2025年1月のトランプ米大統領就任後、世界の政治、経済、軍事が米国一極集中から多極化へ向かい始めた。また、中国の生成AI「DeepSeek」の登場によって、生成AIでは米国が必ずしも優位ではないことが示された。

投資の世界も多極化に向かい始めている。国際分散投資を検討したい。


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著者の今中 能夫が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ) 」


毎週月曜日午後掲載


本レポートに掲載した銘柄: グローバルX MSCI 中国 ETF(3040、香港) 、 グローバルX チャイナテック ETF(380A、東証) 、 グローバルX DAX ドイツ株式ETF(DAX、NASDAQ) 、 インデックスファンドDAX(ドイツ株式) 、 アドバンテスト(6857、東証プライム) 、 東京エレクトロン(8035、東証プライム) 、 パランティア・テクノロジーズ(PLTR、NASDAQ)


1.多極化する世界と多極化する投資

 今回のテーマは、「国際分散投資」です。


「国際分散投資」は、日本株だけ、米国株だけ、あるいは日本の投資信託・上場投資信託(ETF)だけ、米国の投資信託・ETFだけといった一極集中型の投資ではなく、世界の様々な投資対象に分散投資する投資手法です。日本の多くの個人投資家の投資は日本の株式、投資信託・ETFだけ、あるいは米国の株式、投資信託・ETFだけ、あるいは日米の株式、投資信託・ETFだけといったスタイルが多いと思われます。2024年までのように世界の政治、経済、軍事、技術が米国一極集中だった時代は、投資も米国一極集中あるいは日米にのみ投資するスタイルが、効率よく高いパフォーマンスが獲得できたと思われます。


 しかし、投資を取り巻く環境が変わり始めています。


 グラフ1は、2025年年初からの各国の主要株価指数の変化を表したものです。最近目にする機会が多いグラフです。年初から最もパフォーマンスが良かったのは香港ハンセン指数で、次がドイツDAX指数です。

米国の各指数、ニューヨークダウ、S&P500、NASDAQ総合、SOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)は、他の指数同様、いったん大きく下落した後戻しましたが、ようやく年初の水準に到達したところです。


 何が起こったのか。今年1月に就任した米国のトランプ大統領によって、米国は関税政策を採ることになりました。そして、中国をはじめとする各国に高率関税をかけると宣言しました。これに世界は驚愕し、4月上旬に世界の株式市場は大きく下落しました。ただし、その後は関税政策をより柔軟なものにして、関税率も100%よりも低いものにするという姿勢が見えたため、世界の株式市場は急速に戻りました。


 ただし、戻り方は国によって異なります。S&P500、ナスダック総合、ニューヨークダウ、SOX指数は年初から下落基調でした。最も下落率が大きかったのがSOX指数です。4月の暴落の後、ニューヨークダウ、S&P500、NASDAQ総合、SOX指数とも、やっと年初の水準を回復したところです。


 これに対して、香港ハンセン指数とDAX指数は、年初から上昇基調でした。4月の下落率は米国の各株価指数と変わらない20%前後の下げ方でしたが、直ぐに回復し、年初水準を上回る状態を回復しています。

ただし、最近の株価の方向性は異なっており、香港ハンセン指数は再び上値を窺う気配なのに対して、DAX指数は下落気味の動きです。


 結論を先に言えば、米国ではトランプ政権が関税政策を採用し、国を閉じる決断をしました。米国には世界を支え、世界をリードするための金はないし、出すつもりもないことを世界に向けて宣言しました。その瞬間、世界中で投資が始まり、世界中に投資対象が生まれたということです。トランプ大統領が欧州の防衛は欧州に委ねる旨の発言をしたため、欧州各国は防衛予算を大幅に増やすことになりましたが、これが欧州各国の防衛関連企業の株価を大きく上昇させました。


 また2025年1月下旬、中国の生成AI「DeepSeek」が登場しました。「DeepSeek」には後述するように様々な問題がありますが、米国の大手生成AI開発会社の2分の1以下のコストで高性能生成AIを開発し運用していると思われます。DeepSeekが中国のAI開発能力の高さを示すことになりました。さらに、4月から米国は対中国半導体輸出規制を強化し、エヌビディア、AMDのAI半導体が中国向けに輸出できない状態になりました。その結果、中国はAI半導体の自国生産を行わなければならなくなりましたが、実は中国ハイテク産業の中核ともいえるファーウェイが深セン市に大型半導体工場を建設中です。その工場ではAI半導体を生産すると言われています。ここから見えてくるのが、これからの中国はAIと半導体の両輪で成長するというシナリオです。


