日米の関税交渉合意をきっかけに、先週の日経平均は一時4万2,000円台を回復、TOPIXも市場最高値を更新するなど、活況となりました。今週は8月相場入りとなり、日米の企業決算や金融政策イベントなど重要イベントが目白押しです。

そんな中でも株価上昇の勢いは続くのかテクニカル分析の視点から今後の見通しを探ります。


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※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 日本株よりも「タチが悪い」?米国株の過熱感~焦点は企業業績と米金融政策~<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


大幅に上昇した先週の日本株、過熱感を指摘する声も

 関税交渉で日米が合意に至ったことをきっかけに、一気に沸き上がった先週の日本株市場ですが、先週末25日(金)の日経平均は4万1,456円で取引を終えました。


 前週末終値(3万9,819円)から週間ベースで1,637円高と大幅に上昇したほか、24日(木)の取引では、2024年7月以来となる4万2,000円台を回復する場面を見せ、東証株価指数(TOPIX)に至っては、市場最高値を更新しています。


<図1>日経平均(日足)の動き(2025年7月25日時点)


【今週の日米株】8月相場入りも過熱感に要警戒:注目はM7決算、FOMC
出所:MARKETSPEED II

<図2>TOPIX(日足)の動き(2025年7月25日時点)


【今週の日米株】8月相場入りも過熱感に要警戒:注目はM7決算、FOMC
出所:MARKETSPEED II

 そんな中で迎える今週は、いわゆる「月またぎ」で8月相場入りします。


 今週も先週からの株価上昇の勢いが続くのか最大の注目点ですが、その一方で目先の相場の過熱感を指摘する声も増え始めています。


 例えば、先週の日経平均の動きをみると、23日(水)に1,396円高、翌24日(木)には655円高と、2日間で上げ幅が合計2,000円を超え、この株価上昇スピードの速さに対して警戒感が出てきています。


 加えて、東証プライム市場の値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の比率を示した「騰落レシオ」を見ても、週末25日(金)時点で124.09%と、買われ過ぎの目安とされる120%を超えてきたことや、株価と75日移動平均線との乖離率がプラス10%を超えるところまで上昇していることなどが挙げられます。


日本株の過熱感はどこまで気にすれば良いか?

 では、どこまで日本株の過熱感を意識すれば良いのでしょうか?


<図3>東証プライム指数(日足)と騰落レシオ(25日間)の推移(2025年7月25日時点)


【今週の日米株】8月相場入りも過熱感に要警戒:注目はM7決算、FOMC
出所:MARKETSPEED IIおよび取引所データをもとに作成

 上の図は、上段が東証プライム指数(日足)、下段が先ほども述べた東証プライム市場の騰落レシオ(25日間)の推移になります。


 確かに、足元で買われ過ぎの目安とされる120%を超えてきていますが、過去の状況を見ると、120%超えの過熱感を帯びながらも株価がしばらく上昇し続ける場面が確認できるなど、騰落レシオを相場の天井サインとして売買判断に使うのはちょっと難しいです。


 そのため、株価と75日移動平均線の乖離率で相場の過熱感の状況を探って行くことになりそうです。


<図4>日経平均と75日移動平均線乖離率(2025年7月25日時点)


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出所:MARKETSPEED II

 上の図4は、その75日移動平均線乖離率の状況を示していますが、見方自体は前回と変わりません。


 乖離を「値幅」で修正していくのであれば、75日移動平均線までの株価調整が想定され、乖離を「時間」で修正していくのであれば、株価のもみ合いが続く展開が想定されます。いずれにしても、「株価が75日移動平均線を下抜けない限り、上方向への意識は保っても大丈夫そう」というのが基本的な相場展開の想定になります。


 そして、相場の強気が続いた場合は、乖離率の10%超えを保ちながら、株価がもう一段高するというシナリオも考えることができます。その場合、2024年7月11日の取引時間中につけた高値(4万2,426円)超えが目標になります。


 もっとも、先週の株価上昇は急ピッチであったことは間違いなく、「いったん落ち着きたい」という感情も働き、このまま積極的に上値をトライしにくいと思われます。


 これについては、米国の関税交渉でさらなる進展(欧州連合(EU)や中国とのあいだで合意に至る)が見られるなど、今週に予定されているイベントでポジティブな材料が出てくるかによって左右されることになります。


とにかくイベントが多い今週

 そこで、今週のスケジュールを確認してみると、「今週はとにかくイベントが多い」週になります。


 まず、日米で企業決算が相次ぎます。国内では、メガバンク株の三井住友FG、みずほFGをはじめ、伊藤忠商事や三井物産などの商社株、アドバンテストや東京エレクトロンなどの半導体関連株など、幅広い業種が決算を予定しています。


 米国でも、メタ・プラットフォームズやマイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アップルなどの「M7(マグニフィセント・セブン)」銘柄を中心に主要企業の決算が控えています。


 日米関税交渉の合意をきっかけに盛り上がった先週の株式市場ですが、関税によるコスト上昇などの影響がなくなったわけではありません。少なくとも税率が見えてきたことで国内企業も今後の業績について、ある程度の見通しを立てることができるようになると思われ、これからの企業決算で、「関税の影響を克服して業績を伸ばすことができるか」を確認していくことになります。


