今週の米国株市場は、S&P500とナスダックが最高値目前まで上昇しました。中東の停戦期待やFRBの利下げ示唆、AI半導体関連銘柄の好調などが背景にあります。
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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 米国株は鬼の居ぬ間のリスクオン?~「まだまだ」と「そろそろ」の見極めポイントは近いか~ 」
米株市場、最高値迫る
先週末に米国がイランの核施設を空爆し、中東情勢の緊張が高まる中で迎えた今週の米国株市場ですが、波乱の展開が予想されたものの、25日(水)の取引終了時点では上方向への意識が強まっています。
米主要株価3指数(ダウ工業株30種平均・S&P500種指数・ナスダック総合指数)のうち、S&P500とナスダックは最高値を射程圏内に捉えるまで上昇しました。実際に、日足チャートで値動きを確認していきます。
<図1>米S&P500(日足)とMACD(2025年6月25日時点)

上の図1はS&P500です。25日(水)の終値(6,092p)は、2月19日の取引時間中につけた高値(6,147p)まで55pほどに迫っています。
値動きは、200日や25日移動平均線をサポートに、もみ合いながら上昇している様子が確認できます。気になるのは、「このペースで2月の最高値まで上昇し続けられるのか?」「最高値を更新した場合、さらに上値をトライしていくのか、それとも達成感で売りに転じるのか?」という2点です。
まず、「このまま上昇し続けられるのか」についてですが、図のローソク足の並びを見ると、2週間前のレポートでも指摘したように、比較的短いローソク足が続き、ジリジリと小刻みに上昇していく展開は、意外と継続する傾向があります。
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ただし、下段のMACDを見ると、株価の上値が切り上がる一方で、MACDの上値が切り下がる「逆行現象」も確認できます。これは、トレンド転換を予感させるサインといえるかもしれません。
しかし、足元の小刻みな値動きは、4月7日を底にした株価の急上昇が一服し、次の展開を見据えた「中段保ち合い」を形成していると解釈することも可能です。今後、上方向に抜ける長いローソク足が出現すれば、上昇の勢いを強める可能性もあります。
そのため、「最高値からさらに上昇していけるのか?」については、現時点では判断が難しい状況です。
なお、S&P500の日足チャートで見てきたポイントは、ナスダックの日足チャートでもほぼ同様です(下の図2)。
<図2>ナスダック(日足)とMACDの動き(2025年6月25日時点)

ちなみに、今後のS&P500やナスダックが最高値を更新した場合、株価のサポートとして機能している25日移動平均線からの乖離(かいり)率が上値の目安の一つになりそうです。一般的に、移動平均線から5%以上乖離すると、乖離を修正する動きになりやすいとされています。
25日(水)時点の25日移動平均線の値は、S&P500が5,965p、ナスダックが1万9,396pです。そこから上方向に5%乖離した株価は、それぞれ6,263pと2万0,365pになります。移動平均線の値は日々変化するので、計算し直す必要がありますが、参考値として意識しておくと良いでしょう。
米国株の「リスクオン」ムードは強い?
米国株市場の強さの要因としては、中東情勢の停戦期待、米連邦準備制度理事会(FRB)要人からの利下げ示唆、AI・半導体・暗号資産関連銘柄の好調などが挙げられ、「リスクオン」ムードを強めていると考えられます。
買える銘柄の存在については、前回のレポートでも紹介しましたが、昨年末を100とした米国の株価指数のパフォーマンスを比較すると、半導体関連銘柄で構成される「SOX」指数の上昇が際立っています。
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<図3>米国の主な株価指数のパフォーマンス比較(2025年6月18日時点)

上の図3を見ると、SOX指数のパフォーマンスは、4月上旬には他の株価指数と比べて最弱でしたが、直近では最強となっています。また、「ディープシーク・ショック」前の1月24日の水準も超えています。
さらに、半導体関連銘柄を個別に見ても、エヌビディアは25日(水)の取引で最高値を更新しています(下の図4)。
<図4>米エヌビディア(日足)の動き(2025年6月25日時点)