 ここでは、国際分散投資を論ずる際の投資対象を、米国、日本、中国、欧州とします。他にも沢山の国・地域がありますが、今後の変化と投資の重要性を考えると、この4カ国・地域への分散投資が重要になると思われます。


グラフ1 主要株価指数の2025年年初からの変化


国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ)
2025年1月6日終値を100として指数化。日次、終値。出所:楽天証券作成

表1 米国、日本、中国、欧州の主要株価指数


国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ)
単位:ドル、円、ポイント出所:ブルームバーグ等より楽天証券作成注:変化率は5年前、1年前、2025年年初、2025年4月安値から2025年6月27日への変化率。全て日次終値。

2.中国はAIと半導体の両輪で成長か。変化の大きさに期待したい

1)中国のAI開発能力はおそらく米国以上と思われる

 2025年1月20日、中国の新興AI開発企業「DeepSeek」が生成AI「DeepSeek-R1」を公開しました。このDeepSeekが、米国の生成AI開発会社よりも大幅に安いコストで開発、運用されているという触れ込みだったことで、中国のハイテク技術を高く評価する見方がでました。これが、香港ハンセン指数の強さに繋がっていると思われます。


 中国のAI開発現場やDeepSeekのようなAI開発企業には不明な点もあります。2023年から今日に至るまで、中国では中央政府や地方政府の支援の下、大規模なデータセンター投資が起こりました。ただし、投機的な建設も多くなっており過剰投資の状態になっている模様です。高性能AI半導体は多くをエヌビディアやAMDから調達するしかありませんが(中国の生成AI開発会社が使っているのは、主にエヌビディアの「H100」「H800」「H20」と言われている(「H800」「H20」は中国向け専用に性能を落としたもの))、数が限られているため、ファーウェイの低級品やゲーム用GPUを混ぜてインフラ構築しているケースもある模様です。


 このような投機的なデータセンターブームは下火になっている模様であり、また、4月に米国の対中国半導体輸出規制が強化されたため、最後まで輸入できたエヌビディアの「H20」が4月以降は輸入できなくなっています。一定量の「H100」が中国内に流入しているという報道もありますが(事実だとすると密輸)、このルートは米国でもある議員が問題にしているため、早晩なくなる可能性があります。


 このような状況の中で、中国のAIサーバーのレンタル価格が下落している模様です。

ある報道によれば、「H100」搭載サーバーのレンタル料がかつての最高価格である約18万元(1元=20.15円換算で約363万円)から7.5万元(同約151万円)に下がっているということです。ここでいう「H100」サーバーのスペックが不明なので、日本とは比較できませんが、日本の大手を含むクラウドサービス会社の「H100」の月額レンタル料金は2024年春の80万円前後に対して、現在は70~80万円と思われます。中国と違いあまり下がっていません。


 中国で、データセンターへの過剰投資によってAIサーバーのレンタル料金が下がっているとすると、AI開発会社やAIを使って事業を行っている会社が利益を上げやすい状況になっていると思われます。


 また、開発者、技術者の能力の高さも容易に想像できます。DeepSeekは米国の生成AIの数分の1の費用で開発、運用されていると思われますが、これを開発した開発者の優秀さもさることながら、米国に比べると貧弱なインフラで最先端の生成AIを動かしているネットワークインテグレーター、システムインテグレーターの技術水準の高さが窺えます。


2)中国のAIには問題もある

 DeepSeekには問題もあります。DeepSeekはユーザーの個人情報等の情報を中国政府に提供していると報道されています。もともと中国の法律では政府の指示があれば企業は顧客の個人情報を提出しなければなりません。また、DeepSeekはサーバーを中国国内に置いています。この点は今年1月に「DeepSeek-R1」が登場してからDeepSeekの利用者、特に中国以外のユーザーにとってのリスクと指摘されています。


