃が激化し、イランの被害が拡大すれば、イスラム体制の維持に影響が出る可能性や、中東の米軍基地への攻撃は周辺国の反発を招くリスクがあるためと分析されています。
この抑制的な攻撃によって市場は楽観的になり、有事のドル買いで上昇したドルは売られ、23日の停戦合意報道の前に、既にドル/円は1ドル=146円台前半まで円高に行っていました。
さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)ボウマン副議長が「(関税政策が)インフレに与える影響はごくわずか」とした上で、「インフレ圧力が抑制されたままなら健全な労働市場を維持するために、次回7月の会合での利下げを支持する」と述べたことも株高、ドル安に弾みをつけたようです。
同氏はここ数カ月、金融緩和に懐疑的な見方を示していたため、今回の姿勢転換は予想外の発言と受け止められました。
このようにイスラエル・イラン戦争への楽観的な見方とFRBの利下げ期待からドル安となりました。
このような動きの中、24日、東京午前7時すぎ、トランプ大統領はSNSでイスラエルとイランが完全に戦争を停止することで合意したと発表したことからドル/円は1ドル=146円割れとなりました。その内容はイランの12時間停戦後、イスラエルが12時間停戦し、その後初めて「12日間戦争」が終わる(日本時間25日午後1時)とトランプ大統領は発信しています。
しかし、イスラエルはイランが停戦後も攻撃をしたと報じています。イランは否定していますが、トランプ大統領もイスラエルに対して不満を述べています。その後ネタニヤフ首相との電話会談でイスラエルのイランへの攻撃は最小限にとどめることとなりましたが、停戦合意の期限である日本時間25日の午後1時まで予断を許さない状況が続いています。
停戦合意が成立しても、本当に終戦となるのか、停戦は一時的ではないかなど懸念材料はありますが、市場は停戦後の材料に目を向け始めています。
FRB高官からの相次ぐ「7月利下げ」発言
23日のボウマンFRB副議長の発言で7月利下げ期待が高まり、ドル安要因となりましたが、先週20日にはウォラー理事からも7月利下げの可能性を示唆する発言がありました。FRB高官からの相次ぐ7月利下げ示唆発言や停戦合意報道によって、7月29~30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ期待が高まりつつあるようです。
前回6月17~18日のFOMCを振り返ってみます。
6月FOMCでは政策金利は4会合連続で据え置かれ(4.25~4.50%)、パウエル議長は経済見通しの不確実性を見極めるまでは急がない慎重な姿勢を示しました。
経済・物価見通しでは2025年10-12月期国内総生産(GDP)は3月時点よりさらに下方修正され(1.7%→1.4%)、物価見通し(PCEコア)もさらに上方修正(2.8%→3.1%)され、スタグフレーション(物価高の景気後退)が一層進む見通しとなりました。失業率は4.4%から4.5%の上昇となり、悪化見通しとなっています。
従って金利見通しは3.9%(中央値)と年2回利下げ見通しが維持されました。しかし、年内利下げなしの見方が前回の4人から7人に増えたことや2026年(3.6%)利下げ回数が1回に減ったことから、見通しとしてはタカ派的な内容となりました。
ところが、米国のイラン核施設の爆撃はFOMC後に起こったため、原油価格上昇に伴うインフレ懸念や経済悪化懸念からFRBは一層慎重姿勢になると思われましたが、停戦合意によって原油が再び70ドル割れとなったことからインフレ懸念が後退し、雇用重視姿勢に軸足が移るのではないかと市場は注目しています。
トランプ関税によるインフレ懸念は残るものの、ウォラーFRB理事は関税によるインフレへの影響は短期的なものにとどまる公算が大きいと述べており、7月29~30日のFOMCまでに中東情勢が沈静化していれば、FRBの姿勢に変化がみられるかもしれません。為替市場では、中東の地政学的リスク要因よりも米金融政策要因に左右される相場になっていきそうです。
24日、パウエル議長は米下院金融サービス委員会の公聴会で、「関税の引き上げが今年の物価を押し上げ、景気を下押しする可能性がある」として利下げを急がない姿勢を再表明すると同時に、「インフレが低下し労働市場が軟化した場合、利下げ前倒しの可能性も」と述べ、「インフレ率は予想ほど強くない可能性がある」などと発言すると、米長期金利の低下とともにドル売りとなり、1ドル=144円台半ばへと円高になりました。
パウエル議長が労働市場を気にし始めているハト派姿勢をにじませたことから、市場では年内2回の利下げの織り込みがやや強まったようです。
ドル/円は、イスラエル・イラン戦争が起こる前は1ドル=145円がひとつの壁でした。
(ハッサク)