ただし、先ほどのS&P500のチャートと同様に、エヌビディアの日足チャートでもMACDとの逆行現象が見られます。目先のエヌビディアがさらに上昇できるかが、半導体関連銘柄の強さを測る試金石となるでしょう。
また、エヌビディア株の短期・中期の上昇トレンド入りは、週足チャート上の3本の移動平均線(13週・26週・52週)の「パーフェクト・オーダー」が鍵となります。
<図5>米エヌビディア(週足)の動き(2025年6月25日時点)

上の図5を見ると、過去のエヌビディアの値動きは、上昇のパーフェクト・オーダー出現後に中期の上昇トレンドを描いていました。
現在の週足の移動平均線は、株価の高い順に52週・26週・13週となっており、「下落のパーフェクト・オーダー」ですが、13週移動平均線が他の2本を上抜けそうな状況です。
従って、足元の米国株市場は短期的には強いといえるでしょう。しかし中長期的な強さにつながるかは、今後の動向を見極める必要があります。
50日と200日移動平均線の「ゴールデンクロス」に注目
中期の上昇トレンド入りのサインについて、別の視点からも考えてみます。
図1と図2を見ると、50日と200日移動平均線のゴールデンクロスが実現するかが注目されます。
現在は、50日と200日移動平均線の距離が縮まっており、ゴールデンクロスが実現しそうですが、このクロスは頻繁に出現するものではありません。例えばS&P500では、前回のゴールデンクロス出現は2023年2月です。
<図6>S&P500(日足)の「デッドクロス」と「ゴールデンクロス」(50日と200日MA)

上の図6を見ると、前回のゴールデンクロス出現以降、S&P500は中長期的な上昇トレンドに入りました。
つまり、デッドクロス出現からゴールデンクロス実現までは、本格的な上昇トレンドにはならないということです。
<図7>S&P500(日足)の「デッドクロス」と「ゴールデンクロス」 その2(50日と200日MA)

さらにさかのぼると、ゴールデンクロスは2020年7月の「コロナ・ショック」時に出現しています。
株価急落後の急反発、200日移動平均線と株価の攻防を経て、ゴールデンクロスが出現し、中長期的な上昇トレンドを描きました。
また、デッドクロスからゴールデンクロスまでの期間が約4カ月と比較的短く、チャート形状は足元に近いです。
<図8>S&P500(日足)の「デッドクロス」と「ゴールデンクロス」 その3(50日と200日MA)

反対に、注意したいのは上の図8の「チャイナ・ショック」時のパターンです。
2015年8月にデッドクロス、4カ月後の12月にゴールデンクロスが出現しましたが、2016年1月に再びデッドクロスとなりました。
結局、3カ月後の4月にゴールデンクロスが再点灯し、本格的な戻り基調となりましたが、「ダマシ」を挟んでいます。
今回は図7と図8のどちらのパターンになるかは、図7のパターンが理想的です。しかし、図7のパターンでも、ゴールデンクロス出現前に株価が200日移動平均線付近まで下落する可能性があり、足元の株価上昇が止まり調整局面に入ることも想定しておく必要があります。
トランプ関税交渉、米財政負担など不安材料も
相場のマクロ環境には、不安材料もくすぶっています。トランプ関税をめぐる米国と各国との交渉は、相互関税の「上乗せ分」の90日間の期日が7月9日に迫っており、どこまで進展・合意できるかが注目されます。「再延長」の見方もありますが、予定通り発動されれば株式市場に悪影響を与える可能性があります。
また、米国上院で審議中の「一つの大きくて美しい法案」は、米トランプ政権が7月4日までの可決を目指していますが、減税政策延長による米財政負担増への懸念、法案に含まれる「セクション899」や債務上限引き上げなどが気掛かりです。
さらに、すでに発動済みのトランプ関税の影響が出始める頃合いであることも考えると、相場のムードが一変する可能性があり、今後1~2週間の米国の動きが重要になります。
そのため、足元の株高基調はもう少し続くと考えられますが、懸念材料が顕在化していない「鬼の居ぬ間の」株価上昇である可能性もあり、過度な楽観と深追いは避けるべきでしょう。
(土信田 雅之)