 米国で最も会員数の多い生成AIはChatGPTと思われます。一部の報道では、ChatGPTの2025年4月の月間アクティブユーザー数は約5億人、有料ユーザー数は約2,000万人になりました。

オープンAIの発表によると、ChatGPTの週間アクティブユーザー数は2025年2月に4億人以上で、2023年11月:1億人以上、2024年8月:2億人以上、2024年12月:3億人以上から急速に増加しています。また、有料ユーザー数は2024年10月約1,100万人でした。


 最近急速に発達していると思われるのが「アドバイザリー機能」です。会員が様々な質問、相談事をChatGPTに行い、ChatGPTがそれに答える機能です。対話型AIならではの機能、能力であり、仕事、職場、家庭、男女関係などの人間関係、勉強のこと、グルメ、医療、病気、趣味、人生相談などあらゆる相談事がChatGPTに持ち込まれていると思われます。無料では一日に質問や対話できる時間に制限があるため、相談事が多い人は月20ドル払っている人も多いと思われます。平たく言えば「お悩み相談」です。この需要は一種のエンタメ性もあるため、お金を払ってもいいと思う人が多いと思われます。


 ChatGPTの会員のどの程度がお悩み相談しているのかは不明ですが、例えば、1億人以上が毎日何らかのお悩み相談をして、それに対してChatGPTがディープラーニングした知識や新たにWeb検索で学んだ知識から意味のある回答をして、それに対して質問者がさらに質問してという連鎖が広がると、ChatGPTのアドバイザリー機能はさらに高度で洗練されたものになると思われます。そしてこの機能、能力は、他の大型生成AI、アルファベットの「Gemini」、メタ・プラットフォームズの「Llama」、アンソロピックの「Claude(クロード)」などと比較して顕著な特徴だと思われます。


 この点が「DeepSeek」の問題点だと思われます。中国の調査会社「QuestMobile」によると、DeepSeekの2025年2月の月間アクティブユーザー数はアプリ経由1億8,043万人(パソコン経由はデータなし)、2025年3月はアプリ経由1億9,361万人、パソコン経由7,546万人と順調にユーザー数が増えています。

ただし、中国政府にユーザーの個人情報を提供しているという報道があるため、ChatGPTほどのアドバイザリー需要があるのかは不明です。


 もっとも、各種の報道では、中国では仕事需要ではDeepSeekの浸透が大きく、プログラミング、広告の世界で、DeepSeek中心に生成AIを取り入れる動きが活発でAI失業も起きている模様です。これは、米国の状況と同じです。


 また、テンセント、アリババ、百度などの中国の大手IT企業は、DeepSeekを自社のサービスに取り入れる一方で、DeepSeekに対抗する自社製生成AIを開発しており、中国でも生成AIの開発競争が激しくなっている模様です。


3)中国のAI半導体、自給なるか

 問題は半導体です。4月9日の米国の対中国半導体輸出規制の強化によって、エヌビディアの「H20」等の米国製AI半導体が中国では輸入できなくなりました。今もあると思われる「H100」等の密輸ルートも、米国で問題になっており、早晩なくなる可能性があります。


 ファーウェイは現在建設中の自社工場でAI半導体を生産するとされています。今年4月の報道によれば、ファーウェイは「H100」並の性能を持つとされる「Ascend910C」の出荷を今年5月に開始するとされていました。DeepSeekが行ったテストでは、「Ascend 910C」の推論性能は「H100」の約60%になります。また、今年後半から「H100」以上の性能をもつ「Ascend920」の量産に入ると報道されました。


 ただし、半導体製造装置の問題があります。米国、日本から輸入する前工程の各装置は22ナノまでの生産しかできないものに規制上限定されます。また、ファーウェイは米国商務省のエンティティリストに入っているため、日本や米国からファーウェイに対して半導体製造装置を販売することはできません。中国最大の半導体製造装置メーカー「ナウラ・テクノロジー・グループ」では6ナノ生産が可能な前工程装置を開発している模様ですが、中国製の前工程装置とASMLのArF液浸露光装置で「H100」に近い性能のAI半導体の量産が実現すれば、中国のハイテク産業は大きく前進すると思われます。半導体の不備はこれまで中国のAI開発会社が行ってきたようにソフトウェアの力で対処できる可能性もあります。