 そのため、今週は個別銘柄の物色が中心になりやすく、関税への耐性が強い企業とそうでない企業とで、株価の明暗が分かれていくことになりそうです。


 また、関税絡みでは、8月1日に相互関税が発動予定となっています。先週は日本に続いて、EUや中国も合意できるのではという「合意ラッシュ」への期待感も株高につながりました。


 しかし、もしそうならなかった場合、今度は逆に相場のネガティブ材料となってしまう可能性や、交渉期限の再延長という展開も考えられますので状況は流動的と言えますが、EUについては28日、合意に達したとの報道がありました。


 合意に至った日本についても、合意内容履行を3カ月ごとにチェックし、「トランプ米大統領が不満だったら再び関税率が25%に戻ることもある」など、後出しジャンケンのように情報が出てくるので、「買い戻し」から「買い騰がり」へのバトンタッチが限定的になってしまうかもしれません。


 さらに、今週は日米の金融政策イベントも予定されています。


 29日(火)~30日(水)にかけて米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催されます。利下げについては、現在の米連邦準備制度理事会(FRB)内でトランプ関税の影響によるインフレ再燃を見極めたい慎重派と、足元の労働関連指標の悪化を受けて予防的な利下げを推す積極派に分かれているだけにその動向が注目されます。


 米雇用統計(7月分)が米FOMC後の週末1日(金)に発表されるタイミングのため、今回は利下げ見送りの可能性が高そうです。もし仮に利下げが決定した場合、最近の米トランプ政権はFRBへの攻撃が激しかったことから、市場が「圧力に屈した」と受け止めてしまうと、逆に債券市場で金利が上昇して相場が荒れることも想定されるため、注意しておく必要がありそうです。


 このほか、国内政治面では、自民党が参院選総括の両院議員懇談会を開くほか、臨時国会召集なども予定されています。石破茂首相の進退問題が注目されていますが、今後の国会運営も含めて政局が混乱した場合にはリスクとして意識されるかもしれません。


日本株よりも「タチが悪い」?米国株の過熱感

 これまで、日本株の足元の過熱感の状況や今週予定のイベントなどを通じて、目先の相場展開を探っていきましたが、最後に米国株市場についても見て行きます。


 先週の米国株市場も、NYダウが最高値圏に位置しているほか、S&P500やナスダック総合も最高値を更新して週末を迎えるなど、好調さをキープしています。


<図5>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2024年末を100)(2025年7月25日時点)


【今週の日米株】8月相場入りも過熱感に要警戒:注目はM7決算、FOMC
出所:MARKETSPEED IIおよびBloombergデータを元に作成

 上の図5は、昨年末を100とした米主要株価指数のパフォーマンスを比較したものですが、半導体銘柄で構成されるSOX指数にもたつきも見られるものの、他の指数については、派手さはないですが、順調に右肩上がりに上昇していることが読み取れます。


 こうした「日々の取引の積み重ねを通じて上昇していく」パターンは、米国株市場ではよく見られるのですが、チャート上にきれいなトレンドを描いている分、株価が下落した際に、利益確定売りの範囲に収まるのか、それとも本格的なトレンド転換の兆しなのかを見極めるのが難しくなるという「タチの悪さ」があります。


<図6>米S&P500(日足)の動き(2025年7月25日時点)


【今週の日米株】8月相場入りも過熱感に要警戒:注目はM7決算、FOMC
出所:MARKETSPEED II

 実際に、米S&P500の日足チャート(上の図6)を見ると、ローソク足の並びからまだまだ上昇トレンドが続きそうな印象がありますが、株価水準でチャートを捉えると、6月27日に、終値ベースの史上最高値を更新して以降、20営業日のうち、11回も最高値を更新しているため、過熱感は着実に高まっています。


 また、別のレポートでも指摘しているように、長期の株価収益率(PER)で見ても現在のS&P500はかなりの割高感があります。


2025/7/25「 日米関税合意を受けてTOPIX最高値更新!「リスクオン」、どこまで続く?(土信田雅之) 」


 さらに、下の図7の日足のS&P500と相対力指数(RSI)(14日間)で、株価とRSIの「逆行現象」によるトレンド分析もしてみます。


<図7>米S&P500(日足)とRSI(14日間)との「逆行現象」(2025年7月25日時点)


【今週の日米株】8月相場入りも過熱感に要警戒:注目はM7決算、FOMC
出所:MARKETSPEED II

 逆行現象は一般的に「トレンド転換のサイン」とされることが多いのですが、実は「トレンド継続型の逆行現象」もあります。両者の区別の方法は別の機会に譲りますが、上の図7を見ると、トレンド転換型と継続型の逆行現象が入り乱れている様子がうかがえます。


 4月の相場急落以降、上昇トレンド継続型が優位になっています。その中で、ガス抜き的に短いトレンド転換型の逆行現象が出現し、移動平均線あたりまでの株価が調整し、再び上昇基調を維持している状況になっています。


 そして、足元ではトレンド継続とトレンド転換の逆行現象がぶつかり合っているところであり、目先の株価調整が出やすくなっています。今週のイベントによって、上を目指す展開にならなかった場合、少なくとも25日ないしは50日移動平均線までの下落はあり得るため、米国株市場の売り転換に注意しておく必要がありそうです。


(土信田 雅之)

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