 中国のAIと半導体の今後の展開に注目したいと思います。


表2 米国と中国のAI半導体市場


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単位:億ドル出所:楽天証券推定注:2026~2027年予想、2028~2029年予想は各年の予想。

3.欧州は軍備増強の動きが株価を刺激

 米国のトランプ大統領は、今年2月、ロシア=ウクライナ戦争停戦後の欧州の防衛は欧州各国が担うべきだとの立場を示しました。その結果、欧州は防衛予算を大幅に増やすことになりました。3月4日、欧州連合(EU)は欧州の防衛力を強化するため、最大で8,000億ユーロ(1ユーロ=169円換算で135兆円)の資金投入を目指す計画を発表しました。6月25日には、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国の防衛予算と関連投資の目標を、従来の名目国内総生産(GDP)比2%から2035年までに同5%にすると大幅に引き上げました。


 もともとトランプ氏は欧州に対して防衛予算増額を求めていたため、欧州各国の防衛関連企業の株価は年初から大きく上昇しています。筆頭は世界の軍需企業ランキング26位のラインメタル(ドイツ)で、年初604.00ユーロだった株価が5月下旬に1,898.00ユーロの高値を付け、約3倍になりました。欧州最大の軍需企業であるBAEシステムズ(イギリス)は同じく1,153.50ポンドが1,982.00ポンドに、タレス(フランス)は137.60ユーロが272.60ユーロに、レオナルド(イタリア)は26.06ユーロが55.34ユーロになりました。


 この防衛関連株の株価上昇に引っ張られる形で欧州各国の株価指数も上昇しました。特に欧州最大の経済国であるドイツでは、DAX指数が他の欧州株指数を引き離す形で上昇しました。ただし、防衛関連株が上昇する過程で株価収益率(PER)も高くなっており、例えばドイツのラインメタルのPERは100倍を超えています。さすがに最近のDAX指数は調整していますが、今後各国の防衛産業に投じられる金額の大きさを考えると、欧州の変化には注目する必要があります。


 欧州には問題点もあります。ロシアの脅威が今後も続くことを考えると、高水準の軍備を持続させるためには、経済基盤をより強化する必要があります。巨額の防衛予算を経済全体の強化に役立てることができるのか、注目点です。


表3 世界の国別軍事費


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単位:億ドル、%出所:ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)注:中国、ウクライナ、サウジアラビアはSIPRI推定値。ロシアは2022年以降SIPRI推計値。

表4 世界の軍需関連企業ランキング(SIPRI)


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単位:100万USドル、%出所:ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)より楽天証券作成

4.日本はハイテク成長株から高配当株まで多種多様な上場企業が魅力

 日本人が国際分散投資を行うときに、日本株は重要です。日本にはあらゆる種類の上場企業が揃っているからです。世界で大きな存在感を持つ半導体製造装置(アドバンテスト、東京エレクトロン、ディスコ、レーザーテックなど)、半導体・電子素材(信越化学工業、HOYAなど)の各メーカー、任天堂、ソニーグループ、バンダイナムコホールディングスなどのゲーム株、アジアから米国にまたがって事業展開しているみずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、野村ホールディングスなどの大手金融機関、世界中で事業展開している大手商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事など)があります。このほかにも多種多様な優良企業が上場しています。投資信託・ETFも多いです。各々の個人投資家が持つ資産運用に対する考え方、相場観、リスクに対して対応できるポートフォリオを円建てで組むことができるのが日本株の魅力です。


 また、国際分散投資を行うときに、代替投資先として日本株を使うこともできます。中国でAI半導体の量産が成功すれば、アドバンテストのSoCテスタが必要になると思われます。HBM(AI半導体に必要になる大容量広帯域高速の特殊メモリ)の将来の増産に期待する場合は、東京エレクトロンとディスコも、関連銘柄になると思われます。中国のAIとAI半導体に投資するなら、アドバンテスト等の日本の半導体製造装置メーカーに投資するのもありと思われます。


 このことは欧州の防衛関連産業に投資する場合にも言えると思われます。三菱重工業への投資も重要になると思われます。米国株の場合は、NATOと契約しているパランティア・テクノロジーズが関連銘柄になります。


5.米国はマグニフィセント7だけではない。多種多様な数多くの優良上場企業が魅力

 米国株に投資している日本の個人投資家にとって最も人気があるのは、マグニフィセント7、すなわち、エヌビディア、テスラ、マイクロソフト、アップル、アマゾン・ドット・コム、アルファベット、メタ・プラットフォームズの7社であろうと思われます。各々時価総額も巨大です。


 ただし、米国に上場している会社には多種多様な会社があり、成長企業、長期間増配を続けている会社など優良企業が多いです。情報開示も優れています。投資家の好みにあった個別銘柄、投資信託・ETFを選別することができると思われます。


 表5は、マグニフィセント7の各銘柄と、私がカバーしている日米のハイテク成長株の株価上昇率を比較したものですが、マグニフィセント7の各銘柄を上回るパフォーマンスが出ている銘柄があります。


表5 米国、日本のハイテク成長企業株価上昇率


国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ)
米国、日本のハイテク成長企業株価上昇率

国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ)
米国、日本のハイテク成長企業株価上昇率

国際分散投資のススメ(世界が多極化する中、投資も多極化へ)
単位:ドル、円出所:ブルームバーグ等より楽天証券作成注1:変化率は5年前、1年前、2025年年初、2025年4月安値から2025年6月27日への変化率。全て日次終値。注2:5年前からの変化率は、パランティア・テクノロジーズのみ2020年9月30日(上場日)終値からの変化率。

6.国際分散投資を行うときの考え方

1)国・地域の組み入れ比率をどう考えるか

 国際分散投資を行うときに考えておくべき点は、まず、国、地域の組み入れ比率です。米国株を中心にするのか、日本株を中心にするのか、あるいは各国・地域を均等に組み入れるのかです。


 例えば、米国25%、日本25%、中国25%、欧州25%と均等に配分するか、あるいは投資対象が多い米国、日本を高めにして、例えば、米国30%、日本30%、中国20%、欧州20%にする考え方もあります。


 次に投資対象です。インデックス連動型の投資信託・ETFが投資しやすく、種類も沢山あります。日本株、米国株は個別銘柄も重要です。


 米国株に投資する場合は、マグニフィセント7をどう考えるかが問題になる場合があります。いずれも企業規模が大きく、米国経済だけでなく、世界経済への影響も大きい企業群ですが、他の半導体関連、IT関連に比べて時価総額が飛び抜けて大きいのが特徴です。例えば、ナスダック総合指数から金融機関を除いた構成銘柄の時価総額上位100銘柄で構成される「NASDAQ100」指数連動ETFでは、組み入れ銘柄上位10銘柄の時価総額合計が全体の時価総額の約半分になります。組み入れ上位10銘柄の中にはもちろんマグニフィセント7が入っています。投資家がマグニフィセント7の各銘柄に注目している場合は良いのですが、他の構成銘柄の中に成長する企業が出ても、上位10銘柄の影響が大きすぎてインデックスの上昇に寄与しにくい場合があります。これが気になる場合は、S&P500連動型ETF、ニューヨークダウ連動型ETFと個別銘柄を組み合わせることを検討しても良いと思われます。


 中国については、中国での変化は大きなものですが、変化の中心になっているDeepSeek、ファーウェイがいずれも未上場企業であり、中国経済の中のどのような企業に影響がでるのか、まだわからないことが多いです。このような場合は、香港ハンセン指数連動型のインデックス投信・ETFから始めることを検討したいと思います。例えば、「 グローバルX MSCI 中国 ETF(3040、香港) 」「 グローバルX チャイナテック ETF(380A、東証) 」です。前者は中国の全セクター560社を組み入れており、中国の変化を反映することができると思われます。後者は香港取引所に上場している中国の代表的なテック関連企業30銘柄に投資するETFで、6月24日に東証に上場しました。この2つのETFで中国の変化を捉えることができると思われます。今後の中国は変化が大きくなる可能性があり、新しい投資信託・ETFが出てくる可能性があるため、そこにも注目したいと思います。


 欧州はDAX指数連動型投信・ETFから検討したいと思います。「 グローバルX DAX ドイツ株式ETF(DAX、NASDAQ) 」「 NFドイツ DAX有 連動投信(2860、東証) 」「 インデックスファンドDAX(ドイツ株式)(日興アセットマネジメント) 」がDAX指数連動型の投資信託・ETFで、年初からのパフォーマンスが良いです。欧州も今後新しい現実に即した投資信託・ETFが出てくる可能性があります。


2)国際分散投資は基本的にアクティブ投資になる

 国際分散投資を行う場合は、1~2年に1回程度、国・地域別、投信・ETF別、個別銘柄別の組み入れ比率がその時の状況から見て正しいか検討してみるとよいです。これは、国・地域によって経済成長率、金利、主要企業の成長率が異なり、それによって株価の動きに変化が起こるためです。このため、高くなった銘柄、投信・ETFを売り、他の国・地域に振り向けるか、現金のまま持っておき、新しい投資対象が出てくるのを待つかなどを検討します。検討した結果、投資対象の組み入れ比率を変える必要がない場合はそのまま持続し、変更する必要がある場合は、組み入れを引き下げる銘柄を売り、引き上げるべき銘柄を買います。


 この意味で、国際分散投資は特定の投資対象をただずっと保有し続けたり、機械的に積み立てるだけのパッシブ運用ではなく、アクティブ運用になります。また、新しい投資対象(投資対象国・地域、個別企業や投資信託・ETF)を探すことも重要です。


 投資対象の一例は以下の通りです。米国、日本の投資信託・ETFは沢山あるので、検索してみてください。個別銘柄は私がカバーしている銘柄のみを挙げています。


米国

S&P500連動型ETF、ニューヨークダウ連動型ETF、ナスダック100連動型ETF、各種の業種別、分野別ETF、テーマ別投信・ETFなど
個別銘柄(マグニフィセント7以外で):パランティア・テクノロジーズ、ネットフリックス、スポティファイ・テクノロジー、クラウドストライク・ホールディングス、フォーティネット、ショッピファイなど


日本

日経平均連動型ETF、TOPIX連動型ETF、各種の分野別テーマ別投信・ETFなど
個別銘柄:アドバンテスト、東京エレクトロン、ディスコ、レーザーテック、ソニーグループなど


中国ETF(楽天証券取扱あり)

グローバルX MSCI 中国 ETF(3040、香港)
iシェアーズ 中国大型株 ETF (FXI 、NYSE Arca)
ハンセン・チャイナ・エンタープライズ・インデックスETF(2828、香港)
iシェアーズ・コア MSCI チャイナETF( 2801 /9801、香港)
ウィズダムツリー中国株ニューエコノミーファンド(CXSE、NASDAQ)
Global X China Cloud Computing ETF(2826、香港)
ハンセン・FTSE・チャイナ50・インデックスETF(2838、香港)
グローバルX チャイナテック ETF(380A、東証)


欧州の投資信託・ETF(楽天証券取扱あり)ETF

NFドイツ DAX有 連動投信(2860、東証)
NZAM DAX有(2089、東証)
グローバルX DAX ドイツ株式ETF(DAX、NASDAQ)
IEV iシェアーズ ヨーロッパ ETF(ブラックロック、NYSE Arca)
バンガード・FTSE・ヨーロッパETF(バンガード、NYSE Arca)
FDD ファーストトラスト STOXX欧州セレクト配当指数ファンド(ファーストトラスト、NYSE Arca)


投資信託

欧州成長株式ファンド(三井住友トラスト・アセットマネジメント)
フィデリティ・欧州株・ファンド(フィデリティ投信)
SMT 欧州株配当貴族インデックス・オープン(三井住友トラスト・アセットマネジメント)
明治安田欧州株式ファンド(明治安田アセットマネジメント)
ブラックロック欧州株式オープン(ブラックロック・ジャパン)
インデックスファンドDAX(ドイツ株式)(日興アセットマネジメント)


本レポートに掲載した銘柄: グローバルX MSCI 中国 ETF(3040、香港) 、 グローバルX チャイナテック ETF(380A、東証) 、 グローバルX DAX ドイツ株式ETF(DAX、NASDAQ) 、 インデックスファンドDAX(ドイツ株式) 、 アドバンテスト(6857、東証プライム) 、 東京エレクトロン(8035、東証プライム) 、 パランティア・テクノロジーズ(PLTR、NASDAQ)


(今中 能夫)

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